第42話「新しい一歩」
15分くらいだろうか。俺たちはバスに乗って『春ノ山中学校』を目指した。
『春ノ山中学校前』の停留所に着くと、時刻は10時ちょうどだった。
まだ、約束の時間まで30分近くある。
「さ~て、どうすっかな」
「あそこ行こうよ」
そう言って木葉が指さしたのは、コンビニだった。
「コンビニか。まあ、時間潰すにしちゃ定番の場所だな」
「うん、うん。マンゴーパフェ食べたいし」
というわけで、俺たちは中学校前のコンビニに向かうことになった。
時間が時間といことでコンビニには学生の姿がなく、いるのは俺たちみたいな高校生みたいな青年と、社会人と総称出来そうな人たちだけだった。
木葉は早速マンゴーパフェを注文し、店員が運んでくる。コンビニのサービスもなかなかいい。
俺は、コーヒー牛乳を買ってテーブルで飲んだ。
「はぁ~。これから遥斗の母校に行くのか」
「どうしたんだよ。急に?」
木葉が急に感慨深そうに言うので、俺の頭の上にはクエスチョンマークが立った。
「なんか楽しみだなって。幼馴染みだなんて言っても、ずっと一緒だった訳じゃないじゃない」
「まあ、そうだな」
「だから、私と一緒じゃなかった頃の遥斗がどんなところで生活してたか気になちゃって」
「そんな気になるもんか?」
俺は、コーヒー牛乳を飲みながら聞く。
「そうだよ。気になるよ」
「そんなもんか」
時計を見ると10時20分。中学校に着く頃には10時25分になっているだろう。
俺たちは、5分前行動と言う、名言のもとコンビニを出て、中学校へと向かった。
校門をくぐり事務室へ向かい、俺たちがどういう要件で来たかを伝え、応接室へ通された。
事務室のおじさんが親切にもココアを出してくれた。
「じゃあ、ここで待っていてください」
「あ、はい」
俺たちはおじさんに軽く会釈すると、おじさんは応接室から出て行った。
「優しそうなおじさんだね。昔から?」
「さあな」
「え?」
「あのおじさん俺が在学中はいなかったからな。多分俺と入れ替わりだったんだろうな」
「あ、そ…そうなんだ」
木葉は明らかに無理にある苦笑いで言った。
よくある話だ。久々に母校に行ったら、知っている先生が全員離任してて、新任の先生に囲まれて、半端ないアウェイ感に包まれるのは。
「お待たせしました」
俺たちの前に現れた先生は大門先生と言う、俺の中3の頃の担任の先生だった。
「えっと、君たちが『緑ヶ丘高校』の学生さんたちだよね。えっと一人が二年前の卒業生だとか」
今の段階で分かるが、大門先生は確実に俺のことを覚えていない。
もし、覚えていれば一人が二年前の卒業生だよね?だとは言わない。
「はい。俺がその卒業生です」
申し訳なさそうに手を上げると
「あ、思い出した。君は確か川下君か」
「いや、奥仲と言います」
やっぱりか。覚えてないよね。うん、うんわかるよ。
「君はうちのクラスだったかい?」
あんたのクラスだよ。卒業式の卒業証書授与であんた俺の名前呼んだよな。
「ははは、どうでしたっけ」
もう、これ以上言われると本当に悲しくなるので、適当に流しておいた。
「それで、今日は来週の入試対策についてお話に参りました」
木葉が頃合を見計らって、そう切り出した。
「おお、そうだったな。うん。今、予定資料を出すよ」
そう言って差し出されたのは、当日の予定表だった。それには、大体のタイムテーブルも書かれてあった。
実質俺たちが説明するのが対策会の3分の2を占めていた。さらに3分の1は俺たちへの質問タイムだ。
こういう質問タイムって質問が上がらないと、逆にこっちが恥ずかしくなるんだよな。かと言って、生徒たちだって質問する気がないのは分かってるしな。
