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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第9章「三学期、始動」
53/100

第53話「されど妹だって成長してる」

 翌日。今回は雅とペアを組むことになった。ちなみに決め方は昨日と同じくジャンケンだ。まあ、昨日よりも早く終わってくれて助かった。


 雅は、いかにも冬の服装と言った具合に着込んでいる。

 制服の上にコートを着るのはもちろんのこと、マフラーや手袋も装着している。全部もこもこしていて暖かそうだ。


「完全防備だな」

「ええ。実は私、寒いのは少し苦手で」

 そう言いながら、ふわふわしていそうな手袋で後頭部をぽりぽりと掻きながら微笑した。

 女の子がもこもこした格好で、照れくさそうに笑うとここまで可愛いものなのか。


「遥斗くんは寒いのは平気なんですか?」

「俺か? いや、別に平気ってわけじゃないけど、雅ほどではないかな。まあ、女子は冬場でもスカートだから、男子よりも寒さを感じるよな」

「そうですね。やっぱり、足は寒いですね。スカート以外にはいているのはストッキングくらいですし」

 ホント、冬場でもスカートをはかなきゃいけないのは、少しばかり酷な気がする。


 俺はふと視線をスマホに落とした。時刻を確認するのだ。ディスプレイに表示された時間は一七時五二分。もうじき実山さんが出てきてもおかしくない。


「あ。そうだ遥斗くん」

 雅がなにかを思い出したかのように口を開いた。

「ん? どうした」

「結構前にした約束覚えてます?」

 約束? はて、そんなものしたっけか? 約束……約束……。必死に記憶を呼び覚ますが、イマイチ見つからない。

「覚えてないんですか?」

 わずかに声のトーンを低くし、ジト目で俺を見据える雅。

「あ、いや。その……なんていうか……。すみませんっ。覚えてません!」

 抵抗しても意味がないと思ったので、俺は大人しく頭を下げた。やっぱりね、人間正直が一番ですよ。

「んもー。なんで覚えてないんですか。約束してくれたじゃないですか、随分前ですけど。また一緒にお出かけしてくれるって」

「…………あ。そういえば」

 そんな約束もしたようなしていないような。よく覚えてたな、雅。感心するレベル。

 そんな雅は言いにくそうに、あるいは恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見る。

「それでなんですけど……。明日、土曜日に……その、一緒にお出かけして欲しいな~、なんて思いまして……」

「わかった。特に用事もないし、全然大丈夫だよ」

 俺は瞬時に雅の誘いを受けた。

 明日は特に用事もないし、やることもない。録り溜めた深夜アニメは、今晩家に帰ってから見れば大丈夫。

 ……ていうか、昔は最初から断る理由を探していたのに、今ではどうやったら断らずに済むかを考えているのか……。もしかしたら、俺も成長、したのかな。

 などと、柄にもなくそんなことを考えてしまった。しかし、よく考えてみれば、断らずに済む努力をするのは当たり前のような気もする。あれれー。おかしいぞー。

「よかったです。それじゃ、明日の一〇時に駅で待ち合わせでお願いします!」

「お、おう。まさかそこまで嬉しそうにしてもらえるとは思ってなかったぞ」


『ちょっと、遥斗! いつまで話してんのよ。実山さん、さっき校門から出たわよ』


 無線機の代わりに通話状態で使っているスマホから、木葉の鋭い声が聞こえてきた。ちなみに、無料通話アプリを使っているため、電話料金はかからない。経済的だろ?


 つか、もう校門から出たって!?


