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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第9章「三学期、始動」
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第51話「遥斗は彼の兄貴になったつもりはない」

「おっいにちゃーん。お風呂、次良いよ~!」

 そんなことを言いながら、楓が俺の部屋までやってきた。

 バスタオルで、髪の毛についた雫を拭っている。我が妹ながら、お風呂上がりの姿はそれなりに可愛いので、目のやりどころに困る。


「あ、お、うん」


「あれ? どうしたの? お兄ちゃん、難しい顔してるよ?」

 そりゃ、するだろ。シスコンでは無いにしても、あまりにも無防備な妹の上気した肌を直視するのは、少しばかり抵抗がある。


 だが、俺が難しい顔をしていたとするなら、それだけではない。


 さっきからずっと考えていたのだ。


 時間の流れ、というものを。


 長くて面倒な学園生活だと思っていた。萬部に入ってからは、特に活動的な生活に変わり、疲れることも多かった。だけど、確かに楽しかった日々だったのだ。こんな生活がずっと続けばいいのに、と思うことも最近はかなり多い。


 けれど、今日、莉奈先輩が大学受験をするということを聞いて、一気に現実に引き戻された。


 時間は止まってはない。動いている時間から目を背けて、永遠を望んでいただけだった。


 なにがあろうとも、莉奈先輩は確実に三月になったら卒業してしまう。それは変えられないことだ。もし仮に、莉奈先輩が卒業したら、それは今まで同じ時間ということになるのだろうか? 否、ならないだろう。


 俺が求めているいつもの萬部というのは、木葉がいて、雅がいて、莉奈先輩がいて、静夏がいて、薫先輩がいる萬部なのだ。まあ、広い意味で言えば、須藤も入れておいてやるか。誰か一人でも欠ければ萬部じゃない。柄にもないが、そんなふうに思っているのだ。


 認めたくはないが、この感情はきっと、寂しい、というやつだろうな。


 と、そんなふうに長く考えていると、俺の思考を遮るように楓の声が飛んできた。


「ちょっと! どったのよ、お兄ちゃん? お風呂だよ?」


 楓の方に視線を向けると、彼女はバスタオルを首にかけ、ジト目で俺の方を見ていた。


 俺は瞬時に椅子から腰を上げる。

「わかった、わかった。今すぐ入るから」

 言うと、楓は「よろしい」と少しだけ胸を張った。いくら風呂上りの妹の姿は注視できない、と言っても、うちの妹の胸は張っても膨らみがあるわけではない……。悲しいな。


 まあ、莉奈先輩がいなくなって寂しいとか今までの萬部じゃなくなるとか、そういうことは、今考えたところで意味がないな。


 よし、風呂でも入ってくるか。


     ***


 翌日、俺は萬部の部室に行く前に、とある男に話しかけた。須藤ではない。

 彼とは木葉が転校してから間もない頃に、一度拳を交えたことがあった。それ以降、彼は俺のことを『兄貴』と呼んでいる。まったく不本意だが。


 その男の名前は――柏崎(かしわざき)


 木葉にも一緒に来るかと訊ねたが、やんわりと断られた。木葉を巡っての戦いだったから、彼女が会いづらいというのも無理はない。


「なあ、柏崎、ちょっといいか?」

 彼の机の前まで足を運び、声をかけた。

 すると、さっきまで友達と話していた柏崎は、俺の方に向き直り、

「あ。兄貴っ! うっす。大丈夫っす!」

 と言いながら、素早く頭を下げた。おい、昔とキャラ変わってないか? ていうか、なんだその子分みたいな口調。


 だが、柏崎が今のようになったことの原因が俺にあるのだとすれば、彼を笑いものにすることもできない。


 俺は、あえてそこには突っ込まずに話を続ける。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ? 廊下までいいかな?」

 柏崎は小首を傾げた後、「わかったっす」と了承してくれた。


 俺と柏崎は廊下まで出てきた。


 下校時ということもあり人の数も多いが、その分、俺と柏崎が会話していることを珍しがるやつも少ない。教室で話すと、非リア充の俺がリア充の柏崎と話しているだけで珍しい光景が出来上がってしまうのだ。


「それで、話ってなんすか?」


「実はな、ひとつ教えて欲しいことがあるんだ」


「教えて欲しいこと?」


「ああ。上西女子高ってさ、どんな学校か知ってるか?」


 俺の言葉に、柏崎がポカンとしていた。おそらく、俺の質問の意図がわからないのだろう。それも無理はない。誰だって、いきなり女子高の話をされればこうなるのは当たり前だ。それもいきなり話されればなおさら。


「ちょっと待って欲しいっす。どんな、ってどういうことっすか?」


「ああ、悪かった。言葉が足りなかったな。校風というか、静かな学校だとか荒れてる学校だとか、そんな感じのことだ」


 柏崎は「はあ……」と言いながら、記憶を呼び覚ますように、少しの間黙り込んだ。


 なぜ俺がそんなことを訊くのか疑問を抱いているのだろう。しかし、まあこれも必要な情報のひとつなのだ。


 正直、須藤の彼女が本当に浮気をしているのかどうかはわからない。それは今日、尾行してみてから考えることだから。でも、その学校の校風を知ることで、覚悟というか、心の準備くらいならできる。


 もし仮に、荒れている校風の学校なら、須藤には申し訳ないが『浮気』という可能性も大きいかもしれない。逆におしとやかな校風の学校なら浮気の可能性が低いかもしれない。まあ、実際は校風なんて関係ないのだが、とりあえず知っていて損な情報ではないだろう。


 そして、そんな情報を掴んでいると思しき人物が、この柏崎なのだ。

 彼は狙った女の子を落とすために、様々な情報を握っているというのがこのクラスの常識だ。


 待つこと一分少々。


 ようやく柏崎が口を開いた。

「確か……上西女子高は、そんなに荒れている校風ではなかったような気がするっす。どちらかと言うと大人しいというか、静かというか、そんな感じの学校だったはずっす」


「なるほど」


「それより、どうして兄貴が上西女子高のことを聞くんすか? あ、もしかして意中の女子でも?」


 なにか勘違いをしている柏崎が、俺の脇腹に肘をトントンと押し付けてきた。お前は、女子か。


「ちげーよ。そんなんじゃない。ま、ありがとな、柏崎」

 適当に礼を述べ、俺は柏崎との会話を打ち切った。久しぶりに話してみたが、喧嘩腰でなければ、柏崎はもしかしたら良い奴なのかもしれない。

 ちゃんと情報も落としてくれたし。


 こんにちは、水崎綾人です。

 随分久しぶりなキャラが出てきました今回ですが、いかがだったでしょうか?

 では、また次回。

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