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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
71/100

第71話「お兄ちゃんがロリコンしてるうううううううう!」

 木葉たちと久方ぶりに一緒に帰ってきた俺は、ぶるぶると震えながら帰宅する。


「たっでーまー」


 三月の寒空の下歩いてきた俺の身体は冷え切っていたが、暖房の効いた自宅の空気がそれを一気に和らげる。


 あったけぇな、おい。と思いながら、俺は靴を脱ぐ。


 すると、リビングの方からドタドタとやかましい足音が聞こえてきた。この主の正体はだいたい検討がつく。

「おっかえり~! お兄ちゃんっ!」

 今日も元気いっぱいの我が妹、楓である。


 十九時近いというのに、今さっき起きたばかりと言わんばかりに目は輝いているし、声音からも活気が感じられる。


 つか、マジで今起きたんじゃねえのか、こいつ。


「ただいま。本当に毎日元気だな、おい」

 思わず苦笑してしまった。


 楓は小首をかしげながら、人差し指を顎に当てる。

「え~、そうかな? あ、もしかしてさっきまでお昼寝してたからかな」

 ほんとに起きたばっかりかよっ!


 お兄ちゃんの予想はあたっていた。


 もうあとひと月もしないうちに中学三年生になるっていうのに、やっていることが幼稚園児とあまり変わらないような気がするぞ。


 心中で妹の心配をしていると、楓は俺の顔をまじまじと見てくる。

「な、なんだよ? 顔に何か付いてんのか?」

 いくら妹とは言え、見つめられればいささか気恥ずかしくなる。


「んー、別に何もついてないんだけどさ、お兄ちゃん、何かいいことあった? 何かちょっとだけ嬉しそうな顔してるよ」


「へ? いいこと?」

 俺は腕を組んで考える。


 たしかに良いことはあった。


 木葉の問題が一通りの解決を見せ、萬部のみんなとの何気ない空気感に戻ったことだ。今さっき、久方ぶりにみんなで帰ってきたところだ。

 しかし、それが顔に出ていたとなると、どうも恥ずかしくてたまらなくなる。


 望んでいたことだが、顔には出さずにクールでありたいところだ。いや、マジで。


 妹の手前ということもあり、俺は平静を装って答える。

「いや、特に嬉し――」


「あ、わかった! 今日も楓に会えて嬉しかったんでしょ! なんだー、そうならそう言ってよ、お兄ちゃん! 楓ならいつでもどこでもオールオッケーなのに!」


「おい待てよ! お兄ちゃんの話を遮らないで最後まで聞いて! ていうか、楓! オールオッケーとか何言っちゃってんの!」

 妹からの爆弾発言に俺は目を瞬かせる。

 もう、なんなのこの子っ! 毎日一緒に暮らしてるけど、まったく分からない! 


「いやー、照れないでよ、お兄ちゃん!」


「照れてんじゃねえよ! 心配してんだよ、そんな発言をする妹をな! それから、俺は別にお前に会えて嬉しいとか思ってるわけじゃないからな。毎日会ってるんだし、そこには嬉しさとかも感じてないから」

 きっぱりと告げると、楓はまるで石のように固まった。


 楓の目の当たりで手を振るが反応がない。

「おい、楓? おーい?」


 しばらくすると、楓はゆっくりと顔を上げ、俺のことを見やる。

「じゃ、じゃあ……何で嬉しそうな顔してるの?」


「何でって言われてもな」

 木葉たちとの歪な空気が緩和したから。


 なんて言っても、楓には分かんないだろうし、俺的にも気恥ずかしくて言いたくないし。


 頬をぽりぽりと掻いて言い淀んでいると、楓は再びはっと目を丸くした。

「あっ、まさか!」


「なんだよ、いきなり大きな声出して」


「楓、この前見たんだけど、お兄ちゃん、幼稚園児くらいの女の子と仲良さそうに話してたよね、笑顔で」


「あ、……お、おう?」

 幼稚園児くらいの女の子?


