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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第8章「冬休みの彼ら」
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第45話「遥斗編:~Too Heard~たまにはこんな一日も」

 12月27日。年末だ。あと、4日ほどで今年が終わってしまう。


 俺はこたつで今季のアニメを見ながらボーッとしていた。


「はぁ…今年も終わりか」

 と、みかんの皮を剥きながら呟く。ちなみに、俺はみかんの皮の下にある白いやつも剥く派だ。


 窓から外を眺めると、雪がこんこんと降っている。外はすごく寒そうだ。こんな日はやっぱり家にいてこたつにこもっているのが一番だ。

 そんなことを思いながらほっこりしていると、階段を駆け下りる元気な足音が聞こえて来た。



 俺は知っている。この家でこのような元気な足音で階段を上り下りする人間は唯一人。

 中学二年生で俺の妹様。

 そう、奥仲楓だ。

 その足音はリビング前の扉で止まると、勢いよく足音の主が扉を開けた。

「お兄ちゃん!頼もー」

 今日も明るい感じの洋服を身に纏い、それに負けないくらいの元気で言った。

 本当、一体どこにそんな元気が存在するのか、俺は分からない。



 楓は俺の隣に入ってくる。だが、ただ隣に来るのではなく、彼女の手には何冊かの冊子が持たれていた。

「ん?なんだそれ?」

 俺はこれについて聞く。だが、これに気づいたことが運の尽きだった。

「おぉ!よく気づいたね、お兄ちゃん」

「え?」

 楓はククク…と含み笑いを浮かべ、冊子を勢いよく俺の前に突き出した。

「これは、冬休みに課せられる復讐をするための、紙を集め、まとめたものだよ」

「それって、つまり冬休みの宿題ってことだろ?」

 俺はみかんを一口口に運びながら言う。

「すごいね!お兄ちゃん。もしかして天才!?」

 楓は肩を踊らせて言う。

 お前それ、絶対馬鹿にしてるだろ。



 すると、母さんもリビングにやってきた。

 何やら疲れた顔をしている。どうしたのだろうか。

「か、母さんどうしたの?」

 母さんは、俺の声に気づくと力ない声で言う。

「遥斗…年賀はがき書いてたのよ。これで一月一日に間に合うかしら…?あはは…」

 あれは末期だ。毎年のことであるが、うちの母さんは年賀はがきを書いたあとにこうなる。

 全ての生気を使い切ったようになる。すっかり忘れてた。



 その間にも楓は俺の腕の裾を引っ張ってくる。

「な、なんだよ」

 楓は無言で冊子を突き出してくる。突き出してきた顔は笑顔だ。これは逃げ場が無いようだ。

 口パクで、お・ね・が・い、と言っている。

「分かった、分かった。手伝ってやるよ」

 もう、ほとんど強制的な感じだが、俺は渋々楓のお願い事に応じることにした。



「ありがとう!お兄ちゃん、さっすが~」

 言うと、楓は俺の腕にしがみついてきた。

 まったく、調子がいいんだから…こいつは。

 自分ではシスコン属性はないと思っているが、こんなふうにされると何だか、言いづらいが、可愛く思えるような気がする。



 すると、楓は冊子を広げ、一冊俺の方に渡してきた。

 どうやら冊子は五冊あるようだ。

 楓も残った冊子から一冊抜き取る。

 俺は数学、楓は理科だ。薄いように見えるが、触ってみると結構ある。これを冬休みでやるのは少々酷だろう。



 そんな楓に同情していると

「お兄ちゃん、なにボーッとしてるの?早くやろうよ」

 楓に言われて、同情から覚めるが、同時にやはり俺もこれをやるのかという何とも言えないダルさに襲われていた。



「よし、やるか」

 俺は楓から一本シャーペンを借り、冊子を開く。

 そこには懐かしい問題が顔を出していた。

「二次関数か、懐かしいな」

 小さく呟き、問題を解き始める。



 高校に行っても二次関数は使うのだが、こんなふうにただ式だけを与えられて解くのは実に久しぶりだ。

 解の公式を使ったり、因数分解をしたりなどして解き進めていく。二次関数の問題を時勧めること十五分。

「よし…と」

 見開き一ページを終えることができた。

