第39話「帰ってきた莉奈先輩と新しい依頼」
12月1日。今日は莉奈先輩が修学旅行から帰って来る日だ。
それを記念して俺たちは、神ケ谷駅へと足を運んだ。
時刻は20時。あたりは一層暗くなっている。
「うぅ…さっぶい」
身体を吹き抜ける風が、全身の体温を下げる。
「本当だね…はぁはぁ」
木葉は俺の声に同調すると、手袋の上か自らの息を手にかけ暖を取る。
静夏はと言うと、どうやら携帯ゲームをしているらしい。今、流行りのパズルを揃えてコンボを繋ぎ、相手を倒すというやつだ。ちなみに、俺もやってる。
だが、それをやるとなると、手袋をしたままでは出来ない。そのため静夏は手袋をとり、素手で携帯を操作をしてる。
「あっ、見てください。雪ですよ」
雅が声高々にそう言うと、俺たちの意識も当然そちらに向いてしまう。
「おお、本当だ。初雪かな?」
そっと、手を出し、雪を乗せる。
落ちてきた粉雪は、ほんの数秒間だけ俺の手の上にとどまったが、やがて僅かな水となりその姿は消えた。
「そうですね。初雪だと思います」
雅は俺を見て微笑みながら言う。
「そう言えば、もうクリスマスイルミネーション出てるんだよね?」
「そのはずだと思いますよ」
木葉と雅がキャッキャウフフの会話をしている時だった。
今まで、携帯ゲームに夢中だった静夏が唐突に口を開いたのだ。
「じゃあさ、一緒にクリスマス出かけようよ遥斗」
俺たちの中に沈黙と言う言葉が滲みでた。
「はあ?何言ってんだお前!?」
俺は、両手を掲げて静夏に言う。
「だって、クリスマスに一緒に居たいんだもん」
「何…て…?」
こ、こいつは一体何なんだ。ついこの間は、俺と話している時に申し訳なさそうな顔で話してたのに。木葉や雅の前になると何でそんな挑発的な口調で小悪魔感出してんだよ、こいつは。
後ろからも声が聞こえて来た。
「じゃあ、私も」
「こ、木葉?」
「私もご一緒します」
「雅まで何言ってんだよ?」
次から次へと、訳の分からないことを言い出すので、俺の処理能力を超えつつあった。
「お、おい。待ってくれ。何を揉めてるか分からんけど、部活で遊びに行けば万事解決だろ?な?」
俺の声は彼女らに届くことは無かった。
仮にも莉奈先輩の帰りを待っている途中なのに、こいつらは何をしてるんだ。
「お、そろそろ時間だ」
薫先生が時計を見てそう告げる。
そう言えば居たんだこの人。
「そ、そんな目は止めろ。奥仲…」
「何で、そんなリアクションするんですか」
先生は顔を赤らめて目を背けた。
「だって、君がその…誘ってるから」
「はぁ!?何言ってんですか?」
すると、薫先生はコホンと軽く咳払いをして続ける。
「すまん。夜のテンションだ。ちょっと調子に乗りすぎた」
「はい。驚きました」
夜のテンション。それは、とても危険なものだ。テンションが上がっているものは問答無用にボケ倒し、それに追いついていないテンションのものは、ただ置いてきぼりを食らうと言う何とも恐ろしいテンションなのだ。
神ケ谷駅内にアナウンスが鳴り響く
『まもなく、神ケ谷駅に新幹線が到着いたします。黄色い線の内側までお下がりください』
再び時計を見ると20時25分。
もうそろそろだ。
「ほら、君たちもこっちに来るんだ」
木葉、雅、静夏の方に目をやり、薫先生が指揮を取る。
ゆっくりと近づいて来る彼女らに対して薫先生は、至極真当なことを語り始めた。
「いいか、これはあくまでも萬部の部活なんだ。だから、私も顧問としてここにいるんだ。あまりハメを外してもらっては困る」
彼女らは「はい」と小さく返事をした。
いよいよ、駅の改札の奥のほうが騒がしくなって来た。
ちょっと待つと、ゾロゾロとうちの制服を来た生徒たちが列になって歩いてくるのが見えてきた。
「どうやら、来たようだな」
俺たちは必死になって莉奈先輩を探した。探した。探…した。
俺は、自分の目を疑い思いっきり目をこすった。それも一回ではない。4、5回目をこすった。
「まさか…あれじゃ…ないよな?」
そう思ったのは俺だけじゃなかったらしい。
木葉も雅もそれどころか、薫先生も俺に続けて答えた。
「多分…違うんじゃないか…な?」
「あれな訳が…」
「ち、違うと願いたいな…」
約一名だけは願望を言っていた気がするが、取り敢えずスルーするとして。
俺たちの目を疑った先に見た光景とは――。
莉奈先輩に酷似している人物が、旅行用のリュックから木刀をぱっと見7本位突き刺し、更にはキャリーバッグにはビニール袋がぐるぐるに結び付けられている。また、片手には、それ何は入ってんの?って聴きたくなるくらい膨張したお土産袋を持っていた。
