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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第9章「三学期、始動」
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第56話「彼女らの想い」

 実山さんと一緒に歩いていたイケメンが女の子だとわかった日から六日が経過した。

 須藤は、毎日のように気が気じゃない様子で実山さんのことを聞いてくる。それは今日も同じだ。

「なあ、遥斗。そろそろよぉ……結果わかったんじゃないか?」

 涙は流していないものの、その分表情がガチだ。こいつももう本当に限界か……。だが、丁度いい。なぜなら、須藤の悩みは今日で完全に打ち消されるのだから。

「わかった。それじゃ、今日結果を教えるよ」

「ほ、本当か!?」

「ああ。本当だ」

 俺は須藤の肩にぽんと手を乗せ、微笑した。

「そ、それで結果は?」

 え? 今聞くのか? それはちょっと困る。今となっては、須藤だけの問題じゃなくなってしまったからな。

「ま、まあ、そう慌てるなって。今日の放課後に公園で教えてやるからさ」

「公園? なんで?」

 納得できない、といった具合に、須藤は小首を傾げた。気持ちはわかるが、そこは黙って受け入れて欲しい。なにせ、これはお前の彼女――実山さんの希望なんだから。

 六日前、つまり俺が実山さんと明日花さんの前に飛び出していったあの日。実山さんは俺たち萬部にひとつの依頼をした。それは、今日二月十四日すなわちバレンタインデーの日に、須藤と二人きりにして欲しいというものだ。なにやら、渡すものがあるそうだ。薄々見当はつくが。クソ、リア充めが……。

 だが、まあ一週間も尾行した相手からの依頼を断ることもできないため、引き受けたのだが。だからこそ、須藤には今ここで依頼結果を教えるわけにはいかないのだ。なんとしても公園に連れて行かなければならない。

「そっちの方が雰囲気出るだろ?」

「人の彼女の浮気調査に雰囲気とか求めんなよ!」

 おっしゃるとおりだ。

「まあ、まあ。決定事項だ。それまでは絶対に教えないからな」

「お前って案外ひどいよな……」

 ぼそっとそんなことを言われた。

 失礼なやつだ。誰のためにこの依頼を引き受けたと思ってんだ。挙句の果てには、お前の彼女の前に飛び出して行ったんだぞ、俺。報酬をもらってもいいくらいだ。

 須藤は結果を教えてもらえないとわかると、とぼとぼと自分の席に戻っていった。心なしか、その背中は少しばかり寂しく見えた。まあ、二週間以上も悩んでいればああなるわな。



     ***



 学校中に鐘の音が響き渡り、四時限目の授業が終了した。クラスメイトは各々昼食を摂ろうと席を移動したり、学食へ向かうため動き始めた。

 教室中が移動の音で騒がしくなる中、俺は自分の机から動くことなくカバンからコンビニ袋を取り出した。中にはコーヒー牛乳と菓子パンが入っている。これが今日のお昼ご飯だ。

「あれ? 遥斗、それだけ?」

 木葉が覗き込むようにして言ってきた。

「ああ。これだけなんだ。弁当作るの忘れたんだと」

 俺としては菓子パンとコーヒー牛乳だけの方が嬉しいんだけどね。なんか、高校生って手作り弁当よりも、コンビニとかで買ったパンとかを食べてるイメージあるじゃん。ある……よね? 俺だけ?

