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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
67/100

第67話「タダってわけにはいきませんねぇ」

 翌日の休み時間。



 俺は静夏を踊り場に呼び出した。


 静夏は腕を組み、やや迷惑そうに首をかしげる。

「何かしら、こんなところに呼び出して?」

「ああ、実はその……お前と話しがしたくて」

「は、はあ!? なんなの急に? どういう風の吹き回しよ。この前はあんなひどいことを言ったというのに……」

 少々驚いた様子の静夏の語気は、言葉の尻の方に行くにつれて弱くなる。


 だが、俺はそれでも口を閉じることはなかった。


 梨恋ちゃんから教えてもらったのだ。まずは話し、理解するところから始めなければいけないと。


「それについては、謝る。本当に申し訳なかった。けど、お前が俺のどこを好きになったのかは、正直あまりわからないのも事実なんだ。だからその……教えてくれないか? お前と仲直りするためにも」


「んなっ……遥斗。あなた、今自分が随分と恥ずかしいことを言っているということを自覚しているかしら?」


「もちろんさ。もう超自覚してるね。でも、俺はお前のことを知りたいんだ」


 顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。たぶん顔は真っ赤だ。

 けれど、俺が静夏に近づくため。静夏が何を思っているかを知るためには、これを聞くしかない。


 静夏はしばしの間逡巡すると、小さく口を開いた。

「し、仕方ないわね……いいわよ、その恥辱プレイに乗ってあげるわ」


「いや、別にプレイをしてるわけじゃなくてだな。ただ、俺はお前のことを知り――」


「他人に優しいところ」


「へ?」


「だから、あなたの好きなところよ。他人に優しいところ。中学の時も、私が悪いのに、遥斗は私のことを糾弾せずに、全部自分で背負った。そういう、自分だけ傷ついて他人に優しくしてしまうところが好きよ。一緒にいて、抱きしめていたいとすら思うわ」


 お、おお……。やべぇ。めっちゃ恥ずかしい。


 できれば、もうやめてほしい。けど、静夏の口は止まりそうにない。

「それから、人のために頑張れるところ。萬部に入ってからもそうだけど、遥斗は中学の時から人のために頑張っていた。私はそれを知ってる。そんなあなたが好き。それから、あなたの笑顔、困った顔、匂い、仕草、手の動き――」


「ちょーっと待った! ありがと、もう充分だよ。そんなにいっぱい思ってくれてありがとな。ちょっと、いや、結構嬉しいもんだな……そういうのって」

 俺は赤く染まっている顔を手で隠しながら言った。


「あら、これくらいでいいのかしら? 挙げようと思えばまだまだいくらでも挙げられるのだけれど」

 どこか悪戯めいた、それでいて恥ずかしげな笑みを浮かべる静夏。

「い、いや、もう大丈夫だ。充分充分。でもさ、今のを聞いたら、ますますあの時俺がお前に言った言葉が失礼なものだと思ったよ。ほんと、すまなかった」


「そうね。たしかに失礼で迷惑で、殺意がわくレベルの失言だったわ。でもね、遥斗。あなたのそうやって誰かに歩み寄ろうとする姿勢は嫌いじゃないわ。けど、昨日の八つ当たりの件は、どうしても寛容には見れないわ」


「わかってる。あれは自分でも最低だったと思ってる……」


 俺は拳をギュッと握る。

 いくら腹立たしい思いを抱えていたからと言っても、八つ当たりをするのは男として、人間として最低なことだ。自分で自分が情けない。

「なら今度は、あなたのことを教えなさい、遥斗」


「お、俺のこと?」


「ええ。私のことばかり話して、あなたのことがゼロだなんて不公平よ」


「ま、まあそうだけどさ。何が知りたいんだ?」


 静夏は横目で俺のことを捉えると、そうねえ……、と考えることしばし。

「じゃあ、遥斗の好きな人は誰?」

「はっ!? す、好きな人ってそんな……こと言われても……」

 静夏は俺を壁ヘと突き飛ばし、俺の顔のすぐ横に手を付いた。いわゆる壁ドンの状態だ。

 おいおい、何で俺、女子に壁ドンされてんの!?