 その単語を脳内で検索する。ヒットしたのは、つい先日の公園での出来事だ。幼稚園訪問の時以来の梨恋ちゃんとの再会である。


 つか、見てたならその時に言ってくれれば良いものを。


 楓の口はまだ止まらない。

「その女の子と何かあったんでしょ!? だから嬉しそうな顔で帰ってきたんでしょ!」


「はあ!? ちょ、お前どんな誤解してんだよ! 別に梨恋ちゃんとは何もないから! むしろ――」

 むしろ、助けてもらっただけだ。

 と、言おうとしたのだが、俺の声はまたもや楓によって言下に遮られる。


「も、もう名前で呼ぶところまでっ!? ていうか、むしろって何、むしろって!」


 楓は顔を赤くし、俺から一歩、また一歩と離れていく。


「お、おまっ、話聞いてる!?」


 勝手に話を遮って、勝手に誤解をされてはたまったものではない。


 俺はとりあえず楓を落ち着かせようと、彼女の肩に手を置こうと伸ばす。が、楓はまたも一歩下がった。

 かと思えば、くるりと俺に背を向け、リビングの方に走っていった。




「お母さあああああああああああん! お兄ちゃんがロリコンしてるううううううううっ!」




「今に始まったことじゃないでしょ」

 と、母さん。


 二人してとんでもないこと言いやがったああああああああっ!


 ていうか、俺は母親にロリコンだと思われてんのか!? 冗談じゃない。なんとしても正さなければ。


「ちょ、楓何言ってんだよ! それに、母さんも誤解だっての!」


 何でせっかく萬部に良い雰囲気が戻ってきたってのに、帰ってきたらこんな目にあわなきゃいけないんだよ。


 俺は心の中で泣きながら、楓のあとを追った。



     ***



 結局、二人の誤解を解くのに三時間ほどかかった。


 まあ、本当に誤解が解けたのかはいまいち分からないけど。楓なんて最後、『楓もロリになる』ってわけのわからんことを言ってたし。


 もう、何なんだよ……。


 と、心の中で愚痴をこぼしながら、俺は翌日の昼休みを迎えていた。

 教室は授業時間の静かな空気から解放され、友人どうしの会話で満たされた賑やかな雰囲気に包まれている。


 友達どうし席をくっつけて昼食を食べているものや、学食に向かうものなどそれぞれいる。

 俺も昼飯を食べようとカバンに手を伸ばそうとする。すると、俺の視界の隅に人影がはいった。

 俺は手を止め、目を動かしてそれを確認する。


「あ、木葉」

 俺の机の前にいたのは木葉だった。手には弁当を持っている。


 どこか恥ずかしげな表情をした彼女は、俺の顔を見ては目を逸らし、また見ては逸らすを繰り返している。心なしか頬も少しだけ赤い気がする。


「な、なんか用か?」

 そんな表情で立たれたら、こっちもちょっとばかりどう反応していいのかわからなくなってしまう。


 聞くと、木葉は携えていた弁当を前に突き出し、

「い、一緒にお昼食べようと思って。ほら、この前まで一緒に食べてじゃない」


 まあ、たしかにバレンタインの日までは一緒に昼食を摂っていた。しかしながら、あの日以降、それもなくなり、今では遠い昔にあった出来事のように思える。


 幾分かのおもはゆさを感じながら、思案する。

 別段拒む理由もないよな……。

 なら……。


「そうだな、一緒に食べ――って、あれ?」

 また別の人影が視界の隅に入ったため、俺はそちらを見やる。すると、そこには艶やかな黒髪を腰のあたりまで伸ばした少女、静夏が手近な椅子に腰掛け、俺の机に弁当をおいている姿があった。


