第一話 出会い再開
お久しぶりです。
ちまちまと書いているため、前後の繋がりがおかしいところが多々あります。
ご容赦ください。
「あー!」
俺が押している手押し車の中でティンクが楽しそうに声を上げている。俺がティンクと旅をすることになってから一ヶ月が過ぎた。
今までは根無し草の生活を続けていたが、ティンクのために拠点となる街を決めようと考えた俺は、それなりに大きな街で交通の便利が良い場所、という理由からアリアス王国にあって、迷宮都市、と言う名で有名な街、オーグスの街を拠点に選んだ。
「ぱーぱ!」
オーグスの街へ行き最初にどうするかをノンビリと考えていると、ティンクが俺の方に両手を伸ばしている。
これは、ティンクが抱っこをねだる時にする仕草だ。
「よっと」
俺は片手でティンクを抱き上げ、手押し車を魔法がかけられ見かけ以上に容量のある収納袋に入れた後、しっかりとティンクを抱っこする。
魔法の収納袋は旅をするものにとっては必定品といってもよく、その性能は値段によってかなり違いがある。
俺ににとってティンクはあまり愚図ることもなく手のかからない赤子なのだが、時たま先ほどのように抱っこをせがんでくる事があるのが、とても嬉しい。
「ん~」
抱っこされているティンクは俺の胸に顔をうずめながらもそもそと動いている。何が楽しいのかわからないが、この行動がティンクのお気に入りだった。
「あいー! あー!」
嬉しそうにそう声を上げるティンクを見て自然と俺の顔にも笑顔がこぼれてしまう。だがその時、かなり離れた場所から血の匂いが漂ってきた。
なにやら物騒なことが起きているようだ、そう感じた俺は先ほどまでよりもすべての感覚を研ぎ澄まさせる。もともと、神狼として優れた感覚を持っているため、程なくして匂いが発生している場所を特定できた。
「ティンク、しっかり掴まっているんだよ」
「あい!」
耳を澄ませば聞こえてくるのは女性や男性の悲鳴と、それに倍する数の野びた笑い声や怒号だった。
俺は最大限気配を殺しながら声のする場所に近づいていくと、そこには商隊を襲う山賊らしきものたちと、山賊から商隊を守る冒険者たちの姿、そして冒険者に守られるようにしている商隊の人たちがいた。
「ん? あの紋章は…、これは御用商隊か」
どうやら襲われている商隊は王家に荷物を届ける途中のようだ。御用商隊は、王家から依頼された商人がそう呼ばれるのだが、その商隊が雇っているにしては冒険者たちの数があまりに少なすぎるように感じられた。
だがまぁ…、詮索は後回しにすべきだな。
俺はちいさくそう呟くと、冒険者たちをすり抜け後ろの商人たちへと迫ろうとする山賊へと攻撃を仕掛けるのだった。
「無抵抗の人間を攻撃するのを見過ごすことはできない」
商人へと振り下ろされた山賊の攻撃を俺は横合いからその腕を握ることによって阻止し、そのまま相手の力を利用するように相手を地面へと叩きつけ、頭を踏み抜いた。
「え?」
「大丈夫か? 動けるようならもう少し下がっていなさい」
俺の声に助けられた商隊の人間は慌てたように頷くと、後ろに下がっていった。盗賊の数はそれなりに多いが、実力はそれほどでもなく程なくして数を減らした盗賊団は、この場から逃げていくのだった。
子連れな狼
第一話
ティンクを押し車乗せたまま、街の中へと入っていく。
盗賊の集団を倒した後、俺は商隊と一緒にオーグスの街までやってきていた。盗賊の襲撃で、雇っていた護衛たちのうち半分が怪我のため護衛を続けることができなくなっていたため、ちょうど目的地も一緒ということで街までの護衛を引き受けたためだ。
「ウェアさんどうもありがとうございました。本当にお礼はいいのですか?」
街について護衛に雇われた者たちが解散となり、ばらばらと街へと散っていくなか、商隊の代表者である、ウェントが話しかけてきた。
「いや、問題ない。オールソーとは知らない仲ではないからな。…そうだな、もしよければ伝言を頼まれてもらえないだろうか?」
「そんなことでよろしいのですか?」
「ああ、オールソーにこう伝えてくれ。『近いうちに会いに行く』頼めるか?」
「はい。間違いなくお伝えさせていただきます」
