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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第9章「三学期、始動」
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第49話「今年初の依頼、萬部再発進!」

 冬休みも終わり、三学期がやってきた。未だ降りしきる雪は止むことを知らず、道路や屋根、その他色々なところに積もっている。

「ふぅ……さっぶ」

 俺は身を震わせながら呟いた。

 自室から見える窓は結露しており、水がしたっている。

 息を吐くと白く濁り、空気の冷たさが視覚的に分かった。

「遥斗―、そろそろ起きなさい。ご飯よ~」

 扉の外から母さんの声が聞こえる。既に起きている俺は、大きな声で返した。

「分かった、今行く」

 俺はストーブのスイッチを押し、部屋を後にした。

 

 リビングに降りると、そこには既に妹の楓が座って食事をしていた。

「あ、お兄ちゃんおはよ!」

「うーい。おはよさん」

 適当に受け流し、俺も席につく。どうやら今朝の朝食はパンらしい。カリカリに焼かれたトーストが運ばれてきた。

 それを一口頬張ると、口全体にサクッと香ばしい音を立て、熱が広がる。

 今日で三学期が始まって丸一週間が経過した。ようやく冬休みの乱れた生活リズムから戻れたと思う。

 一月二十九日。今日の天気は雪。いつもどおりだ。




    ***




「うーっす」

 部室を開けると、そこには見知った顔の四人がいた。大空木葉(おおぞらこのは)小野雅(おのみやび)神崎莉奈(かんざきりな)花美静夏(はなみしずか)彼女らはこの部活、萬部(よろずぶ)の部員だ。

 もちろん、この俺、奥仲遥斗(おくなかはると)もまた萬部の部員の一人だ。

「あ、遥斗。遅かったね」

 木葉が俺に気づいて声をかける。

「ああ。日直でな。つか、何で餅?」

 俺の目の前には餅を懸命に食べているみんなの姿があった。

 正月は特訓の昔に終わったんですが。

 思えば、今年の正月に一番最初に話したのは薫先生だったな……。

「おお、遥斗くん!」

 莉奈先輩は餅を口と箸の間で伸ばしながら言ってくる。

 一体どうやって喋ってんだよ

「莉奈先輩、これは一体?」

「よくぞ聞いてくれた!」

 莉奈先輩は諦めたのか餅を皿に戻し、俺の方に近づいてきた。そして、そのまま特に何も考えていないのか、顔を詰め寄ってきた。

「せ、先輩?」

「これはね、今日の部活」

「ぶ、部活?」

「そうだよ。私ね、家でずっとお蕎麦ばっかり食べてたの。だからお餅食べたいなってミヤビーに言ったら持ってきてくれたんだ。だから今日の部活はお餅の大食い大会!」

「ま、まじ……か」

 雅さん、何やってるんすか。

 そんな思いを込めて雅の方を横目で見ると、雅が申し訳なさそうに口を開いた。

「すみません、祖父母の実家から毎年大量に送られてきて、うちだけでは食べきれなくて。そんなとき、莉奈さんがお餅食べたいって言ってくれて……その」

「ああ、いや、責めるつもりはなかったんだ」

 手をバタバタさせて取り繕うも、後ろから感じる木葉の差別的な視線が痛かった。

 そもそも、なぜ萬部が餅なんが食べている自由な部活なのかというと、それは萬部の活動内容が大きく関係してくる。

 萬部というのは、高校に入って特にやりたいこともなく、適当な部活に入って三年間を使うよりは、自由なことをして自分がやりたいことを見つけていくという部活なのだ。そのため、活動内容は毎回バラバラだ。今日みたいに餅を食べることもあれば、着物を着てみたり、文化祭実行委員を務めたり、幼稚園訪問に行ったりなど様々している。しかし、その一方で、学校や個人から頼みごとをされてば何でも屋として働くという一面もある。今まであまりやって来なかったけど。