「ねえ、莉奈先輩ってあの人?」
静夏が聞く。
それに、俺、木葉、雅は自信のないかすれた声で答えた。
「「「ま、まさ…か…」」」
だが、現実というのは極めて残酷なもので、改札の奥の方にいた莉奈先輩は俺たちの存在に気付いたのか、手を振ってこちらに走り向かってきた。
だが、チケットを改札に通していなかったため、駅員に止められていた。
先輩……
しばらくして、駅員から解放された莉奈先輩らしき人は、こちらに近寄ってきてこういった。
「みんな、ただいま」
――やっぱりあんたは莉奈先輩だったのか…。
「せ、先輩。おかえりなさい」
「莉奈さん、お疲れ様です」
「おかえりなさい。り、莉奈さん」
俺たち三人は言葉に詰まりながら、莉奈先輩に言葉をかけた。
「ありがと~みんな。それに薫先生も。あれ、えっと君は…?」
どうやら静夏の存在に気がついたようで、莉奈先輩は言葉を詰まらせた。
静夏もそれに気がつき、慌てて挨拶をする。
「あ、は、はい。申し遅れました。私、花見静夏と言います。萬部に入部することになりました。よ、よろしくお願いします」
「そうなの~よろしくね」
莉奈先輩は俺たちの比にならないくらいの眩しい笑顔でそういった。
「ところで莉奈。その、頼んでいたものなのだが…」
莉奈先輩は何やら木刀が7本刺さった龍リュックを探り始めた。
一体何を探しているのだろうと思い、覗いてみると、もう何が入っているのか分からないくらいお土産でめちゃくちゃになったリュックがそこにはあった。
整理整頓が大事だということを改めて知った。て言うかこの人確かお嬢様だったような気が。新学期始まっても海外に旅行に行ってるくらいだし。
「あ、見つけた!」
莉奈先輩の元気な声が駅内に響いた。
先輩の手に持たれていたのはお守りだった。
「おお、これは」
薫先生はそれを莉奈先輩から受け取り、大事そうに手に取る。
「莉奈先輩それって一体?」
「ああ、これね。薫先生からお土産頼まれてて、『恋愛成就』のお守り10個だよ」
「10個って…」
一体何人の神様から運貰おうとしてんだよ。この先生は。
「でも、それって相手がいないと意味ないんじゃ…?」
雅が静かに言うと、
「ふん!違うんだな~これが。これは、相手と縁があるようにと有名なお守りなのだよ。つまりは、縁を作るお守りなのだよ」
先生……それって縁結びって言うんじゃ……。つか、言ってて悲しくなりませんか。
「これで私も…」
お守りを握る先生の手には、力が入っているように見えた。
莉奈先輩は再びリュックの中をあさり始めた。
「えっと…遥斗くんには~…あった。これだ」
そう言って、俺に差し出してきたのは、金閣寺だった。だが、本当の金閣ではなく、金閣寺の模型みたいなものだった。それにしてもよく出来ているな。
「あ、ありがとうございます。にしてもよく出来ていますね」
「うん。だしょ、だしょ」
にこやかに笑い、再びリュックへと戻る。
「えっと~木葉ちゃんには~これだ!」
そう差し出されたのは、くまのぬいぐるみだった。だが、ただのぬいぐるみでは無く、くまが八つ橋を持っているのだ。これはこれで可愛らしかった。
「か、可愛い…可愛いです!」
ぴょんぴょんと飛び、身体全身で嬉しさを表現していた。どうやら本気で嬉しいらしい。
「喜んでくれて良かったよ~」
「はい、大事にします」
また、莉奈先輩はリュックに向かい、お土産を探す。
「え~っと、みやびーには~あった!」
と、出してきたのは俺と似ているがどこか違うお土産だった。あれは清水寺か。これもまた結構な装飾が施されていた。
「ありがとうございます。うわぁ~これ、すごく綺麗ですね」
言うと、莉奈先輩は両手を腰に当て
「でしょ、選ぶの苦労したんだよ!」
「ありがとうございます。大事にします」
そう言って雅は綺麗に微笑んだ。
次に、莉奈先輩は静夏にもお土産を手渡した。
「え?」
静夏は困惑しているようだ。
「ごめんね。まさか新しい部員が来るだなんて思って無かったから、これしか上げられなくて」
そう差し出されたのは、綺麗なピンクの髪留めだった。
「……ぁ、ありがとうございます…」
静夏の声は震えていた。いきなりのことに驚いたのか、それとも莉奈先輩の優しさに感動したのかは分からないが、とても嬉しそうだった。
「喜んでもらえて良かったよ」
莉奈先輩の笑みはとても綺麗なもので、心が浄化された気がした。
その後、俺たちは、莉奈先輩からもらったお土産を片手に、莉奈先輩と別れそれぞれの帰路についた。
◇
俺と木葉は家が隣どうしのため、必然的に帰り道は同じになってしまう。
「あのさ…遥斗…」