実質2時間くらいの会だった。これだけで授業を公認欠席出来るのだから萬部はお得だ。
「なるほど」
俺は、顎に手を当て考える素振りをした。
「この時間内でやって頂けると幸いなのですが」
「分かりました」
俺と木葉は声を合わせてそう言った。
そして、大門先生と事務室におじさんに見送られて、俺たちは中学校を後にした。
「遥斗、覚えられてなかったね」
「やめてくれ木葉。悲しくなてくるだろ」
そんな他愛もない会話をしながら俺たちはバス停に向かった。
バス停でバスを待っている時だった。
少し離れたところからチャラ付いた声が俺の耳に入ってきた。
見ると、4人の男子が1人の女の子を取り囲んで真昼間から、何やらやっているのだ。
まったく…こんな昼間から何やてんだか。
俺はあのようなチャライ奴が本当に嫌いだ。ところかまわず騒ぐし、言ってることは面白くないし。俺がリア充を目指したことがある過去を抹消したいくらいだ。
すると、木葉がおもむろにある人物の名を口にする。
「あれって、花美さんじゃない?」
「え?静夏…?」
言われて、また見返って見ると…
本当だ。花見静夏だ。
彼女が男4人に昼間から絡まれているのだ。
「まじか…」
だが、俺にはどうすることも出来ない。
あの中に入って静夏を守りに行く度胸もない。この場はどうしたらいいのか。
そのまま、チャラ付いた連中を見ていたら、そのうちの1人と目が合ってしまった。
その男の顔は、俺も知っている顔だった。
向こうもそれに気付いたのか、こちらにやってくる。
もちろん、静夏も手を引かれて近づいて来させられる。
「遥斗…?」
静夏が静かに呟く。
が、その声はチャラ付いた連中の耳にも入ったらしく、チャラ付いた連中の一人が、その名を復唱する。
「遥斗……っ」
その名を他の連中も倣って言う。
「はる…遥斗って奥仲遥斗か?」
連中ら全員が一斉に笑いだした。
ああ、これは前にも経験があるぞ。そうだったな。中学校の時もこいつらが企んだドッキリ企画に騙されて、俺の中学校生活めちゃくちゃになったんだよな。
「遥斗…」
静夏の涙ぐんだ声がする。
だが、その声もチャライ連中らの声にかき消される。
「おうおう遥斗~。奥仲よ~」
耳元でその声が囁かれるたびに思い出す。
「いや~卒業以来じゃね~。もっかい俺らを笑わせてくれやしねーか?」
「ちょっと、やめなさいよ」
静夏が叫ぶ。だが、効果が無い。
「おいおい、花見。今更何言ってんだよ。実行犯はお前だろ~」
「――っ」
言葉を詰まらせる静夏。その間も俺には嘲笑混じりの声が放たれる。
俺は、決めたんだ。中学の頃のトラウマから決別するって。
「おお、後ろの子何?結構可愛いじゃん」
連中の矛先が木葉に変わりつつあった。
そんなのはダメだ。関係の無い木葉を巻き込んでしまうのは絶対にダメだ。
連中の手が木葉へと伸びたその時だった。
俺は、無意識にその手を取っていた。
「木葉に…手を出すな…」
連中は拍子抜けしたように驚く。
だが、それもほんの一瞬のことだった。
「おう、おう。何?王子様のつもりかい?ヒュー格好いい」
「ヒュー」
「ヒュー」
と、馬鹿にしたような歓声が上げられる。
「ちょっと、なんですか。あなたたち」
木葉がついに我慢しきれなくなったように重く言う。
だが、その声は微かに震えていた。
止めろ、木葉。連中を刺激すると…。
「お嬢ちゃん~。なになにそんなに遊びたいの?」
また、木葉に手が伸びた。
再び俺は、その手を掴んでいた。
「言っただろ…木葉に手を出すなって…」
その瞬間、俺の腹に蹴りが飛び込んできた。
「ぐっふぇ…」
俺は、腹を抑えてその場にしゃがみ込んだ。
こんな経験、柏崎と喧嘩して以来だ…。
「遥斗―」
木葉と静夏の言葉が重なった。