 思いもよらぬ展開に、俺の頭が混乱し始める。

「私の気持ちは既に伝えてあるわ。たぶん、あとの二人も同じことをしたと思うの。あなたは、どんな答えを出すの? あのチョコの返事は……何?」

 バレンタインの時にもらったチョコ。あれは本命チョコだった。

 しかも今の口ぶりからするに、静夏は俺が、木葉や雅からも本命チョコを貰ったことを知っているようだ。


 俺は口ごもる。なにせ、まだ答えを出していないのだから。


 静夏は目を細めて俺に顔を近づける。


 近い近い近い! お前は昨日の梨恋ちゃんか! 


「まさか……ハーレムとか作ろうだなんて思ってないわよね、遥斗?」

「ハ、ハーレム!? ないないない! まったく、これっぽっちも思ってない! もうすこしだけ時間をくれ、静夏。卒後祭が終わったら、俺……ちゃんと答えを出すから」


 正直、ハーレムなんて漫画やギャルゲーだけの産物だと思う。まあ、本当にハーレムを作れるなら、作ってみたいという気持ちもゼロではない。……っておい! 何言ってんだよ、俺!


 というか、まず俺にハーレムなんて作れるわけがないし、それに、相手のためにも良くないだろう。

 静夏に返答すると、彼女は壁についていた手をそっと離した。


「あ、そう。ま、遥斗が優柔不断で決断力が乏しいのは前からのことだったわ。卒後祭が終わってから返事をするという言質もとったのだし、気長に待つとするわ」

「た、助かるよ、静夏……」

 やっと解放してくれた。


 静夏は長い髪を自らの手で翻すと、俺に背中を向けて言った。

「遥斗。今回はこれで許してあげるけど、次はもっと相手のことも考えてものを言うのよ。それから、あの二人ともちゃんと話したほうがいいわ。特に……まあ、あなたも分かってると思ってるから、これ以上言わないけれど」


「ああ。分かってる」


「そう。じゃあ、そろそろ教室に戻りましょうか。あと数分もすれば授業が始まるわ」




     ***




 次の休み時間。


 俺は雅を踊り場に呼び出していた。


 昨日の八つ当たりの件で声を掛けるのに非常に緊張したが、そんな感情を黙らせて雅を呼び出した。

 雅は俺に目線を合わせることなく、視線は右下に固定されている。

「何か用でしょうか……遥斗くん」


 昨日のことを気にしているようだ。

 無理もない。理不尽に八つ当たりしてきた相手を前にしているのだ。こんな反応になるのは当然だろう。


 俺はあれこれ言葉を選ぶことなく、素直に頭を下げた。

「昨日は八つ当たりしてごめん。俺、自分の中に溜まってた怒りを、雅にぶつけてしまった。本当に悪かった」

 俺のした行為は最低なことだ。ならば、飾らずに真っ直ぐに謝るのが筋というものだろう。


 雅はしばしの間黙りこくる。


 俺たちの間に静寂の時間が流れる。が、その森閑とした空気は、雅の声で途切れる。

「やっぱり、昨日、木葉ちゃんと何かあったんですね?」

「ああ。まあ、そうなんだ」

 言うと、雅は呆れたように息を吐いた。

「はあー、何ですか。やっぱりあったんじゃないですか。それで心配した私に八つ当たりなんて遥斗くんったら酷いです」

 ふん、と強めに鼻を鳴らすと、雅はぷいっとそっぽを向いた。


「うぅ……申し訳ない」


「あの時、私がどれだけ傷ついたか知ってますか? もう、本当に傷ついたんですよ?」


「ごめん……」

 心がどんどんボコボコにされ、情けなさでいっぱいになっていく。


「でも、許します。こうして謝ってくれたんですから、私は許しますよ。けど、タダってわけにはいきませんねぇ」


「な、なんだよ……? 言っとくが、慰謝料とかは払えないぞ……」


「いや、別に慰謝料とかが欲しいわけじゃないですよ。ただ、卒後祭が終わってからでいいので、バレンタインの時の返事、聞かせてくださいね。もしもそれを約束してくれるのでしたら、昨日のことは許してあげます」

