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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第69話「今、前進しようとする幼馴染み」

 今日の仕事は、主に事務のグループを二つに分けて行われる。


 ひとつは、河橋さんをリーダーとして四人で構成されている今までにかかった費用などをまとめる経理の仕事。木葉と遥斗はこのグループに属している。


 もうひとつが、決定されたタイムテーブルをもとに、保護者・卒業生向けの資料の作成、学内生徒用の資料の作成、さらには当日出し物を行う生徒向けの案内資料の作成などを担当している。一見大変そうだが、既にデザインは決まっているので、必要事項を打ち込み、ミスの確認をするだけの比較的簡単な仕事だ。ちなみに、このグループを率いているのが、副会長の風山だ。


 卒後祭本番まで残すところ十日ほどしか残っていない。本当に時間がない中で、仕事をこなさなければならないのだ。


 もしそれができなければ、満足のいく卒後祭にすることはできないだろう。

 だからこそ、今日ではっきりさせなければならない。


 大空木葉は心の中でそう決意する。


 ちらと正面に座る遥斗を見やる。


 彼は忙しない様子で資料を見てはキーボードを叩き、また資料を見てはキーボードを叩くを繰り返している。

 昼休みはあれほどまで強気だったのに、今では見る影もない。


 今度は風山に目をやった。

 彼はパソコンをいじるフリをしてスマホで遊んでいた。

 大方、自分ではバレてないと思っているのだろうが、傍から見れば仕事をしていないのは一目瞭然だ。

 木葉は眉間を手で押さえ疲れを取ると、仕事を再開する。



 仕事を始めて二時間ほど経過した時だった。


「木葉ちゃ~ん」

 不意に声をかけられた。


「うひゃっ――」

 集中していたせいで、木葉は無防備に変な声をあげてしまう。

 誰なのよ……、と内心でぼやきつつ、声のした方に振りかる。


 そこには、眉毛にかからないほどの短めの髪を茶色に染め、切れ長の整った目元が特徴的な男子生徒――風山がいた。

 意図的に出されている甘い声には、正直鳥肌が立ってしまう。


 だが、それを前面に出すことは木葉の性格上難があるため、苦笑しながら風山に顔を向ける。


「あ、風山くん、何か……用ですか?」


「いやいや、特にこれといって用事があるわけじゃないけどさ。どう、この前言った遊園地の件、考えてくれた? 何なら水族館とか動物園とかでも良いよ? 卒後祭終わってからでもいいからさ、一緒に行こうよ」

 一方的に詰め寄ってくる風山。


 木葉は接近してくる風山の動きと同じ速度で、上体を後ろに退けていく。

「えっと……いや、その……」

「ん? なになに、どうしたの? あ、わかった! 経理の仕事に行き詰ってるんだな! いいだろいいだろ、やり方がわらかない子猫ちゃんには、俺が手とり足とり教えてあげよう」

 まだ何も言っていないのに、風山は勝手に解釈した。すると、キーボードの上に乗っていた木葉の手の上に、そっと自信の手を置いた。

「うっ――」

 思わず声がもれてしまった。最近、風山からの接触がエスカレートしている気がする。前までは、普通の会話だったのにもかかわらず、今ではどこか気取った言い方になったり、手を触ってきたりする。


 正直なところ、あまり嬉しいものではない。


 木葉は瞬時に手を引っ込め、風山に目を放る。


 しかし、風山は木葉のことを見ていなかった。彼が見ていたのは、遥斗だった。


 なぜなら木葉が声を上げたと同時に、遥斗の机がガタンと跳ねたのだ。そのおかげで、風山の意識は遥斗からそれたらしい。


 風山は木葉に向ける視線とはまったく別のそれを向けると、冷たく注意する。その声音には優しさなど含まれていないような気がした。


「まったく、奥仲くん。何をしているんだ。もし資料が床に落ちでもしたら、どうするんだ。少しはしっかり働いてくれよ。……ったく」

「あはは……。すみません」

 遥斗は頬をぴくぴくと痙攣させながら、軽く頭を下げた。


 ああ、あの顔は心中で文句を言っている顔だろう。


 遥斗のことを意識から外した風山は、短い前髪を指で払うと、木葉のパソコンに再び意識を向ける。


「あの、風山くんは仕事、終わったんですか?」

「ん? 仕事? ああ、あとは適当に文字打ち込んで、タイムテーブルを貼れば完璧」

「いや、その打ち込むことこそが仕事なんじゃ」

「いーのいーの、あんな仕事すっぐ終わるからさ。うちの生徒会長心配性だからさ、マージン多めに取ってあるんだよね。だから、別に明日やれば大丈夫だって。そんなことよりさ、今週末仲間と集まってフットサルやるだけどさ、木葉ちゃんも来ない? 俺的に、木葉ちゃん来てくれると嬉しんだけどさ。みんなにも紹介したいし」