 コーヒー牛乳にストローをさしていると、どこか面映さそうな木葉の声が聞こえてきた。

「ねえ、一緒に食べない?」

「一緒に? 別に構わないけど」

 言うと、木葉は机を隔てて俺の正面に椅子を置いた。「よいしょ」と小さく独り言ちながら、腰を下ろす。

「木葉は弁当か」

「うん。毎朝、作ってるんだ」

「え? 手作り?」

 意外だ。こいつ、料理とかするのか。

「なによ、その意外そうな顔は」

「あ、いや、えっと……。普通に意外だったっていうかさ……」

 木葉は眉間に皺を寄せ、わずかに頬を膨らませた。彼女の責めるような視線が、俺の顔に突き刺さる。

「私だって料理くらいするわよ」

「……そ、そうだよな。一応、女の子だもんな」

 思いっきり脛を蹴られた。蹴られた力よりも強い痛みが脛に広がる。

「痛ッ!」

「一応じゃなくて、正真正銘の女です」

「すんません」

 と謝罪し、開封した菓子パンの袋からパンを取り出し、口に運んだ。メロンパン独特のサクッとした食感が口の中に広がり、同時に、口内の水分が奪われた。

 その後、俺たちは時折くだらない会話をし、昼食を終了した。

 昼休みはあと一〇分ほど残っている。

 さて、なにをしようかとスマホと取り出した時だった。誰かに肩を二、三回叩かれた。

 俺は反射的にそちらを振り向く。視線の先にいたのは花見静夏だった。手を後ろに組み、椅子に座っている俺を見下ろすような様子で立っている。

「どうした?」

「ちょっといいかな? 遥斗」

「ああ。大丈夫」

 改めてスマホで時間を確認するが、まだ昼休み終了までは時間がある。

「着いてきて」

 そう言うと、静夏は踵を返し、廊下へ出てしまった。なんなんだ。追わないわけにはいかないので、俺は木葉に一言告げてから、彼女の跡を追った。気のせいだろうか、木葉の顔に少しだけ不安の色が混じっていた気がする。

 廊下に出るとすぐに静夏を見つけた。

「こっち」

 手招きし、俺はそれに従った。行き着いた先は、踊り場だった。視線を巡らせてみるが、生徒の姿は見当たらない。つまり、今この踊り場には俺と静夏しかいないというわけだ。

 変な緊張感に包まれながら、静夏を視界の中央に捉える。手は相変わらず後ろに組んだままで、まるでなにかを隠しているかのようだ。

「それで、なにか用事か?」

「今日がなんの日か知ってる?」

「は? 今日は須藤に真実を告げる日、だろ?」

「それ、本気で言ってる?」

 たしかに本気で言っているけれど、一〇〇パーセント本気かと問われれば頷くことはできない。静夏の聞き方からするに、須藤についてのことを言っているわけではないのは明確にわかるわけだし。それに、今日という日がどういう日なのか、世の男子ならみんなわかっているはずである。だから、今日の男子はみんなどこかおしゃれなんだよ。みんな――チョコを貰おうと必死なんだ。

「いや、バレンタインデー、か?」

「それくらいはわかるんだ」

 存外に失礼なことを言うな、こいつ。

「それくらいってなんだよ」

「まあ、いいわ。バレンタインって認識があるなら話は早いもの」

 だから俺は別に鈍感なわけじゃない。今までバレンタインなんて楓からしかチョコを貰ったことがなかったから、期待してなかっただけだ。よく考えてみれば、楓からは毎年チョコ貰ってたな。ありがたい。モテない俺からすれば、妹からのチョコでも嬉しいものだ。しかし、シスコンではないぞ?

 静夏は少しばかりもぞもぞしながら、右手をこちらに差し出した。その手に握られているものは、リボンで可愛く彩られたワインレッドの箱。

「……こ、これは……?」

 見間違いだろうか。目を擦って再度確認してみるが、どう見てもチョコレートが入っていそうな箱に見える。

「見ての通りチョコ、よ……」

 いつになく顔を赤らめながら、静夏が今一度、箱をこちらにつき出してきた。

 俺は言葉を失いながら、その箱を受け取る。

「あ、ありがとう……」

 楓以外の女の子からのチョコレートなんて、生まれて初めてだ。たとえ義理だとしても大事に食べなければ。

「言っておくけれど、遥斗にしかあげてないから」

「は?」

「だから、それは義理なんかじゃないってことよ」

 ちょっと待て。はい? 義理じゃない? あ、友チョコってやつ? あー、なんかあるらしいよね、そういうの。俺、チョコもらったことないからわかんないけど、朝の情報バラエティーで特集してるの見たことあるわ。

