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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
第3章「部活と悩みと俺の意志」
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第17話「俺の意思」

 9時ちょっと過ぎに家を出た俺と母さんは、予定どうりの時間に中学校についた。既に場所を確保してビデオカメラの準備まで完璧な親父の姿を見つけてそちらに向かう。正直、傍から見ると少し怖いくらいの力の入りようだ。それに思ったより他の生徒の親も結構着ていて驚いた。俺なんか絶対に来ないでと土下座までしたものである。


 スケジュールは特に滞ることなく予定どうりに競技は進んで行った。


 昼になり、楓はこちらにやってきて一緒に昼食を食べにやって来た。どうやらこれが普通らしい。ちなみに、俺はいつも一人で食べていた。


「どうだった?お兄ちゃん。楓の活躍?」


「すごかったな。安定の2位」


「でしょ~」



 いや、褒めてるんじゃないんですけどね?ニコニコと笑う楓を見ているとなんだか落ち着く。


「午後の競技は何やるんだ?」


 聞くと、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに軽快に口を開いた。


「午後はね~。ななんと騎馬戦なのです!」


「おお!」


 親父が感嘆の声を漏らす。何が「おお!」なんだよ、どうした?


「どうしたの?お父さん?」


 母さんがすかさず親父に質問した。これは長くなりそうだ。


「実はな。あれは高校生の時――」


 このあと昼休みが終わるまで親父の昔話を永延聞かされた。当然、俺や楓、母さんもダウンしていた。


「じゃ、じゃあ頑張ってこいよ…楓」


「うん、アリガトネ」


 力ないカタコトの返事で楓は自分の軍のベンチに戻っていった。





『午後の競技に入ります。午後の部第一種目。2年生による騎馬戦男子の部です』




 アナウンスの声とともにそれぞれの軍が校庭の四隅にある入場門のところに整列する。各軍の団長の「いくぞー」の掛け声とともに一斉に校庭の真ん中まで走って行き、騎馬戦が始まった。最初は男子の騎馬戦なので正直興味がなかった。大体、こういう時に騒ぐ奴は自称リア充のウザったい奴らばかりなのだ。特に野球部の水沢とかな。



 適当にジュースでも買おうかと校門前にある自販機へと足を運ばせた。


「え…っと。何にしようか…?」


 炭酸系で攻めるか、あえてのお茶か、はてまたスポーツドリンクか?う~ん迷う。


 俺が自販機でなんのジュースを買おうか必死で迷っていると、向こうの方から聴き慣れた声と、癇に障る声が聞こえた。ゆっくりと声のする方を見ると、そこには…



「ねえねえ、次どこ行く?木葉ちゃん?」


「え、えっと…。どこでもいいよ…」


「え、マジで?」


「う、うん…」


 柏崎と大空の姿があった。一瞬頭が真っ白になった。そうか、よく考えれば今日だったじゃねーかよ。柏崎と大空がデート…する日。


 硬直していた身体を無理矢理に動かした。取り敢えず平然を装って、コーラのボタンに指を伸ばした。ガゴンと落ちてきたコーラを拾い、元いた場所に戻った。


 戻ると男子の騎馬戦はもう終わりに方に入っており、アナウンスが流れる。


『続きまして2年生による騎馬戦女子の部です』




 俺は、脳内でさっきみた光景をリピートする。柏崎と大空。俺はこのままでいいのか…。昨日あれだけ考えて、考えて出した結論はどうなったんだ?俺はまた…逃げるのか…?


 女子の騎馬戦出場者が競技を開始する。楓もその一人だ。騎馬戦によって生じる無数の雑音が今の俺にはちょうど良かった。


 俺は決めたんだ。出会った頃の大空と今の大空を比べて俺は彼女をどう思っているのか?俺を昨日結論づけたはずだ。逃げずに…今は走る時だろ。大空木葉と思い出の続きを築きたいって言ったのはどこのどいつだよ。奥仲遥斗!


