第37話「仲直りの梨恋&舞」
「お疲れ様でしたー」
俺たちのこの日の仕事は園長先生からのお願いのクリスマスのポスター制作で幕を閉じた。
本当は、こんなことじゃなく梨恋ちゃんと舞ちゃんの仲直りの手伝いをしなければならなかったのだが。
時刻は15時。幼稚園なのですでにお迎えが来て帰ってしまっている園児もちらほら。
「はぁ…」
大きくため息をついた。すでに、梨恋ちゃんの姿はなく、舞ちゃんの姿もなかったのだ。恐らく、もう帰ってしまったのだろう。
「どうしたんですか?」
鞄を肩にかけた雅が俺に話しかけてくる。
「いや、何でもない」
校門をとおり抜け、帰路についた。
明日は最終日だ。残る一日でなんとかしなければいけない。もし、俺が仲直りさせてあげれなかったら、あの二人は一生互いに仲直りしたいと思っているのに、仲違いしたままかもしれないのだから。
翌日。一段と気合を入れて幼稚園へと向かった。
「おはようございます」
職員室へ挨拶をしに向かった。
そこには、いつもの幼稚園の先生と薫先生がいた。
「おう、奥仲。今日は早いな」
薫先生があたかも自分も幼稚園の先生かのように言う。
薫先生あなたの本職は高校教師でしょ。
続いて、木葉、雅も職員室に入ってきた。
「おはようございます。…って、遥斗早っ!」
「おはようございます。遥斗くん早いですね?」
驚いたように言われた。
「まあな」
腰に手を当て、適当なポーズを取ってみせた。
「では、皆さん揃ったところでぇ」
美代子先生が朝からほんわりした声で俺たちに喋りかけてくる。
「では、先に今日のお仕事についてお話しておきますね」
今日が最後の幼稚園での仕事。仕事内容によっては、もう梨恋ちゃんや舞ちゃんと話せなくなってしまうかもしれない。
「今日は、一日園児と遊んであげてください」
手を胸の前で合わせ、綺麗な笑顔でそういった。
俺たちは、各自で「はい」と返事をし、頷いた。
8時30分。園児が全員登園を完了した。
「皆さん~。今日は一日中自由に遊んでください」
か細い声で美代子先生は園児たちにそういった。園児たちは「はーい」と元気な声で返事をすると、勢いよく園庭へ向かって走り去っていった。
梨恋ちゃん、舞ちゃんを探していると、彼女らはすぐに見つけられた。なぜなら、二人共互を見るくせに話せないでいるため、しょんぼりした表情をしているからだ。
「よし…」
俺は、気合を入れた。
彼女らの方へ向かうため、一歩踏み出した時だった。
俺の手を誰かに不意に握られたのだ。とても柔らかい感触だった。
なんなのかと振り返って見ると誰もいない。まさかと思い下を向いてみると、そこには園児が束になっていた。
それも女子園児がだ。
「え…えっと…」
苦笑いしか出来なかった。
「遥斗センセー。遊んで、遊んで」
可愛らしい園児にせがまれるのは悪い気がしない。今まで、嫌われていたからその反動なのだろうか、酷く頬が緩んでしまった。
「ああ、分かった。いいよ」
ぱっと見た感じは10人位の女子園児と遊びに向かった。
どれくらい遊んだのだろうか。気付く頃には、美代子先生が「お昼ですよ~」と昼食の時間を知らせる時間まであそんでしまっていた。
「――しまっ、何時だ」
慌てて、現在時刻を確認した。園庭にある時計台を見て確認する。
12時5分。
俺たちの終了時間は15時。単純計算で後2時間55分しかない。
とうとう時間がないと心が焦り始めてきた。
「そうだ…お弁当の時間に梨恋ちゃんと舞ちゃんと一緒に食べれば――」
「遥斗センセー一緒に食べよ~」
女子園児に手を取られ、そのまま教室に入ってしまった。園児の頼みをなえがしろにする訳にはいかず、渋々ついていった。
◇
コツコツコツと廊下を歩く足音が聞こえる。4時限目の授業を終えた女子生徒のものだ。