「そ、そうですか?だといいんですけど」

 俺と雅が話していると、部室の扉がガタンと開いた。

「失礼する」

 その凛とした声の主は前宮薫(まえみやかおる)先生だった。薫先生は黒のレディースのスーツを完璧に着こなしており、スタイルの良さが抜群に現れていた。

 でも、そのスーツはオールシーズンなんですね。

「どうしたんすか?先生」

「いい匂いがするな」

 まさか、と俺は思った。まさか薫先生はこの餅の匂いにつられて……。

「本来なら、私も頂きたいところだが、まだ仕事が残っている。餅を食べて、お腹いっぱいになってしまったら仕事ができなくなる」

 薫先生は自分の言葉に深く頷きながら続ける。

 先生が、初めて食を我慢したぞ

「だが――」

 先程までの穏やかな声とは真逆の、大きな声で逆説の接続語を唱えた。

「これが部活であれば、顧問の私が食すのも致し方ない」

「結局食べるんですか!」

 夏奏が珍しく突っ込んでいた。

 薫先生は、軽快な足取りでパイプ椅子の方へと走って行き、瞬時に箸とお皿を持って腰掛けた。

「先生、味は?」

 莉奈先輩が気さくに話しかける。

「何があるんだ?」

 心なしか、味の種類を聞いていると時の薫先生の仕草が妙に子供っぽかった。

「えっとね。きなこ、あんこ、砂糖醤油、胡桃、ごま、の四種類」

「どれにしようか……」

 頭を抱えて悩んでいる薫先生を横目に、俺が問う。

「そんなに味あるのか?」

「うん、遥斗くんはどれにする?」

「俺はな……えっと……あんこだな。あんこ」

「オーケー、あんこね」

「遥斗くん」

「どうした雅?」

「あんこ好きなんですか?」

 なぜかもじもじしながら聞いてくる雅にわずかに警戒心を抱きながら答える。

「ああ。好きなんだよ」

「そうなんですか?」

 急に雅の顔が明るくなり、嬉しそうな表情を見せた。なぜだろうか、その笑顔に俺もわずかながら嬉しくなった。

「私も好きなんですよ、あんこ」

「へえ、そうなんだ。美味しいよな」

「はい、美味しいです!」

 その時だった、急に「よし、決めた」と言って薫先生が手を上げ、莉奈先輩へと注文を放った。

「砂糖醤油で~お願い!」

 なぜか少し色っぽく言った薫先生は、本当に色っぽくて、男子高校生には悪いと思う。実際のところ、この先生まだ二十七歳なんだぜ。まだ若い。

「オーケー、ちょっと待っててね」

 言うと、棚から砂糖と醤油を取り出す。取り出したかと思うと、俺と雅にあんこ餅を出してくれた。まさか、あんこの方も盛ってくれてるのは。

 箸箱から箸を取り出し、餅を口に運ぶ。

 すると、口いっぱいに広がるあんこの味を餅がくるんでくれていて、最高に美味しかった。食べていると、自然と顔がほころんでしまうのが手に取るように分かる。

「これは、美味い」

 思わず呟いていた。あんこの味もさることながら、餅の味も大したものだった。市販の餅なのか?これ。

「なあ雅、これって市販の餅?」

「いいえ、祖父母がついてくれた餅です」

「へえ、やっぱり。なんか市販の餅より美味しいって言うか、弾力があるっていうか。なんていうか、本当に美味しい餅だなって思って」

「ありがとうございます。それを言ったらきっと祖父母も嬉しがると思います」 

 雅はペコリと頭を下げ、優しく微笑んだ。


 一方、薫先生はなかなか噛み切れない餅に孤軍奮闘していた。

「これ、噛み切れない……ぬぐぐぐ……」

 周囲には砂糖醤油が飛び散っており、木葉と夏奏がそれを拭き取っていた。

「先生、もっと綺麗に食べてください」

 夏奏が子供を叱るかのように言い諭す。それに対し、薫先生は「ああ、ごめん、ごめん」と悪びれる様子もなく、餅との格闘を続ける。

 と、その時だった。

 不意にガタンと勢いよく部室の扉が開かれた。

「遥斗―」

「須藤?」

 部室に訪れたのは須藤だった。リア充須藤が一体どうしたというのか。彼の顔はまるでこの世の終わりのような表情で、寒くて乾燥してる空気の中で、汗を目に見えるくらいの大きな雫でかいていた。