その後もウェントはもう一度俺に礼を言ってから商隊を率いて店のあるほうへと移動していった。
「ぱーぱ! ぱーぱ!!」
「ああ、すまないティンク」
押し車の中から手を伸ばしてくるティンクの頭を軽く撫でると、ティンクは目を細めてとても気持ちよさそうにする。
そんな愛娘の様子を見ながら、とりあえずどこに行くかを俺は考え、最初にこの街のギルドに行くことにした。
「よし、いこうかティンク」
「あい!」
元気なティンクの返事を聞き、俺たちはギルドへと移動する。
以前来た時の記憶を頼りにこの街のギルドに向けて歩き出す。
この街に来るのは30年ぶりになるので、あまりはっきりとは覚えていないが、急ぐ必要もないため、のんびりと探すことにした。
「…!」
ティンクが俺の顔をペシペシと小さな手でたたきながら嬉しそうに目を輝かせている。
ティンクにとってこの街のように多くの人たちが行きかう街は初めてなので、少し興奮しているのだろう。
「たくさんの人がいるな」
「あい!」
俺がそう話しかけると、ティンクは嬉しそうに返事をするが、視線は先ほどからいろいろなものの間を行ったり来たりしている。
そんなことをしながら街の中をぶらつくこと20分、どうやら目的の施設を見つけられたようだ。
『ドラゴンと交差する二本の剣』が彫られた看板が、冒険者ギルドの目印だ。
この看板は、初代ギルドマスターが一人でドラゴンを討伐した功績を称えたものだと聞いたことがある。
入口から中に入ると、手前の右側に受付があり、奥のほうには机と椅子が置いてあるスペースがある。
そのスペースでは、冒険者だと思われる何人かが、雑談やこれからの依頼について話し合っているようだ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「すまないが素材の買い取りを頼みたいのだが」
「ありがとうございます! それでは奥のカウンターにお願いできますか?」
「わかった」
俺は受付の女性について奥のカウンターへと移動する。
ギルドの主な仕事は三つあり、一つは様々な人から出される依頼を簿ギルドに登録されている人たちに斡旋することが一つ。
その際に、依頼の難易度に応じてランクを決めるのもギルド職員だ。
二つ目は、ギルド独自の依頼の発注だ。
冒険者からもたらされる様々な情報を集め吟味し、必要とあればその場所に人を派遣することだ。
そして三つ目が、討伐された魔獣の素材鑑定だ。
これは、防具屋や武具屋もおこなっているが、買い取り金額だけなら店に直接持ち込んだほうが高く買い取ってくれるのだが、ギルドに買い取ってもらった場合は、ギルドに貢献したとしてランクアップの対象となる。
ギルドのランクは1から10まであり、10が初心者、5まで行くとベテラン、3になるとエースといわれるようになる。
今現在、ギルド全体で10から6までのランクが6割、5と4で3割、3から1のランクで残りの1割といわれている。
「本日はどのような素材をお持ちですか?」
「少し量が多いのだが…」
「あい」
「ふふっ」
俺の言葉に頷くようにしているティンクを見て受付の女性は微笑ましそうに笑っている。
「まずは、赤龍の角だ」
「…はい?」
「あとは、鱗と翼。死獅子の毛皮と牙、タイラントの宝玉、ラングースの皮と骨、クインアルケニーの巣と糸、あとは何があったか…」
「…、!? あ、あの少しお待ちください!!?」
俺が他に出せるようなものがあるか考えていると、受付の女性は慌てた様子で奥のほうに入って行ってしまった。
やはり少し量が多かったのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、受付の女性が別の女性を連れて戻ってきた。
「初めまして、私この街のギルド長を務めさせていただいておりますラニアスと申します」
「ギルド長自らの紹介いたみいる。俺の名はウェア、この子はティンクという」
「あい!」
このギルド長、初対面のはずなのだがどこか懐かしい感じがする。
「ふふっ、よろしくお願いしますね。ウェア様、もしギルドカードをお持ちでしたら、見せていただけませんでしょうか?」