「母さん、父さん…俺行かなきゃならなないとこが出来たんだ。だから、行ってくる」


 二人共ポカンとした顔をしていた。それもそうだろう。具体的な名言はしてないのだから。


「な、どこ行くんだよ」


 親父は驚いたように言う。が、その声を遮って母がさらに言う。


「それって大事なこと?」


 いつになく真面目な声だった。

「ああ…」


 言うと、母は優しく微笑み「行ってきなさい」と一言放っただけだった。


「ありがとう。母さん」


 そう言い残し俺は中学校の校庭の脇を全速力で走り抜け、築いた時には校門の外に出ていた。


「しかし、母さん何なんだ?大事なことって?」


「青春よ!」


「青春か」


 また、変なことを言っていたが、今回もいつも通りに無視して走った。どこに行った…。思い返せば結構たってるから、もうどっか行ったかもしれない。


「はぁーはぁーはぁー」


 早くも息切れが始まった。こんなことなら普段から運動しておくべきだった。


 取り敢えず、中学校から離れ高校方面へ向かい、街の方へ行った。


 すると…


 街のイケイケなクレープ屋から柏崎と大空が出てきたのだ。よし…行こう。と一歩踏み出す時思った。いきなり出て行ってどうすんだよ。走っては来たものの登場の仕方が分かんねえ。でも、行くしかない!また俺は走り出した。こうなったらヤケクソなのだ。行くとこまで行ってしまえば、もうどうでもいい。今は行くしかないのだ。




 ◇

 苦笑いしながらクレープを食べる大空とそれをドヤ顔で見る柏崎の元に一つの影が現れた。

「な、なんだ?」

 柏崎が驚いたように声を漏らす。




 その影の正体は――奥仲遥斗だった。




「なんだ、お前?」


 ドスの効いた声が俺の耳に入ってくる。


「大空を迎えに来た」


「遥斗…?」


「はあ?木葉ちゃんをか?てかお前誰だよ?」


 やっぱり覚えてなかったか。

「お前、俺の名前と顔一致してねえだろ」


 言うと柏崎は少し頭を抱え思い出してるようだった。

「あっ。お前あれか。奥仲」


「やっと思い出してくれたか」


「ああ思い出したよ。あれだろ、木葉ちゃんが優しくしてくれるから、つい勘違いして自分に気があると思ってる残念なやつだろ?」


「なっ…」


「分かってるって。今だってどこから仕入れてきたか分かんねえけど、どうせストーカー的なことやってつけて来たんだろ?」


 いつもの俺なら反論は控えてきたのだろうが、今日は違う。恐らく極限状態になっているのだろう。不思議と口が開く。


「ああ。確かに勘違いかもな。でもな、それなら今のお前だって条件はまったく一緒だぞ。大空の優しさに勘違いしてんのは実はお前なんじゃないのか?俺は大空と話をするためにここに来たんだ。行くぞ大空」


