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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第7章「揉め事と発表とクリスマス」
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第40話「そして遥斗はシスコンと宣告される」

 俺たちは未だ部室で何についてやるかを考えていた。


「う~ん…そう言えば『春ノ山中学』って俺の母校じゃねえか」


 俺が、思い出したようにそう呟く。

 静夏も何も反応しなかったから、全く気がつかなかった。


「あ、思い出したの?」

 静夏が俺の顔を見て意外そうな顔をしている。

「てか、知ってたなら教えてくれてもいいじゃないか」

「だって、遥斗が何の反応もしないから忘れてるのかなって」

 まあ、それも仕方ないか。実際に忘れていたわけだし。


 木葉や雅は意外そうな顔でこちらを見ている。


「ど、どうしたんだよ?」

 木葉に聞いてみた。

 すると、


「は、遥斗の母校…」

 なんだこいつ?何もじもじしてんだ。

「ところでどうします?何を用意して持っていきますか?」


 一番まともそうな雅に尋ねてみると、俺の思い違いだったのか、雅は心ここにあらずみたいな顔をしてこちらを眺めるだけだった。

「おーい。雅さん?」

 雅の顔の前で手を振ってみる。

 しかし、反応がない。


「おーい、おーい」

 続けて振ってみる。どうしたんだよ。

 しばらく振り続けていると、ようやく意識が戻ったのか我に帰った表情を見せた。


「……っ。は、遥斗くん。どうかしましたか?」

「いや、俺じゃなくて雅こそどうかしたのか?ボーッとして」

 すると、雅は俺から目を背け言う。


「い、いえ…」

 俺たちが話していると、莉奈先輩が「そうだ!」と手を叩き、部室の後ろ側にある棚に向かって歩きだした。


「先輩どこ行くんですか?」

 莉奈先輩は振り向くと、薄い笑みを浮かべて、

「ふふふ…頭脳ロードには甘いものが一番なんだよ」

「は、はぁ…」

 莉奈先輩は棚からある箱を取り出した。緑色のラッピングが施されていた。


 それを、俺たちの長机の上までもってくると、いよいよその正体が判明した。

 その、箱の中身は、


「じゃーん。生八つ橋なのだ」

「せ、先輩。部室にも持ってきてたんですか」

 腰に手を当て「えっへん」と一声上げた。

「莉奈さん、一体どれだけ持ってきたんですか?さっき棚の中少し見えましたけど、結構入ってそうでしたよ」


 雅が恐る恐る聞いてみる。木葉は目を丸くして、「おいしそ~」などと呟いている。実際美味しそうではある。来年俺も修学旅行に行ったら是非とも買ってきたいと思っている。


「え~っとね、確か10箱位持ってきたよ。や生八つ橋。京都で食べたら美味しくてね、つい沢山買っちゃった。えへへ」


 莉奈先輩は、後頭部に手を当て、照れたよう笑ってみせる。


「な、10箱!?莉奈さん、八つ橋って賞味期限1週間ぐらいですよ。10箱も一週間で食べれませんよ?」


 雅が両の手を上げ、大な声で莉奈先輩に叫ぶ。


 そこは莉奈先輩。最初から雅と一緒にいるから対処法は知っているのか、雅の顔の前に手を出し、その声を制した。

「大丈夫だよ。ミヤビー。食べればいいんだよ」


 親指をつきたて、効果音に「キラーン」とか入っちゃいそうな輝きの笑顔だった。

「な、な、な、何言ってるんですか~。食べきれないから言ってるんですよ?」


 どうやら、莉奈先輩に雅の怒りの対処法は分からなかったらしい。

「も~、ミヤビーったら元気だね!ヒョイっと」


 莉奈先輩が生八つ橋を雅の口の中に放り込む。


 雅はそれをもぐもぐと噛み、ゴクリと飲み込む。


 すると、顔全体がふにゃ~と緩み、

「お、美味しいです~。これなら食べきれるかも」

 ま、丸め込まれた…。

 雅には実力行使が一番だと、どうやら莉奈先輩は知っていたようだ。


