第27話「遥斗と雅の始まった実行委員」
莉奈先輩と雅の登場で部活が始まった。
いつもなら雅の指揮で今日何をやるかを決めているのだが、今日は違った。
「明日から、文化祭実行委員と合同でやることになりました。ですので、明日からは部室では無く、会議室に集合してください」
これを全て莉奈先輩が話したのだ。
俺は、心底ビックリした。莉奈先輩でもまともに連絡することが出来るのだということに。
ビックリついでに俺はずっと疑問に思っていたことを質問してみることにした。
「あの、そう言えばこの部の部長って誰なんですか?」
雅と莉奈先輩は顔を見合わせた。
そして、雅が代表として俺の問いに答える。
「この部に部長はいません」
「え?」
「なぜなら、この部はやりたいことをやるというのがモットーですから、部長などを決めてしまうと意見を出しにくかったしするのを、防ぐためにあえて決めていません。あくまでもみんな対等な関係であるのです」
やっと理由が分かった。
俺を含めたこの4人がすべて対等である。それは、変に縛られたくはない俺にとっては最高だった。
「明日から文化祭実行委員で働くのか…億劫だな」
雅が悩ましげにそう言う。
雅も俺と同じで誰かから仕事を押し付けられ、自分が苦労した経験があったのだろう。
俺も明日からの放課後は億劫だ。
「いや、でも俺らもいますから」
励ましになっていないような気がするが、それしか声をかけれなかった。
莉奈先輩は部室に設けられている戸棚に向いて歩き、中からクッキーのセットを撮って出した。
「じゃあ、みんなでお茶にしようか」
「じゃあ、私飲み物入れますね」
木葉が立ち上がり飲み物の準備を始める。
「莉奈先輩は何がいいですか?」
「私は紅茶がいいな」
「みやびんは?」
「私も紅茶で」
「遥斗は?」
「んじゃ、俺も紅茶を頼むよ」
「はーい」
言うと木葉は慣れた手つきでティーカップを取り出し、紅茶を入れ始めた。
萬部に入ってからというもの、木葉の紅茶を入れる技術は格段に上昇している。
入部当初は、一番下手くそで木葉の入れた紅茶はとてもじゃないが飲めた物では無かったのに、今では部で一番入れるのが上手い。
これも、萬部あってのおかげだと思っている。
「遥斗くんのクラスでは、何をやることになったんですか?」
「俺たちのクラスはお化け屋敷をやるんだよ。時間あったら見に来てくれ」
「行きます、行きます!」
「お、おう。ありがと」
雅の声はやけに力が入っていた。自分でも無意識のうちにその迫力に圧倒されていた。
雅は今から楽しそうに「お化け屋敷…」と小さく呟いてはにやけているように見えた。
まあ、楽しみにしてくれてるんなら嬉しいけど。
木葉が用意した紅茶をゆっくりと口に運ぶ。何とも言えない旨みが口の中で広がり「○○の宝石箱や~」なんて言ってみたくなる。
「にしても本当に美味しいね。このはん」
莉奈先輩は木葉に関心したように言う。
「そ、そんなことないですよ~」
手を振りながら謙遜して見せているつもりだろうが、嬉しそうなのは顔を見れば一発で分かった。
もう日が落ちるのが早い。5時になる頃には辺はもう暗くなっている。
「そろそろ帰るか」
俺がそう言うと、莉奈先輩を始め木葉、雅もそれに同調した。
俺は鞄から黒と白のチェックのマフラーを取り出し首に巻く。これをしないと外を歩くときは結構寒い。
「遥斗くんマフラーですか?いいですね」
雅は特に何もしていないようだ。
「雅は寒くないのか?」
すると、苦笑いをしながら恥ずかしそうに答える。
「え…っと、クローゼットから探すのが面倒で。その…」
うつむきながら言う彼女はどこか小動物的な印象を受けた。
「そうなんだ。ははは、確かに探すのは面倒だもんな」
「でも、もうそろそろ探しますよ?流石に寒くなってきましたもん」
そう言う雅の拳は強く握られていた。
そんな他愛もない話をしながら今日の部活は幕を閉じた。
◇
すっかり日も暮れて辺は街灯の明かりと住宅の明かりによる光だけで照らされていた。
歩く速度はいつもと変わらないはずだが、くらいと早く歩いているように見えるから不思議なものだ。
呼吸する息が街灯などの明かりに照らされて白く見え、季節が冬に向かっていることをより一層強調する。
明日から実行委員の仕事を始めれば、もしかしたら帰る時間がもう少し遅くなるかもしれない。
きっと毎日ヘトヘトになって帰ってくるのだろう。
俺は、軽く真っ暗な空を見ながら物思いにふけった。
冷たい風が鼻の中に入り乾燥する。
これから訪れる仕事への憂鬱さを表すように。
◇