「どうしたんだよ?」

 また、いつもの悪ふざけか?と思いながら一応訊いてみる。

「たしかお前、何でも屋だったよな?」

「なんだよそれ?」

「部活だよ、部活。依頼したら何でも引き受けてくれるんだろう?」

 藁にもすがるような勢いで言ってくる須藤に、半ば驚きながらも俺は首を縦に振った。

「じゃ、じゃあ――、」

 呼吸を整え、大きく深呼吸した後、須藤はこう言いた。

「俺の彼女の素行調査してくれ!」

「はい?」

 さっきまでの緊迫した空気が一瞬で溶けていくのが分かった。

 なんだよ、結局また悪ふざけかよ

「そういうドッキリは他所(よそ)でやってくれ。俺は今、餅を食べている。それも、あんこな」

 格好よく須藤に箸を向けてそう言ったが、須藤の顔は未だ変わらない。

「ドッキリじゃないって。マジで頼む!」

 両の掌を合わせ、必死にお願いしてくる須藤にを断ることも出来ず、話だけでも聞くことにした。

「じゃあ、そこ座れって」

 元々空き教室だったこの教室には大量のパイプ椅子が置いてある。その中から一脚取り出し、須藤を座らせた。

「んで、何があったんだ?」

 須藤に向き合い、半ばやる気がわかないが、事情聴取から始めることにした。

「あ、ああ。実は、俺の彼女が浮気をしてるかもしれないんだ」

「浮気、ねぇ」

「どうしてそう思うんですか?」

「そ、それは、デートに誘っても毎回断られるし、なんか一緒にいても楽しくなさそうだし……そ、それに……」

「それに?」

「この前、他の男と歩いているとこ見ちゃったし……」

「へ?」

 おっと、これはなんというか……

「須藤」

「な、なんだよ……」

 涙声になっている須藤に俺は優しく言った。それはもう、天使の如く。

「諦めろ、それは……もう……」

「嫌だ、嫌だ!諦めたくない!だから、頼んでるんだ。素行調査してくれれば、浮気かどうか分かる。もしかしたら、浮気じゃないかもしれないっていう可能性にかけれる」

 気づいた頃には、須藤の目にはもう涙が溜まっていた。

「いいじゃないか、引き受けたまえ」

 唐突に薫先生が話しだした。

「え?でも――」 

「たとえ、浮気であったとしても、これが民間の生徒からくる初めての依頼じゃないか。やってみるだけの価値はある」

 ニヤリと不敵に微笑む薫先生の言うことも一理ある。しかし、こんな探偵まがいなこと俺たちに出来るのだろうか。

 須藤の気持ちは多分本当なのだろう。自分の勘違い、と言う可能性にかけれないくらいまで彼女のことが心配なのだ。まったく、リア充ってのは嫌になるな。

「分かったよ。仕方ない。須藤、お前の依頼引き受けるよ」

「本当か?」

「本当だ」

「じゃあ、今年初の依頼はこれに決定ですね!」

「そうだね」

「そうだね。ミヤビー」

「そうね」

「そういうことになるわね」

 満場一致のようだ。萬部の今年初の部活は、須藤の彼女の素行調査に決定となった。どこまでできるか分からないが、須藤の流した涙の分くらいは頑張ってみようと思う。


 こんにちは、お久しぶりです。水崎綾人です。


 第48話以降色々あって更新出来ていませんでした。すみません。しかし、今度は更新期間がタジタジになるかもしれませんが、間を縫って時間を作って書いてみようと思っています。


 ですので、よろしくお願いします!

 次話もお楽しみに~


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