彼女の手には入部届けと書かれたプリントが握られている。
その女子生徒とは花美静夏。
静夏は、遥斗が中学生生活を嘲笑と哀れみの中で過ごすことになった実質の張本人だ。だが、これは彼女が属していた教室内でのグループの男子が企んだことで、彼女自身は乗り気では無かったと言う。それどころか好意を寄せていたまである。
「失礼します」
と職員室の中に入り、生徒指導教諭の松前先生を探す。
「松前先生」
「どうした」
ムキムキの身体を存分にアピールするためか、11月だというのに半袖シャツを着用している。それとも、職員室が暖房が聞いていて少し暑いからだろうか。
「あの、部活の入部届けを提出しようと思いまして」
入部願書を松前先生に差し出すと
「ああ、部活の入部届けは俺じゃないんだ。入部届けはその部の担当顧問に直接出すことが原則なんだ」
呆気に取られた静夏はその場に立ち尽くしてしまった。
「えっでも、校則に各種の手続き資料は生徒指導教諭に提出する、と書かれているのですが…」
「部活は例外なんだ。えっと、何部だ?」
「はい、『萬部』です」
「その部なら前宮先生に出すといい」
「分かりました」
静夏は、トボトボと職員室をあとにした。
「はぁ…」
職員室前の静かな廊下に静夏のため息は響き渡った。
◇
『ごちそうさまでしたー』
元気な園児たちの声に負けじと、放ったその声は園児たちに勝るとも劣らないものだった。
「遥斗センセー、遊ぼ、遊ぼ」
グイグイと俺の手を引っ張ってくる。正直、少し痛かった。
「ご、ごめん。あの子たちと約束があるんだ」
梨恋ちゃんの方をさし言うと、諦めてくれたのか「じゃあ、終わったら来てね~」と言い残すと、砂場へと女子園児たちは向かって行った。
「あ~ら遥斗。随分とモテモテだったわね」
「ぇ…」
前からやってきた木葉の表情は引きつっており、声には怒気とまではいかないが、何か危険なものが混じっているような気がした。
「え、いや、モテモテつっても幼稚園児…」
「鼻の下伸びてたよ」
鋭い目つきでそう放たれた。
「えっと…」
返す言葉が見当たらない。
確かに、最初幼稚園児に避けられ、嫌われているのではないかと不安だったため、今日ものすごい勢いで園児にせがまれ嬉しかったのはある。その結果鼻の下が伸びていたのかもしれない。
だが、俺はロリコンではないと心から思いたい。
「まさか、遥斗ってロリコ――」
「ちが~う」
すべて言われる前に木葉の言葉を遮った。最後まで言われたら、よからぬ噂が立てられそうだからだ。
「そんな必死になるところがまた」
「怪しくない、怪しくない」
こいつもしかして俺をロリコンに仕立て上げようとしてるんじゃ…。
「ま、そこらへんは信頼してるわ。あと少しの時間精一杯頑張りましょう」
そう言うと、木葉は眩しいくらいの笑顔を俺に向け、園児たちの元へと去っていった。
何だったんだ、あいつ…。
「って、そんなこと思っている場合じゃない。仲直り――」
今の時間を確認する。13時37分。本当にあと少しで、幼稚園訪問が終わってしまう。
もう手段を選んでいる場合ではない。
「本当は、自然に仲直りして欲しかったんだけど…」
俺は、ブランコにいる舞ちゃんのもとへ駆け寄った。
「舞ちゃん」
「お兄ちゃん?」
小首をかしげて俺のことを呼ぶ。
「ちょっと、来てくれないかな?」
そういい、俺は舞ちゃんに背を向け屈んだ。おんぶの姿勢になって。
「えっと…」
困惑したような声が聞こえる。
「おんぶだよ。こっちの方が速く着くから」
言うと、舞ちゃんは何も言わずに俺の背中に覆いかぶさった。
「よし、行くよ」
小走りで、いつもの軒下の日陰に向かった。
俺は知っている。この3日間いつも軒下で、誰よりも舞ちゃんと仲直りがしたいと思っているその少女を。
