第24話「デートの後で彼と彼女は思い悩む」
ゲームセンターをあとにした俺たちは、中心街を歩いていた。
楓は俺の右側を歩いている。
手には、俺が先ほど奇跡的な確率でゲットしたクマのぬいぐるみを大切そうにっ変えている。
ちなみに、ファションショップで買った、楓の洋服は俺が持たされている。
ファッションショップとゲームセンターで疲れたので、そろそろ昼食にしたい気分だ。
「楓、飯にするか?」
「うん!」
時計を見ると13時をちょうど過ぎていた頃だった。
「さてと…」
このあたりには、結構な数のレストランや、寿司屋などの飲食店が存在する。
「どこがいいか」
キョロキョロと迷っていると、楓が俺の上着の裾を引っ張る。
「どうした?」
「あそこがいい」
と指をさしたのはファミリーレストランだった。
ファミレスなら、俺の財布をそこまで圧迫せずに済むから、俺としても好都合だ。
正直、寿司屋だ、ステーキ屋だとでも言い出すのではないかとヒヤヒヤしたものだ。
看板を見ると、どうやらそのファミレスの名前は『ミライ』というらしい。
実に、食とは関係なさそうなネーミングである。
だが、すぐに楓がこのファミレスがいいと言った理由と、名前が『ミライ』となった理由が分かった。
すぐ横にある食品のイメージ画像を掲載した看板に、明らかに現代の料理ではない料理画像が掲載されていたのだ。
というよりは、未来をイメージしたような印象を受ける料理が掲載されていたのだ。
正直、俺はあまり気乗りしなかった。
ここで食べるよりなら、少しくらいお金が多くなっても寿司屋や、ステーキ屋で食べたほうがまだ安全な気がした。
「本当にここでいいのか?楓…」
楓は大きく頷く。
どうやら、本当にここで食べたいらしい。
ここまで食べたいと言われたら、食べさせない訳のもいか無いので、俺はこの店で昼食を食べることを決意した。
意を決してファミレス『ミライ』の自動ドアの前まで歩いてきた。
「ほ、本当にここで…」
「お兄ちゃん、しつこい!」
怒られてしまった。
仕方ないと、また新たに決心してドアをくぐる。
ドアをくぐるとそこには、特に未来風でもない普通のウェイトレスさんが俺たちに人数の確認に来た。
「いらっしゃいませ~。2名様でよろしいですか」
「はい」
と俺は答え、そのまま席に通された。
ボックスの席に通された。だが、そこの席は普通のファミレスのものでは無かった。
何が違うかと言うと、根本的に違う。
普通のファミレスなら、普通の椅子や、普通のテーブルがある席に通されるが、俺たちが通されたのは普通のファミレスのそれとは違った。
極端に湾曲したテーブル。「く」の字に曲っていてどこに食事を置いたらいいか考えるのに時間がかかる。
さらには、四六時中ピカピカと七色に発行する椅子。この椅子は座り直したり、椅子に新たに重みがかかると「ぎゅーん」とどこが幻想的な機械音が流れる仕組みになっているらしい。
俺も最初驚いた。
ウェイトレスさんは業務的に仕事をこなしていく。
メニューをテーブル脇のメニュー入れに挟み、
「それではご注文が決まりましたら、そちらのコールボタンを押してお呼び下さい」
とこれもテーブル脇に置いてある変に曲がったボタンを手で指す。
席全体が青色がメインに塗られているので、遊園地にでも来たような感覚に陥ってきそうだ。
「何なんだ、ここは」
俺のつぶやきに楓は答えた。
「楽しいよね!」
俺は実の妹の完成に「そうか」としか返せなかった。
入ってしまった以上、注文するしかないので、俺たちは互いにメニューを開いた。
メニューを開くとそこには、先程店の前で見たような近未来をイメージさせるかのような料理ばかりが目立った。
名前も実に個性的だ。
・ローストビーフのブラックホールミックス
・照り焼きチキンフューチャー
・時を超えたポテトのサラダ