 慌てて上西女子高の校門の周辺を探す。校門から少し離れたとこを、実山さんと昨日のイケメンが並んで歩いているのが見えた。

「行こう、雅」

「あ、はいっ!」

 昨日の木葉としたように、雅と手をつなぐ。ふんわりと柔らかい毛糸のような感触が……ってこれは、雅がつけている手袋の感触か。

 でも、その上からでも雅の小さな手の感触がはっきりとわかった。


 今日も、実山さんたちはコンビニやスーパーに足を運んでいる。俺たちもその跡をつけて入店する。


 彼女たちはお菓子コーナーに向かい、なにやら楽しそうに会話をしている。まるで、本当のカップルのように。この光景を須藤が見たら、卒倒しそうだな。

 最初はリア充の話なんて聞きたくない、と思っていたけれど、須藤の知らない実山さんの姿を見ていると、奴に同情したくなってしまう。まだ二日しか尾行してないんだけどさ。

「遥斗くん、なんだか実山さん、楽しそうですね」

「……そうだな。さすがに須藤が可愛そうになってきた」

 まさに会話に花を咲かせるというのはこのことか、と言わんばかりに楽しそうに話している。三〇分ほどすると、実山さんたちは退店した。


 俺と雅もそのすぐ後ろを歩く。別角度からは木葉たちが実山さんのことを見ているはずだ。喧嘩さえしていなければだけど。

 実山さんは、昨日と同じ場所でイケメンと別れ、そのまま帰宅した。やはり、今日の彼女の行動も俺には、いや、少なくとも俺と雅にはデートに見えた。


 その後、しばらくすると遠くの方から木葉と静夏がやってきた。

 心なしか、普段より仲がよく見える気がする。気のせいかな。

 俺は、今日の実山さんの印象を二人に聞いた。

「どう思った? 木葉」

 少しばかり悩むような表情をし、顎に手を当てる木葉。

「そうね……。やっぱり、今日もデートっぽく見えたわ」

 お前もか。でも、そう見えるんだよな。

 木葉のコメントはそこで終わったかと思ったが、「それに」と続いていた。

「なんか、あの男の方に違和感があるのよね……。あんなに肌の手入れとかしてる男っている?」

「いや、俺に訊かれても。肌の手入れとかしたことないしな。せいぜい洗顔くらい?」

「でしょ? 男ってそんなもんじゃないの? でも、それにしても、さっきの男は綺麗すぎるのよね」

 どこか腑に落ちないような声音でう~んと唸る木葉。こいつも意外と真剣に考えてくれてるみたいだ。

「静夏はどう思った?」

「そうね。須藤くんには申し訳ないと思うけれど、やっぱり、浮気色濃厚だと思うわ」

 相変わらず辛辣な物言いだ。けれど、それは尾行していて誰もが抱く感想のはずだ。

 仮にも演劇部の部活動が終わった後に、あれだけの笑顔でいられるのだから、相当楽しいはずなのだ。

 普段なにもしてない萬部ならともかく、演劇部とか存外にハードそうじゃん。それなのに、あれだけ輝かしい笑顔になれるのはすごい。いやマジで。

「なるほど、そう思うか。でもまだ尾行を初めて二日だからさ。来週いっぱい続けよう。須藤への応えはそれからってことでいいかな?」

 木葉、雅、静夏が揃って首を縦に振った。

 今のままでは、須藤に真実を告げるのがあまりにも酷すぎる。もう少し様子見が必要だ。

「そんじゃ、また来週な」


     ***


 その日の夜、俺は自室で録り溜めたアニメを見ていた。右手にはアイスクリーム、左手にはコーラを持っている。今この瞬間が最高に幸せと言っても過言ではないだろう。


 テレビ画面には、ヌルヌルと綺麗に動く魔法少女。今期の中でも一位二位を争う面白いアニメだ。


 そんなアニメを視聴している最中に、俺の部屋の扉がノックもなしに唐突に開いた。

「おにーちゃーん。いるー?」

 開けたのは妹の楓だった。もうすぐ寝るはずなのに、髪の毛をサイドテールにしている。

「どった? お前、いつもならもう寝る時間だろ?」

「えへへ。そうなんだけどね、なんだか眠れなくて」

 コーヒーでも飲んだのか? 

