第33話「突然の告白」
文化祭が終わって早2日。文化祭の勢いはどことなく収束しつつあった。
そんな時でも衰えない学年が高校3年生だ。なぜなら高校3年生には修学旅行というものがある。
修学旅行をあと2日後に控えた莉奈先輩は今、部室で遥斗たちにこんなことを言っていた。
「明後日から修学旅行だよ~。京都だよ!お土産何がいい?金閣寺?」
「持ってこれませんよ」
遥斗が苦笑いしながら言う。
木葉も雅も同様だ。
「みんな元気ないよ?どした」
不思議そうな顔で聞いてくる莉奈先輩に雅が答える。
「莉奈さんは修学旅行だからいいですけど、私たちは何にもない普通の学校なんですよ?」
言い聞かせるように言ったその時だった。
すぐ後ろのドアから薫先生の声が響いた。
「修学旅行か…ふっ羨ましい」
萬部員全員が揃って声のする方を振り返った。
そこには、いつも通りドア横の壁に寄っかかっている薫先生の姿があった。
「先生その格好好きですよね?」
遥斗が表情の無い声で言うと、薫先生はダダをこねる子供のようなポーズで言った。
「ち、違うんだ。これはだな儀式というか、なんというかだな…」
薫先生は慌てふためくような仕草で、必死に言うが、遥斗の目の冷たさは変わらなかった。
「明日までにお土産何がいいか決めててね!私準備があるからもう行くね。じゃ~ね」
莉奈先輩は風のように去っていった。
「なんだったんだ。一体…?」
思わず力ない声でつぶやいてしまった。
「ところで薫先生はなんの用ですか?」
遥斗は確かめるようにそういった。
すると薫先生は、教卓の後ろに立ち、話を始める。
こう言う風になるのは、大抵何か依頼がある時だ。遥斗はそう思った。
「実は依頼があるんだ」
案の定遥斗が思った通りだった。薫先生はゴホンと咳払いをし、続ける。
「つい先日まで、文化祭実行委員として頑張ってくれたことにも礼を言うが、今度もまた働いてもらうことになった」
いつになく真剣な眼差しの薫先生だ。
「今回の依頼は莉奈が不在の間に行うことになる。その依頼内容とは――幼稚園訪問だ」
部室に流れる時間が一瞬のうちで止まったような気がした。
真剣な眼差しでいう割には、それほど酷な依頼でもなさそうだからだ。
そこに、雅が問おう。
「期間はどのくらいですか?」
薫先生は「ああ」と頷き答える。
「期間は、明後日の正午からだ3日間だ。学校にはすでに公認欠席の手続きは済んでいる」
遥斗たち三人は早い手回しに目を見開いたが、学校を公欠できるのは素直に嬉しかった。
続けて、木葉も質問をする。
「どうして幼稚園訪問をすることになったんですか?」
一番の疑問だった。何もないのに幼稚園側が訪問して欲しいと言うはずがないのだから。
「ああ、そのことか。君らが相手をする園児は、年長組だ。つまり、来年度から新小学一年生になる子供達ばかりと言うことだ。そこでだ、今まで幼稚園と言う狭い範囲にいた子供たちに実際に幼稚園以外から来る大人の人たちにされさせておく必要があるのだ。君たちが幼稚園訪問を依頼されたのは、そのためだ」
見事な理由だと思った。
遥斗たちは頷くことしか出来なかった。
「では、私からは以上だ」
そう言うと、薫先生は話を切り上げ部室から出て行ってしまった。
必然的に、部活をやる時間もなくなったわけで、遥斗たちも帰ると言う選択肢しか与えられていなかった。
各々鞄に荷物を詰め込んで帰る順をする。
「ねえ、遥斗帰る?」
「ああ、でも――」
いつもどおり木葉が遥斗と帰ろうと聞いてくる。が、今回は木葉だけではなかった。
「遥斗くん帰るんでしたら、私もご一緒させてもらえませんか?」
なぜか、雅まで聞いてきたのだ。
「えっと、ちょっと俺は用事があるっていうか…その、待たせている人がいるんだ」
「「え?」」
間の抜けた二人の声が部室内に木霊した。
◇
「ふう…やっと抜け切れた…」
俺が、こんなに疲れているのにもちゃんとした理由がある。
それは、つい先程まで遡る。
「えっと、ちょっと俺は用事があるっていうか…その、待たせている人がいるんだ」
「「え?」」
二人の間の抜けた声が部室内に木霊したそのすぐ後の事だった。
木葉が恐る恐る俺に聞いてきた。
「待たせてるって――、もしかして…?」
「え、木葉ちゃん知ってるんですか?」
雅もそれに食いつくように木葉に尋ねる。
「おいおい、ちょっと待てよ」
俺は、なにか不穏な空気を感じ取り、必死に手を振り、何かを誤魔化そうとした。
正直、俺自身も何を誤魔化しているのか分かっていなかった。
「もしかして…花美さん?」
「――っ」
俺は、言葉を詰まらせた。なんといってもそれが正解であり、図星だからだ。
「本当なんですか?」
雅が不安そうな声で聞いてくる。
俺はコクリと頷いて見せた。
「どうして?」