・近未来お子様ランチ
・ハイブリッドカレーライス
どれもこれも危険な香りしかしなかった。メニューの料理イメージ画像には、どれもこれもよくわからない食器にトッピングされ料理が映し出されていた。
幸い、料理自体は普通そうだったので安心した。
だが、ステーキ料理のお好みで選べるソースの種類の欄には違和感を覚えた。
普通のファミレスみたいにデミグラスなども確かに存在するのだが、『ダークマター』と書かれたソースがあったのだ。
これでは、近未来と言うより宇宙的な印象を受ける。
「楓さん、どれにしますか?」
さすがにこのメニューを見たら引いているだろうと思ったが、実際はその逆だった。
楓のメニューを見る目はキラキラと輝いていた。
「おーい」
と言って楓の顔の前で手を振ってみせた。
するとやっと気がついたのか、楓は両肩をビクッとさせ驚いていた。
「な、何お兄ちゃん?」
「メニューは決まったか?」
楓は、メニューのページをペラペラと捲り、あるページで捲る手を止め料理に指をさした。
「これ!」
と楓が指し示した料理は
『グレイトグリルのミックスグリル』
と言うものだった。
料理イメージ画像を見ると、やはりどこか湾曲している皿にステーキとウインナー、さらにはチキンなど様々な肉料理がトッピングされていた。
「お、おお…」
「美味しそうでしょ」
にこやかにいう我が妹に俺は、頷くことしか出来なかった。
「あとね…」
と楓は、再びページを捲り始めた。
俺は、楓と伊達に兄妹をやってきていない。楓が探しているページにはデザートがあるだろうと言うことは簡単に予想できた。
楓はページを捲る手を止め、再び「これ!」と言い、俺に料理名とイメージ画像を見せてきた。
『七色レインボーのドリームパフェ』
と言う色とりどりにデコレーションされたパフェにウエハースが刺さっている。
名前からは、どこが未来的なのかもう分からなかった。
俺は、『タイムリープカレーライス』と言う料理にすることにした。
俺がこれを選んだのはこれが、数あるカレーライス料理の中で、唯一普通のカレーライスに近いように見えたからだ。
あと、ドリンクバーも付けておくことにした。
テーブル脇にあるコールボタンを押し、ウェイトレスさんを呼ぶ。
「はーい」
とウェイトレスさんが伝票を持ってこちらにやって来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、えーと。タイムリープカレーライスが一つ、グレイトグリルのミックスグリルが一つ、七色レインボーのドリームパフェが一つ、ドリンクバー付きで以上です」
「デザートは、食後でよろしいですか?」
「はい」
と、注文を終えるとウェイトレスさんは注文の確認に入った。
正直、『グレイトグリルのミックスグリル』に関しては、よく噛まずに言えたものだと心の中で自分を褒めた。
注文を確認し終えたウェイトレスさんは、伝票を丸く丸めて筒の中に差し込み、俺たちの席をあとにした。
「それにしても、どこが未来か分からん料理ばっかりだな」
メニューを見ながら静かにぼやく。
楓は、楓で楽しそうにやっているからいいのだが…。それにしても、『ダークマター』と言うステーキのソースは一体どんな味がするのだろうと少し興味をそそられていた。
「楓、本当にここでよかったのか?」
「今更、何言ってるの、お兄ちゃん?」
「そうだったな」
楓の言うことは真っ当だった。意味合いは、違えど今更言っても仕方がない。
メニューを見ていてさらに気付いたことがあった。
この店の料理は地味にどれも値段が高かった。
料理のネーミングと、食器などに気を取られていたが結構な値段を取られるらしい。
「まじか…」
楓にも聞こえない程、小さく呟いた。
少し待つと料理が徐々に運ばれてきた。
まず最初に運ばれてきたのは俺の料理だった。
