第18話「ついに登場! 神崎莉奈」
「ういーっす」
俺は例によって毎回のごとく部室のドアを開きながら挨拶を軽く流した。
すると、目の前には俺の今まで見たことのない人物が小野雅と親しげに話していた。なんだ?どうしたんだ。
そのまま、何もすることができずドアの前に立ちつくいていた俺に気付いたのか、小野がこちらにやって来た。
「セクハラくんどうしたんですか?」
いや、だから俺はセクハラくんじゃないって。と、言いたかったが、面倒なので今回はスルーしよう。
「あ、いや…あのひ――」
「そこは、『俺はセクハラくんじゃねえよ』って言うところでしょ」
何なんだよコイツ…。
「おお、そうか。そいつは悪かったな」
俺は、まともに構うのも面倒なので今回こそ華麗にスルーした。
「ところで、あの人は誰だ?」
俺は、小野の後ろにいる笑顔がやけに素敵な女子生徒を指さした。彼女は身体を左右に揺らしてこちらのことを伺っているようだ。
「あ、指さしちゃダメですよ」
小野に指摘され、その指を彼女から背ける。
その時、勢いよく部室のドアが開き大空木葉がやって来た。
「そういえば今日は木葉ちゃんと一緒じゃないんですね?」
「当たり前だ。いつも一緒にいて変な噂とかたったら大変だろうが」
「そうなんですか?この前は木葉ちゃんのことであれだけ悩んでたのに?」
痛いとこをついてきやがる…。大体、俺がこの前大空を気にかけていたのは、別に恋心とかの類では無く、俺を頼ってきた大空に対して俺は何も出来なかったと言う自責の念からなのである。
「そんなんじゃねえよ」
とにかくこの話題を終わらせたくて仕方なかった俺は、少々冷たく話を切り離した。
「ねえねえ、みやびん!」
大空もこの部室にいるもう一人の人物の存在に気付いたのか俺たちの方にやって来た。
「はいはい、何?この葉ちゃん」
小野は大空の母親かのような対応をしている。こいつら、本当に友達になったんだな。柏崎との一件以降、大空は積極的にクラスの連中に話しかけるようになり、昔みたいに大空の席の周りには人だかりが出来て瞬く間に人気者になっていた。もともと、人に好かれやすい性格のため、少し打ち解ければあっという間に友達が出来るのだ。そんな今でも俺のことを「遥斗」と見捨てずに呼んでくれることには、少し嬉しさを覚える。
「よし、分かりました」
と、小野は自分の胸の前でぱんっと手を叩き再び話し始める。
「二人とも知りたいことは同じとのことですので、ご紹介しましょう」
と言うと小野は後ろで身体を左右に揺さぶっている女子生徒をこちらの方に招き寄せた。彼女は嬉しそうにテクテクとこちらに向かって歩き始めた。
「ご紹介します。我が萬部の部員にして先輩、神崎莉奈先輩です」
そういえばあと一人部員いるって言ってたけどこの人か…つか、学校始まってんのに旅行に行ってるとか自由すぎる…。
「ようやく全員揃ったか」
いきなり放たれたその声に俺たち全員声のした方向に物凄いスピードで向いた。
「か、薫先生…どうしているんですか?」
「んな、どうしてって、それは私がこの部活の顧問だからだ」
腕を組みながら壁に寄っかかって格好つけていた薫先生もさすがに焦っているようだった。
そうだった…この人前にこの部活の顧問だ的なこと言ってたな。
「どうした奥仲?目が死んでいるぞ」
「いや…大丈夫です」
言いたくても言い表せないこの不満がどうやら顔にいや、目にピンポイントに出ていたらしい。
「そうか、ならいいんだ。では、気を取り直して部編成といこうか」
「部編成って最初の時やりませんでした?」
大空が薫先生に質問する。
「無論、あの時も部編成的なことはやった。だが、莉奈が来てからはまだ一度もやっていない」
言いきった感が半端なかったが、それもそうだろうと思い仕方なく部編成らしきものを行うことになった。
「それって、ただ薫先生がやりたいだけじゃーん」
莉奈先輩がクスクスと笑いながら結構大きな声で口にした。
ええ!先輩自由すぎますよ…。デカイ声で先生のことをディスるなんて凄いっす。
「ば、馬鹿者。これは言わば儀式みたいなものだ。やらねばならないのだ」
「絶対、薫先生がやりたいだけでしょ~」
薫先生と莉奈先輩の会話に自然に笑いが起きていた。俺は、思わず小野に聞いてみた。
「なあ、小野。莉奈先輩っていつもああなのか?」
小野は少し考える素振りを見せたが、すぐに
「割といつもあんな感じかも」
と言いきった。
「まじか…」
すごいな。俺なんて薫先生にあんなこと言えないぜ。
俺たちは、机を向かい合うように5台並べ、椅子も用意した。一通り用意したところで薫先生が音頭を取る。