「静夏、お前何してんの?」


「何、とはなにかしら? いつも一緒にお弁当を食べているじゃない?」

 当たり前のことでしょう? とでも言いたげな笑顔を俺に向けてくる。


「いやいや、俺はお前と昼飯を一緒に食ったことなんてただの一回もないから! お前の言ってるいつもっていつのことだよ」

 そうだ。俺は静夏と二人で昼食を摂ったことなんて一度もない。


 彼女のことが好きだった中学生時代ですら一度もない。むしろ、一緒に食べると緊張して頭がおかしくなりそうなくらいだった。


 静夏は顎に手を当て、首をかしげる。

「そんな些細なことはいいじゃない。さあ、一緒に食べましょう」


「何で流したしっ!」

 言うと、静夏はため息の後、ジト目で俺を見据える。


「遥斗、大空さんとは一緒にお昼を食べるのに、私とは食べてくれないというのかしら? それはちょっと酷いのではなくて」


「いや、別にそういうことを言ってるんじゃなくてだな」


「あ、そう。なら問題ないわね。さ、食べましょ」

 問題ない、のか? あんまり腑に落ちない気もするが、これ以上反論するのも無駄に思えたので、静夏の言葉に従うことにした。


「わかったよ。そんじゃ、昼飯食うか」


「ちょっと待ちなさいよ!」

 そこで声を上げたのは木葉だった。彼女は、未だに俺の机の前に弁当を持ったまま立っている。


「なにかしら、大空さん」


「なにかしら、じゃないわよ! 私が先に遥斗と一緒にお昼を食べようとしてたのに、なんて花美さんが食べてるのよっ!」


「私が遥斗と食べたかったからよ」


 おいおい、何で喧嘩っぽいのが始まったんだ……。


 俺は冷や汗を流しながら、彼女らの口論を見守る。止めようとも思ったが、止め方が分からない。


「んなっ、私だって食べたいわよ! だから二人で食べれるように、先に遥斗のところ来たのに!」


「いちいちやかましいわね。そんなに二人きりにこだわるのなら、大空さんはついこの前みたいに、独り寂しく自分の机で食べなさいな」


「うぐっ」

 木葉は渋面する。


 相変わらず、他人の痛いところに塩を塗るスタイルの静夏である。


 これもまあ、彼女らの仲の良さからくる言い合いなのだろうか。などと勝手に良い方に考えてみる俺。


 静夏は弁当の包みを開けると、再度木葉を見た。

「そうすれば、私はこれから遥斗と二人だけのお昼になるから。邪魔者は早々に立ち去るべきよ、大空さん」


「なっ、そんなこと言われたら、ますます立ち去れないわね、花美さん」

 言って、木葉はギリっと奥歯を噛むと、彼女もまた手近な椅子に座り、俺の机に弁当を置く。心なしか、弁当を置く力が強かった気がする。


 互いに互いを見据える彼女たち。視線と視線の交点に火花が散っているように思えた。

「お、お前ら、ちょっとは仲良くさ……」

 彼女らをなだめようと口を挟む。が、


「あんたは黙っててっ!」

「遥斗は黙ってなさい」

 ぴったりと息のあったタイミングで怒鳴られてしまった。




「じ、実は仲良いんだろ、お前ら……」


 反論することも許されそうになかったため、俺は再び弁当を取ろうとカバンに手を伸ばす。

 そこではたと気づいた。


「あ、そうだった……。今日、弁当持ってきてないんだった」


 母さんが今日は作るの面倒だったから、お昼は買って食べてね、とか言ってたな。すっかり忘れていた。

 俺は未だに口論し合っている木葉と静夏に向けて言う。

「悪い。俺、今日昼飯弁当じゃなかったからさ、売店で何か買ってくるわ」


「え、そうなの? あ、じゃあさ、私のお弁当一緒に食べる?」

 木葉が何気ない感じでそう言ってきた。


 見れば、色とりどりに綺麗にトッピングされた弁当だ。とても美味しそうに見える。そういえば、木葉はいつも自分で弁当を作っていると言っていた。てことは、その弁当は木葉のお手製ってわけですね……。