「莉奈さん私もいいですか?」

 木葉が緩みまくった顔で問うてくる。

「うん良いよ!木葉ちゃんも食べな」

 木葉は「はい」と言うと八つ橋を一つつまみ、口に運ぶ。


 その瞬間、木葉の顔も雅と同様ものすごく緩んだ笑顔になった。

「ほら、静夏ちゃんも」

「いいんですか?」

「もちろん」


 静夏は、未だどこか莉奈先輩に遠慮しているようだったが、莉奈先輩の優しさで八橋を頂くことにした。


 八つ橋を一つとり、静夏もまた口に運ぶ。

 ゆっくりと八つ橋を咀嚼(そしゃく)し、飲み込む。


 いままでの木葉、雅同様静夏も緩んだ笑顔になった。


「ほらほら~遥斗くんも」

「え、はい」

 俺にも勧められたこの八つ橋…。木葉、雅、静夏の三人があんなに緩んだ笑顔になるなんて、どんな魔性な八つ橋なんだ。俺の知っている八ツ橋と…違うのか…?

「じゃ、じゃあ頂きます…」

「うん!」

 八つ橋にそっと手を伸ばし、一つ掴みそれを口に運ぶ。


 程よい硬さの生地が舌に触れるのが分かった。

 その生地の中には甘いあんこが入っていて、俺の精神を絶頂へと運んでゆく。

「こ、これは…」


 全身から力が抜ける感覚。

 これが絶頂。木葉たちの笑顔が緩むのも納得出来る。これなら、毎日食べても飽きないだろう。


「えっとね、八つ橋をもっと楽しむにはお茶を飲むといいんだって」

 莉奈先輩はこれまた戸棚から何かを出してきた。


 見ると、お茶のパックだった。

「これだけインスタントなんだけどね~」

 莉奈先輩はポットからヤカンにお湯を注ぎ、5つ並べられた湯のみ茶碗にパックを入れ、それぞれお湯を注いだ。


「は~い。お待たせ~」

 俺たちにお茶を差し出した。


 俺たちは出されたお茶を一口口に運んだ。

「こ、これは…」


 口の中に広がる甘さを、お茶の若干の苦味がさらに際立てる。


 お茶と八つ橋…合う。


 最高の組み合わせかも知れない。

 俺たちの顔は更なる緩みを迎えていた。

 すると、ガラガラと部室の扉が開き、薫先生が入ってきた。


「どうだ?進んでいるか?…ってお前ら!」

 部室で八つ橋食事会をしていたので、流石に怒られるかと俺は身構えたが、


「私も誘ってくれよ。八つ橋好物なんだよ」

 と、言うと薫先生は椅子を持ってきて、俺の隣に座った。


 そうだった。この先生は生徒に恋愛成就のお守りをお土産で買ってくるように言う先生だった。


「はい、薫先生どーぞ」

 さらに乗せた八つ橋を薫先生に差し出した。

「おう、ありがとう」

「それにお茶も」

「ああ、ありがとう」

 薫先生は皿とお茶を受け取り、それを長机においた。


「では、頂きます」

 両手を合わせ、しっかりと挨拶をしてから、まずお茶へと手を伸ばした。


 ゴクリ。お茶を一口飲み、それから八つ橋を口に運んだ。


「――っ。んなんなぁ…」

 薫先生は歓喜にも似た声を上げると、オロオロと泣き始めた。


「か、薫先生?どうしたんですか?」

 立ち上がり声を掛ける。

「や、八つ橋が美味しくてな…。思わず」

「………ぇ」

 何で八つ橋食って泣いてんだこの人。

 涙をよく似合っているレディースのスーツの袖で、軽く拭い八つ橋を再び口に運ぶ。


「ふんぐぬぅ…」

 また、涙が頬を伝った。

「せ、先生…?」

 何だか薫先生にいちいち声を掛けるのが馬鹿らしくなってくる。


 それに、最初のイメージから大分変わってきている。こんな先生だったのか

「ああ、この甘さ。泣ける」

「はあ」

 ふと、木葉と雅、それに静夏に目を向けてみると、なぜか彼女らも泣いていた。

「ええ!」


 莉奈先輩にも視線を放って見ると、目尻を人差し指で軽く拭っていた。


「せ、先輩…もすか…」

 これは、自分もあやかって泣くしかないのかと思ったが、そんな泣こうと思って泣けるものではない。


 すると、

「遥斗…お茶を飲んでから八つ橋食べてみ」

 木葉が泣いたせいなのか僅かに頬を紅潮させながら言う。


 お茶を飲んでから?

