第22話「ひょんなことから遥斗は実妹の楓とデートをする 前編」
今、俺は神ケ谷市の中心街に一人でぽつんと立っている。ここは、神ケ谷市では有名な大きな木ある公園だ。この公園の名前は『若葉公園』。
ここで俺は、ある人を待っているのだ。いや、ある人に待たされているのだ。
少し立つと、遠くから声が聞こえてくる。
「お待たせ~」
そう言って小走りで走ってきたのは俺の妹、奥仲楓である。
俺は彼女のもとに向き直り
「ああ。待ったよ、すっごく待ったよ」
にこやかに微笑む我が妹を見ながら俺は答える。
俺たちの周りには若い男女がイチャイチャしていたり、待ち合わせをしたりしている。それは、この公園は、よくカップルでデートしたり、待ち合わせで使われているからだ。
ここに俺たちがいるのはどう考えても場違いな気がする。ましてや、兄妹で待ち合わせをするためにこの場を利用するだなんて、もはや意味がわからない。通常の兄妹ならば、待ち合わせなどをする必要自体ないのだから。
「それじゃあ、行こっか」
楓は意気揚々と彼女の足を進ませる。
「おう…そうだな」
俺は気乗りしない声で返事をしながら、楓の後をついていく。
そもそも、どうして俺が実の妹の楓とこんなデートのようなものをしているかと言うと、それはかれこれ金曜日の夜にまで遡る。
◇
金曜日のことだった。
萬部の面々は『文化祭のテーマ決め』を真面目に考えているわけではなく、部員の意見としては、「あと2週間あるんだしゆっくり決めよう」ということになり、結局いつも通り、小野や莉奈先輩がやりたいことに、俺たちが付き合うというものだった。
その日もなんだかんだで疲れきった状態で家に帰宅した俺は、家に着く頃にはもうヘトヘトだった。
「ただいま…」
玄関の扉がいつもより重く、大きなモノに感じられた。
俺は夕食を取るためにリビングに直行した。親父はまだ帰ってきておらず、食卓には母さんと楓が既に食事をしていた。
「あら、遥斗おかえり」
「ああ、ただいま。飯にするは」
「は~い」
と言うと、母さんはキッチンの方に向かった。その間、リビングには俺と楓の二人になってしまった。楓は食事する手を止め俺の方に向き直る。
「ねえ、お兄ちゃん」
「うん?どした」
少しうつむきながら小声で発する。
「あの、約束のことまだ覚えてる?」
「え、約束…ああ、覚えてる、覚えてる」
危ないところだった。また、忘れかけていた。俺は、楓の方を向き大げさに身振り手振りをしてみせた。
言うと楓はかすかに口角を上げ、さらに言う。
「じゃあさ、今週の日曜日私に付き合ってよ」
「はぁ!?」
突然の発言に俺は思わず自分の耳を疑ってしまった。何度も言うが、楓は中学二年生の女子なのだ。それくらいの年頃の女子は反抗期真っ只中で、家族と一緒にいるのが恥ずかしかったり、嫌だったりするものではないのか。自分の中にある女子中学生のデータをもとに俺はあれこれ考える。
「だから、私とデートしてよ」
決定的な言葉が発せられた。「デート」これは兄妹の間柄でも通じるものなのか。アニメや漫画などではしばしば、兄妹で恋愛関係になったりするものもあるが、現実でも存在するのか、など俺の頭はパンク寸前だった。
「ダメ…?」
「い、いや…」
返答に困る。元はといえば俺が埋め合わせをすると言って約束したのが始まりだ。それを信じて頼んでいる楓のお願いを簡単に断ってしまうのは可愛そうだ。
大体、『デート』と称してはいるがこれは恐らく『お出かけ』の代名詞であると思われる。いや、絶対そうだ。
この『デート』を『お出かけ』と称しているのならば、俺の断る理由はないし、断る権利もない。ならば、
「分かった。日曜日付き合ってやるよ」
言うと楓はとても嬉しそうに笑った。兄うとのお出かけでそこまで嬉しいものかとも思ったが、これだけ喜んでくれれば、ことらとしても嬉しくなってくる。
その日、もう俺がベッドに入り寝につこうとしていた時だった。