文化祭実行委員―。そんな厄介な仕事を押し付けられた萬部。
今、部屋で目覚まし時計がなっているのにまだ寝ている少年もまた、その部員の一人だった。
少年の名前は奥仲遥斗。遥斗は、何度も何度も寝返りをうち、その度、気持ちよさそうな顔を見せる。
「遥斗―。おきなさーい」
母親の声も遥斗の耳には入らない。
いよいよ痺れを切らした母親は、遥斗の部屋へと続く階段を上り出す。
一歩、また一歩と母親の足が遥斗の部屋に近づいていく。
そして、遥斗の部屋のドアは開かれ
「遥斗!いつまで寝てるの?遅刻するわよ」
母親の声が遥斗の鼓膜を伝い脳内に伝播する。
その声で目覚めた遥斗は、文字通りベッドから飛び起きた。
「あ、あ、あ…」
口からは涎がたれている。まだ寝ぼけているようだ。
遥斗は目を擦りながら、近くにある時計に目をやり今の状況を理解しようと試みる。
理解するのにそこまでの時間はかからなかった。
時計は8時05分を指していた。この時刻は遥斗が寝坊しても学校に間に合う時間を少し過ぎているのだ。
「あ、あ…あ…。あああああああああ!」
ことの重大さに気付いた遥斗は大慌てで支度を開始する。
ブレザーに着替え、必要な物を鞄に詰め込んだ。そして、朝飯を物凄い勢いで平らげた。
髪は、仕方ないので多少の寝癖には目を瞑ることにした。
玄関を出たのは8時15分。これだけのことを10分と言う短時間でこなしたのにも驚きだが、あと15分で学校につかなければならない。
これは遥斗の家からでは走ればギリギリ間に合うかもしれないが、遥斗には15分も連続して走れるだけの体力はない。
何か方法はないかと模索していると、あることを思い出した。
「そうだ…自転車だ。チャリで行けばなんとか間に合うんじゃ」
と言い、遥斗は物置までダッシュで走った。
幸い物置に鍵はかかっておらず、滞り無く自転車を出すことができた。
出された自転車はホコリをかぶっていたが、動作には支障ないようだだった。
「これなら行けるな」
ホコリを払い、勢いよく自転車の鍵得を開け、スタンドを後ろに蹴り上げる。
サドルに跨り、ペダルを力いっぱいに漕ぎ出す。
遥斗の自転車はママチャリでありながらギアが三段変速出来る自転車であるため、一番スピードのでる3で漕いだ。
自転車はどんどん速度を上げていく。が、冷え込んだ空気が顔にあたり、痛い。
その痛みと戦いながらも自転車を漕いだ。
いつもの通学路を勢いよく走り去っていくと、ようやく学校が見えてきた。
時計は8時25分を指している。最初は、冷たくて痛かった空気や風が、今では、火照った身体を冷ましてくれて気持ち良かった。
もう、遅刻ギリギリで松前もいなかったので、遥斗は校門を猛スピードで走り抜け、駐輪場を目指した。
駐輪場の適当な場所に自転車を止め、校内に入った。
時計は8時28分。
―ギリギリセーフ。走った甲斐があった。
遥斗はそのまま教室に向かった。
席替え後によくあることだが、前の席に間違って向かってしまった。
「奥仲くんの席ここじゃないよ」
読書をしている神崎に言われた。神崎は読書の邪魔をするなと言わんばかりに、こちらに睨みをきかせてきた。
遥斗は、今度こそ自分の席に着くことができた。
隣には既に木葉が座っていた。
「何やってたのよ?」
遥斗を問い詰めるような声のトーンに遥斗は少したじろいでしまった。
「あ。えっと、寝坊しちゃって、自転車で走ってきたんだよ」
木葉はぷいっとそっぽを向いて
「一緒に学校行こうと思ったのに…」
「え?何か言ったか?」
遥斗はマフラーを外しながら聞く。
耳元でマフラーが擦れ、木葉の声がよく聞こえなかったのだ。
「別に」
遥斗は、木葉が何に怒っているかが分からず少々困惑してしまった。
木葉の隣になってから二日目。まだ、慣れない。
いままで木葉とは比較的近い位置にいたつもりだが、まだ彼女のことを完全には理解出来ていない自分が遥斗の中にはあった。
だが、遥斗の持論として『全てを理解するなんて無理。理解出来ないのが当たり前』というのがある。
遥斗はその持論に基づいて木葉のことを最初から、全てを理解する気はないのだ。ただ、一緒にいる時間の中で分かっていくことが増えればいいなと思う程度にしか。
◇
今日から文化祭準備週間だ。生徒は全員係が割り振られているため、放課後はそれぞれが仕事へ向かうことになる。
遥斗と木葉は文化祭実行委員の仕事があるため、集合場所の会議室に向かった。
遥斗たちが向かう頃にはもう、会議室には結構な人数が揃っていた。
その中には、もちろん雅や莉奈もいる。
どうやら各クラスごとに席が割り振られているらしい。