 最後の一言に木葉は疑問を覚えた。


 紹介? それは普通に知り合いとして紹介するということだろか。それとも、別の意味で言っていのだろうか。


 風山の真意がわからないため、どうにも返事をすることができない。

「あのですね、そういうのは……」

「まあ、明後日までに考えといてよ。うげっ、生徒会長来たし……最悪」

 木葉も視線をめぐらせて生徒会長を見やる。どうやら巡回しているようだ。分からないところがある人のために、動き回っているのだろう。

 生徒会長が近づいて来ると、風山はキーボードを弾く手を止める。

「そんじゃ俺、そろそろ戻るからさ。動物園と水族館どっちがいいのかと、今週末のフットサルの件考えといてくれよな」

 そう言って、風山は自分の席に戻ろうと足を動かした。

 木葉は瞬時に呼び止める。

「待って、風山くん」


「ん? なに?」


「ちょっと話があるの。だから、今日実行スタッフの仕事が終わったら、中庭まで来て」

 何だか誤解されそうな言い回しだが、これ以外の言い方が木葉の中では見つからなかった。

 風山はどこかニヤニヤしながら、

「わかった、了解」

 とだけ言って、戻っていった。

 


 今日ではっきりさせるのだ。



     ***



 河橋さんの終わりの合図により、今日の卒後祭の準備は終了した。

 俺の担当する経理の仕事は八割以上終わったため、引き受けている仕事は明日で一段落つきそうだ。


 残す仕事は、卒後祭本番での仕事だけである。


 カバンに荷物を詰め、河橋さんに適当に別れの挨拶を口にし、ちらとあいつの方に視線を移す。


 あいつ――木葉は、カバンを片手に携えて、会議室から出ようとしていた。


 俺は木葉に気づかれないように彼女のあとを、距離をとりつつ追う。


 できればバレたくない。


 昼休みに木葉は言った。

 これは自分で蒔いた種だから、自分で回収する、と。だから俺たちの手は借りない、と。

 だがしかし、そうは言われても気になってしまう。今まで人見知りで、まともに男子の友達がいなかった木葉が、猛烈にアタックしてくる風山にガツンと物申せるのだろうか。


 玄関から外へ出る。


 外は、日が沈みかけ薄暗くなりつつあった。ふと空を仰ぐと、茜色に闇色が混ざった、不可思議な紫色になっていた。夜になりつつあるせいか、風が一層冷たくなっている。

 俺は白く濁る息を吐きながら、中庭を目指す。


 中庭の近くには木が数本生えており、俺は背中を預けるように木の陰に隠れる。中庭の様子を隠れながら見るには、この場所はまさにベストプレイスだろう。

 俺の通う学校の中庭には木製のベンチが一脚置いてあり、また三本の街灯が立っている。それ以外は特に何もない普通の中庭だ。

 三本の街灯は既に点灯しており、中庭を淡く照らしている。

 木葉は街灯に背中を預け、風山が来るのを待っている。


「あら、覗きが趣味なのかしら?」


 不意に声をかけられ、俺は驚きのあまり木に顔面をぶつけた。鈍く痺れる衝撃が俺の顔に広がる。

「あがぁ…………」

 俺は顔を両手で押さえ、その場にうずくまる。


 痛い痛い痛い! なにこれ、めっちゃ痛い! 空気が乾燥しているせいか、尋常じゃないくらい痛いぞ!


「まさかそんな盛大に驚くとは思ってなかったわ、大丈夫? 遥斗」

 言われて、俺は痛む顔から手を離し、声の主の方に視点を合わせる。

 そこには、茶色いコートに白いマフラーをつけた花美静夏と、白いコートにピンクのマフラーをつけた小野雅がいた。

「な、何でお前らがここに……」

 その質問に答えたのは雅だった。

「昼休みにあんなことを聞いたら、やっぱり気になるじゃないですか。だからついてきちゃました。遥斗くんもですよね?」

「ま、まあな。……ん? てことは、静夏もついてきたってことだよな?」

「ええ、その通りよ」

 当たり前でしょ、と言いたげに静夏は言ってのけた。

「お前も覗きする前提で来てんじゃねぇか!」

「あら、何か変だったかしら? 別に覗くことが悪いことだとは一言も言っていないのだけれど」

「いや、まあそうだけどさ」

 さっきのお前の口調は、明らかに覗きを悪として見てた言い方だったと思うぞ。


「そんなことより、遥斗くん、静夏さん、風山さんがきましたよ」


 雅はそう言って、校庭側を指さした。


 俺と静夏はそろって指された方向に目を放る。


 こんにちは、水崎綾人です。

 もうそろそろこの章も折り返し地点というところまできました。前章までとは違い、結構長めの章になりつつありますが、最後まで読んでいただけたらな、と思っております。

 それでは、また次回。

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