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聞き込み

「おはよう」


 そう言った委員長からは昨日のことに触れる気配は無い。

 まず手始めに、俺は委員長から彼女について聞いてみた。

 理由は簡単で、俺がまともに交流ある人間は少ないからだ。

 ここ数日の仲とはいえ委員長とは話しやすい。


 教室で聞くとこちらの動きを彼女に悟られるかもしれない。

 だから、下駄箱で委員長を待ち伏せした。


「委員長。ちょっと話があるんだ。ここじゃ、人もいるし移動しても良いかな?」


 俺はこの時間は人通りの少ない、体育館へ向かう廊下まで委員長を誘導する。


「ここなら、大丈夫でしょ? 話って何よ?」


 理由なく人気のない場所に連れてこられた委員長はどこか不機嫌だった。

 まだ朝のホームルームまで時間があるけど、バスも電車も使わなくてもなんとか通える距離に住んでいる俺や委員長にとっては、早めに教室に入場しておきたいから、早めに登校しているのだ。


 邪魔されたのならそりゃ苛立ちもするだろう。


 しかし、事態は深刻だ。


 委員長の都合なんて気にしていられない。


 ゴメン、と心で謝りつつ、でも申し訳ない気持ちは消えなかったから声にも出して謝りつつ、聞いてみた。


「ゴメンね。でも、僕考えたんだ。彼女自身が幽霊、あるいは彼女は幽霊に取り憑かれているのかもしれない」


 俺が口に出そうが出さなかろうが、この世の中に存在している事実は変わりようの無いことで、俺の認識がより深刻になっただけだというのに、言葉にすることによって事態の危険度が増した気がした。


 無意識に唾を飲み込む。

 きっと委員長にも聞こえるぐらいの大きな喉の音がした。


 対して委員長はやる気が無い。

 わざとらしくため息をつき、


「真剣なのは分かるわ。ふざけて無いって分かる。

 でも、どうしてもこう言ってしまうのよ。

 あなたは本当お馬鹿さんなのね」


「なんで~? だって、神社で消えたんだよ?」


「そうね。そこは変な話なのよね。

 昨晩私が彼女に電話したでしょ。

 その時、彼女はずっと家にいた、と言ってたわ」


「それがおかしいんだよ。僕は絶対に神社で彼女を見たもの」


「見間違いかもしれないわ」


「それは無い!! と思う」


「あるいは彼女が嘘をついている」


「それはある!! と思う」


「私も話した感触としては、彼女は嘘をついていたと思う。

 でも、それを否定する証拠も無いし」


「僕にはある!! 気がする」


「そう。でも、そこからどうして幽霊って話が出てくるのかが理解できないのよ」


「だから~、彼女は家にもいて、同時に神社にもいて、オマケに神社の方の彼女は消えたんだよ!」


「私の得た情報と、あなたの得た情報が、全て正しいとするならそうなるわね」


 委員長は、謎の答えを殆ど知っているがまだ一番要なアリバイ工作を敗れて無いので様子見している名探偵みたいに見えた。


「委員長は真相を知っているの?」


 俺は読み合い騙し合いが苦手なので、単刀直入に聞いてみた。


「おおむね、ね」


 委員長は眼鏡越しに俺を睨みつけ、


「腹立たしいわ」


 と続けた。ま

 るでこれ以上詮索するならあなたも殺すわよと言っている犯人みたいだった。


「ゴメン……、なさい……」


「別にあなたが謝ることでは無いわ」


 俺は不確定の幽霊彼女より目の前の委員長の方が怖かったので、少し話題を変え、彼女がどういった人物かを探ることにした。


「彼女ってどういう人なの?」


「そうね。

 私も仲が良くないのであなたが知りたがっている情報を持っているとも限らないけど、頭は良いわね」


「そうだろうね。入学試験トップだったんでしょ」


「えぇ。それに運動神経も良いわね」


「へぇ~。どのぐらい?」


「バレーの授業の時にはバレー部の子と良い勝負をして、

 バトミントンの授業の時にはバトミントン部の子と良い勝負をして、

 ダンスの授業の時には私と良い勝負するぐらいよ」


 なんか最後の例が浮いてるね。

 と思ったのは腹の中にしまいつつ、


「へぇ~。何でもできるんだ」


「何でもできるわ。私は彼女の弱点を知らないわね。

 これで人格が嫌味っぽかったら良かったのに。

 男どもはあなたも知っている通り、彼女にメロメロでしょ?」


 メロメロって古いな。

 正直正確な意味が分からないぞ。

 と思ったけど、前後の文脈からなんとなく予想がつくので華麗にスルーした。


「女子からはどうなの?」


「それが評判良いのよ。

 誰とでも訳隔てなく接するし、女子には珍しくどこのグループにも属さないタイプね。

 いいえ、全てのグループに属しているイメージよ」


「委員長のグループにも?」


「えぇ。たまにお昼を一緒に食べるぐらいには親密な関係よ」


「へぇ~。すごいなぁ」


 話を聞いていると、知ってはいたけど、彼女はなんだか凄い人らしくて。

 そんな彼女が俺に好意を寄せるはずが無いと思った。


「そう。凄いのよ。逆に凄すぎるから、おかしいのよ。

 たかが高校の一クラスと言う小さなコミュニティでも、人の考えは様々だわ。

 例えば、目立つグループの子と私のグループでは、考え方が全くの間逆ってことも多いのよ」


「そんなに違う考え方なの?」


「えぇ。意味はなくとも校則は守るべきなのよ。

 なのに、あの子らったら、屁理屈ばかり並べて髪を染めるわスカートを短くするわ……。

 信じられる?

 試験に合格して入学願書を出した時点で、貴校の一員となり規則を守りますと誓いを立てたようなものなのよ。

 規則に意味があるか無いかなんかて問題じゃないわ。

 いいえ。

 仮に間違った規則があると思うなら、正々堂々と戦うべきなのよ。

 規則を変えれば良いのよ。

 それなのに、意味が理解できないから規則を守りませ~んって開き直っちゃって……。

 本当信じられないわ!」


 委員長の内なる心の爆弾が爆発してしまったみたいだ。

 委員長の文句は止まらない。


 本当は『そういえば、彼女も髪を染めてるね』と思ったのだが、今は言うべきタイミングじゃないことは、俺にも分かった。


 でも、黙って聞いているのは得策じゃなかったみたいだ。


「ねぇ? あなたもそう思うでしょ!!」


 女ってやつはどうして自分の意見を他者と共有したがるのだろうか

 。質問される方の身にもなって欲しい。

 こんなの、イエスと答えても、ノーと答えても、クラスメイトの誰かとの関係に角が立つじゃないか。


 だから、俺は正直に答えた。


「別に興味ないよ。

 だってスカートの長さとか髪の毛の色のことなら、付け加えるなら男子のズボン改造とかゆるゆるネクタイとかも、そういうのって誰が規則を守ろうと破ろうと、僕、関係ないもん」