「お待たせしました~。タイムリープカレーライスになります」
湾曲しているテーブルに器用に乗せ、また戻っていく。
それから、数分も経たないうちに楓の料理が運ばれてきた。
「こちらグレイトグリルのミックスグリルになります。ステーキのソースはどうなさいますか?」
と聞かれると楓は間髪入れずに
「ダークマター」
「ぶっっ!」
思わず吹き出してしまった。まさか、本当に『ダークマター』なるソースを注文する人間が居るとは思わなかったのだ。
「大丈夫?お兄ちゃん」
「お、おう…」
口を手で拭い元の状態に戻る。
「かしこまりました」
と言うと、ステーキを運んできた台車の下の段から『ダークマター』なるソースが入っている瓶を取り出した。
「少々はねる可能性がありますのでお気を付け下さい」
といい、ステーキに『ダークマター』なるソースをかけた。
ウェイトレスさんの忠告通り、多少はねたがそれほどまででもなかった」
『ダークマター』なるソースは液体だった。デミグラスのように粘り気があるわけでも無かった。
「ごゆっくりお召し上がりください」
と言い終えるとウェイトレスさんは俺たちの席を後にした。
俺は自分の料理より、楓がこれから食す『ダークマター』ソース付きのステーキの方に興味が向いていた。
俺の視線に気がついたのか楓が訪ねてくる。
「もしかして食べてみたいの?」
「え?…あ、まあ」
楓はニヤリと少しだけ唇の端を上げ、器用にナイフとフォークを使ってみせた。
そして、一口サイズに綺麗に切られた『ダークマター』ソース付きステーキを俺の方に向けてきた。
「えっと…これはどういう?」
「あーんしてあげる」
「はっ!?」
フォークでステーキを固定し、手皿で落としても大丈夫なようにして、さらにこちらに突き出してくる。
「食べたいんでしょう?」
今日ほど楓を小悪魔だと思った日はないと心から思った。
しかし、実際『ダークマター』には興味があったため、食べてみたい。
俺は、これまた意を決して楓の誘いを受け入れることにした。
「はい、あーん」
「あ、あ…ん」
人生初のあーんが、実の妹だというのはどうだろうかと思いながら、楓にあーんされた。
口にほうられたステーキからは馴染みのある味がした。
そうだ、この味は…
「ポン酢だ」
俺の中のシナプスが繋がったような気がした。
あれほど、頭を悩ませ物凄い興味まで惹かれた『ダークマター』と言うソースがどこの店にでもあるようなポン酢だったのだ。
ポン酢ならソースですらない。
「ぽ、ポン酢だったのか…」
俺は、ポン酢だったと言う事実と、あっさり感に頭をたれた。
「お味はどう?」
聞いてくる楓に俺は
「ポン酢だよ」
かすかに涙ぐんだ声でそう答えた。
俺は、自分のカレーも口にしたかどこもタイムリープな感じにはならず、普通のカレーだった。
楓も、ステーキを食べ終わり、デザートのパフェが運ばれてきた。
このパフェは本当に配色が綺麗で、見ているだけでも結構すごかった。
「美味しいか?」
満足そうにパフェを頬張る楓に聞く。
すると
「うん!」
と可愛げに声を上げ、続けて頬張る。
これだけ喜んでいるなら、まあ連れてきたかいがあった。だが、同時にもうファミレス『ミライ』には来たくないとも思った。
最後の一すくいを終えて、綺麗に完食されたパフェの容器には、本当にクリームの一つも無かった。
「お前、綺麗に食ったな」
「でしょ~」
他愛もない会話をしながら会計を済ませるためにレジに向かった。
レジにて打ち出された金額に俺は驚きを隠せなかった。
確かに一品、一品値段は高かったが、合計するとこれほどまでになるとは。
映し出された金額は、6,960円。
割と財布へのダメージは大きかった。
会計を済ませた俺には、とてつもない虚無感が押し寄せてきた。
「お腹いっぱいだよ~。ありがとう、お兄ちゃん」