 最初こそ少しふざけた声音だったが、最後の方は真剣味を帯びたものになっていた。


 雅の目はまっすぐ俺を見つめ、適当な返しは決して許してくれそうにないように感じられる。


 だから俺も真剣な言葉を返す。

「分かった。卒後祭が終わったら、俺も雅への気持ちに答えを出すよ。今はまだ、答えは出てないけど、卒後祭が終わる頃にはちゃんと出すから。約束する」

 すると、雅は頬を弛緩させた。

「そうですか。良かったです。それなら私は約束通り、遥斗くんの昨日の行為を許します。あ、でもひとつ付け加えておきますね」

「なんだ?」

「どんな事情で木葉ちゃんと喧嘩したのかは知りませんが、次八つ当たりするようなことがあったら、許すとは限りませんのであしからず」

「あ、次やったら許してくれないんだ……」


 ピンと人差し指をつきたて、雅はぐっと顔を近づけてくる。

「当たり前です! 八つ当たりってされた方はとっても不愉快な気分になるんですよ? 自分でも何で怒られたのか理由が分からないんですから。しかも、八つ当たりしてきた相手が、好きな人だったら尚更精神的にきついです」

「お、おまっ、す、好きな人って、おいっ……」

 俺は顔を真っ赤に染めながら、半歩後ろに退く。

 だが、雅はそんな俺にお構いなしの様子である。

「今更どうしたんです、遥斗くん。この前も言ったじゃないですか。私は遥斗くんのことが好きだって。紛れもない本心ですから、今頃言葉を選んでも仕方がないじゃないですか」

 開き直っているのかなんなのか分からないが、堂々としていてむしろ清々しかった。

 逆に赤面している俺の方がおかしいように思ってしまう。


 いやいや、でも女の子から真っ直ぐに好きと言われたら、そりゃ誰でも顔赤くなるよね? そうだよね?


「仕方ない……のか? けど、なんというか、その気持ちは素直に嬉しいよ。ほんと、ありがとう」

「いえいえ。それじゃ、返事の方期待していますね。それから、木葉ちゃんとの仲直りは、なるべく早急に行った方が良いと思いますよ」

 神妙な顔つきで雅が言った。

「でないと、戻せる仲も戻せなくなりますから」

「ああ、分かってる」

 俺は静かにひとつ頷いた。


 そうだ。大抵の問題は時間が解決してくれるという。

 けれど、それによって解決された問題は、必ずしも良い方向の解決というわけではない。むしろ、自然消滅的ななし崩し的な解決という道の方が多いだろう。

 木葉との仲違いを時間に任せていれば、おそらくは、木葉との関係消滅、という形の解決になってしまう。それは一見解決に見えて、解決ではない。

 俺の求める方向の解決は、それではない。

 苦しいかもしれないが、求める未来を手に入れるのは時間では解決できないのだ。


 だからこそ、俺は……。

「あいつとも、しっかり話すよ」

 さて、俺の幼馴染みは一体何を考えているのだろうか。

 昨日、梨恋ちゃんと別れたあと、寝るまで考えたが一向にわからなかった。



 だったら、直接聞くのが一番の手だろう。

 


 こんにちは、水崎綾人です。

 静夏、雅と互いに言葉を交わしたわけですが、幼馴染みはどんな言葉を遥斗に投げかかるのでしょうか。

 では、また次回

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