 これで十五分。ページ数この冊子全体で三十ページ。あと、二十八ページ。

 先を考えると遠く感じる。

 だが、いくら楓でも一ページもやっていないわけが無いだろう。きっと出来るところは数ページやっているはずだ。

 そう思い、冊子をペラペラとめくっていく。

 あ、あれ…?ないな。おかしいぞ。やっているページが見当たらない。

 そのまま捲り続けて最終ページまで来てしまった。

「か、楓さん?」

「どしたの、お兄ちゃん?」

 無垢に、首を傾げる。



「お前数学の冊子のやってるところある?」

 楓はまた、フフフと含み笑いを浮かべる。そして、眩いばかりの笑顔で言った。

「そんなもの、やってないよ!まったくのノータッチだよ!」

 やってないのかーーー。

「お、おお。なるほど。完璧だ」

 俺は頭を抱えて、テーブルに肘をついた。

 まさかとは思ったが一ページもやってないとは…。腹くくって頑張るしかないな。

 俺は、決意を新たにし再び問題に取り組んだ。

 





       ***

 楓は、普段見ないような真剣な顔で冬休みの宿題に取り掛かっていた。



 握るシャーペンは、冊子に答えとして文字をかいている。



 ただし、それが正しいかどうかは分からない。

 問題が分からないと、唸る声が響く。

「どした?」

 俺は、ついに我慢しきれなくなって楓に聞いた。

 楓は、はははと苦笑いし、俺に聞いてくる。

「分からない問題があって…ははは」

 左手で自分の後頭部を掻き、申し訳なさそうにする。

「どれ、見せてみろよ」

 俺は身を乗り出して楓の方の冊子を覗き込む。

「お、お兄ちゃん!?」

 驚いたような声を上げて、楓は身を仰け反らせる。

「な、なんだよ?」

「だ、だって、そんな…急に接近してきたら……」

 最後のほうが声が小さくて、聞こえなかったが兄妹なのだから問題は無いだろう。



 俺は目で問題を読む。

 えっと…

 問題7 次の問いに答えよ

アンモニアは□□で毒性の無い、尿素に変えられ排出される。

 ああ、昔やったな、と思いながら俺は頭の中で答えを検索する。

「お兄ちゃん、わかる?」

「ああ、もちろん。俺は高校生だぞ!」

 と、大な声で言った。

 実際、答えは知っている。肝臓だ。

 だが、ただ答えを教えるだけでいいのか。そういう考えが頭を悩ませる。




 しかし、よくよく考えてみれば、これは楓の宿題。

 ならば、俺は楓にヒントを教えて、自分で答えを見つける術を教えてあげなければ。

「これは人間の臓器を答える問題だ。だったら、各臓器の働きが載ってる教科書を見れば載ってるよ」

 楓は教科書を取りに、階段を駆け上がって行った。

 そして、直ぐに戻ってくると、教科書を俺の前で広げ、各臓器の働きが載っているページを探し出した。

「えっと……」

 と、声を漏らしながら探す。

 少しすると、あるページに視線を落とした。

「あった!」

 歓喜の声が上がった。楓は笑顔で俺を見てくる。

「お兄ちゃん、ここの答えって『肝臓』?」

「正解だ!」

 俺は、楓の頭を撫でる。何だか、妹の成長を見ると嬉しくなってくる。

 楓はえへへと笑い、嬉しそうな顔をする。

 俺たちは再び、自分たちの下にある冊子に向かった。






      ***

 俺が冬休みの宿題を手伝ってから早7時間。

 時刻は八時になっていた。夕飯も食べ終わり、もう少しで冊子も終わりそうだ。

 本当にラストスパートに入っていた。

「あと少しだね、お兄ちゃん」

「ああ、あと少しだ」

 こたつに足を突っ込みながら、俺と楓は切れ気味の息遣いで言う。

 もしかしたら、腱鞘炎の域を通り越しているかもしれない。もう痛みなど感じない。

 途中までは手が痛くて何度も、手を振っていたが、今はもうしなくても痛くない。

 手が強くなったのか、感覚がマヒしたのかは分からない。



 俺は数学の冊子を結構昔に終わり、国語の冊子に取り掛かっている。

 実のところ、俺は国語が得意ではないため結構苦戦している。

 地味に難しい……。



 冊子は楓がさっき担当した英語で無事に終わった。だが、そのあとに英単語のプリントを出してきた。

 そのため、楓は今英単語のプリントを書いている。ちなみに、その英単語のプリントは七枚ある。英語の先生よ、七枚もプリント出して楽しいすか!