――春元梨恋。梨恋ちゃんだ。
俺の予想は当たっていた。梨恋ちゃんは、いつものように軒下の日陰で体育座りをしていた。
「梨恋ちゃん」
「……」
無言で俺を見つめる。
「ちょっといいかな?」
「……」
コクリと無言でそう頷いた。俺は、梨恋ちゃんの隣に座る前に、俺の背中に乗っていた舞ちゃんを下ろした。
その時だった。
「なん…で…?」
今まで聞いたことが無いような梨恋ちゃんの声が俺の耳に入った。
舞ちゃんは下を向き俯いたままだ。
「ああ、今日は約束した通り二人を仲直りさせようと思って」
梨恋ちゃんと舞ちゃんは何も発さずに俺の両隣にそれぞれ座った。
「まず、どうして喧嘩することになったの」
時間も無いので、早速本題に入ることになった。
「それは…」
「えっと…」
二人共口ごもってしまった。だが、それはそう長くは続かなかった。
梨恋ちゃんが説明してくれたのだから。
「それは…舞ちゃんがお引越しするって」
「え…」
引越し。その言葉にある情景が脳裏によぎった。
あれはいつの頃だったか…マンションの一室がある。
俺の目の前に見えるのは、貝殻のネックレスを首にぶら下げ、くまのぬいぐるみを抱き抱えている女の子が見えた。これは…10年前の記憶?なのか。もしかしたら、この少女は…木葉なのだろうか…。
「……っ」
俺は、何を思い出してたんだ。今は、梨恋ちゃんと舞ちゃんのことだ。
「小学校も一緒に行くって約束したのに…舞ちゃんは約束破った」
「ち、違うもん…。舞だってお引越ししたくないもん」
その声は、今まで聞いたことのないくらいの微かな声だった。泣き声が混じっていた。
これは、もしかしたら喧嘩ではないのかもしれない。
「つまり、梨恋ちゃんは舞ちゃんと一緒にいたくて、舞ちゃんは梨恋ちゃんと一緒にいたいってことだよね?」
二人はコクリと首を縦に振って首肯した。
なんだ、良かった。これは喧嘩なんかじゃなくて、互が互のことを思っているんだ。それを上手に伝えることが出来なくて、喧嘩みたいなことを引き起こしているだけか。寂しさを紛らわすために。
「そっかぁ」
俺は後ろに手をつき、空を見上げながら話し始めた。
「俺にも、梨恋ちゃんや舞ちゃんみたいな経験があるよ」
これは、仲直りではない。だから、俺は知っている。これは、絆が離れ離れでなくなってしまうかもしれないと言う不安感と、寂しさなのだ。再開した俺と木葉のような。
だとしたら、経験があるから、アドヴァイスも出来る。
「俺さ、10年くらい前に一緒に遊んでて、すごく仲がいい女の子がいたらしいんだ。らしいていうのは、俺自身にその記憶が薄くて確かじゃないってだけなんだけど。でもさ、10年ぶりに再開して、思ったことがあるんだ。なんか懐かしいなって。それってさ、もうそこに、最初っから深い何かがあったってことだと思うんだ」
二人は真剣な表情で俺の話を聞く。
「離ればれで確かにさみしいかもしれない。でも、この別れが一生の別れって訳じゃないんだ。いつかまた会える。同じ地球の日本に住んでるんだ。きっと、またいつか。どこかで会えるから」
俺は、木葉のことを思いながら話した。
思えば再開してから早3ヶ月。色々なことがあった。
思えば、最初の印象は最悪だった。
友達を作ることで一緒に悩んだこともあった。
部活にも入った。そのお陰で雅とも出会えたし、莉奈先輩とも出会えた。
柏崎と揉めたこともあったな。
静夏と再開して俺がパンク寸前だった時も助けてくれた。
思えば、いつも木葉と行動をともにしてた。それが当たり前かのように。
よく考えれば俺…木葉とのことばかりだな。
あいつのことを思うと、時々だけど胸が熱くなる。ドキドキすることも多々ある。これって…
もしかして俺…あいつのこと…好き…なのか?
