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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
64/100

第64話「親しさと怒り。彼女への猜疑」

 卒後祭参加希望者の審査もようやくすべて終わった。



 俺と河橋さんのペアでは、審査した中から三人を選出し、他の三つのグループからも三人ずつ選出され、合計で十二人の生徒が卒後祭で出し物を披露できる。


 希望者が多かったせいで、すべての人が審査を通れるわけではないが、卒後祭の場所は一般の施設を借りるため、時間による制約にあまり自由はきかないのだ。だから、全員を通すということはできない。


 ちなみに先日やってきた、股間をシルクハットで隠す芸をしていた男子生徒たちは、ギャグ要素をふんだんに取り入れた小劇に出し物を変更していた。

 劇としての完成度も、ギャグの面白さもしっかりとしていて、不覚にも俺は笑ってしまった。ついでに言うと、河橋さんも笑っていた。

 しっかりとしたものができるなら、何で最初からやらなかったんだよ。

 まあ、完成度が高かったということもあって、審査にはしっかりと通っているんだけどさ。



「さて、すべての審査が終わりましたね、奥仲くん」

 んんっ、とやや艶やかな声を上げながら、河橋さんは全身の力を抜くように伸びをする。

「そうですね。あと残っている仕事は何かあるんですか?」

「仕事ですか……。ええと、あとは参加者の出し物を考慮した上でのタイムテーブルの作成と、保護者と卒業生への資料作成、ですかね。それ以外は、当日の仕切りのお仕事になります」

 思ったより仕事が残っていた。

 こんなに多忙なのは、もしかしたら初めてかもしれない。



 すると、こんこんと扉の叩く音が聞こえてきた。

 俺と河橋さんはほぼ同時に音のした方へ視線を向ける。

 そこには、扉の淵に腰を預け、俺たちのことを見ている薫先生の姿があった。

 相変わらずの長い黒髪に、スタイルの良さを見せつけるレディースのスーツ。どこか子供じみた瞳は、俺と河橋さんを映している。

「ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょうか、前宮先生」

 椅子に座ったまま、河橋さんが応答する。

「いやあな、私が萬部を紹介した手前、はたして力になれているだろうか気がかりでな。それでどうかね、河橋。奥仲の仕事ぶりは?」

 なんだよなんだよ、本人が居る前で仕事の評価されんの!? なんだそれ、きついなおい!


 俺は気づかれないようなに、そーっと横に座る河橋さんを見やる。

 河橋さんも俺を見ていた。何と答えようか迷っているような表情をしている。

 しばしの間悩むと、彼女はようやく口を開いた。

「そうですね……最初はあまり役に立たないと思っていました。事務的な仕事も遅かったですし、なんというか普通、という印象でした」

 うっわあ、手厳し意見。聞いていて、申し訳なってくる。

 俺は無意識のうちにうなだれていた。

 だが、河橋さんの言葉は途切れることはなかった。

「ですが、ここ数日間でその評価は大きく変わりました。奥仲くんはしっかり仕事をし、尚且つ誰かのフォローをしたり、私にアドバイスをくれたりなど、とても良い人だと思います。先生の心配は不要で、とても頼りになる方だと思っています」

 予想外の評価に、俺は目を見開いた。ついでに口も開けていた。

 たぶん、とても間抜けな顔をしていると思う。


「おお、そうか。なら、奥仲の評価は結構高いのか。ふふん、良かったじゃないか、奥仲」

 からかうように言ってくる先生に、俺は少しだけ強がった。

「べ、別にそんなことないですよ。こんなのまだまだですよ。俺ってば、やればもっとできますから!」

「ほうほう。そうかそうか。須藤以外友達のいなかった男がよく言ったものだ。私は嬉しいよ、そこまで自分に自信を持てるくらい成長してくれて」

 うげっ。それを言われると弱い。自分に自信なんてものは、これっぽっちも持ち合わせていないのだ。それどころか、『もっとできる』については完全な虚言である。



 だから俺は、机に額をこすりつけるほど下げた。

「すみませんでした。調子乗りました。ほんと、すみませんでした」

 やっぱりさ、照れ隠しで強がっちゃうのはダメだね。変に期待とかされたら、ほら、きついじゃん。

 薫先生は笑いながら息を吐くと、

「まあ、いい。河橋からの君への評価は本心だと思うし、現に君はしっかりと仕事をしている。それについては安心しているよ」

 ……ん? それについては? どういうことだろう。何かあるのか? それとも、たまたま意図せずに口から出てしまっただけの言葉なのか?