 俺の脳裏には、悪い笑いをした英語の先生の顔が浮かんだ。

「あと、一ページだ」

 俺は、ようやく古文の問題を解き終わり、最後の漢文の問題に取り掛かる。

 毎回分からないが、なぜ今の時代に漢文などをやるのか。



 漢文の訳しかたは英語よりも複雑だと俺は思う。読む順番で返り点を振っているところとか特にだ。

 ああ、早く解かなければ。何かと戦っている訳ではないが、緊張感が身体を支配する。






      ***

楓は英単語を書く手を止めなかった。まだあと三枚プリントがある。今まで習った単語の総復習となれば、この多さも頷けるが、楓からしてみればキツイの一言だった。



 だが、隣に遥斗がいるということだけが支えだった。

 大好きなお兄ちゃんがいるからいいところを見せたいのだ。



 遥斗はいつも何だかんだ言って楓の力になってくれる。それには心から感謝している。

 だが、楓には、一つだけ心に思うことがある。

 それは、楓が無理言って遥斗と出かけた日のことだった。遥斗と腕を組んで歩いている時、後ろから遥斗を呼ぶ声が掛けられたのだ。



 その声の主はとても綺麗な人だったのを覚えている。それと同じくらい、あの時の遥斗の顔も覚えている。

 どうしたらいいのか分からいような顔。どこか、後ろめたそうな顔。



 あの人とどういう関係なのかは知らない。けれど、今のように楓が遥斗に甘えていられる時間も長くはない。

 だからこそ、楓は今を全力で遥斗に甘えている。少し迷惑かもしないけれど、それでも、あと少しだけでも…。

 という思いが、楓を遥斗の元へと駆り立てる。



 そうしていると、遥斗が国語の冊子を終わらせたのか、楓の脇から英単語のプリントを一枚取った。

「悪い、国語の冊子に時間かかっちまった」

 と、片手で謝り、疲れ果てた笑顔をみせる。

 そうだ。楓の支えはこの笑顔でもあるのだ。

 普通の人なら、こんなお願い聞いてくれないはずだ。自分の宿題でもないものをわざわざ一日使って行うなんて。



 それでも遥斗はやってくれる。優しいのだ。

「だ、大丈夫だよ、お兄ちゃん!」

 楓も遥斗と同等、もしくはそれ以上の疲労をしている。それでも、元気な笑顔でいうのだ。

「ありがとね」

 と。






     ***

 もう、残すところプリントは一枚だ。今、俺と楓が書いているプリントが書き終われば全てが終わる。



 簡単な英単語だが、量が多いとこんなにも疲れるのだと改めて思った。

「ああ、もう少しだぞ。楓!」

「そうだね、お兄ちゃん!」

 互が互いを元気づけるために、叫ぶ。そうしなければくじけそうな段階までやってきたのだ。



 書くスピードがだんだんと落ちていく。手首の痛みは感じなのだが、思うように早く書けない。どうしたらいいのか。今のスピードを保つので精一杯だ。

 そうしていると、玄関から「ただいま~」という軽い声が聞こえて来た。



 想像する中で一番面倒くさい展開だ。



 そう、親父の帰宅だ。



 親父は母さんと同等かそれ以上に面倒くさいし、訳がわからない。今、無駄に絡まれたりしたら宿題に支障をきたす恐れがある。



 俺の予想は、悪い時ほどよく当たる。きっと、俺に限った事じゃない。みんな大体そんなものだろう。

 親父は歩みを変えることなく、リビングへやってきた。

「おう!宿題か~偉いな、偉いな」

 と、楓に擦り寄っていく。親父は楓にゾッコンなのだ。確かに、見た目は可愛いので仕方ないとは思うが、今はそんなことをやってもらっては困る。



 注意しようにも、注意すると今度は俺の方に来るのでそれは避けたい。

 最悪、楓の今やっているプリントも俺がやれば丸く収まる。



 が、その時だった。楓が唐突に口を開いたのだ。

「お父さん、ちょっと邪魔。今、お兄ちゃんと宿題やってるから!」

 楓がいつになく強い口調で言った。楓のこんな口調を聞いたのは、俺が小学校の修学旅行に行くとき、当時小学校四年生だった楓が「行かないで!」とダダをこねて以来だ。



 親父はその言葉に驚いたのか、悲しくなったのかは分からないが、下を向いて静かになった。

 おっ、少しは効いたのか?