 俺からの反応がなかったことに苛立ちを覚えたのか、静夏がはっきりと口にした。

「それは……。その、本命だから」

「ほ、本命……」

 その言葉の意味を理解するまでに、いくらか時間が必要だったことは、言うまでもないだろう。

 唖然としている俺に、静夏が頬を朱に染めながら一歩詰め寄る。

「私に恥をかかせないでね。この気持ちは本物よ。中学のときに遥斗をハメるような真似をしたのは悪いと思っているわ。でもね、あれは前も言ったように、不可抗力だったのよ。当時の私のいたグループの男子の悪ふざけ。私自身としては、中学のときから遥斗のことが、好きだったのよ。本当よ。お願い、前向きに考えてちょうだい」

 一息にそう言うと、静夏は俺の真横を通って教室に戻ってしまった。

 ……う、嘘だろ。ほ、本命。本命ってあの本命だよな。

 その後、昼休みが終わるまで俺はひとりで踊り場に立ち尽くしていた。



     ***



 放課後になる頃には、俺の頭もだいぶ整理出来ていた。つまり、俺は静夏からチョコを貰ったのだ。うん、チョコを貰った。ただ、それが義理ではなく、本命だったというだけの話。――って本命って、あの本命だよな。

 まだ全然、整理できてなかった。とりあえず、一旦、このことは忘れよう。今するべきことは、須藤を公園まで連れて行き、実山さんと会わせることだ。

 実山さん曰く、今日は演劇部の活動がないため、あの公園に十六時半につけるそうだ。だから、俺たちは実山さんより少し早くついておく必要がある。

 俺は荷物を手早く片付け、須藤の机に足を進める。

「須藤、準備は出来たか?」

「ああ。オッケーだ。公園だったよな?」

「そうそう。公園だ。よし、行くぞ」



 公園に近づくたびに張り詰めた顔になる須藤をなんとか公園まで連れてきた。見たところ、まだ実山さんは来ていない。

 俺たちは、公園の隅にあるベンチに腰掛けた。須藤に気づかれないように、スマホで時刻を確認。――十六時二十七分、か。もう少しで実山さんも到着する頃か。依頼では、須藤と二人にしてくれ、とあった。このあたりで、俺は退散するか。向こうの方では、木葉たちも隠れているから、俺もそっちへ行こう。

「さあ、遥斗。教えてくれ」

 切迫した表情でこちらに詰め寄ってくる須藤。だから、顔近い。つか、緊張しすぎて顔真っ赤!

 俺はそんな須藤を無視して、ベンチから腰を上げる。

「そんなことより、喉渇いたな。ジュースでも買ってくるよ」

 自販機に向かおうと踵をめぐらすと、須藤が俺の腕を強く掴んだ。

「な、なにすんだよ?」

「ジュースなんていらねぇよ。むしろ、ジュース一本なんかで、ここ最近の涙で失った水分は補給できねぇよ」

「うるせぇ。離せ、俺はどうしてもジュースを買いに行かなきゃいけないんだよ」

「だから、いらないって。早く教えてくれよ。なあ、遥斗ぉ!」

 待てよ、須藤。俺は別にお前に意地悪をしているんじゃないぞ? むしろ、お前から感謝されるくらいのことをこれからやろうとしてるんだぞ。だから離せ。

「離せっての!」

 俺は無理やり須藤から腕を振りほどき、公園の外にある自販機へと走った。背後から「遥斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」という悲痛な叫び声が聞こえた気がするが、全力で黙殺した。

 公園から出ると、すぐ近くに実山さんが立っていた。俺が公園から出てくるのを、今か今かと待っていたようだ。

「すみません、遅れました」

「いえ、いいですけど、須藤君かなり叫んでましたね」

「……ははは」

 元はと言えばあんたのせいだろうが。などとは言えず、適当に愛想笑い。

「それじゃ、行ってきますね」

 実山さんは軽く会釈をすると、公園の敷居を跨いだ。

 俺はすぐさま、木葉たちが須藤の姿を隠れ見ている場所へと走った。そこは公衆トイレのすぐ近くだった。

「どうだ、状況は?」

「今接触したばかりです」

 答えてくれたのは雅だった。

 俺は須藤に気づかれないように、彼らの姿を注視する。さすがに距離が離れすぎていて声までは聞こえないが、須藤の反応の一つ一つでなにを話しているかわかる。

 最初、目を丸く見開いて実山さんの登場に驚いた表情をしていた須藤だったが、その顔は徐々に弛緩し、柔らかいものへと変わっていった。そして、実山さんがリュックからチョコが入っていると思しき箱を取り出すと、須藤の瞳から涙が溢れた。忙しいやつだな。貰ったチョコを食べると、こちらまで聞こえるくらい大きな声で「うまぁぁぁぁい」と叫んでいた。クソ、リア充が。