俺の部屋のドアをコンコンとノックをする音がしたと思い起きて、ドアを開けた。
そこには、眠たそうな目をしてでも頑張って目を擦っている楓の姿があった。
「どうした?」
と俺は訊ねる。楓は健康志向なのか身体がもたないのか分からないが、夜10時には寝てしまうのだ。だから、俺が寝ようと思うくらいの時間まで起きているのは楓にとっては珍しいことなのだ。
「……、お兄ちゃん…。日曜日の待ち合わせのことなんだけどさ…」
ん?待ち合わせ?何を言っているのか俺には理解できなかった。楓の言動の意図を知るために俺は楓に「なんのことだ」と聞こうとした。が、その時には楓の意識は夢と現実の間を往復しているようだった。
そのため、今のままではまともな話ができないと判断した俺は、楓をお姫様抱っこで抱き抱え、楓の部屋まで運んでやった。楓は驚くくらい軽くてビックリした。
なぜなら、取り立てて筋トレもしていない俺が簡単にお姫様抱っこが出来るくらいなのだから。
楓の部屋につくとさっきまで俺の腕の中でぐっすり寝ていた楓が寝ぼけ眼に目を覚ました。
「お兄ちゃん…まちあわ…」
「分かったって、今日はもう寝ろ。明日しっかり聞いてやるからな」
そう言うと、俺は楓の身体に毛布を被せ、寝かしつけて部屋から出た。
翌日、俺は午前中は萬部の活動があるため学校へ向かった。
休日の部活と言っても普段とそんな変わりなく、ただ時間が過ぎていった。こんな萬部でも集まっただけで何にもやらない日が多々ある。
そんな日には、部室に蓄えられているお菓子やコーヒー、ジュースなどを皆でつまみ、読書をしたり世間話をしたりなど様々やっている。
今日は、お菓子などを皆でつまむだけの部活だったため自ずと身体は疲れなかった。
いつものように家がお隣である関係上大空と一緒に帰った。ここまではいつも通りなのだが、問題はこのあとだ。
普段通り玄関を開け「ただいま」というところまでは良かった。
しかし、俺が家に入った瞬間。楓が猛ダッシュで玄関まで走ってきたのだ。尋常じゃないその早さに俺は言葉を失ってしまい、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
ぜーぜーぜーと、荒く息を吐き、呼吸しながら
「お…兄…ちゃん、おか…え…り…。はーはーはー」
と言葉を発した。楓は額に汗を浮かべており俺は正直その勢いに圧倒されて何も喋れなかった。
少しすると、楓の息も元に戻り呼吸も普通になっていた。
「お兄ちゃん」
「な、なんだよ?」
「昨日言えなかった待ち合わせのことんだけど」
そうだ、待ち合わせだ。俺は昨日の夜疑問に思っていたことをすっかり忘れていた。
「その待ち合わせって何なんだ?兄妹なんだし待ち合わせをする必要も無いだろう?」
すると楓は少々頬を膨らませ唇をつぐんだ。そしてまたすぐに俺の質問に答える。
「だって、待ち合わせしたほうが、デートっぽいじゃん」
「デートぽいって…」
「ダメ?」
と上目遣いで聞いてくる。この状況は、例え実妹じゃなくても、断ると相手に深い罪悪感を与えるのだ。俺もその力に負けてしまい、あっさりと了承してしまった。
「じゃあ、場所は『若葉公園』ね」
と、いう具合に俺は妹、楓とのデートを引受け、さらには待ち合わせまでしているのだ。
「ほーらお兄ちゃん早く~!」
歩くのが遅い俺に楓が元気な声で俺を呼ぶ声が風に乗って響く。
こんにちは水崎綾人です。
今回は楓とのデートがテーマです。これは、遥斗が木葉を柏崎から助けに行った際、楓の運動会を見逃してしまったことが原因でしたね。あの時、遥斗は「この埋め合わせは必ずする」と言っていましたしね。楓はずっとこのことを覚えていたのでしょう。
そして珍しいことに今回はまともに喋っているのが遥斗と楓だけです。木葉も雅も新キャラであるはずの莉奈先輩も喋っていません。次話では遥斗と楓以外に誰が登場するのかもお楽しみにしてください。
それでは次話もお楽しみに!