 そう思っていると、親父の頬を一筋の涙が伝った。それから

「反抗期だ~~~!」

 と言って、自室へ走っていってしまった。

 きっと、自分の最愛の娘の反抗が耐え切れなかったのだろう。つい二年前までずっとお風呂に一緒に入っていたのだから。そんな娘の反抗期、悲しくなるのも分かる。



 親父が出て行ったあと、楓は呟いた。

「まったく、せっかくお兄ちゃんに手伝ってもらってるのに邪魔しないでよ…」

 頬を膨らませ、怒っていた。

「楓…」

 俺は小さく呟いた。親父よりも俺を優先してくれるなんて、なんていい妹なんだ。

 微かに目頭が熱くなった。



「よし、このまま残り終わらせるぞ!」

 その声にオー!と楓は答え、それ以降俺たちは一言も喋らずにプリントに向かった。

 




 三十分後。俺たちはこたつに倒れ込んでいた。

 周りには解き終わった冊子とプリントが散らかっている。俺たちは全てを終わらせたのだ。

 冬休みの宿題の全てを一日で。



 そんな感傷に浸っているときだった。俺のスマホから突然着信音が響いた。



 時計を見ると既に二十一時を回っていた。時間はさほど関係はないが、俺に電話してくるのは薫先生か、木葉くらいだ。



 そのうちの二人のどちらかだとしても、俺にかけてくる用事が分からない。

 取り敢えず電話には出ることにした。スマホの通話の画面をそっとタッチし、通話を開始する。



『あ、もしもし遥斗?』

 その声の主は男だった。

 はて、男子の友達なんていたっけか。俺の脳内がフル回転する。



 もしかして柏崎?いやいや、あいつはなんかアニキとか呼んでくるけど、ずっと無視してるし、じゃあ須藤?あいつはリア充だから俺に電話かけてくる訳がないと思うし…。



『もしもし――、聴いてる遥斗?』 

「ああ、聞こえる、聞こえる」

 誰だろうと相変わらず、疑問は残る。

「えっと、誰だっけか?」

 苦笑いしながら答える。すると、大きなため息と共に電話越しに聞こえる。

『はぁー!?俺だよ、俺。須藤だよ』

なんと、須藤なのか。と、俺は電話越しに目を見開いた。

確かに須藤とは仲は良いが、電話で話し合うほどだっただろうか。

「で、なんの用だ?」

今日はもう疲れた。出来ることなら手っ取り早く話を終わらせてほしい。


『そうそう、お前の部活って何でも頼んだらやってくれんだろ?』

「まぁ、全部じゃないけどな」

俺たちが所属しているのは萬部という部活だ。


この部活は、学校に存在する部活動のなかで唯一、何でもジャンルにとらわれず出来るという素晴らしい部活だ。

今までにも何回か依頼を受けて、こなしてきた。

『それでさ、頼みがあんだけどさ』

生徒から直で依頼を受けるというのは初めてだ。

受けてしまって良いのか?

『最近彼女が――』

俺は電話を切った。

何故だ、何故なんだ神様。何でこんな疲れてるのにリア充の悩みを聞かなくてはいけないんだ!



俺はもう、疲れてなにも考えたくない。今になって手首も痛み出してきた。

「お疲れ様」

俺はそっと手首に(ねぎら)いの言葉を贈った。実に七時間以上も懸命に書き続けた手首は本当に可愛い。




が、何故だか目の前で倒れている楓が俺の方を見て顔を真っ赤に染めていた。

「ど、どした?」

楓は両手で頬を抑え、

「お、お兄ちゃんもお疲れ様」

とだけ言うと、こたつのなかに潜ってしまった。

一体どうしたのだろうと、首をかしげた。



冬の木枯らしが窓を叩く。雪が雨のように天から降る。



今日は楓の宿題に付き合わされたが、悪くない一日だったと思う。楓の真剣な顔も見られたし、成長も見られた。



こたつは暖かく、外は寒い。



だから俺は、今日はこたつで寝よう。



こんな一日もたまには悪くない……かもな。


こんにちは水崎綾人です。


とある事情で続きを書くようになりました。これからも遥斗と木葉の物語は続きます。


また、お付き合い頂ければ嬉しいです。


次回は木葉に視点を向けたお話になっています。お楽しみに!

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