「う…うん…」


 柏崎の横をすり抜け、大空の腕を掴み連れて行こうとする。しかし、柏崎はその俺の腕を掴み


「てめえ、調子乗ってんじゃねえぞ」


 そう言うと俺の腹めがけて奴は拳を殴りつけてきた。

「ぐっふ…」


 さらに顔面めがけてストレート。要は一方的に殴られているのだ。


「な、何を…」

 口からは僅かに血が出ていた。


「てめえが調子乗んのが悪いんだろうが」


 言うと今度はアッパーが俺の顎めがけて放たれた。幸い、まだ意識はあったが結構やばい状況には変わりなかった。


「オラどうした?かかってこいよ?」


 かすかに微笑み俺を挑発してくる。柏崎はもう大空の存在など忘れているのかのようだった。


「言った…だろ…?」


 口から流れ出る血を右手で拭いつつ起き上がりながら言う。


「俺が…用が…あんのは…大空だってな………お前には…用なんてねえんだよ!」


「ふーん」


 また、俺の腹に拳が放たれる。

「う…う…」



 その場にうずくまることしか出来なかった。さすがの俺も頭に来てしまった。フラフラになった体を無理やり動かして立ち上がる。

「て…てめえ…」


「お?どうした?キレたか?」


 柏崎の安い挑発に乗るわけでもないが今回ばかりは本気で頭にきた。


 俺がクラスのヒエラルキーが限りなく下位のほうであるからといって、自分より下だと完全に思い込んでいるやつの目を覚まさせてやる。



「ああ。そうだ…キレたよ……マジギレだぞ畜生」



 かすれた声で大声を上げ柏崎に食ってかかった。幸い人だかりも思ったほど多くなく、見た感じだと学校とか警察に通報しそな人はいなかった。だとしたら今のうちに…


「ぐおおおりゃあああ」


 俺はフラフラな足を少しずつ加速させていき、加速した状態で状態を低くし、柏崎の鳩尾(みぞおち)に一発。


「うぐっ…」


 さらにうずくまった柏崎の顎に一発のアッパーをかまし、その勢いに乗って両の脚全身に力を入れ全力の飛び蹴りを顔面に食らわした。


「ぐえっほ!」


 という声を漏らしながら、柏崎はわずかだけ後ろに飛ばされた。


 朝の特撮ヒーローの技見て練習してる成果だ。こん畜生…。


 俺も、もう身体が限界でその場に立っていることが出来ず座り込んでしまった。


「はぁーはぁーはぁー」


 柏崎に散々殴られらたところをさすりながら奴のほうを見る。


 柏崎はムクっと立ち上がり、怯えたような目で

「す、すみませんでしたっ」


 と残し、おぼつかない足取りでそそくさと逃げていった。


「なんとかなったな…」


 呟くと、顔を平手打ちされた。大空木葉にだ。俺は何だかよく分からなかった。


「立てそう?」


「ん、まあ…よっと」



 ふらつきながらも立ち上がり、場所を移動することにした。流石にここじゃ人の目が気になる。街のクレープ屋の前で喧嘩まがいなことをして休んでいるだなんて。





 俺と大空が移動した先は、俺たちが昔来たと言う思い出の場所(俺は覚えていない)だ。


「大空…その…いろいろごめん。大空が助けを求めていたのに…俺は何もできなくて…」


 その言葉に大空は首を振る。


「ううん。遥斗は悪くない。私がもっとちゃんと相談してればね…。だから、おあいこね。仲直りしよ?」


「ああ…。でも――」


 そうだ、俺にはもう一つ謝らなければならないことがある。それは…


「大空。俺…実はもう一つお前に謝らなくちゃならないことがあるんだ」


「………」


「俺、実はお前にずっと壁を感じてた。いきなり幼馴染みだって言ったってやっぱり実感わかないっつーか。お前のことを本当の意味で見てなかったかもしれない――」


 だから、言うんだ。あの言葉を…。


「あ、改めて…お、俺と…友達になって下さい」


 今まで座っていた公園のベンチから立ち上がり、大空木葉の前でお辞儀をしながら右手を差し出した。数秒後、俺の右手にはほのかな温もりが伝わった。木葉の手だ。


「はい…。喜んで」


 木葉の顔は微笑んでいた。



 ◇

 家に帰ると俺は正座をさせられていた。なぜかと言うと、楓の運動会を途中で抜け出したことがバレてしまったのだ。


「お兄ちゃん!ちゃんと見てくれるって言ってたじゃん」


 ほっぺたを膨らませながら楓はすごい眼差しでこちらを見てくる。


「す、すまん。急用で…この埋め合わせは後でちゃんとやるから」


「ホント?」


 聞き返されると何故か自分の言葉を確認してしまいう。


「ああ本当だ」


「じゃあ、その埋め合わせは私が考える!」


 取り敢えず機嫌を取り戻したようだったので良かった。アイツ何要求する気なんだろうか?



 今日は、俺は過去と、そして自分と対話出来た1日だと思う。幼馴染みと言う既成事実を脱ぎ捨て、今の自分で大空と友達になった。これもそれも。全ては小野のお陰だろう。彼女がアドバイスをくれなかったら、今頃、大空と仲直りなんて出来ていないだろう…。





 大空との騒動が10月の風に静かに流されていった気がした。




こんにちは。水崎綾人です。

今回で一応一段落つきました。

またアイディアが浮かびしだい書きたいと思います。

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