「問題ない」
俺はアイテム袋からギルドカードを取出し、ギルド長へと手渡す。ギルド長はそのカードを専用の魔道具を使って内容を読み取っていく。
少しして、内容の読み取りが終わったのか、ギルド長は納得したような顔をしている。
「ありがとうございました。まさか本物の天狼に会えるとは思いませんでした」
天狼とは、ギルドの中でつけられた俺の渾名みたいなものだ。
10年ほど前,旅の途中で立ち寄った街に、魔族と魔獣の一団が攻め入ってきたことがあり、通常の相手なら街の自警団とその街にいる冒険者でなんとなかったのだろうが、運の悪いことにその時その一団を率いていたのが、高位の魔族だったということだった。
高位の魔族を倒すには最低でもランク4以上が必要といわれているのだが、運悪くその時街にはランク5以上の冒険者はおらず、だれもが絶望の中それでも街を守ろうと武器を手に取り敵に立ち向かおうとしていた。
だが、その時魔族率いる一段の横に莫大な魔力の塊、それこそ高位魔族が霞んで見えるほどの魔力の塊が現れ、それは金色の槍となって魔獣の塊を蹂躙していった。
それをしたのは俺だった。街に生きる人たちの諦めない強さを見た俺は、神狼に変身し一切の手加減なしで、魔獣と魔族を一気に殲滅した。
あの戦いの中で、俺は天狼と呼ばれるようになったのだが、あの時の人狼、俺が自分の種族が神狼だとギルドにはいっていない、ギルドにはライカンスロープだと言ってある、あれが俺だと知っているのはギルドの中でも、そう多くはないはずだ。
「その名は俺には過ぎた名だ。俺はランク5の冒険者、ウェアだ」
「ウェア様が望むのならそのように。では、本来の素材の買い取りに話を戻させていただきます」
「頼む」
「ウェア様が持ち込まれた素材ですが、どれもとても高価なものばかりなので、すぐにお金を準備することができないのです」
「そうか、なら少し頼まれてもらえないだろうか」
「私どもでできることならばなんなりと」
「俺はこれからこの街を拠点に活動を行おうと考えている。そこで、この街で家を購入しようと思うのだが、ギルド長にはその家と、できれば住み込みで働けるような家政婦を3人ほど見繕ってほしい」
俺がそういうと、ギルド長は少し考えるそぶりをした後、受付の女性に声をかけて何かしらの指示を与え、部屋から退出させた。
「申し訳ないのですが、少しだけお時間をいただけますでしょうか? もし宿がおきまりなら、物件が見つかり次第連絡させていただきますが」
「宿はまだ決めていない」
「そうですか。でしたら、ぜひ私の家にお泊りください」
「気持ちはありがたいが、さすがにそれは厚かましすぎるだろう」
「お気になさらずに、それにお子様もだいぶお疲れのようですので、あまり歩き回られるのもよろしくないのでは?」
そういわれてティンクを見ると俺の腕の中でうとうととしていた。長旅と、人込みで疲れてしまったのだろう。
本来ならこのような申し出は受けないのだが…、ついていけばこの懐かしい感じの正体がわかるかもしれないと考え、俺はついていくことにした。
「…すまないが頼めるだろうか?」
「ええ、もちろんです。母も喜びます。それでは少しお待ちください」
ギルド長はそういって奥のほうに入っていった。
俺はティンクを寝やすいように抱き直し、依頼あ張り出されている掲示板に目を通していく。
さすが迷宮都市と呼ばれるだけあって、様々な依頼が張り出されている。
魔物の素材集めを頼むものや、人探しや失せものさがし、護衛に荷物の配達など様々なものだ。
「お待たせいたしました。こちらが素材の買い取り金額になります」
「…少し多いような気もするが、支払いは先ほどの件が終わってからで構わない」
「はい、差し引きで余ったものは後日お渡しいたします。それでは私についてきてください」
俺はギルド長の後ろについて歩き出す。
外に出るといつの間にか夕方になっており、街には先ほどよりもたくさんの人であふれていた。
「この街は賑やかだな」
「迷宮のおかげですね。迷宮に夢を見てたくさんの人がやってきます。財を成すもの、名声を得るもの、命を失うもの…。本当にいろいろな人がやってきます」