「あはは、どういたしまして」
無気力な言葉で返す。
それから、どこへ行くわけでもなく街中をブラブラ歩き回っているときのことだった。
楓がいきなり俺の左腕に腕を組ませてきたのだ。
そう、まるでカップルがするように。
あまりのことに俺は動揺せずには、いられなかった。
「な、な、な、何やってんだよ!」
「今日は、とても嬉しかったから、何かこうやりたくなっちゃって」
嬉しかったから腕を組むと言う発想は俺には理解出来なかった。
腕から離れる様子もないので、俺は変な気分を味わいながら街中をただひたすら歩いた。
どれくらい歩いた時だっただろうか、俺は誰かに呼び止められた。
「遥斗くん?」
俺のことを『遥斗くん』と呼ぶ人間は、俺の知る限り一人しかいなかった。
それは莉奈先輩だ。莉奈先輩に今の状況を、いられれば、ほぼ確実に面倒なことになるだろうと俺は、恐る恐る声のした方へ振り返った。
振り返った先には俺の予想していた人物とは全く違う人物が立っていた。
いつも掛けているメガネを外し、見えているその端正な顔。黒くて綺麗な髪。そしてなにより俺のことを名前ではなく、『セクハラくん』と呼ぶその人物。
そう、俺を呼び止めたのは小野雅だった。
「小野…」
ある意味、この状況を小野に見られたのは莉奈先輩より厄介かもしれない。
「遥あっ、セクハラくん…」
小野は言葉を詰まらせ、こちらから視線を外す。
とてつもなく気まずい空気が俺たちの間には流れた。
「え…っと…邪魔してすみません」
そう言うと、小野は足早に去ってしまった。
俺は、彼女に声もかけることが出来ずにいた。
「どうしたの?」
楓が聞いてくる。
今のことを楓に話したら、恐らく楓にも心配をかけることになる。
「え、ああ、何でもないよ」
俺は無理に笑い誤魔化した。
内心、小野にあったことの動揺は大きかった。
別にやましいことは無い。だが、どう勘違いされているかが物凄く心配だった。
その後、夕方になり俺と楓は自宅に帰った。
この時も大空と会うのではとドキドキしていたが、そんなことは無かった。
◇
その日の夜。
俺はベッドに横になりながら明日のことを考えていた。
誤解のされようでは、とてつもなく厄介なことになる。
「面倒なことになった…」
小さく呟いた。
その時だった。
俺の部屋をコンコンと誰かがノックした。俺は、ベッドから起き上がりドアまで行くのも面倒だったため、その場で「どうぞ」と一声かけた。
ドアを開き顔を出したのは、楓だった。
「どうした?」
「あのね…今日はありがと。おやすみ」
にこやかな顔でお礼を言ってきた楓に俺は
「ああ、おやすみ」
と返答し、見送った。
俺は思った。小野がもし誤解をしているのならば、本当のことを言って誤解を解くしかない。別にやましいことはしていないのだから。
なんだかんだ言っても小野とは部員として、友人として友好な関係を築いていきたいと思っている。
そのままこの日は寝ることにした。
◇
清潔な内装の部屋。そう、この部屋は雅の部屋だ。
彼女は今、あることに悩んでいたのだ。
今日、奥仲遥斗と一緒にいた少女のことだ。
あの可愛らしい女の子は一体誰だったのだろうかと。
もしかしたら…無数の考えが彼女の脳を駆け巡る。
彼女もまた、明日遥斗とどう話していいのかが分からずにいた。
「どうしよう…」
雅が彼を『セクハラくん』と呼ぶのは彼自身を信用している証拠だ。信用のない人物にあだ名などつけない。
雅は心の中にモヤモヤとしたものを残しながら、眠りに就いた。
こんにちは水崎綾人です。
今回、妹とのデートが意外な人物にバレてしまいました。如何わしいことをしているわけではないので堂々とすればいいのですが、そうも行きませんよね。誤解されたらどうしようとか、色々と不安に思うことはあるでしょう。
では、次回は何が起こるのか?
次話もお楽しみに!