 一時間半ほど経っただろうか。茜色の空が徐々に闇色に染まり始めている。須藤たちは、仲良さそうに手をつないで公園を後にした。

 これでようやく依頼終了か、と大きく息を吐くと、須藤からメールが来た。

『サンキューな! 遥斗』

 俺はメールを一読すると、スマホをポケットにしまった。なんだか照れくさいが、悪い気はしない。

「そんじゃ、依頼も無事に終わったってことで、今日の活動は終わりにするか」

 言うと、木葉も雅も静夏も反論なく頷いてくれた。

 地面に置いていたリュックを拾い上げ、帰ろうと一歩踏み出すと、雅にそれを制された。

「ど、どうした?」

「あの……遥斗くん。少しお話が」

「お話?」

 雅は顔を伏せたまま、話を続ける。

「ちょっと場所を変えても良いですか?」

「別に構わないよ」

「ありがとうございます。じゃあ、こちらに」

 雅の後をついていこうと足を進めたとき、ふと木葉の顔が目に入った。どこか寂しそうな顔をしていた。



 連れてこられたのは、先ほどいた公園のすぐ近くにある人通りの少ない道路だった。ほの暗くなってきている道を街灯が照らしている。なんとも物悲しい印象を受ける。

「そ、そのっ! 遥斗くん」

 いきなり名前を呼ばれ、思わず返事をする。

「はい!?」

 雅は毛糸の手袋を外し、リュックから緑色の包装紙に包まれた直方体の箱を取り出した。なんとなくデジャブを覚えた。

「あの……その……」

 今にも泣き出しそうな声で、なんとか言葉を紡ごうと頑張る雅。だが、彼女の口からは思うように言葉が出ず、時折声になっていない掠れた声が漏れ出ている。数回、深呼吸を繰り返した後、再び口を開いた。

「遥斗くん、これ、受け取ってください!」

 深々と頭を下げながら、緑色の箱を俺に向かって突き出した。

「ありがとう」

 受け取ると、雅の顔が瞬く間に明るくなった。先ほどまでの、思いつめたような表情とは全く違う。

「これって……チョコレート?」

 少しばかり恥ずかしかったが、とりあえず聞いてみた。

「ええ、はい。そうですね。チョコレートです」

 頬を赤らめ、視線を右下に固定して答える雅。

「それも、本命です」

「…………っ!?」

 ほ、本命……だと? なんだ、今日はいったいどうなってるんだ。静夏に続いて雅までもが本命? 今日はエイプリルフールじゃないぞ? 嘘をついてもいい日じゃないぞ。どうなってるんだ。だいたい、俺はいつ雅に好かれるようなことをした? してない……よね?

 雅は潤んだ瞳の上目遣いで俺を見る。

「本当ですよ。本当に本命なんです。私は……遥斗くんのことが好きなんです」

「お、俺、雅に好かれるようなことしたっけか……?」

 失礼な質問だと思ったが、思い切って聞いてみた。告白されるほど好かれることをした覚えがないのだ。

 聞くと、雅は微笑し、

「そうですね。たしかに最初はあまりいい印象はなかったです。だって遥斗くんはセクハラくんでしたから」

 久しぶりに聞いたな、それ。

「随分と懐かしいあだ名だな」

「でも、遥斗くんが萬部に入って、同じ時間を共有していく中で、どんどん惹かれていったんです。木葉ちゃんのことで思い悩んでいるときも、文化祭実行委員での活動のときも、幼稚園訪問に行った時の梨恋ちゃんと舞ちゃんのときも、そして今も。遥斗くんは、いつも誰かのために頑張ってきました。たぶん、そういうところに惹かれたんだと思います。気づいたら、遥斗くんのことが大好きになってました」

