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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第9章「三学期、始動」
50/100

第50話「幼馴染が負けヒロインなんて、そんことないんだから」

「それで。いったい、どうして浮気だと思ったんだ?」

 今にも泣きそうな須藤の顔を見ながら訊く。


 正直、リア充の話を聞くのは嫌だけど、数少ない俺の友達なので仕方なく訊いてあげているのだ。俺、マジいいやつ。


 須藤はわずかに嗚咽しながら、言葉を紡いだ。

「じ、実はな……ここ最近、俺の彼女の様子がおかしいと思って……何日か跡をつけたんだ。……そ、そしたらよぉ……。俺の彼女が校門から男と仲良さそうに歩いて出てきたんだよ……。キラキラした笑顔でさ、……そんなの見たら、俺、俺……。遥斗ぉ、これって浮気なのかな? おい、どう思う?」

 鼻水を垂らしながら、須藤は俺の制服をぐいっと掴んだ。

 俺のことを見る須藤の顔は意外と近く、俺はほとんど無意識のうちに仰け反った。


 ちょ、顔近いから顔。ていうか、「どう思う?」と訊かれても困る。彼女いない歴=年齢の俺にはベストアンサーが出せない。


 助けを求めるように木葉を見た。あ、顔を背けやがった。

「……あいつ」

 次に雅を見る。微妙な笑顔を返されてしまった。俺が今欲しいのは笑顔ではなく、助け舟なんだぜ、雅。

 そして、莉奈先輩を見やる。まだ餅を食べていた。

 薫先生も同じだ。まったく興味を示していないぞ。

 まあ確かに、莉奈先輩は美人だけど恋愛とかはしなさそうだ。それに、薫先生からしてみれば、結婚できないことを悩んでいるのに、他人の彼女のことなんか気にしていられないよな。自分からこの依頼を受けろ、と言ったのにさ。

 最後に静夏の方を見た。彼女は前髪を指に巻きつけて遊んでいる。あれ、話聞いてました?

 そんなことを考えながら見つめていると、静夏はそっと目線を離し、ふっと息を吐いた。

「まあ、浮気の可能性が高いかもね」

 助け舟を求めたのに、攻撃に転じやがったぞ! あいつ。


 その言葉は須藤にとってはトドメにも等しかったようで、鼻水と涙を流しながら、その場にフリーズした。

「お、おい。須藤? 大丈夫か?」

 須藤の前で手を振ってみるが、反応はない。


「し、静夏っ。お前、なんでトドメ刺したっ!」


「え? だって、その話を聞く限りだと、結構ヤバくない?」


「いや、俺もそんな感じしてたけどさ。でも、ストレートに言う? 言っちゃうの!?」


 特に悪びれる様子もない静夏にそんなことを言っていると、薫先生が口をもごもごさせながら口を開いた。

 ちゃんと飲み込んでから喋ってくださいよ。

「そんなことより奥仲。そこで固まっている須藤にしっかりとフォローを入れてやれ。それも依頼を受けた君に使命だぞ」


「ちょっと待ってくださいよ。なに俺が独断で受けたみたいになってるんですか? 先生が受けろと言ったんでしょ!」


「待て待て。責任転嫁か? 良くないぞ。私はこの一年間、君をそんなふうに育てた覚えはない」


「なんで軽く見損なわれてんだよ、俺。だいたい、先生、この一年間なにかしましたか? ブドウジュース飲んで酔っ払ったりしただけですよね? それに、大晦日から元旦にかけてしりとりしようって電話してきたのも先生ですよね? 先生の方こそ成長してないんじゃないんですか!」


 言うと、薫先生は渋面し、


「奥仲もずいぶん粘るようになったな。しかしながら、粘り気があるのは餅だけでいい」

 砂糖醤油のついた餅を箸でつまみ上げた。

「なにちょっとうまいこと言ってんですか!」

 だが、須藤をこのまま放っておくわけにもいかない。


 しょうがないな……。


 気を取り直すように、咳払いを一つ。

「な、なあ、須藤?」


「……………………ぁ?」

 声になっていない掠れた空気が須藤の口から漏れ出た。ちゃんと声帯鳴らしてくれよ。

「お前の彼女と一緒に歩いてた男子って、ベタに彼女の弟とかじゃないよな?」


 須藤は首を左右に振った。違うらしい。頼むから喋れ。


「じゃ、じゃあ、同じ学校の仲良い男子とか?」

 随分昔に聞いたことだが、須藤の彼女はうちの学校の生徒ではない。別の学校に通っているのだ。なんで須藤と知り合ったのかは知らないけれど、学校が違うということだけは随分昔に聞いたことがある。