 俺の脳裏にいくつかの疑問がよぎった。

「それじゃ、奥仲は引き続き仕事を頑張ってくれ」

 そう言うと、薫先生は右手をひらりと上げて物理準備室から出るために足を動かした。と、その時だった。


 薫先生の消え入りそうなほど小さな呟きが聞こえた。



 …………心配なのはあいつだけか、と。




     ***




 物理準備室を片付け終えた俺たちは、他の実行スタッフのいる会議室へ戻るために廊下を歩いていた。



 思えば、こうして河橋さんと一緒に歩くのにももう慣れてしまった。最初の頃は、緊張していたし、気難しそうだからいつ怒られるのかとビクビクしていたが、いざ話してみるとそうでもないことが分かった。



 お世話になった先輩たちのために、しっかりと仕事をしなければと肩肘張っていたり、男子の裸を見て赤面して取り乱してしまったりと、彼女の印象は日々更新されていく。

 木葉や雅、静夏たちと出会い、萬部に入ってから分かっていたつもりであったが、やはり、人間というのは実際に関わってみないと分からないことがあるな。

 表の印象だけでは、相手のことはまるでわからない。



「そういえば、奥仲くんって前宮先生と親しいですよね」

 隣を歩く河橋さんが不意に口にした。

「親しい……のかな? まあ、薫先生は担任だし顧問だし、なんだかんだ関わる機会が多いだけの気もするけど」

 あれは親しいと言っていいのか? 

 たしかに、年を越すその瞬間まで、電話で話していたりしたこともあった。けどあれは、先生の暇つぶしに付き合ってあげていただけというか。

「ほら、それですよ、それ」

「へ、どれ?」

 何のことを言っているかわからない。

 俺は歩きながら首をかしげる。

「奥仲くん、前宮先生のことを『薫先生』って呼ぶじゃないですか。人っていうのは、大人になるにつれて、相手のことを下の名前で呼びにくくなるものです。親しいと思っている人でなければ、下の名前では呼びませんよ?」


「そう言われれば、たしかに下の名前で呼んでるけどさ、俺が薫先生のことを下の名前で呼ぶことにしたのにもちゃんと訳があって」


「はて、どんなわけなんですか? 私、ちょっと興味があります」


 そう言うと、河橋さんはどこか楽しそうな瞳で俺を見る。


 少し気恥ずかしいが、俺は口を開く。

「あれは、俺がまだ一年生の頃だったなあ。一年生の頃から、俺の担任は薫先生だったんだ」

「へえ、昨年から担任だったんですか」

「まあな。実はその時のクラス委員長の苗字が、『前宮』って言ってさ、薫先生と同じ苗字だったんだ。当時の体育祭の時に、その前宮と仕事が一緒になってさ、あいつのことを呼ぶ機会が増えたんだ」

 横を歩く河橋さんは「ほうほう」と相槌をうつ。

 そこまで興味深そうな顔をされると困る。そんなに深い思い出話でもないからだ。


 とりあえず俺は話しを続ける。

「それで、ある日いつもどおりに前宮のことを呼んだんだ。そしたらさ、ちょうど前宮と薫先生が同じ場所にいたんだ。二人が同時に俺に反応しちゃってさ、それ以降、委員長のことは前宮、先生のことは薫先生って呼び分けることにしたんだ。ま、進級した今でもその名残が消えずに残ってるってだけなんだよ、俺が先生のことを名前で呼ぶのはさ」