 多分、この答え方だと委員長の機嫌を損ねるのだが、多分委員長はこのぐらいで根に持たない。

 どちらの加担もしたくないというのも大きな理由だったが、俺が正直に答えられたのは、委員長の人間性を信頼していたからだと思う。


「呆れた。自分の意見も持てないなんて、男らしく無いのね」


 委員長の言葉はやっぱり不満そうだ。

 でも、表情はそれほど怒ってなかった。


「でも、あなたは規則を破らないのよね?」


 まるでこちらの答えが分かっているような聞き方だった。


「うん。だって、破る理由も無いし。決まったルールがあるなら、それに従うよ」


「小さく纏っちゃって男らしく無いわね。ルールを打ち破るぐらいの気概を見せて欲しいものだわ」


 どちらかというと、俺の意見は委員長サイドの意見に近いと思うのに、なんか否定された。

 でも、委員長の表情は嬉しそうだ。


 いや、笑っていた。


 俺が知る限り、委員長はあんまり笑わない。

 友達と話してても、楽しそうに顔の筋肉は緩んでいるけど、こうハッキリと大きな笑顔を作るところは、一度も見たことが無かった。


 いや、あるな。

 

俺は委員長の笑顔を、以前にも一度だけ見たことがある。


 いつだったかなと俺が思い出していると、委員長は別の質問。


「あなたは、仮に彼女が幽霊に取り憑かれていたらどうするの?」


「え?」


 言葉に詰まる。

 俺はどうするつもりだったのだろう。

 彼女が普通じゃないことを理由に断っただろう。


 それで良いのか?


 俺が彼女のサエズッターを見て、自分と似ていると思った理由は何だ?


 普通の人付き合いが苦手だと思ったからだ。


 その理由が幽霊に取り憑かれているからだとしたら?


「分かんないよ。

 僕、こんな経験初めてだし。

 その、幽霊関係者の人と出会うのも、僕に好意を寄せてくれる人と出会うのも、初めてだから……。

 でも幽霊絡みのことが原因で彼女を避けたりはしない。

 これだけは誓うよ」


 多分、人を食べたり、人を襲ったり、人に危害を加えている様子は無い。

 と思う。

 仮に彼女の本性がどんな幽霊だろうと、人に危害を加えるタイプだとしても、今以上に彼女を避けないようにしようと思った。

 今以上って、今の時点で結構人を避けているのだけど、俺は。


 でも、人を食べるタイプだと俺はどうしたら良いのかな。

 全然、分からない。


 俺は一生懸命考えるのだけど、委員長は笑ったままだった。

 今日は上機嫌だな。


「幽霊なわけ無いじゃない! 本当あなたは凄い頭をしているのね」


 俺は一生懸命悩んでいるのだけど、委員長は腹を抱えて笑っていた。


「笑わないでよ。僕は真剣なんだ!」


 俺は委員長を睨む。

 委員長の方が背が大きいので、上目遣いみたいになった。


 委員長は呼吸を整えながら、五秒ぐらいかけてゆっくりと笑いを殺し、微笑んだ。


「そうね。あなたのそういう所は、嫌いじゃないわよ」


「どういう所さ」


 どうせ俺の話を信用していない委員長は、俺を天然だとでも思ってるんだろう。

 違うぞ。

 俺は断じて天然さんじゃない。

 全てが計算のボケ職人。

 スルーマンだ。

 それに、今回は真面目な話だ。


「人は他人に知られたくないパーツを持ってるものなのよ。

 親にも友達にも言えない秘密。

 例えば幽霊に取り憑かれているとか」


 委員長は顔を下に向け隠した。

 肩が小刻みに震えている。

 きっと噴出したに違いない。


 こんにゃろめ、と俺は委員長を睨む。


 しばらくして、態勢を立て直した委員著は続けた。


「何故かしらね。あなたは受け入れてくれそうに見えるのよ。

 もちろん、その後に否定したり肯定したり反応は様々あるのだろうけど、それでも一度受け入れてくれそう」


「そんなこと無いよ。俺を怒らせると大変だぞ!」


 俺はできるだけ強がってみた。


「俺、って使うんだね。意外だわ」


 委員長は嬉しそうだった。完全に舐められてるみたいだ。


「使うよ。僕だって俺ぐらい使えるよ!」


 俺はできるだけ威圧した。

 委員長は全然気にしていなかった。


「怒らないでよ。

 あなたのそういう所は、見る角度を工夫すれば、なんとか長所になりうるのよ」


「なんか、あんまり褒められて無い気がする」


「そうね。どっちかというと……、

 ハッキリしなさい、男らしくない軟弱者! 

 と思うわね」


「じゃあ、怒るじゃん! 褒めてよ! 褒めて伸ばしてよ!」


「褒めてもいるのよ。

 人なんて弱いんだから、自分を否定されるのは辛いのよ。

 でも、一人が認めてくれるだけで自分自身を認められるものなの。

 挫けずに立ち上がれるの。

 人は強いんですから」

 

 多分、俺は良く分かった。

 委員長はたった十五秒の間に矛盾したことを言っている。

 弱くて強いって何だよ。

 からかわれているのか。

 俺は抗議を続けようとした。


 だけど、ホームルームが始まる五分前のチャイム、予鈴が鳴った。


 命拾いしたな、女。

 と俺は悪役ゴッコを心の中でしながら、教室を目指した。


 気のせいか、委員長はチャイムに重ねて何か言ってたように見えた。


 きっと、更なる追い討ちをかけ俺をからかおうとしていたのだろう。

 俺も委員長も会話しようともせず、早歩きで教室を目指した。

   



 ケース二。斉藤君。

 ターゲットはクラスメイトの斉藤君。

 三時間目の体育の時間に聞くことにした。

 ちなみに、ケース一は委員長。

 斉藤君は、色黒細マッチョの長身で見るからにスポーツやってそうな男だ。

 そのイメージ通りにサッカー部に所属している。

 ポジションは知らない。


 今回斉藤君をターゲットに選んだのは、爽やかな彼なら、俺が彼女のことを聞きまわっているなんて噂を流さないだろうし、告白がドッキリだとしても参加してなさそうだからだ。