 俺は、言われた通りお茶を飲んでから八つ橋を口にした。


「ぁ…ぁ…」

 俺の頬に一筋の涙が伝わるのが分かった。

 これは、ものすごく美味しい。歴史的に言うなら「美味だぞ」と叫びたくなるほどだ。


 理屈ではない。何故か泣けるくらい美味しく感じるのだ。


 この日の俺たちの部活は、お茶を飲みながら八つ橋を食べながら泣くと言う活動内容で幕を閉じた。




「ただいま~」

 あたりもすっかり暗くなる頃に、俺は帰宅することになった。


「あら、おかえり遥斗」

 いつになく母さんが出迎えてくれた。

 何故かエプロンもしていない。今日の晩飯は何なんだ?


「母さん、今日の晩飯は?」

 母さんは「ああ」と手を軽くたたくと、

「今日の晩ご飯は昨日の残りのカレーよ。カレー、カレー、カレー」


 妙にテンションの高い母さんを後に、俺は自室へと階段を上った。


 制服を脱ぎ、部屋着に着替えベッドに腰をかけた。


 携帯を鞄から取り出し、充電ケーブルにつなぐ。


 それから俺は、机に向かいパソコンを起動させる。


 ピローンと言ういつもの起動音がなり、パソコンが立ち上がる。

「えっと…」

 俺は、検索エンジンに『緑ヶ丘高校』と打ち込み、自分の高校のホームページを開いた。


 中学校に説明に行く際にホームページにあることを引用しようと考えたのだ。


 実際に通っている学校だからと言って、その学校の特色が分かっているかと言うと、答えは否。


 分かっていないのだ。だから、より確実にそれが分かる学校のホームページに行けば万事解決というわけだ。



「よし…と」

 一通り調べ終わると、丁度階段下の方から母さんの「ごはんよ~」の声が聞こえて来た。

 俺はパソコンをシャットダウンし、リビングに向かった。


 リビングには既に楓が席についていた。我が家では食事の際の席は大体決まっており、母さんの隣に父さん、父さんの前に楓、その隣に俺と言うように席についている。


 楓はまだ不機嫌そうと言うか、俺をちらっと見ては、視線を外す、を繰り返している。


 なんか気まずい…。

「はい、ど~ぞ」


 そう言うと、薫先生は俺と楓の元にカレーライスを置いた。

「ささ、食べましょ」

 俺たちはまだ帰ってきていない父さんを除いて「いただきます」と声を合わせカレーを頬張った。


「ああ、そうだ。そう言えば俺、再来週中学校に行くことになったんだ」

 我ながら唐突に話しだした。

「まあ、そうなの?」

「――っ」

 母さんと楓が反応した。

「て、ことはお兄ちゃんが学校に来るってこと?」


 久しぶりに楓が俺に話しかけてくれた。正直、少し嬉しかった。

「ああ、でも、まあ相手にするのは三年生だけなんどけどな」

 すると、楓は少しの間だけ身を固め、再び口を開いた。


「お兄ちゃんの…好みは中3…?」

「おい、待て。何でそんなピンポイントラブなんだよ」

 カレーを食べながら言うと、楓はまた続ける。


「じゃあ、何年生が好きなの?」

「ゲッフ…ゲッフ…」

 いきなりの質問に思わずカレーを吹いてしまった。


「はぁ?何いてんだお前…」

 ティッシュで口についたカレーを拭いながら言う。


「いいから、何が好きなの?て言うか、どこから恋愛対象?」


「んな、何年生も好きじゃねーよ」

 一体どこの世界に兄妹で、自分の恋愛対象の学年の話しをする兄妹がいるんだよ。


 しかし、楓の目線は俺から外れない。これはどうしたものか…。


 ふと、母さんの方を見てみると、何故か微笑んでいた。


「ちょっと、母さんどうにかしてくれよ。楓のこと」

「そうね~」

 どこか間の抜けた声でそう言うと

「青春ね~」

 と、久々に聞いたセリフを口に出した。


「な、何言ってんだよ。どこも青春じゃないだろ?」


 母さんは「はいはい」と言うと、再び口を開いた。