遥斗と木葉は自分たちの席に座り、担当教師が来るのを待った。
4時ちょうどに会議室の扉は開かれた。入ってきたのは前宮薫。
彼女は、遥斗たちのよく知る人物だった。1年2組の担任で萬部の顧問。遥斗とは縁が大アリの人物だ。
薫先生は自己紹介がてらに言う。
「文化祭実行委員担当の前宮薫だ。今日からしっかり働いてくれ」
響くように発せられた声は、いつも遥斗たちが教室や、部室で聞くのと同じ物だった。
「早速だが、ここで委員長を決めたいと思う。出来れば3年生がいい」
3年生は話し合いを始め、誰がやるかを決めている。
その間も薫先生は口を止めることなく、話し続ける。
「それと副委員長も決めてくれ、出来れば2年生がいい。それと、この委員会を2つに分けようと思う」
2年生も話し合いを始めた。いよいよ1年生は暇になってしまった。
何やら薫先生は黒板に書き始めた。
・事務係リ
・掲示・装飾係り
「話し合いの最中悪いが聞いてくれ。この委員会を2つに分けるにあたって、各クラス二名ずつ来てもらっているはずだ。半分は事務、半分は展示・装飾に回ってくれ。これは各自で決めてくれ」
と言うと薫先生は椅子にすってしまった。
遥斗」は木葉と話し合いを始めるために、木葉の方を向く
「んで、どうする?」
「どうしよっか?」
「でも、まあ俺が装飾とかやってもな…」
「じゃあ、事務やる?」
「そう…なるな。お前は装飾で大丈夫か?」
「大丈夫、任せて!」
「頼もしいな」
木葉は自分の胸を叩き、誇らしげに見せた。
「委員長、副委員長は決まったか?決まったら前に出て自己紹介と意気込みを頼む」
言うと3年生と2年生が前に出て自己紹介を開始した。
正直、どれもどこかで聞いたようなものばかりで飽き飽きした。
遥斗は事務に、木葉は展示・装飾に決まった。
「よし、では自己紹介が済んだところで、さっそく部屋を移動しよう。事務はこの部屋でいい。展示、装飾は付いてきたまえ。事務の者は戻ってくるまでゆっくりしていてくれ」
と言うと、薫先生は展示、装飾のメンバーを連れて会議室を出て行ってしまった。
取り残された会議室の事務のメンバーは、各々はおしゃべりを始める。
こんな時は、友達が少ないのが無性に辛くなるときのシチュエーションでも上位にくる。
特に何もやることのない遥斗は椅子に浅く腰をかけ、背もたれに深く寄りかかった。
すると、
「遥斗くん」
と、自分を呼ぶ声がしたと思い後ろを振り返ると、遥斗のよく知る人物が立っていた。
そこにはメガネを外し、今までとは少し違うが、だがはっきりと誰だか分かった。
それは、小野雅。遥斗と同じ萬部の部員だ。
「おっ、雅」
遥斗は驚いて、椅子の上でバランスを崩しそうになる。
「お前は木葉と同じように、展示・装飾に行ったのかと思った」
「莉奈さんは行きましたけでね。私は事務の方が向いていると思ったんです。遥斗くんもですか?」
遥斗は首を上下に首肯し、答えた。
「ああ、俺には展示はまだしも、装飾は無理だからな。木葉に頼んで事務にしてもらったんだよ」
「そうなんですか」
雅は嬉しそうに聞きながら、遥斗の話に相槌をうつ。
「私正直、不安だったんです。委員会を二つに分けて仕事をするって言われたとき。誰も知り合いがいなかったらどうしようって。でも、遥斗くんがいて良かったです」
ここまでストレートに感謝の言葉を言われると、どうも照れてしまう。
遥斗は急に後頭部がむず痒くなる感覚に襲われた。
「ははは、そう言ってもらえると何よりだよ」
手に汗が滲む。最近の雅は、遥斗にとって優し過ぎるのだ。
彼女の中でどういう変化があったか分からないが、優しすぎて最初の印象とは違ってくる。
それに、一昨日の夜、雅とのあんな夢を見てしまったあとなので、まともに顔を合わせるとあの夢がフラッシュバックして来て、顔が火照る。
「どうかしました?」
雅が遥斗の顔の前で手を振ってみせる。
ボーッとしていた遥斗は我に戻ると、そこには爽やかに微笑んだ雅の顔が広がっていた。
「い、いや。何でもないよ」
適当にはぐらかす遥斗に、雅は「本当ですか~」というかの如く上目遣いでこちらを覗いてくる。
遥斗は一刻でも早くあの夢を忘れたいと思った。
このままでは。雅と会話をするだけで、赤面して意識が飛んでしまう。
こんにちは水崎綾人です。
雅が変わった事に驚く遥斗。これは当然ですよね!いきなり変わられたら驚きます。
そんなことはさておき、雅は今回の後半メガネを外した状態で登場しまいた。今後彼女はどういうように変わっていくのか、お楽しみください。
次話もお楽しみに!