 今日の体育の時間は、跳び箱を使った器械運動だった。

 自由練習時間になると、五分の一ぐらいの生徒はやる気無く壁にもたれ見物する姿勢を見せる。

 その一方で多くの生徒は跳び箱を飛ぶための四本の行列を作る。


 俺はさり気なく斉藤君の後ろに並んだ。

 直ぐに聞こうと思ったが、斉藤君は目を輝かせて跳び箱と跳ぶ生徒を見つめるので、邪魔しないことにした。


 斉藤君は自分の順番になると「行きます!」と歯切れ良く宣言し、走り始めた。

 踏み切り番を力強く踏み込み、低めに積み上げられた跳び箱目指してジャンプ。

 跳び箱に手を突いた彼の身体は一回転する。

 関節はどこも曲がっておらずに、とても綺麗な前方倒立回転飛びだ。

 フワフワの分厚いマット、エバーマットの上なのに、よろめくこと無く着地していた。


 俺の番。

 俺も「いきます~!」と歯切れ良く宣言する。

 勢い良く助走し、踏み切り番だって力強く踏み込み、華麗にゴロンと前転した。

 多くの間接を優美に折りたたんだ、綺麗な台上前転だったに違いない。


 脳内拍手を浴びながらエバーマットから降りる。

 すかさず斉藤君の方を見れば、スキップしながら列に再び並ぼうとしていた。


 俺は最後尾に並んでしまった斉藤君を、呼び止めた。


「ねぇ。斉藤君。ちょっと話があるんだ」


「ん? どうした?」


 斉藤君は嫌な顔もせず列から外れてくれた。

 俺は単刀直入に聞いてみた。

 彼女ってどんな人かなっと。


「なんでそんなこと聞くんだよ?」


 斉藤君は怪訝な表情。

 そりゃ、そうだ。


「彼女のことを知りたい。それだけだよ」


 俺は嘘をつかなかった。

 でも多分、この言い方だと『俺が彼女に恋している。もしかして告白しようとしてるのかも』って勘違いされそうだが、それならそれで良い。

 その勘違いの仕方なら、斉藤君は誰にも言わないでくれるはずだ。


「ふ~ん、そっか。お前もなのか~。彼女カワイイもんな」


 上手く斉藤君は勘違いしてくれたようだ。

 そして、警戒すること無く彼女のことを教えてくれた。


 斉藤君の話からは目新しい情報は無く、委員長の言ってたことと殆ど同じだった。

 つまりは、頭が良くて運動神経が良くて人望があって美人。


 男から見ても女から見ても、評価が変わらない人だってことは中々に興味深い。

 特に後者二つの人望と外見ってのは、個人による好みもあるけど、それより男女の好みの壁ってのが結構あるように感じる。


 委員長の言葉を思い出した。


 誰からも評価されるのは、おかしい。


 俺流に言い換えるならば、怪しい。


 そうなのかもしれない。

 けどそうじゃない気もする。

 だって、カレーを嫌いな人と出会ったこと無いし。


「ま、俺の知ってることはこんな所かな」


 斉藤君はそう言って、


「頑張れよ!」


 と俺の背中を軽く叩いた。


「うん。多分。まだ分からないけど」


 本当、俺は何を頑張るのかも分からなくなってきた。

 斉藤君は俺の曖昧な返事の意味を誤解したらしく、


「安心しろよ。振られても恥じゃない。このクラスだけでも大分振られてるんだぜ。加藤も、田中も、俺もな」


 斉藤君も彼女に告白してたのか。

 知らなかったとはいえ、ちょっと古傷を抉るようなまねをして申し訳ない気持ちになった。


「今でも好きなの?」とか、「知らなかったんだゴメン」とか、「なんで僕の応援できるのさ」とか、色々言いたいことはあったけれど、


「うん。ありがとう」


 俺はお礼しか言えなかった。

 斉藤君は「おう!」と答えて、跳び箱の列に並びにいった。


 斉藤君は警戒を解いた後は終始笑顔だった。

 彼の笑顔には『お前じゃ無理だ』なんて嘲笑的な含みは見られなかった。

 でも、後になって気づく。

 俺が振られること前提の慰めは、ちょっと不愉快だ。




 ケース三。加藤君。

 今度のターゲットはクラスメイトの加藤君。

 さっき、斉藤君から聞いた話だと、彼も彼女に振られたらしいので、つまりは彼女を良く知ろうとしただろう人物だと思ったのだ。

 ちなみに、彼女に振られたという事実は、加藤君にとってはもうすっかり直った古傷なのだろうと、勝手に思っている。

 加藤君と鈴木さんと言えば、ボッチの俺でも噂を聞くぐらいに有名な、クラス公認の熱々カップルバカップルだからだ。


 加藤君とは昼休みに接触した。

 加藤鈴木ペアは、昼休みになると木工室前の廊下で、地べたに座りラブラブランチすることは、有名だった。

 木工室前は、校舎の作り上廊下の突き当たりにあるので、技術の授業でを使う時以外には通らないから、邪魔者が入らないのだろう。


「加藤君。こんにちは」


 俺を視界に捕らえた時から不機嫌そうな顔をしていた加藤君は、声をかけると更に不機嫌そうな顔になった。


「なんだよ?」


「別に悪いことして無いわよ。私達。生徒手帳だって熟読したんだから」


 何も言って無いのに、鈴木さんに反論された。

 どうやら、木工室前でランチするのは、注意の的になりうるらしい。


 安心しろ。

 俺は全く興味が無い。

 しいて言うなら、廊下って多分汚いよ、ってことぐらいだ。


「邪魔しちゃって、ゴメンね。ちょっと加藤君に聞きたいことがあったんだ」


「だから、なんだよ?」


「そうよ。何にもして無いわよ」


 俺は彼女のことについて聞いた。

 もう彼女の評価情報については充分だと判断したので、最近変わった様子が無いか? という聞き方に変えた。


「別にいつも通りよね~?」


 鈴木さんは自分達に文句が無いのだと分かると、機嫌が直った。

 笑顔で答えてくれる。


「それが、お前に関係あるのかよ?」


 加藤君はまだ敵意むき出しだ。

 もしかしたら、彼女がらみから話を切り出し二人の仲を引き裂きに来たのか、なんて誤解されてるのかもしれないな。


「関係は無いよ。

 でも、困ってるみたいだったから……。

 僕にできることがあるかもしれないじゃない?」


「俺は知らねぇって。彼女のこととか、全然興味ないし。鈴木一筋だし」


「ちょっと、やだぁ。恥ずかしいよ」


「俺だって恥ずかしい。でも、お前への気持ちは恥ずかしくない!」


「もぉ~、加藤君ったら!」


 なんか二人はイチャつき始めた。

 それでも、お互いを苗字で呼び合うなら、ってことで判断するのはかなりの偏見だが、二人の仲は清い男女交際の枠内なのだろうなと思った。

 きっと、俺にとってどうでも良い事実だ。

 俺が知りたいのはそんなことじゃない。


「あの~、それで彼女が悩んでいる様子とか無いかな? もしかしたら、最近からじゃないのかも。入学した時には悩んでいたかも」


「う~ん、私から見ると普通だよ」


「俺はワカンネ。興味ないから」


「そっか。ありがとう」