「なるほど、そうだったんですね。どんなことにも歴史ありって感じですね」


「歴史ってほど遠い昔のことじゃないんだけどな」


 などと他愛もない話をしながら階段を上っていると、踊り場に二人の男女の姿が見えた。


 放課後だからと言って、何してんだよ……。


 と、呆れながら思っていると、隣を歩いている河橋さんの声が響いた。


「副会長、何をしてるんですか?」


 言われて、俺は再度視点を合わせると、そこにいたのは風山と木葉だった。


 見れば、風山が木葉を壁ドンしているようだった。


 怒りにも似た言い知れぬ感情が、俺の中でふつふつと沸き起こる。


 風山は「うげ」と呟くと、壁についていた手を離し、その場から立ち去る。


 河橋さんは「ちょっと行ってきます」と言い残し、風山を追いかけていった。


 おいおい、一体どうなってんだ。

 そんな思いを込めて、俺は木葉を見やる。



 木葉は、どこかバツの悪そうな顔で俺のことを見ると、小さく口を動かした。

「じ、実はさ、遊びに誘われてたの。断ったんだけど、全然引いてくれなくて……。それでそんな時に遥斗が来てさ……」

 俺が黙りこくっていることを不審に感じたのか、木葉はさらに言葉を続ける。

「ほ、本当、風山くんって何考えてるんだろうね。今は、卒後祭のことをしっかりやらなきゃいけないのに――」



 俺は木葉の言葉を遮って叫んだ。

「何考えてんのか分かんないのは、お前のほうだ、木葉っ!」


 いつになく声を荒らげ、俺は木葉の瞳を直視する。


「俺にはお前が何を考えているのか分からない。俺たちがこうして生徒会の依頼を受けているのは、卒業する先輩のため――もっと限定すれば、部活の先輩の莉奈先輩のためだ。そう思ったら、自分に出来ることを一所懸命にやろうって思うだろ! それなのにお前は、仕事初め目の日から、風山と親しげに話して、仕事は二の次のように見えた」


「は、遥斗、違う……違うの……」

 胸の前で手を組んだ木葉は、すぐに壊れてしまいそうなほど華奢に見えた。

 けれど、俺の口は止まらない。



 河橋さんは言っていた。それぞれがそれぞれに出来ることをしなければならない、と。

 俺だって、仕事の進みは遅いかもしれないが一生懸命にやっている。だけど、木葉はどうだ? 

「お前が誰のことを思っているかは知らない。けどな、少なくとも俺には、お前が全力で仕事をしているようには見えない!」


 俺は一度そこで言葉をくぎり、息を吸うと、一層大きな声で木葉へと告げる。

「お前は何のために、この依頼を受けた? ここ最近のお前は一体、何を考えて動いてるんだ!?」

 俺の声は廊下に反響し、風山を追っていた河橋さんが何事かといった様子で戻ってきた。

「どうかされましたか?」

 不安げな河橋さんの表情に、心が痛む。

 彼女にとっての不安因子は、実行スタッフ内の亀裂によって、卒後祭自体が破綻してしまうことだろう。


 ここまで頑張ってきた河橋さんのためにも、そして莉奈先輩に感謝を伝えるためにも、俺は拳をギュッと握り締め、河橋さんにこう返した。

「い、いえ、別になんでもないですよ。今、会議室に戻りますから」

「ま、待って遥斗! ほ、本当に、私……ただ遊びに誘われたのを断ってただけなの……。それに、先輩たちのために卒後祭を良い形で実現したいとも思ってる……!」

 そんな木葉の叫びを背中に受け、俺は会議室へと足を動かす。



「お前が何を考えてるか、俺には分からない……」


 こんにちは、水崎綾人です。

 今回は少々お話が進みました。木葉は何を思って風山と話していたのでしょうか。それらも随時更新していきたいと考えております。

 以降も読んでいただけると嬉しいです。

 では、また次回

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