「いい?楓。今から遥斗のとっておきの情報を教えてあげる」


 何だよ。とっておきって……。

「うん」


 いつになく真剣な楓の顔だった。もしかしたら今まで見たことが無いくらいの。


 でも、その集中の原因が俺の恋愛対象だのどうだのと言うくだらないことなのだと思うと、悲しくなってくる。


「遥斗のとっておき情報とは――シスコンよっ」

「はぁ?!何言ってんだ!俺はシスコンじゃねえよ」


 母さんは首を振って続ける。


「いいえ、あなたはシスコンのはずよ。それも生粋のね」

 何だ、生粋のシスコンて何だ?

「何言ってんだよ。実の親が、実の息子に向かって『あなたシスコン』なんて言う世界がどこにあるってんだ!」


 すると、楓が再び口を開く。


「ねえお母さん。シスコンてどういう意味?」

「それはね、遥斗お兄ちゃんが妹が大好きだってこと。妹が大好きで、大好きでたまらないのよ!つまり、楓のことが好きってことよ」


 聞くと、楓の顔は満面の笑みになり、自室へと戻っていった。


「ふ~」

「ふ~、っじゃねえよ!」

 母さんは『仕事しました』みたいな表情で額にかいた汗を拭う仕草をした。

「あら、私は兄妹のそういう関係好きよ」

「はあ?!俺はあんたにビックリだよ」

 もう何を考えているか分からない。


 俺は、残ったカレーを全部食べ、風呂へ向かった。


 早く風呂に入ってもう寝よう。なんか一日の最後で半端なく疲れた。


 俺は一旦自室に戻り、替えのパンツと替えの部屋着を用意して風呂場へ向かった。


 もう、なんだかんだで色々こじれてきて面倒くさくなってきた。身体みたいに問題もお湯や泡で洗い流せたら良いのにな、なんて思いながら、脱衣所のドアを開けた。


 すると、そこには華奢で小さな身体。膨らみかけの発達途上の慎ましい胸、それに驚いて顔を真っ赤にしている妹――楓の姿があった。


「あわわわ…ご、ごめん。いるとは思わなかった」


 俺は、脱衣所のドアをバタンと勢いよく閉めた。


 ドアの中からは楓の声が聞こえる。

「お、お兄ちゃんが…見たいなら…良いよ…」

楓の動揺した声が、ドア越しに伝わってくる。


「何、言ってんだ!。それっぽい空気出すな!母さんの言ったこと全部本気にするんじゃねえよ」

 冷や汗を垂らし、ドアに寄りかかりながらそう言葉を紡ぐ。


 リビングの扉からは母さんが親指をつきたて、「ファイト」と口パクで言いながらこっちを見ていた。


 ファイトじゃねえよ。色々と面倒くさくしやがって。


 俺は、楓が風呂から上がってくるまでの間、リビングで待つことにした。


「いや~、遥斗は妹相手にラッキースケベをするんだね~」


 悪びれている様子もなく、楽しんでいる風にも見えた。


「いや、いや母さんのせいだろ」

「母さんはね、兄弟でイチャイチャするのはいいけど、付き合うのはちょっと…」


「イチャイチャもしないし、付き合いもしないわー」


 大声で否定した。天然なのか、からかわれているだけなのか、はてまたその両方なのか俺には分からない。


 けど、どこか一般の人からズレていると思う。



 とにかく、楓が上がったら俺も風呂に入ろう。そう俺は心に決めた。


こんにちは水崎綾人です。


最近はとても暑いですね。ですが、本作の季節は12月ってっことで冬です。何とも複雑な気分です。暑い夏に寒い時のことを考えて書いているだなんて。


もし、冬までこの作品が続いていればその頃には本作の季節が夏になるんでしょうね。きっと。


それにしても、なかなか思い切った遥斗母でしたね。今後どういう風に絡んでくるのか、楓もどう絡んでくるのか楽しみです。


では、次話もお楽しみに!


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