 大した情報は得られなかったなと思った。

 でも、もう一つも聞かないと。


「あとさ、最近彼女がイタズラしてるって噂は聞かない?」


「私は知らな~い。ってか、彼女がイタズラとかするわけ無いじゃん。超優しい子だよ」


「そっか。分かったよ。邪魔してゴメンね。ありがとう」


 やっぱり、大した情報は無かった。

 俺は振り返り、来た道を戻る。

 後ろから加藤君と鈴木さんの隠そうともしない世間話が聞こえてきた。


「どうしたんだろうね? 彼」


「彼女に気があるんじゃねぇ~の? 彼女モテるからな。俺は鈴木しか興味ないけど」


「うぁぁ。彼が彼女に? 絶望的だね。勝ち目無いね」


「言うなよ。恋するだけなら自由さ。それも認めなかったら、俺は敵だらけになっちまうぜ。鈴木が魅力的過ぎるからな」


「もう。加藤君ったら……」


 分かってるよ。

 俺が今まで彼女に興味なかったのは、孤独を愛するってのも大きな理由だけど、高嶺の花過ぎるから眼中になかったからだ。

 例えるなら、高嶺にありすぎて憧れる以前に存在にも気づきもしなかったみたいな感覚だ。


 だけど、他人にそう評価されるのは、とても不愉快だった。


 ちょっと、俺がイライラしていると、加藤君が俺を呼び止めた。

 呼び止めたのに、座り込んだまま動こうともしない。

 喋りだそうともしない。

 多分、俺に戻って来いと言ってるのだろう。

 俺は俺で機嫌が悪かったので、気付かないフリしてジッと加藤君を見つめてみた。


 根負けした加藤君は立ち上がり、俺に近寄ってくる。一緒に行こうとした鈴木さんを制止していた。


 加藤君は俺と距離一メートルの所まで近づくと、鈴木さんが遠くにいることを確認するためか一度振り返り、話し始めた。

 鈴木さんに聞かれて困るなら、最初からお前が来いよ。

 と俺は心の中で毒づいた。


「あのよ、思い出したんだけど、田中が怒ってたわ」


 あぁ~、田中君か。

 田中君は俺のクラスメイトで、体育の時間に聞いた噂によると彼も彼女に振られたらしい。


「なんで怒ってたの?」


「それが、彼女の態度が最近変わったんだってよ。

 今までは、

『ゴメンなさい。今は誰ともお付き合いするつもりはありません』

 って断ってたんだよ。

 あ、告白された時の話な」


「うん」


「でも、最近は違うんだってよ。

 『私、別に好きな人がいるから』

 って言われたらしいんだよ。

 昨日振られた二年生は」


「へぇ~」


 そっけなく答えたつもりだけど、俺は相当焦っていた。


 もしかしたら、多分結構な確率で、それ、『好きな人』って、俺だ。


 ドッキリじゃないのかもしれない。良い加減そこは信じてもいいかもしれない。


 なんて俺はドギマギしてたのだけど、加藤君の話は終わってなかった。


「へぇ~、じゃないっての。田中が怒ってたのはそれだけじゃないぞ」


「どうしたの?」


「最近の彼女はどこか様子がおかしくて、更にずっとお前のことを見てるらしいぞ」


 心当たりはあった。

 俺が彼女の方を見れば、ほぼ百パーセント目があう。

 俺の緊張は深まる一方で、良く考えたら焦る必要も無い気もするけど、


「そ、そ~なんだ」


 ぎこちなく流すことしかできなかった。


「お前何かやったの? 最近の彼女が悩んるんだとしたら、お前が原因なんじゃないの?」


 多分、俺は何もやってない。

 この場合、何もやって無いのが問題なのかもしれないけど、俺は悪くないと思う。

 多分。

 家まであとを付回したり、

 夜中見かけて神社まであとを付回したり、

 影でコソコソ情報収集してるけど、

 って俺、結構色々やってるかも。


「僕のせいなのかな?」


「知らねぇよ。俺に聞くなよ」


「そうだよね」


「おぉ」


 いや、落ち着け。

 俺がやったことは、怪奇現象を呼ぶようなことじゃない、はずだ。

 黒魔術とか詳しく無いから、多分だけど。

 あぁ~、駄目だ。

 混乱してきた。


「心当たり無いけど、気をつけるよ」


「そうしろよ。流石の俺も、田中が怒り出したら止められねぇからな」


 加藤君が流石なのかは良く分からないけれど、田中君を怒らせるのは得策じゃないのは確かだった。

 田中君はバリバリのヤンキーだし、

 名前知らないけど田中君の友達のヤンキーは一年生にして学校で一番威張ってるみたいだし、

 なんていうか、凄く俺の手に余る。 

 俺は憂鬱な足取りで教室へ戻った。

 



 ケース四。田中君。

 今は放課後、屋上ナウ。

 屋上ってのは多くの学校で入ることを許されて無いらしいが、俺の学校でも例外ではなく、普通はドアに鍵が掛かっているので、屋上ナウなんてあり得ない。


 でも、俺は屋上にいる。


 何故か?


 理由は簡単。

 我がクラスのヤンキー田中君に呼び出されたからだ。


 でも、これは俺が屋上へ向かった理由にはなるけれど、立ち入り禁止区域の屋上に入れた理由にはならない。


 それは、何故か?


 田中君グループが屋上の鍵を持っていたから。

 何故あいつらは鍵を持ってる? 

 ともう一つ『何故?』を重ねたいけど、俺には調べる方法も思いつかなかった。


 というか、そんな理由はどうでも良いぐらいに、今の俺はピンチっぽかった。


 俺が屋上のドアを開けた時には、田中君含む既に四人のヤンキーが屋上にいた。

 俺を見るなり、「逃げずに良く来たな」と初めて言われたはずなのに、やたらと聞き覚えのある台詞を言われたっきり、俺は放置されている。ヤ

 ンキー同士、仲間内の四人だけで楽しそうにお喋りしている。


 う~ん。

 こわいぞ。

 かえりたいぞ。


 こちらから、何か用があったのか聞こうかと思ったけど、大体察しがつくからかえって聞けない。

 最近の田中君は、彼女の様子がおかしくて機嫌が悪いらしいのだ。

 そして、彼女が俺の方ばかり見るのが気にかかるらしいのだ。


 う~ん。どうしよう。


 空を見上げれば、雲のお馬さんがいた。

 まだまだ朱色を含まない昼間色の太陽を追いかけているみたいだった。

 イカロスの話を知らないのか? 

 翼を焼かれちゃうぜ~? 

 なんて主役ゴッコするのだけど、特に意味はなかった。

 あのお馬さん、元から翼無いし。

 ただの現実逃避。


 う~ん。良く見たら面白いな。


 田中君たちはフェンスに寄りかかり座り込んでいる。

 フェンスに穴が開いたり倒れたらと思うと怖くないのかな。

 その田中君たちと対面する形で、俺が立ったまま待たされている。

 まるで田中君たちを説教している気分になってきて、ちょっと面白いなと思ったけど、直ぐに冷静になり、全然面白くないことに気がついた。


 う~ん。

 う~ん。

 どうしよう。

 どうしたら良い? 

 帰って良い? 