「……一緒にアニメ見てもいい?」

「いいぞ」

 言うと、楓は小走りで俺のすぐ隣に腰を下ろした。女の子座りをしながら、俺の体に体重を預けてくる。

「楓にもコーラちょうだい?」

「いいけど、コップ一個しかないから、下からとってこないと」

「いいよ。お兄ちゃんが飲んでるコップでも」

「なっ!?」

 思わず息を呑んでしまった。なに言ってんだこいつ。いや、別にドキドキしてるわけじゃない。前にも言ったが、俺にはシスコンの属性はないのだ。だから、こんなことじゃ全然興奮はしない。


 しかしだ。こいつは仮にも中学二年生。いや、あと二か月もすれば中学三年生だぞ。そんな思春期真っ只中で、なんなら加えて反抗期の真っ只中でもあるはずの妹が、こんなことを言うなんておかしいだろ。ってことで息を呑んだのだ。マジで、(こいつ)はなんなんだ。

「ねぇ。まだ?」

「お、おう。ほら」

 震える手を無理やり震えないようにしながら、妹にコーラの入ったコップを差し出す。


 受け取った楓は、特に気にする素振りなど見せずに、コーラを一口飲んだ。「美味しい。えへへ」と言いながら、俺に向ける微笑は、認めたくなかったが可愛かった。

 そこは普通、「兄貴と同じコップで飲むとか、超キモイんですけど!」とかって言うんじゃないのか。まあ、反抗期の妹と従順に甘えてくる妹、どちらかを選べと言われたら間違いなく後者を選ぶけれど。

 そんな俺の胸中の焦りを知るわけもない楓は、飲み終えたコーラのコップをコトンと床に置いた。

「そ、そもそも。どうして眠れないんだよ、楓」

 思考を切り替えるべく、俺は適当に口を動かした。

「……う、うん。それなんだけどさ」

 楓の口から吐き出された言葉は思いの外重々しい。

 いつになく真剣そうな妹の言葉に、兄として俺はしっかりと耳を傾けた。

「もうすぐ楓、三年生になるじゃん?」

「ああ。そうだな。ちなみに俺も三年生になる」

「それでね。楓思ったの」

 俺のコメントはスルーですかそうですか。

「みんなと一緒にいる時間があと少しなんだなって」

「え?」

「だって、三年生になったらクラス替えでみんなバラバラのクラスになっちゃうんだよ。せっかく、仲良くなれたのにさ。一年生の時は、そんなのよくわからなかったから特になにも思わなかったけれど、今回は違う。離れ離れになる寂しさがわかるの」

 こいつはこいつなりに、寂しさを感じているってわけか。いつも能天気でアホみたいに呑気な妹だと思っていたけれど、どうやらそればかりではないらしい。


 離れ離れになる寂しさ、か。


「なに言ってんだよ。クラスが替わるくらい慣れれば大丈夫だろ? そんなことでいちいち落ち込んでたら大変だぞ?」

「でもさ。このクラス替えで、もう二度と話さなくなる友達もいるかもだよ? 楓はずっとこのままがいいな……。どうして、変わっちゃうんだろう……」

 楓の目が映しているのは、果たしてアニメなのか壁なのかはわからないほど遠くを見る目をしている。

 ――ずっとこのままがいい、か。一昨日の夜にそんなこと思ったな、俺も。やっぱり、兄弟か。

 心の中でそんなことを呟きながら、俺は言葉を吐いた。楓に言い聞かせるように、そして自分自身に言い聞かせるように。

「変わらないものなんてないんじゃないか? きっとか形あるもの無いもの、その全てが時間の流れとともに変わっていくんだと思うぞ、兄ちゃんはさ」

 そうだ。この寂しいと感じる気持ちも、時が経てばいつか風化し遠い日の記憶になっていく。だから変わらないものなんてないのだ、きっと。

「そんなものかな?」

「ああ。きっとそんなものだよ。いつかその寂しいって気持ちも、いい思い出になるさ」

「そう……かな……」

 珍しく楓が変なことを言わずに頷いた。少しすると、楓から安らかな寝息が聞こえてきた。なんだよ、寝ちゃったのか。

 安心したように眠る妹の頭を優しく撫でる。

 俺が今感じている寂しいって感情も、いつかきっと思い出になるだろう。まさか楓に気づかされるとはな。

 ……まったく。今回ばかりは教えられた気分だ。

「おやすみ、楓」

 欲を言えば、寝るなら自分の部屋で寝て欲しかったけどな。


 こんにちは、水崎綾人です。

 いかがでしたでしょうか? 楽しめていただけたら嬉しいです。

 ではまた次回。

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