「…………っ」

 聞いていて、こっちが恥ずかしくなってくる。ああ、なんだか顔が暑いぞ……。

 雅は俺を視界の中央に捉え、まっすぐに見つめる。

「改めて言います。私は……セクハラくん、いいえ……遥斗くんのことが好きです。どうか、この気持ちを真剣に考えて欲しいです。お願いします」

 そう言って、雅は最後に爽やかに笑った。街灯の明かりに照らされたその笑顔は、えらく幻想的に見えた。

「え、えっと……」

 なにか言わなければと口を開くと、雅がそれを制した。

「答えは……まだいいです。きっと、考える時間が必要ですから……」

 どこか儚げな顔で雅が言った。

「え? ああ。そうだな、考える時間、必要だな。うん……」

 静夏に次いで、今度は雅。パンクしそうだ……。



     ***



 その日の夜、家に帰っても満足に考えることができなかったため、俺はすぐに寝てしまった。慣れない状況というのもあるが、女の子二人から本命チョコを貰った男子の心情としては普通だろう。非リア充の俺が、いきなり本命チョコを二つ。嬉しいという気持ちもあるが、よくわからない、という感情の方が大きい。



     ***



 二日が経過し、今日は明日花さんに招待された上西女子高演劇部の演劇発表会の日だ。俺たち萬部は莉奈先輩を除いた四人で参加した。

 静夏と雅とは気恥ずかしくてあまり会話できなかったが、そろそろ答えを出さなければ彼女たちに迷惑な気がする。

 ふと周囲を見ると、そこには須藤の姿があった。

 俺は空いていた須藤の隣の椅子に腰掛ける。

「よお、須藤」

「おお、遥斗」

 休日に須藤に会うのはなんだか新鮮な気がする。まあ、会いたかったわけではないのだが。

「つかさ、遥斗。お前、あんなサプライズ用意してたなら言ってくれよな。マジ驚いたかんな」

「バラしたらサプライズじゃないだろ。ていうか、そのサプライズの方は実山さんの依頼だからな」

「マジか。美々香のか」

 うわっ、美々香とか呼んでんのかよ。リア充かよ、クソ。でも、よく考えてみえば、俺も木葉と雅と静夏のことを名前で呼んでる。あれれー。

 と、そんなことを思っていると、上西女子校の体育館内にブブー、と開演を告げるブザー音が鳴り渡った。

 幕が上がり、演劇が始まった。ステージの上で、演劇部員がコミカルな芝居をしている。どの部員も演技のレベルが高い。すげーな。こりゃ、並の練習量じゃないはずだ。

 明日花さんはその中でも特に秀でていた。なんてたって、女子高生が演じているはずなのに、男に見えるんだもの。ちなみに、やっている役は王子様。まさしくぴったりだと思う。明日花さんの登場に少し遅れて出てきたのは、実山さんだ。どうやら、彼女はお姫様役らしい。なるほど、だから練習後もぴったりとくっついてラブラブしていたわけか。あれも役づくり、か。それに、お姫様の衣装に実山さんのカールされた茶髪がよく映えている。彼女も適役のようだ。

 隣を見ると、須藤が自分の彼女の晴れ姿に鼻の下を伸ばしていた。

 おいおい……。



 一時間もすると演劇は終わった。実山さんたちに感想の一言でも言おうと思ったが、次の公演までの休み時間が少ないそうで、感想を言うのは別の機会にすることにした。

 須藤はもう一公演見るらしいが、俺たち萬部はここでおいとまさせてもらうことにした。

 土曜日の萬部の活動はこれにて終了である。

 雅も静夏もそれぞれ帰路につき、残ったのは俺と木葉だけになった。

「それにしても、実山さんと明日花さんの演劇、すごかったわね」

「ああ。まさに適役。いや~二人ともよく役に合ってたよ」

「とくに明日花さん、すごい男の子っぽく見えたわ」

「ホントにな。あれはマジで男と見間違うレベル」

 俺と須藤は本当に見間違ってたしな。唯一、明日花さん男説に懐疑的だったのは木葉くらいか?