 帰りたいよ。


 最近のヤンキーは放置プレイでお仕置きするのかな、なんて結論に至った時、後ろでドアが開く音がした。

 俺は振り返って新たな登場人物を確認しなくては、と思った。

 だけど、俺の思考が行動に変わる前に、田中君たちはすばやく立ち上がり、深々と頭を下げ元気の良い挨拶をした。

 そんな田中君たちを見てガソリンスタンドっぽいなと、思った。


 余計なことを考えたので、振り返るのを忘れていた。


 二秒後ぐらいに、俺の頭は掴まれた。

 後ろから頭を掴んだのは多分新たな登場人なのだろう。

 これで、俺は振り返れなくなった。


「田中~。こいつが、お前の言ってたやつか?」


 頭を掴んでいる人が言った。

 声からするに、男みたいだった。

 そもそも、人の頭を掴む女なんてあまりいないのかもしれないし、感触的に男の手だったよなぁ、なんて思っていた。


「そうッス」


 田中君は答えた。


「ふ~ん。そうは見えないけどな」


 後ろの男は俺の頭を力ずくで後ろに傾ける。

 見たくなかったけど、またお空のお馬さんが見えた。

 と後ろの男も見えた。


 人の頭はそれ程傾くものでもなく、俺の首とあごの角度はせいぜい六十度から七十度ぐらいしか傾いていない。

 それでもしっかりと男の顔が確認できた。

 彼が覗き込んでいたからだ。

 超上から目線だ。

 ざっと見積もっても、身長差三十センチはあるな。


 彼の髪は金色だった。

 手入れしているのかして無いのか分からない、無造作ヘアー。

 彼の瞳は青色だった。

 多分、カラーコンタクトではなく地の色。

 そう判断したのは、顔が西洋風だったからってのもあるが、それ以前に俺は彼がハーフだと言う情報を知っていた。


 ハーフの男子高校生ってさ、こう、中性的なイメージなんだよなぁ。俺の中だと。

 サラサラヘアーで甘いマスクで爽やかそうな、なんかそんなイメージ。


 でも、この男は違う。

 HAHAHAって笑ってそうなアーミーだ。

 サングラスと角刈りが似合いそうなごつい顔してる。

 サングラスもして無いし、角刈りでも無いけど。


 う~ん。彼がどんな人物かってのは今そんなに大事じゃなくて、今の俺が言うべきは、


「あの、首痛い」

 ってことなんだろうと思う。


 ハーフの男は、無言で俺の頭から手を離した。

 もう、帰って良いってことかな?


「もう、帰って良い?」


 俺は勇気を出して聞いてみた。


「まだ、何にも始まってねぇよ」


 田中君は言い捨てた。


「それじゃ、僕達の戦いはこれからだエンドってことで。帰っても良い?」


「はぁ? 何言ってんの? 舐めてるのか? あぁん? おい、こら?」


 いっぱい疑問符が合ったからいっぱいの質問があるようで、多分聞かれてるのは一つだけ。


「舐めてないよ。

 とっても怖いよ。

 ビビってるよ。

 だから、かえりたいの!!」


 俺は頑張って意見を主張した。

 田中君は何故か怒って、わざとゆっくり歩きながら首をコクコク振って近づいてくる。

 でも、田中君以外は爆笑していた。

 あ、笑ってないのは田中君だけじゃない。俺も笑えてない。


「待てよ。田中」


 ハーフの男は、田中君たちの方へ歩きながら言った。


 やっと俺は彼の全体像を見ることができたが、やっぱり鬼軍曹っぽい人だった。

 半袖Yシャツから見える彼の二の腕は、日本人らしからぬ太すぎる腕だった。


「ウッス……」


 田中君は不満気に答えながらも、仲間の元まで下がっていった。

 でも目があってなくても視界端にわずかに映る情報だけで、俺を睨みつけているのがよ~く分かった。


 意地でも視線をあわせないように俺は頑張った、


 ハーフの男も仲間達と合流し、俺に話しかけてきた。


「田中がお前に話しあるんだってさ。

 あくまで、話、な。

 そのために、俺が来るまで何もするなって伝えておいた。

 俺が話し合いで終わらせてやるから、正直に話せよ」


 あれだ。

 怒らないから正直に言いなさい系の忠告なんだと、直ぐに理解した。

 嘘でも何でも使って、なんとか無事に切り抜けられる方向へ話を持っていこうと誓った。


「ほれ、どうぞ」


 とハーフの男が言ったことで、話し合いは始まったらしいのだが、田中君は喋ろうとしなかった。

 俺から話題振るの? 

 まだ何の話し合いをするのかも聞かされて無いのに? 

 大体想像つくけどさ。

 と俺が困るのに充分な時間を作ってから、田中君は静かに問いかけてきた。


「お前、ストーカーだろ?」


 直球だ。


「違うよ」


 多分、違うはずだ。嘘をつかずに俺は回避した。


「最近、様子のおかしい女がいるんだよ。

 その女は学校中の男子の憧れだ。

 そんな凄い人がずっとお前を見ている。

 な? 証拠は揃ってるんだよ」


 それは証拠じゃないし、全然筋道が立ってないよ。

 何で、そこから俺がストーカーになるんだよ。

 普通に、彼女が俺に気があるとは思えないのか?

  ……、そりゃ、無理か。


「僕、何にもやって無いよ」


 うん。嘘だけど。

 実は色々やってしまっている事に昼休み気がついたけど。

 でも、ここは穏便に回避することにした。


「そうか。なら、良いわ」


 田中君は意外と素直に信じてくれた。


「じゃあよ、心当たり無いか? 