「ん?どした」
いつもの木葉とは違い、声には覇気が無かった。
「花見さんの事なんだけど…」
「ああ」
「遥斗はその…大丈夫なの?」
木葉が心配そうに俺に静かに聞く。
「ああ、もう区切りは付けたんだ。だから、あの文化祭の日に俺は静夏と友達になることにしたんだよ」
「そう…遥斗がいいならそれでいいわ」
「心配してくれてありがとな」
「な――っ」
俺の右肩を片手でポンポンと叩いてくる。
たまにこいつの仕草が愛らしく感じる。
12月始めの乾いた風が、俺たちの身体を冷たく吹き抜けた。
◇
翌日、部室に入ると、そこには薫先生がすでにいた。
「おう、奥仲」
「先生、最近よく来ますね?」
「んな――っ」
薫先生は若干、仰け反り立ち尽くし、俺はいつもの席についた。
「そうだ、奥仲。なぜ君は大空と花見と一緒に部活に来ない?同じクラスだろう」
「え、いや。一緒に行くこと自体はいいんですけど、須藤がうるさくて」
ふむふむ、と薫先生が頷いていると、部室の扉が開かれた。
入ってきたのは、木葉に静夏、それに雅と莉奈先輩だった。
「よし、全員揃ったな」
この言葉を聞くと、やはり悟ってしまう。
「私が、さっきの言葉を言うということは、予想をつけている者もいるだろいう」
やっぱりか。しばらくはいつも通りの部活が出来ると思っていたのにな。
「今日ここに来たのは他でもない。依頼を持ってきたぞ」
薫先生は卓をバンと叩き、格好よく決めた。
「その依頼とは――中学校に行き我が校について入試説明をしてくるのだ」
部室内が一気に静まった。
「ねえ、遥斗」
静夏が俺に耳打ってくる。
「お、おう、な、なんだよ?」
いきなりのことに驚いたが、すぐに状態を戻した。
「この部活って好きなことやるんじゃなかったの?」
まあ、真当な意見だな。俺も最初はそう思っていた。でも、今に至っては依頼で活動するほうが多くなっている。
「えっとだな…」
俺が、言いかけた時だった。薫先生が「説明しよう」と昔のアニメとかでよく聞くフレーズを口に出してきた。
「我が萬部はメインとしては、やりたいことをやると言う比較的フリーダムな部活ではあるが、依頼と言うお願いごとを受けると我部はその依頼達成のために尽力するというのも我部の部活内容なのだ」
言い切ったあと、薫先生は大きく呼吸をした。
「それで先生。今回の依頼はいつ実行されるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた」
キリッと目線をこちらに向けて続ける。
「君たちが中学校に向かう日は12月17日だ。ちなみに行く学校は『春ノ山中学』だ」
俺たちは頷き確認する。
内容としては俺たちの通う学校『緑ヶ丘高校』の入試対策などの説明をすると言うこと。と言っても、入試を突破する方法だなんて誰が考えても一つしかない。
勉強する。それだけだ。
一応、うちの学校は進学校ともあり、割と難易度が高い学校なのだ。だから、それこそ勉強するしかない。これ以上どう説明すればいいのか。悩みどころだ。
「あと、入試対策の他に、校風についても話してくれ。じゃあ、私は職員室に戻いっているから、よろしく頼むぞ」
と、言うと薫先生は部室から出て、職員室に向かって歩いて行った。
「う~ん。どうする皆?」
莉奈先輩が悩ましげに声を漏らす。
「勉強してって言うしか、ないんじゃないんですか?」
俺は完結に答えた。
「遥斗くんそれじゃ、なんか答えっぽくないですよ」
雅が苦笑いして答える。
「う~ん…」
静夏が「あの~」と手を上げながら答えた。
「入試勉強してると時に私たちがやった事について言うとかどう?」
俺たちみんな、うんうんと頷いた。特に静夏はついこの間、編入試験を受けるために勉強を頑張ったはずだから、記憶に新しいのだろう。
12月の木枯らしが窓を叩く。
季節が変わり、俺たちの時間がまた、一歩一歩進んでいることを知らせるように。
こんにちは水崎綾人です。
序盤はギャグ的なことに挑戦してみました。出来ていたのかは自分では危ういところであす(笑)。もし、次回作を書くときはそういうのにも挑戦してみたいですね。なんて言ってみたり。
新しい依頼がやってまいりました。それは、中学校へ行って入試対策について説明してこいというものです。実際にこんなことを生徒がやる学校なんてあるんでしょうか。書いててそう思いました。本番までは約2週間あります。それまでの間の遥斗たちの出来事も書いていければいいなあと思っております。
では、今後とも『隣の彼女は幼馴染み!?』をよろしくお願いします。
次話もお楽しみに!