素直な疑問を口にしたかのようなその声は、少し不安の色が見えた。
「実は…あの文化祭の時、約束してたんだ。花美と友達になるって。それで、今日学校終わったら付き合って欲しいと言われ…」
顔を俯かせながら俺は言った。
「でも、行かない方がいいんじゃない?」
木葉は本当に心配しているような口調で言ってきた。
「私も木葉ちゃんに同感です」
続けて雅も言ってきた。これほどまで心配されていると少しばかり、こそばゆく感じるものがある。
「いや、でも俺は、前に進むって決めたんだ。だから、花美と会うのもその第一歩だろ?」
「それもそうですけど…」
雅はやはり少し納得がいかないように口を開いた。
「せっかく、一緒に帰れると思ったのに…」
「え?なんか言ったか?」
小さすぎて聞こえない声を聞き返したが、再び言ってくれはしなかった。そして、雅は僅かに俺を、上目遣いで睨んだ。
視線が痛いとはこのことだと悟った。
「本当に大丈夫なの?」
「ああ」
平行線上を辿りそうな会話が続いた。
俺は、その後5分かけてなんとか木葉と雅との言い合いを交わし、部室を出ることに成功したのだ。
部室を出たところで俺と木葉たちは別れ、木葉たちは玄関の方へ、俺は教室に向かった。
階段を降りると、いよいよ教室が見えてきた。
俺がいつも登校して授業を受けている教室。一年二組だ。
ガラガラと教室の扉を開けた。この時間帯の教室というのは生徒が全員いないためか、どこか静かな緊迫感に包まれる。
俺は、その緊迫感に負けないで扉を開けた先には、花美静夏が一人ポツンと待っていた。
「花美…」
俺の声に驚いたのか、花美は両肩を震わせて驚いた素振りをしてみせた。
「な、奥仲か…びっくりした」
「悪いな」
俺は、適当に謝りながら、花美の方へと進んでいく。
思えば時刻は18時過ぎ。学校が終わったのが15時半だから、2時間半も俺を待っていたことになる。
俺は、その努力に心から感心した。
「お前、ずっと待ってたのか?」
花美は首肯する。やはり、2時間半も待っていたのだ。
「それで、何に付き合って欲しいんだ?」
俺は、ぶっきらぼうだとは思ったが、聞いてみた。
すると、何か言ってはいけないことを言ってしまったのか、花美は黙りこんでしまった。
「お、…おい」
訝しみながら、花美の姿を見ること数十秒。
唐突に花美が顔を上げた。
そして、こういった。
「付き合って欲しいってのは、そういう意味じゃなくて…その、男女交際というか…つまり、好きっていうか…」
顔を赤らめながら、俺に告白をしてきたのだ。
「な、な、な、な…」
落ち着け、奥仲遥斗。これはトラップだ。前にも花美に騙されたじゃないか。確かに花美は美形だ。俺好みの清楚系のオーラをプンプン出してやがる。だが、俺はもう間違った選択肢は選ばない。
「お、お前…同じ手は食わないぞ…」
心なしか、俺の声は裏返りブルブルと震えていた。
だが、花美は続ける。
「この気持ちは本当なの…。二年前。あんたをハメた時から。あんたはずっと私に喋りかけてきてくれて嬉しかった。でも、そんなある日和明があんたをはめようぜって言ってきて…。私は断れなかった。そのせいであんたは残りの中学校生活を泥沼みたいな中で過ごしてきたのは分かってる。でも、この高校に転校してきてあんたが私と友達になるっていった時、前に進みたいって言った時思ったの。まだ、私はあんたのことが好きなんだなって…」
驚くべきことだった。
「こ、これは…ドッキリなんじゃ無いんだよな?」
改めて確認をとる。
花美はコクリと首肯する。
とんでもないことになった。
正直、今の俺にそこまでのことを言われてどうにか平静を保っていられる程の内容量はない。どうしたらいいのかさっぱり分からなかった。
せめて、時間が欲しかった。
「じゃ、じゃあ…」
うまく開かない口を無理やり開いて言う。
「じ、時間をくれ…その、考える時間を」
花美は何も言わずにただ頷くだけだった。
◇
その夜。遥斗はベッドの上で寝ながら今日あったことについて脳内でリプレイしていた。
『私はあんたのことが好き…』
突然の告白。はめられたことを除けば人生で初めての告白だ。
「まじかよ…」
未だに半信半疑なこの事実。遥斗は、翌わからない気持ちを体感していた。
明後日から幼稚園訪問があるというのに、これはまったく身体に良くないことが起きてしまったと思った。
遥斗は、眠りゆく意識の中で思った。
――疲れた…
こんにちは水崎綾人です。
一日遅れての更新です。正直、この章はやろうかどうか迷いました。前回の章での完結も考えたのですが、まだ続けることにします。
実際は、どうやって完結させたらいいのか着地点が見つからないというのが素直なところです。
ですが、一応まだ続けますので、皆さん応援よろしくお願いします。