 彼女がお前を見る理由とか、最近困ってそうだとか。

 人ってのは自分の知らないところで、迷惑かけちまうもんだからよ」


 田中君は意外と良い人なのかもしれない。純粋に彼女を心配しているらしい。


「心当たりは無いよ」


 そんな田中君の純情を、俺はサラッと嘘で踏みにじった。

 だって、正直に言ったら怒りそうだもん。


「そっか。急に呼び出して悪かったな。何か分かったら教えてくれよ」


 田中君は意外と爽やかに笑える男だった。


「うん。分かったよ」


 多分、何が分かっても何も言えないけど、俺は嘘を付くしかなかった。

 これで、帰れる。

 と思っていた。


「待て」


 ハーフの男が待ったをかけた。


「俺の聞いたところによると、放課後になると、彼女を付回している男がいるんだってな。ここ数日」


 あら、バレてた。

 そう言えば、委員長も目立つとか言ってたな。

 目立ってたのかな。


 でも、さっき、ハーフの男は俺を見て「そうは見えないな」と評価してた。

 詳しい人物像は知らないのだと思った。

 俺は嘘を付くことにした。


「そうなんだ。初耳だよ」


「ふ~ん。実はその男の情報は少ないんだよ。

 特徴の少ない影の薄い男だし、何より一緒に歩いていた女が目立つせいらしい。

 その女は、髪を一つに結んでいてオデコは丸見え、きつそうな三角っぽいメガネをした真面目そうな女。

 らしいんだよ。心当たり無いか?」


 あ、委員長だ。

 と俺が思うのと同時に田中君は言った。


「うちのクラスの委員長っぽいッス」


 そう言った田中君の顔からは、笑顔は消えていた。


「お前、委員長とは仲良いの?」

 とハーフの男は聞いてくる。


「その、ゴメンなさい。

 後をつけるつもりは無かったけど、その男は僕かも。

 委員長と一緒に帰ったよ。ここ数日」


 ちょっと路線変更した。

 委員長に害が及ばないように、ここで誤解を解消しなくてはいけないと思った。

 誤解も何も、客観的事実だけを見れば、ハーフの男は一切誤解して無いのだけどね。


 でも、土日を除けば、つまり学校帰りに彼女の後をつけたのは、二日だけ。

 何とか誤魔化せるはず。


「そっか。後をつけるつもりは無かったか。じゃあ、見たやつが勘違いしただけかもな」


「うん」


 俺が答えると、ハーフの男は笑った。

 さっきの田中君の笑顔とは明らかに異質だった。

 裁判ドラマや探偵ドラマで、主人公が犯人のうっかり発言を聞いた時のような、したり顔だった。


「そっかそっか。

 これは別のやつから聞いた話なんだけど、彼女の家近くでも目撃されてるんだよ。

 同じようなカップルが。

 これはお前と委員長のことだと思う?」


 多分、俺はもう詰んでいる。

 ハーフの男は勝利を確信している。

 どうする?

 本当のことを言うべきか? 


「さぁ……。委員長とは大神神社に行ったんだよ。

 そこが、彼女の家の近くかもしれないし、違うかもしれないし」


 俺は真実を混ぜつつ、嘘を続けた。


 さぁ、どう出る? 

 どう出てきても、意地でも誤魔化すぞ。

 死活問題だからな。


「そうか。なるほどね。大神神社は彼女の家近くだ。でも、そんなことは知らなかったんだ?」


「うん。そうだったんだ。ビックリした~」


「そっか」


 ハーフの男の笑顔はまだ崩れてなかった。

 多分、俺はまだまだピンチのままらしい。


 ハーフの男は突然スマートフォンを取り出し、どこかに電話した。


「あれ、どうなった? おぉ。できたか。顔はバッチリ写ってるか? そうか写ってるか。……、いや、持ってこなくて良いよ。事実確認したかっただけだから。おぉ。じゃあな」


 電話を切ったハーフの男は言った。


「彼女の家近くで怪しいカップルがいたんだってな。

 電柱に隠れながら、彼女の家の様子を伺う怪しいカップルがな。

 それを偶然目撃した婆ちゃんがいてさ、とっさに写真に撮ったんだ。

 警察に通報するかどうか迷ったけど、結局通報できなくて、それでもいざという時のために写真だけは撮ったんだとよ」


 あら。絶望的証拠?


「やっぱり、彼女の家に行ったかも」


「てめぇ!」


 と田中君は怒って俺に飛び掛ってきそうだったが、ハーフの男に止められた。

 ハーフの男は俺に問いかける。さっきまでの口調と違って、ドスがきいていた。


「なんでだ?」


「言えない」


「言わないなら、どういう結果が待ってるか分かってるのか?」


「分からないような、分かるような……。

 でも、あくまで話し合いなんだよね?」


「あ~、それ嘘になるかも。でも、先に嘘をついたのはお前だよな?」


「そうかも」


「じゃあ、理由を聞かせろ」


 彼女が俺に告白した。

 その真偽を確かめたかった。

 それだけ言えば、この危機を乗り越えられる。

 怪奇現象については言わなくても良い。


 なのに、俺は何故理由を言わない? 


 自分に聞いてみる。


 あまり人に言いふらすのは良くない気がするから。


 自分に答える。


 何故? 


 彼女が嘘をついていて俺が騙されてるかもしれないから?


 いや、違うな。

 もう俺はそのことについて殆ど疑ってない。

 彼女のことを信じ始めている。


 じゃあ、何故? 


 まだ俺の返答が決まって無いから? 

 

 多分これだ。

 悪意ある噂をばら撒く気はないけれど、振る相手のことをあまり人に言うもんじゃない気がする。

 結果として、きっと、特に彼女はみんなの憧れだから、悪い噂になるに違いない。

 まだ、結果が成功ならば、一緒に噂なんか乗り越えようって言えるけど、俺は答えを決められて無い。

 だから、人に言うべきじゃない。

 他人がどうするかは関係ない。


 それが俺の中の俺ルールのはずだった。


「人に言わない?」


 それでも、俺は保身のために本当のことを言おうとしていた。

 悔しくて数年ぶりの涙が頬を伝う。

 感動映画を見た時だって、ホラー映画を見た時だって、スルーマンとして負けが続いてたって、夜の神社を訪れて本気で怖かった時だって、我慢できたのに、今は我慢できなかった。


 ヤンキーに脅されて、最近の俺の不審行動と彼女の不審行動の理由を説明するために、彼女に告白されたことを言うだけ。


 それだけなのに、どうしてこんなに悔しいのか分からなかった。


 ヤンキーたちは男涙を笑いはしなかった。

 結構な時間、俺を黙って見守ってくれていた。


「失恋は辛いだろうけどよ……」


 田中君は言った。

 何か勘違いしてるみたいだった。


「理由にならねぇよ。ならねぇんだよ! だから、今日で止めろ」

 

 ハーフの男は優しい口調で言った。

 俺は何を止めるべきなのか理解できなかった。


「実は、俺も振られたんだぜ。彼女に」


 あ、それ知ってる。

 と田中君の告白に心の中で相槌を打った。

 何故、心の中でかというと、俺はまだ泣きやんでおらず、喋るのが困難な状況だからだ。


「田中。分かってるな。ワンパンで終わらせろ」


 ハーフの男はまた理解不能なことを言った。

 ワンパンって何味のパン?