「えーゴホンっ。それではですね、我が萬部の部員が全員揃ったと言うことで、改めて部編成を行いたいと思います」
「いえーい」
ノリノリの莉奈先輩を横目に薫先生は話を続ける。
「それでは、部員諸君コップを持って、かんぱーい」
薫先生が用意してくれたジュースで乾杯を行った。
席としては俺の隣に大空が座りその隣に小野、俺の前に莉奈先輩、その隣に薫先生が座っている。いわゆる小学校の時の給食の班のような感じで部編成は行われた。
てか、俺の目の前に今日あったばかりの先輩が座ってるってプレッシャーが半端ないぞ。
みんなでそれなりに盛り上がっている時だった。不意に莉奈先輩がハイテンションでこの間見た話をしてくれた。
「あのね、この間すごいの見たんだ」
ほんわりした笑顔で語られる。
「あれは確か私がこっちに帰ってきた日だから3日前かな?街の方に買い物に来てたんだけど、そこで喧嘩っぽいの見たんだよね~」
俺の背筋に一滴の冷や汗が流れたのが分かった。恐らく大空も感じているだろう、この感じ。
3日前と言えば、俺と柏崎がもめたあの日だ。確かに傍から見れば喧嘩のように見えていたのかもしれない。
さらに莉奈先輩は話し続ける。
「それでさ、男の子同士やってたんだけど、片方の男の子がボコボコにやられて口から血を出してるの。その後ろには女の子が不安そうな眼差しでその子を見ててまるでドラマのワンシーンかと思うような場面に遭遇したんだよ」
先輩…そのボコボコにやられて口から血を出してた男の子は俺です。目の前にいます。ちなみに後ろにいた女の子は、あなたの斜め前にいる大空です。ほら、今、大空の目めっちゃ泳いでますよ。
「でもね、ボコボコにやられてた男の子が最後にフラフラになって立ち向かって行ったんだよ。絶対に勝ち目ないって思ったんだけど、鳩尾に一発ブチ込むは飛び蹴りするはで思いの外強かったっていうね。もうちょっと頑張りながら倒してくれたら面白みあるのになーって」
莉奈先輩は両手を広げ「はん」と嘆息した。
「ケッ…爆発すればいいのに」
唐突に薫先生が言い出す。
「どうしたんすか?」
俺も咄嗟にそれに反応してしまった。
「大体、女連れて喧嘩してるって自体でリア充だろ…。高校生がそんなにチャラチャラして言い訳ないだろ…私なんかもう29歳なのに春が訪れないんだぞ。ずっと青春氷河期だ」
もう、春なんだか氷河期なんだか分かんねえよ。なんか様子がおかしいなどうしたんだ?
薫先生の様子が明らかに部編成最初の方と比べておかしかった。
「まさかアルコール?」
そう思い薫先生のコップに手を伸ばすが、中に入っていたのは俺たちが飲んでいるのと同じブドウ味の炭酸飲料だった。てことは…まさか
「薫先生、ジュースで酔っちゃったみたいだね」
莉奈先輩が明るい口調でしゃべりだす。
やっぱりか…この先生教師生活何年目だよ。
「そういえば先輩、旅行どうでした?」
「どこに行ってたんですか?」
小野と大空が交互に質問をする。
「よくぞ聞いてくれた!」
軽く自身の胸を叩き、ジュースを少し口に含んだあとにようやく喋りだした。
「実はね…ハワイに行ってました」
マジかよ…金持ちだな。俺なんか日本から出たことないよ。
「すごいです。どうでした?」
聞いたのは、いつにもまして目を輝かせている大空だった。大空は莉奈先輩の話に食いつくように聞き入りっていたように見えた。
その後も、ジュースで酔いつぶれた薫先生を除けば、みんな結構楽しく部編成をやることが出来た。
そして、宴も酣。部編成がそろそろ終わりに近づいてきた時だった。莉奈先輩が俺にいきなり話かけてきたのだ。
「ねえねえ、奥仲遥斗くんだっけ?」
「はい…そうですよ」
小さく頷き反応をする。いくら莉奈先輩のような怖いもの知らずの先輩でも見た目はなかなか整っているため、目のやり場に困る。
「君が唯一の男子部員だよ!創立初の。だからこれからよろしくね!」
とキラキラと輝く笑顔で手を差し出してきた。これは握手を求めれているのだろうか?
俺もそれに応じるように彼女の手を握る。
「こ、こちらこそ。よ、よろしくお願いします」
一瞬焦ったが俺は瞬時にこの行為について理解することが出来た。外国ではこんなもんキスと並ぶくらい簡単な挨拶なのかもしれない。だから、今のは簡単な挨拶だ。他意はないはずだ。
こうして、俺はいや、俺と大空は萬部に正式に入部し、初めてフルメンバーで顔を合わせることが出来たのだ。
こんにちは水崎綾人です。
『隣の彼女は幼馴染み!?』の更新が遅れてしまって申し訳ありません。
これからも書き続けるので読んでいただけると、嬉しいです。