俺は、ここでうずくまっている訳にはいかない。
木葉も、静夏も自分も守らなくてはいけない。
相手は4人。
1対4は流石にキツい。いくら朝の特撮ヒーローの真似をして、それなりに格闘術的なことは出来ると言っても勝てないし、守りきれるかどうかも分からない。
取り敢えず、バスが来るまで時間を稼ぐのが、最大のポイントだ。
腕時計に目線を放るとバスが来るまであと5分。
「おいおい。どーしたんだよ?」
俺の顔面めがけてストレートが炸裂する。
「うぅ…」
どうやら、唇が切れたらしい。ちょっと痛かった。
何でこういう奴らはすぐに手が出るのだろうか。そんなことを考えていると、追撃がきそうになっていた。
「おらおら、行くぞぉ」
その時だった。俺たちの元にとある普通乗用車が止まった。
誰かと思っていると、その正体は直ぐにわかった。
「か、薫先生…」
薫先生がサングラスをかけて、車から出てきたのだ。
「せ、先生だと…やべえ、せんこうだ。逃げろ」
と、逃げとようとした連中の首根っこを捕まえて薫先生は言う。
「うちの生徒をこんな目に合わせたのは君たちかね?」
「し、知らねーよ」
ふむ、と薫先生は木葉を見て聞く。
「では、大空よ。奥仲をこんな目に合わせたのは誰だ?」
すると、木葉は間髪入れずに答えた。
「あの人たちです」
すると、薫先生は、ほうほうと言い続けた。
「私はね、自分の教え子に手を出されたら決して許さない性分でね」
そういう薫先生の声には、言語では表現できない恐ろしいものが込められているように感じた。
「た、頼む。許してくれ」
「ほう、それが人に頼む時の言い方か?」
「す、すまねぇ。許してください」
薫先生は少し考えると、きっぱりと言った。
「こ・と・わ・る」
その言葉に連中らの顔は青ざめた。
次の瞬間、薫先生は4人相手に、見事な蹴りを披露し、更にはパンチも華麗に披露した。
「まあ、こんなものか」
パンパンと手を払った。
「か、薫先生…」
俺は、若干かすれた声でそういった。
「コラ、奥仲。唇が切れているぞ。あまりしゃべるな」
と、言って薫先生はティッシュで俺の切れている唇を拭った。
「こいつらどうするんですか?」
聞くと
「言っただろう。私は可愛い教え子に手を出されたら、絶対に許さない性分だと」
「ええ…」
すると、ポケットから携帯電話を取り出し、どこかへ電話し始めた。
「あーもしもし。警察ですか。私、緑ヶ丘高校の教師の前宮薫と言いますが――」
なんと、薫先生は警察に電話したのだ。
す、すげぇ。本当に許さない気だ。
少しすると、さっきの連中は警察に検挙され、俺も一応事情聴取された。
だが、木葉を始め、静夏や薫先生が俺の無実を全面的に発言し、俺はほんの2時間で事情聴取が終わった。
さっきの連中は、傷害罪とかいう罪だとかで、しばらくはおとなしくしているみたいだ。
「どうだった、奥仲。2時間だけだが警察署は?」
何やら楽しそうに薫先生は言う。
「もう、絶対行きたくないと思いましたよ」
「そうか」
すると、木葉が俺にちょんちょんとつついていた。
「ん?なんだ?」
「さっきは、守ってくれてありがとね」
何だか、むずかゆくなってくる。
「まあな」
俺は、照れながらもそう答えた。
多分、俺は今、新しい一歩を踏み出せたのではないかと思う。
過去のトラウマと決別する一歩を。
12月の寒空の下、俺たちの声だけが響いた。
こんにちは水崎綾人です。
前回に言った通りこの回は若干の急展開でした。
遥斗が本当の意味で過去との決別をした今回。前回は、静夏との関係を克服するために木葉の力を借り、過去との決別をするために薫先生の力を借りました。
ですが、まだ今回の以来は終わっていません。
次話もお楽しみに!