「ウッス」


 と田中君は返事して、俺に向かって恐ろしいことを言った。


「これから俺とタイマンしろ。あ、タイマンって分かるか? 一対一の勝負だ」


「やだ」


 俺は涙声で否定した。


「やだじゃねぇよ。

 ケジメだ。

 それが俺とお前のケジメなんだよ。

 お前はその痛みを胸に、もうストーカーは止める。

 俺も痛みを胸に今日のことは忘れる」


「でも、きっと、痛いの、僕だけ」


 俺はしゃっくり交じりの細切れ発音で、主張した。


「分かってる。分かってるさ。でも、殴る拳も痛いんだぜ」


 それ、すっごく興味ないし、納得いかないし。


「やだ」


「お前が嫌でも、始まるからな」


 田中君は容赦なかった。

 ぽきぽき指を鳴らしながら、俺に近づいてくる。


「安心しろよ。一発で終わらせるから」


 田中君が言うことに、俺は全然安心できなかった。


 っていうか、思うんだ。


「理由聞いてよ!! なんで、聞かないうちに話し進むのさ!」


 俺は泣きながらキレた。


「え? こいつ理由言わなかった?」

 ハーフの男は言った。


「振られたけど諦められなくてストーカーしてるんッスよ」

 田中君は言った。


「僕は何も言って無いよ!」

 俺は言った。


 何故か凄い目つきで見られる。『信じられねーぜ』って目で訴えている。


「話しても良い?」


 と聞いてみるのだけど、ヤンキーたちはどよめくばかりで返答をよこさないから、勝手に話した。


「彼女が僕のことを好きだって言ってくれた」


「はぁぁ? お前、そんなわけ無いじゃん。その言い訳はタチ悪過ぎるぞ!!」


 田中君は怒ってしまた。

 何度も怒りを爆発させたり沈静させたり、忙しそうだ。


「僕も田中君みたいな心境だったよ。

 だから、本当かどうか知りたくて調べちゃったんだ。彼女のこと」


 お。調子良いな。

 もう大分泣き止んだ。

 もう大分喋られるぞ。

 とか呑気に俺が自己分析できたのは、ヤンキーたちが「マジか?」「マジか?」とどよめくばかりだったからだ。


 ハーフの男がどよめきから抜け出し、俺に聞いてくる。

 その口調はとっても疑いの色をしていた。


「それはいつだ?」


 告白された日は良く覚えている。『それは、ないさ』の、

「七月一三日」


「時間は?」


 それも良く覚えている。


「朝。

 僕、駐輪場のお気に入りの場所に止めたいから、いっつも早く登校してるんだ。

 大体七時半ぐらい。

 だから、そのぐらい」


 ハーフの男はスマートフォンを取り出し、


「その時に彼女関連で何か目撃したか?」


 喋っても良いかな?

 と自問自答。

 俺は迷いながら、陸上部の先輩のことをぼかしつつなら良いかなと判断した。


「彼女は僕に告白する前に、告白されてた。

 えっと、僕が告白現場を見たから、君には見られたくなかったなって言われて、そのまま告白されたの」


「誰? 彼女に告白してたのは誰?」


「言いたくない。学校の中じゃ有名人。スポーツマン」


「ふ~ん」


 ハーフの男が悩み始めると、田中君は焦りながら聞いていた。


「こいつの言ってること、マジ何ッスか?」


「さぁ。でも、今のところボロは出てない」


 ハーフの男は俺の方へ向き直り、


「お前への告白は見られてたのか? 陸上部のエースに」


 おや、陸上部の先輩のことがバレてる。

 何で?


「ううん。でも、ちょっと話した」


「そっか。後で確認取るわ。今日はもう帰って良いぞ」


 今日はって言うけど、俺は二度と来たく無い。

 でも、帰れるならそれで良いかなと思った。


「じゃあ、さようなら」


 俺は長居するべきじゃない空間からの離脱を速やかに決行しようとした。


「待ってくださいよ! 俺は、俺はどうすれば!!」


 田中君は空気を読んでくれなかった。


 ハーフの男は田中君と俺を交互に何度か見て、

「やっぱ、お前さ、殴られて帰れ」

 理不尽なことを言った。


「ウッス!」

 田中君は賛同しやがっていた。


「やだ!!」

 俺は否定した。


「勘違いするな。腹いせじゃない。俺の想いを受け取って欲しいんだ……。幸せになれよ」


 田中君の言うことは、全然理解できなかった。

 何言ってるんだこいつ。


「話し合いって言ってたじゃん! 結局僕を殴るつもりだったの?」


 俺は頑張って主張した。

 殴られるのは絶対に嫌だ。

 親父にも殴られたこと無いんだ。


 ハーフの男は悪びれた素振りも見せずに「悪いな」と謝り、拳を握って俺に見せる。


「俺らは拳でも語り合うんだ」


「僕は違うよ!」


 と俺が言い終わるや否や、突進しながらの勢いづいた田中君の右フックが、俺の左頬を殴った。


 泣きたいのは絶対に俺の方なのに、そのまま田中君は男泣きした。

 吹き飛ばされた俺は、何も言わずに不貞腐れながら屋上を後にした。


 結局殴られるのなら、流れにませれば彼女の告白のことを言わずにうやむやに終わらせられたのに、と気がついたのは階段を下りている時だった。




 ケース五。コインズ。


「おい。待てよ」


 とハーフの男に呼び止められたのも、階段を下りている時だった。


「まだ、何かあるの?」


 不貞腐れてる俺は、強気に答えた。


「怒ってるの?」


「怒ってるよ。すっごく痛いんだよ」


「悪いな。でも、普通、殴られた直後に怒れないもんだぞ」


「そんなの知らないよ。僕は怒るの。初めてだったんだからねっ!」


「そうか。そうか。それは悪かったな」


 ハーフの男は嬉しそうに笑いながら謝っていた。


「それで? まだ用があるの?」


 ハーフの男は俺の隣まで降りてきて、


「今日のお前、彼女のことを聞き回ってたらしいな。それも本当かどうか確かめるため?」


 それもあるけど、どっちかというと彼女が怪奇現象に巻き込まれて無いかを探るためかな。

 でももちろん、正直に答える義理も無く、


「うん。そうだよ」


「それ、まだ続けるの?」


「続けるよ。何で?」


「まだ、彼女のことを疑ってるのか?」


「疑って無いけど……」


「でも調べるんだ?」


「そうだよ。駄目なの?」


「いや、普通はあんまり良く無い印象受けるだろ。理由はどうあれ、人のことを影で調べ回るなんて」


「そうかもね。でも、止めないよ」


「強気だな」


 もう一度殴られたって気は変わらないよ、と思ったが、言ったら殴られそうなので黙っておいた。

 ハーフの男の太い腕を見るに、田中君に殴られるよりずっと痛そうだ。


 俺は恐怖に負けないように、必死にハーフの男の靴を睨む。

 顔は怖くて見れない。


「そう、いきり立つなよ。別に脅しに来たわけじゃないさ」


 ハーフの男はごつい腕を俺の肩に回す。


「ビジネスの話、しようぜ」


 そう言って、強引に、俺をどこかに連れて行くのだった。




 校舎から見てグラウンドの奥、校門から見て最奥に、部活棟がある。

 俺はそこへ連行された。

 部活棟には十の部室と、一つの大部屋があり、大部屋は長期休みの合宿時なんかに使われているそうだ。

 学校で合宿なんて味気ないよな。

 俺には全く関係ないけから、良いけど。


 なんて思いながらも、部活棟の玄関を通っても、一体全体俺はどこへ連れて行かれるのか分からないでいた。


 部活勧誘? 