「…………ち、違う?」

 断言した。

「なんで、断言できるんだ?」

 俺は眉間に皺を寄せながら訊ねた。


 いくら彼氏持ちでも、一人くらい仲の良い男子が学校にいてもおかしくないだろう。どうして、そこまで断言できるんだ。


「だ、だって。だって――」


 真っ赤になった瞳に涙を浮かべながら、


「あいつの学校、女子高なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 耳をつんざくような悲痛な叫び声は、部室内にしばらく反響した。

「お、おっと……。マジか。女子高か」

 そうか。そりゃ、同じ学校の男子っていうのはおかしいわな。

 どう須藤に応えてやればいいのか考えあぐねていると、莉奈先輩の声が聞こえてきた。

「んー。それはもう諦めたほうがいいんじゃない?」

 あ、静夏よりも遥かにどストレートなトドメのセリフをっ!

「あグッ!」

 須藤が変な声を上げながら、胸を抑えた。なんだか可哀想になってきた。せめて俺だけでもこいつの味方になってやろう。


「だ、大丈夫だって。須藤。なんかの間違いのはずだって。し、仕方ない。俺とお前の仲だ。素行調査してやるから。元気出せって」


「……ほ、ホントか?」

 俺は須藤の目を見ながら、彼の肩にぽんと手を置いた。今まで須藤に助けられたことはなかったけれど――いや、もしかしたらこれから助けてくれるかもしれないから――俺が力を貸そう。


「た、頼む。遥斗……。し、真実を……真実を探し出してくれ」


「ああ。わかった」

 差し出された須藤の右手を、俺は迷うことなく握った。


 いつにもなく真剣な須藤との会話に、多少の気持ち悪さを覚えたが、今はそんなこと気にしない。

 あ。でも、一つ聞いておかなければいけないことがあった。


「仮に真実を見つけれたとしよう。その結果が、お前の彼女の浮気でも正気を保てよ? 須藤」


「……お、おう。意外と手厳しことを言うんだな、お前」

 眉をピクピクとさせていたが、こればかりはしかたがない。

 探し出した真実が、須藤の意に反するものでも受け入れてもらなければいけないのだから。


 よし、了承は得た。

 なら、出来る限り頑張るしかないな。


 本当はリア充なんかに協力はしたくない。けれど、友人が困っていたらしかたがない。

 あれ、そういえば、今回は俺、いつになくやる気があるような……。

 いやいや、そんなことはない。いつもと同じだ。

 べ、別に、頼られたのが嬉しいってわけじゃないんだからねっ! ……気持ちわるいな。


     ***


 翌日。放課後になると、俺たちはいつものように部室に集まった。

 これから、須藤から受けた依頼の作戦会議を開くのだ。


「それじゃ、これから須藤の彼女の素行調査の作戦鍵を始めます」

 ちなみに、司会および進行役は俺。なぜかと理由を聞いたら、須藤の友達でしょ、と返ってきた。できれば、司会進行は雅に任せたいのだが……まあいい。


 久方ぶりに出したホワイトボードに、今現在わかっている須藤の彼女の情報を書き出す。


『名前、実山(みやま)(みみ)()。二年生。演劇部所属。学校名、私立上西女子高校』


 うん。情報が少ない。しかし、須藤とて彼女のすべてを知っているわけではないのだ。それに、関係の無い情報――たとえば好きな色とか食べ物とか――を聞いても意味がないので、それらを省いた結果、これだけの情報になってしまった。


「えっと。素行調査だけど、俺としては萬部を二手に分けて、つまり二人と三人に分けて、尾行したら良いと思うんだけどどうかな?」


 莉奈先輩が真っ直ぐに手を挙げた。

「あ。ごめん、遥斗くん。私、今回の依頼受けれないんだ」


「え?」

 驚いた。莉奈先輩が依頼を受けれない? どういうことだ?