「ちゃん…お兄ちゃん」
舞ちゃんの声により俺は、我に帰った。
まさかな…俺があいつのこと好きなわけないよな。ははは…。
雑念を消すために頭をブンブンと振った。
「ど、どうした?」
聞くと
「教えてくれてありがとね。舞ちゃんとお別れだなんて思わないようにする。会いたいと思えばいつだって会えるんだよね?」
不安そうに聞いてくる梨恋ちゃんに俺は答えた。
「ああ」
美代子先生の「皆~教室に戻って~」と言う言葉で園児たちは教室に戻って行った。
もちろん、梨恋ちゃんも舞ちゃんもだ。それに倣って俺たちも教室へ入った。
「今日が最後のお兄さん、お姉さんにお別れを言いましょう」
美代子先生は相変わらずか細い声で園児たちに指示する。
代表の子が俺たちに別れの挨拶をし、俺たちの幼稚園訪問の依頼は幕を閉じた。
「遥斗~」
「お兄ちゃん~」
お別れの会が終わったあと、俺の元に梨恋ちゃんと舞ちゃんが駆け寄ってくれた。さては、別れの挨拶でもしてくれるのだろうかと思い期待していた。実際、幼稚園訪問でから割って話せて仲良くなれたのは、この2人くらいだった。
「ん?どうした」
梨恋ちゃんと舞ちゃんは、見つめ合いタイミングを取るようにして「いっせ~の~で」と合わせ
「私たち遥斗と結婚する」
「私たちお兄ちゃんと結婚する」
と、俺の予想をはるかに上回ることを言ってきた。俺は、思わずその場にしゃがみこんでしまった。
「はぁ!?」
二人は、はははと笑い、驚いている俺の両頬に口づけをして、「ありがとう」と残し帰っていってしまった。
何だったんだ、今のは…。口づけを受けた頬を右手で軽く撫で確かめる。
「良かったわねぇ。遥斗~」
俺の後ろから怒気にも似た何かが込められている声が聞こえてきた。
「……」
恐る恐る後ろを振り向いてみると、額に血管が浮き出ていてもおかしくないくらい真っ赤な顔をした木葉が俺のことを、見下ろしていた。
その隣には、複雑な表情をした雅が立っていた。
「さすがのロリコンもここまで来ると犯罪よ」
「ちょっと待て…!俺は、ロリコンじゃないし、犯罪もしていない」
俺は、とにかく追ってくる木葉から逃げた。捕まったら何をされるか分かったものじゃない。
「俺は、なんもしてなーーーいッ!」
◇
その日の放課後、薫先生の車で学校まで向かった。何でも新しく入部を希望する生徒がいると松前から電話があったらしい。
面倒なので、俺たちも顔合わせくらいしておけとのことで俺たちも向かった訳だ。
その生徒は、会議室で待っているらしい。俺たちは、部室を経由せず直で会議室に向かった。
薫先生が先人を切り会議室へと入り、そのあとに俺たちが続く。
そこにいたのは、見たことのある後ろ姿の女子だった。
「君かね、我部に入部したいと言っているのは」
「はい」
そう言って振り返って見えた顔は花美静夏のものだった。
「――ッお前」
「遥斗。来ちゃった」
こんにちは水崎綾人です。
今回は話が動きました。無事、梨恋と舞を仲直りさせることができた遥斗。そんな平和的な幼稚園訪問も束の間。学校では静夏が萬部に入部するために手続きを行っていました。
設定では、遥斗の静夏に対する苦手意識は大分薄れていますが、告白の返事など考えることはあとを断ちません。
今後も、『隣の彼女は幼馴染み!?』をよろしくお願いします。次話もお楽しみに