 思いの外、楽しく会話をしながら帰路を歩いていると、木葉が唐突に言い出した。

「ねえ、遥斗。ちょっと寄り道してもいい?」

「寄り道? うん、別にいいけど」

 まだ昼にもなってないからな。時間的には余裕がありすぎるくらい余裕だ。

 木葉についていくこと数分。たどり着いたのは、公園だった。須藤と実山さんの間の誤解を解くために使った公園ではない。

 十年前に俺たちが遊んだ――思い出の公園だ。

 俺と木葉が初めて出会った始まりの公園。そして、『思い出の続きを築きたい』と俺が木葉に言った公園でもある。ある意味、十年越しの思い出の公園というわけだ。

 木葉は木で出来た柵の方まで足を進めた。高台にあるこの公園からは、神ケ谷市が一望できるのだ。その眺めは絶景。見ればあまりの美しさに言葉を失うこと必至。

「遥斗。ここに来るのは久しぶりだよね」

「ああ。久しぶりもなにも、転校してきたお前を説得した時が最後だよ。ていうか、なんで今この公園に来たんだ?」

 一応、公園と名乗るだけあって遊具はあるものの、敷地面積は狭い。そのせいか、子供が遊んでいる姿は見当たらない。半年ほど前に来た時も子供の姿は見えなかった。

 俺の質問に、木葉は少しだけ背を伸ばし、「んーっとね」と口を開いた。

「始まりがここだったから、けじめもここで付けようと思って」

「けじめ?」

 なんだ、俺なにかされるのか?

 薄らと恐怖を感じる。

 木葉は白いショルダーバッグから薄いピンク色の箱を取り出した。その箱の形には見覚えがある。雅、静夏の二人も似たような箱を俺に手渡してくれた。まさか……。

「本当は十四日に渡したかったんだけどね、バレンタインチョコ、受け取って欲しいの」

「……チョコ」

 なんだ、心臓の鼓動が急に速くなってきた。きっとそれは、木葉が柄にもなく、いまにも消えてしまいそうなくらい儚げな表情をしているからだろう。どうなってるんだよ、いやマジで。

 木葉は徐々に俺に近づき、あっという間に正面までやって来た。

「はい。そ、その……遥斗のことを考えて、一生懸命作ったから、受け取ってもらえると嬉しい……」

 今にも消え入りそうな声で、木葉が俺の胸にチョコの箱をトンと当てた。……手作り、か。そういえば、最近は弁当も自分で作ってるとかって。随分、家庭的になりやがったな……。

「ありがとな」

 木葉からチョコの箱を受け取る。瞬間、彼女の顔がはっと明るくなった。

「ううん。受け取ってもらえて嬉しい。たぶん、ミヤビーも花見さんもきっと言ったと思うから、私もはっきり言うね」

「は?」

「それは本命だからね」

「んなっ!?」

 どうした。なにがあった、この本命ラッシュ。せっかく整理できそうだった頭が、またパンクしそうだ。

「ていうか、どうして木葉が雅と静夏の二人が俺に本命チョコを渡したことを知ってるんだよ?」

「そんなの遥斗の顔と、二人の顔を見ればわかるわよ」

 えー。すごい洞察力。

「でも、私だってあの二人に負けない。遥斗のことを好きな気持ちは、私が一番だと思ってる」

「……お、おい」

「嘘じゃないわ。たしかに、花見さんは中学の頃の遥斗を知ってるし、時間的に見れば私より長い時間一緒にいる。ミヤビーだって、遥斗と二人で出かけたりして結構距離が近いかもしれない。――それでも、……それでも私は、遥斗のことを誰よりも一番好きだっていう自信がある。だって……だって私は……。五歳のときからずっと遥斗のことが好きだったのよ? 十年間もずっと遥斗のことが好きだったのよ? この想いは負けない……」

 木葉の必死の言葉に、思わず息を呑んでしまった。よく恥ずかしげもなくこんなこと言えるな。聞いているこっちが恥ずかしくなってきたぞ。

「私……大空木葉は、遥斗のことが好き。世界で一番、好き」

 一際大きな風が吹き、時間が止まったような感覚を覚えた。

 俺は今、……木葉に告白されたのだ。いや、正確に言えば木葉だけではない。雅にも静夏にも告白されている。

 決して放置できない問題が、俺に突きつけられた。




 こんにちは、水崎綾人です。

 どうでしたでしょうか? 楽しんでいただけたら嬉しいです。

 では、また次回。

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