「それって、どういう?」


 あはは、と莉奈先輩は高い声で笑い、

「ごめんね、ごめんね。実はさ、今月末から来月初めにかけて、受験なんだよね!」


「受験?」


「そうそう。大学に行くつもりなんだよ、私。こう見えてもね、将来をしっかりと考えているんだよ! 輝かしい未来への一歩を踏み出すんだよ! だから、正直、今日が部活に顔出せる最後の日なんだけどね」

 最初のテンションの高さから一変して、最後の方は声が小さくなっていた。自嘲気味な笑顔を浮かべ、後頭部をぽりぽりと掻いている。


 そうか。意識してなかったけど、莉奈先輩は三年生だ。それに今は受験シーズン。参加できないのは当たり前か。

「あ、でも心配しないで。依頼がうまく解決できるように、心の中でしっかりと応援してるから!」


「なにを言っている、莉奈」

 薫先生が莉奈先輩を咎めるように口を挟んだ。

「お前が狙っている大学は、それなりに難関大学なんだから、後輩のことを心配するよりもまず、自分の受験のことを心配しろ」


「でもさでもさでもさ。やっぱり気になるよ! 薫ちゃん」


 はぁー、と大きなため息を吐き、薫先生は再び口を開いた。

「お前の受験が成功することこそが、後輩(こいつら)にしてあげられる最大のことなんだぞ」

 莉奈先輩は言葉に詰まり、下を向いた。きっと、萬部の中で一番の先輩として参加したい気持ちがあったのだろう。

 だが、俺には気になることが一つある。

「そんなに難しい大学受けるんですか、莉奈先輩?」

 いつもボケっとしている莉奈先輩が難関大学を受けるということが意外過ぎたのだ。


 俯いている莉奈先輩に代わり、薫先生が答える。

「ああ。こう見えても莉奈は頭だけは良いんだ。成績も、受験をする分には申し分ないだろう。だがな、大学受験というのは、同じようなレベルの連中がテストを受けるんだ。それに対して万全の状態で行かないのはリスキーすぎる」


 薫先生の言っていることは、まさしくその通りだ。ぐうの音も出ない、とはこのことをいうのだろう。

 おそらく、その言葉は莉奈先輩にも響いたようで、口をつぐんでいた彼女が言葉を発した。


「……わかったよ。薫ちゃん。ごめん、みんな。今回は全部任せるよ。私、受験に集中するから」


 俺を含めた後輩四人と先生一人は、莉奈先輩の言葉に力強く頷きを返した。


「それじゃあ、改めて。須藤の彼女の尾行は二人ペアで行うってことでいい?」

「意義ないわ」

 木葉が賛成。

「私もです」

 雅も賛成。

「そうね」

 前髪をいじりながら静夏も賛成。

 よし、みんな賛成してくれた。と、思ったら静夏がおもむろに立ち上がった。

 ん? なんだ?


「それじゃ、やりましょうか。ペア決め」


 あ。そういえば、それも決めなくっちゃいけなかったな。

「そうだな、それじゃ――」

「そうですね。始めましょう」

 いつになく低いトーンで雅が立ち上がる。

「そうね。ここらで始めましょうか」

 木葉の声のトーンも低いぞ。どうした!?

 なんだか、みんなペア決めにガチな感じだ。こ、ここは俺も真剣に臨まなければ。

「なにでペア決めをするんだ?」

 静夏に目線を向ける。


 すると、彼女はしばしの間腕を組み、悩むように目を細めた。


「そうね……。まあ、ベタにジャンケンでどうかしら?」

「本当にベタね」

 木葉が苦笑いする。

「うるさいわ。さあ、始めるわよ。勝った人は勝った人と組んで、負けた人は負けた人と組むのよ」


 なんだかわからない緊張感に包まれながら、俺は右の手のひらに拳を作った。『最初はグー。ジャンケンポン』の掛け声で一斉に手を出す。

 あいこだ。

 再戦。またあいこだ。

 再々戦。またまたあいこだ。

 ……おい、いつになったら決まるんだよ。


 その後、十五回ほどあいこが続き、ようやくペアが決まった。

 決まったのは、俺と木葉。雅と静夏だ。


「やるわね、大空さん」

 静夏の鋭い目線が木葉に向けられる。

 それに対して木葉は、

「ええ。まあ、これが幼馴染の力よ。幼馴染が負けヒロインなんて、そんなことないんだから」

 などと、よくわからんことを言いながら、自らの長い髪の毛を手で翻した。

「やっと決まったのかね?」

 待ちくたびれたように薫先生が聞いてくる。

「はい。やっと決まりました」

 どうして、あそこまで緊張感に包まれたジャンケンだったのかはわからないが、とりあえず決まって良かった。

 ほっと胸を撫で下ろしていると、薫先生の鋭い目が俺を捉えた。

「奥仲。勝手に青春するとは偉くなったもんだな」

「はいっ!?」

 もう、なんなんだよ……。


 お久しぶりです、水崎綾人です。

 『隣の彼女は幼馴染み!?』の更新はとてつもなく久しぶりです。

 この物語も少しでも多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。

 では、また次回。

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