そんな感じで雑談をしながら歩くこと十数分、俺たちは目的地であるギルド長の家にたどり着いていた。
「どうぞ遠慮せずにお入りください」
「…失礼する」
案内された家は、豪邸と言って問題ないもので、周辺の家も同じぐらいの豪邸ばかりだった。
ギルドのあるまちなかから少し離れたところにあるので、先ほどまでのような喧噪さはなく、周囲を歩く人たちもどことなく着ているものがいいような感じがする。
家の中をギルド長について歩いていくと、通されたのはリビングだった。
そして、そこにはギルド長の母親だと思われる人物が、ゆったりと椅子に腰かけていた。
「母さん、今日はお客さんをお連れしたのよ」
「まぁまぁ、よくいらっしゃいました」
女性が椅子から立ち上がってこちらへと振り返ると、そこにはいつか見たような面影を持つ女性の姿があった。
そして、立ち上がった女性は俺を見て驚いた顔をしている。
「あなた…、もしかしてウェアな、の?」
「…久しぶりだな、ラドキア。40年ぶりか?」
俺がそういうと、ラドキアはゆっくりと俺のほうに歩いてきて、ゆっくりと抱きしめてきた。
「ええ…、ええ…、あなたはあの時のままね。私だけが年取ったみたいで悲しいわ…」
「確かに時間は流れた。俺は若造の姿のままで、君は…、綺麗になった」
「ふふっ、お世辞でもうれしいわ」
俺はギルド長に感じた懐かしさはラドキアのものだったのだと、今になって気が付いた。
ラドキアは俺がこの世界に来て初めてパーティーを組んだメンバーの一人で、回復を担当する僧侶だった。
一緒に活動したのは5年ほどだが、とてもいいパーティーだったと思う。
ラドキアはその時パーティーにいたエルフの剣士のテイスと結婚し、それを機に二人は冒険者をやめ、俺たちのパーティーもそこで解散となった。
「テイスのことは残念だった…。本当なら会いに来たかったのだが」
「いいのよ。私たちの理由でパーティーを解散しても、あなたたちは何も言わず私たちを送り出してくれた。それだけで十分だったわ…」
ラドキアはある国の貴族の娘だ。それもそれなりの領地をもつ貴族で、ラドキアの両親は、ラドキアが冒険者をすることに反対しており、家に連れて帰ろうとしていた。
だが、ラドキアはそれを拒み、テイスと結婚し実家からの捜索に見つからないように居場所を頻繁に変えていたのだ。
「テイスからの伝言よ。ありがとう、そう伝えてくれって」
「そうか…」
俺はそう一言だけ答え、ゆっくりと目を閉じる。
「ぱーぱ?」
そして気が付くといつの間にか起きていたティンクが俺のことを心配そうに見ながら頬を触ってきていた。
「大丈夫だよ。ほら、ティンク挨拶して」
「あい! てぃーくいさい!」
「まぁ、かわいらしい子ね。それにとても賢そうだわ。おばあちゃんはね? ラドキアっていうのよ、仲よくしてね?」
「あい!」
「ふふっ、本当にかわいい子ね。抱かせてもらってもいいかしら?」
「あい!」
ラドキアの問いに俺が答えるよりも早くティンク自身が答え、俺は小さく笑いながらティンクをラドキアに抱いてもらう。
楽しそうにティンクをあやすラドキアを見ているとラニアスが話しかけてきた。
「やはり母から聞いていたウェア様だったのですね」
「君がラドキアの娘だとは思わなかったよ」
「ウェア様のことは母と父からよく聞いていました。まさかお子を連れられているとは思いませんでしたが」
そういってギルド長はコロコロと小さく笑う。
俺はその笑う顔が若き日のラドキアによく似ていると思いながら、ティンクをあやしている本人に視線を向けると、そこには楽しそうなティンクの姿と、同じく楽しそうなラドキアの姿が目に入ってくる。
「夕食の準備が整いましたら及びいたしますので、ウェア様はここで母とお待ちください」
「わかった」
ギルド長はそう言って奥の方へといき、俺はティンクをあやしているラドキアと夕食が始まるまでの間、俺たちの思い出話と、俺が知らない二人のことを話してもらった。
こうして、俺たちの新しい街での一日目が終わっていくのだった。
次回、初依頼!
東方はいつになるか未定ですw