 けど、さすがに女子から弁当をもらうのは憚られる。


 一方、木葉に対抗するように静夏も言ってくる。

「わ、私だってお弁当を分けてあげても良いのよ、遥斗。大空さんのよりも美味しい自信があるわ」


「はあっ!? 花美さん、私のお弁当食べたことないでしょ! 何でそんなことが分かんのよ!」


「ふふっ、私くらいになると、もう見ただけで分かるのよ」


「あんたくらいってどういうことよ!?」

 またも言い合いが始まってしまった。この二人はまったく……。


「二人の気持ちはありがたいけど、さすがに女子から弁当を分けてもらうのは悪いよ。だから、ちょっと買ってくるわ、すぐ戻るからさ」

 そう言い残して、俺は売店へと急ぐ。




     ***




 昼休みが始まってから少々時間が経っているせいか、売店の周りは空いていた。その代わり、残っている商品の数も少なかったが。


 俺は残っている中から適当に選ぶ。


 サンドイッチと焼きそばパンとコーヒー牛乳でいっか。


 これくらいあれば午後になっても空腹になることはないだろう。


 売店の店員にぴったりのお金を渡し、商品を買う。すると、聞き覚えのある声をかけられた。

「あれ、遥斗くん、ですか?」

 俺はすぐさま振り返る。


 そこには、綺麗な黒髪を携えた少女、雅の姿があった。見れば、右手に売店の袋を持っている。


「おお、雅。お前も売店で飯買ったのか?」


「はい。今日はお弁当を忘れちゃって」

 ははは、と自嘲気味に笑う雅。


「実は俺もなんだ。俺も弁当を座れちゃってさ」


「そうなんですか。奇遇ですね」

 口許に手を当てて、雅はおしとやかに微笑む。雅のこんな顔を見るのも懐かしい気がする。


「なんか、雅とこんな風に話すのも久しぶりだな」


「そうですね。ちょっと色々あって話しかけづらい空気でしたし。けど、もうそんなことはどうでも良いんです」

 雅らしくない発言に、俺は少しばかり驚く。


「誰かのことばかり気遣ってて、自分のことを(ないがし)ろにするのは良くないって思いましたから。たぶん、あの二人もそうしてます」

 あの二人、というのは木葉と静夏のことだろう。


 木葉はともかくとして、静夏は自分のことを一番にして行動している気もするけど。


 そんなことを頭の片隅で考えていると、雅はまっすぐに俺を見つめる。そして、にこっと笑った。

「なので遥斗くん。これから一緒にご飯にしませんか?」


「へ? 飯?」


「はい。ほら、ちょうどあそこの席が空いていますし」

 そう言って雅が指さしたのは、売店のすぐ近くにあるテーブルだ。売店で買ったものをすぐ食べられるように、数台のテーブルと自動販売機が用意されているのだ。


 たしかに雅が言うとおり、席は空いている。けれど、


「その気持ちは嬉しいんだけどさ、実は教室で木葉たちを待たせてるんだ」


 大変心苦しいけれど、待たせているのは事実である。


 言うと、雅は少しだけ頬を膨らませた。初めて見るその表情を、不覚にも俺は可愛いと思ってしまった。


「むぅ……。何ですかそうやって木葉ちゃんばっかり。大丈夫です! たまには私と食べてもバチは当たりませんから!」

 いつになく積極的な雅。


「け、けどさ」


「それともあれですか。遥斗くんは私と食べるのが嫌なんですか?」


「そんなことはないぞ。いや、マジで」

 俺は即答した。


 雅と食べることが嫌だなんてこれぽっちも思っていない。


 俺の返答に、雅はわかりやすく顔を赤らめる。俺から少しだけ目をそらすと、照れくさそうに鼻の下を人差し指の側面でこすった。

「な、なら問題ないじゃないですか! さあ、行きましょ、遥斗くん」


 そう言うと、雅は俺の右手を取り、空いている席へと進んでいく。


 そんな雅の行動に俺はドキドキしながら、唯々諾々と従った。


 俺と雅は席に座ると、他愛もない話で盛り上がった。


 雅がアニメやマンガが好きな女子ということもあり、今期見ているアニメの話や、今読んでいるマンガ、ラノベの話など深い話題は昼休みが終わるまで尽きることはなかった。


 雅とこんな会話をするのは久方ぶりだったため、とても満たされた時間になった。


 雅の方も楽しんでくれたようで、別れ際に寂しそうな表情を見せていたのが印象に残っている。


 しかし、そんな楽しい時間を過ごしたことで、俺は記憶の中からあることを消していた。


「遥斗、あんたの『すぐ戻ってくるから』は、昼休み終了までのことをいうのかしら?」


「どれだけ待たせれば気が済むのかしら、遥斗。なかなかに待たせすぎだと思うのだけれど」


 木葉と静夏の冷たい目線と、静かな怒気の孕んだ声音が俺を出迎えた。


 今回ばかりは完全に俺が悪いので、言い訳することもできない。


「遥斗ぉ、何か言うことがあるんじゃないの?」


「大空さんの言うとおりね。遥斗、あなた、私たちに言いたいこと、もとい言い残したいことがあるのではなくて?」

 やっぱり木葉と静夏って仲良いだろっ!


 二人とも怒りに歪んだ笑顔で俺を見据えてくる。

 俺の心は恐怖に包まれていたが、この窮地から脱するにはあれをするしかない。


 俺は床に額をこすりつけるほど深く頭を下げ、誠意のこもった土下座をする。



「すみませんでしたあああああああああああああああああっ!」


 こんにちは、水崎綾人です。

 今回はみんなが元気な話でした。木葉の一件も終わり、いよいよ卒後祭も本番が近づいてきました。そして、彼女たちからの告白の答えにも向き合わなければなりません。

 それでは、また次回

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