 でも、ビジネスらしい。

 俺にお金で貸すような才能なんてあったけな。

 スルーマンの力は、多分、高校生の部活には役に立たないと思うんだけどな。

 そもそも、お金で助っ人を頼むなんて、清くない、高校生らしくない。

 

 なんて考えながら、引きずられるように俺は歩かされる。

 肩にはごつい腕が絡まったままだ。

 これだけ身長差があれば、こいつも歩き難いだろうに。


 俺は無言だけど、心の中で愚痴をいっぱい言っていた。

 ハーフの男も無言のままで、とても気まずかった。


 二階に上り、三階に上り、長い廊下の最奥の部屋が、目的地だったみたいだ。


「ここだ」


 とハーフの男は言った。

 やっと絡まっていた肩の荷が下りたので、俺は部屋の表札を確認してみる。


 アニメ同好会。と書いてあった。


 部室棟にある部室は十部屋だけ。

 ちゃんと数えたことは無いけど、この学校にある部活動は三十ぐらい。

 つまり、三分の二の部活は専用の部室を与えられて無いのに、限られた十の部室に同好会の表札があるのはおかしい、と思う。

 しかもアニメ同好会。

 別に俺もスルーマンに青春の情熱を燃やしているのだから、他人の価値観にケチをつけるつもりは無いけれど、アニメってさ、限られたリソースを勝ち取れる高校生の部活には思えない。


「あにめどうこうかい?」 


 俺は困惑してることを知らせるために、とりあえず疑問文で表札を読んでみた。


「そっ。アニメ同好会」


 ハーフの男は俺の意を汲んでくれなかった。

 そんな彼によって、アニメ同好会の扉は開かれた。


 部屋は流石アニメ同好会って感じの部屋だった。

 千冊に届きそうなマンガやアニメ雑誌が収納されている本棚が壁に並び、その本棚たちにはDVDも百枚はありそうだった。

 他には二次元美少女のポスターが壁に二枚、二次元ロボットのポスターが天井に二枚、あとは剣を持ってる人のポスターがドアに一枚貼ってあった。

 でも、カメラとか? そう言ったアニメを作るための機材はなかった。

 見るの専門らしい。


 それでも理科室とか視聴覚室とか、そういった特別教室を借りながら活動する部活動ならば、ここまで凄い部屋にはできない。

 部室保持者の貫禄が見えた。

 やりたい放題だ。


 部室にいた面子は意外な人物達だった。

 ヤンキー、ヤンキー、女、ヤンキー、ヤンキー、ヤンキー。

 こんな感じ。

 部屋の中央にあるテーブルに五人のヤンキーが座りながら携帯ゲーム機で遊んでいて、部屋の奥の机で窓を背にパソコンをいじっている大人しそうな女が一人。

 俺は昔のヤンキーも未来のヤンキーも、もちろん今のヤンキーも知らないけど、最近のヤンキーはアニメ好きなのかな。と思った。


「チワッス!」


 突然ヤンキー達が叫ぶので、俺は驚いた。

 ヤンキーたちはハーフの男に気がつくと、一度起立して挨拶する。

 女は座ったまんま、挨拶していない。


「よぉ」とハーフの男は挨拶を返し、女の方へ視線を送り、

「おい、月子つきこ。お客さんだぞ。挨拶しろ」

 と言った。


 月子と呼ばれた女は、彼女以上に憑かれていそうな女だった。

 おかっぱ頭はトイレの花子さんを連想させるし、化粧してないだろうに異様に赤い唇はどこか怪しかったし、白すぎる美白肌も目の下の大きな隈も不健康そうだった。

 月子さんは、ハーフの男を少し見る。

 でも興味なさそうにパソコンに目線を戻す。

 それでも、無視するわけじゃないらしく小さな声でぼそぼそと喋った。

 弱々しい声は、意外と綺麗な音色だった。


太陽たいよう君こんにちは」


「俺じゃなくて、お客さんに挨拶しろ」


「こんにちは。知らない人」


「え? あ、こんにちは」

 と俺は挨拶を返し、学年とクラスと名前だけの簡単な自己紹介をする。


「やっぱり知らない人。その人、大事?」


「おぉ。こいつ、スゲーっぽいよ。実はさ……」


 ハーフの男、改め太陽君は多分俺のことを話そうとしているのだと思った。

 屋上での「誰にも言わない?」という俺の質問に、太陽君たちは答えてなかったことを思い出した。


「駄目~! 言っちゃ駄目!」


「そうだったな。秘密だっけ」


 太陽君は、ヤンキーたちに部屋から出て行くように指示する。彼の行動を黙って見ていたのだが、ここで俺は気が付くべきだった。

 何故太陽君が人払いをしたのかを、ちゃんと考えるべきだった。


 ヤンキーたちが部屋から出て行ったのを確認した太陽君は、あっさり月子さんに話す。

 あまりに堂々とあっけらかんとしていたので、俺は止める暇も無かった。


「こいつな、あの有名な彼女、河合かわい 姫衣きいさんに告白されたらしいぜ」


「言っちゃ駄目~!」


 と俺は慌てて被せたけれど、タイミングはかなり遅れていて、音は重ならなかった。


「嘘」

 と月子さんはバッチリと聞いていたことを示しながら、否定した。


「あぁ。嘘かもしれないけど、嘘とも思えないんだよ」


 もう完全に隠せて無いので、俺は開き直ることにした。


「本当だよ」

 と不満を隠さない口調で、太陽君を睨む。


「もう誰にも言わないでよ」


 太陽君は俺の口止めを無視して、語り始めた。


「俺らはコインズっていうチームを組んでいる。

 主な活動は、ここ愛上高校での情報統制及び活用」


「えっと、良く分からないよ」


「情報買う。欲しい人に売る。時には悪を裁く悪」


 月子さんは説明してくれるけど、全然理解できない。


「えっと、良く分からないよ」


「情報の売買をしてるんだよ。

 つまりは情報屋。

 あとは、集めた情報を武器に色々やることもある。

 情報って資産は売ったからってなくならないからな。

 人に売ることで価値が下がったり上がったりするのもあるけど、なくなりはしない。

 色々活用できるのさ」


 俺は情報を売ったことによる、その情報の消滅の事例を考えてみる

 。なんとなく、委員長に言われた言葉を思い出した。

『あなたは人の言葉を否定する癖があるんじゃないの?』ってやつを。

 でも、やっぱりあるよな。


「それはおかしいよ。

 例えばさ『太陽君の鼻毛が出てる』って情報を人に売ったら、買った人が太陽君の鼻毛問題を処理しちゃうと、『太陽君の鼻毛が出てる』って情報は存在自体消滅することになるじゃん」


「おぉ、それはあるな。

 でも、『俺が鼻毛出てたかっこ悪いやつ』って情報は残るだろ?」


 ふ~ん。そういうもんかな。

 と俺は考えようとすると、月子さんはポツリと言った。


「太陽君の鼻毛……」


 そして、つぼにはまったらしく大笑いする。

 俺はそんな月子さんを見て、机を叩きながら、身体を上にのけぞらせたり下に丸めたりと揺らしながら、激しく笑う月子さんを見て、若干引いた。

 そして、俺は思ったのだ。

 大きな声出せるんじゃんと。


 思ったところで何の解決にはならず、どうして良いのかも分からいまま、ただただ月子さんを見ることしかできなかった。

 そして、三十秒後、スイッチを切ったかのようにピタッと笑いは止まった。

 ディミヌエンド、徐々に弱くなんてことは無かった。

 結構不気味だった。


「新情報ありがとう。知らない人」


 そして、パソコンに何かを打ち込んでいた。


「おい。月子! 今の例えだ。俺は鼻毛が出ていない!」


「大丈夫。私の中では真実」


 月子さんはドヤ顔で微笑み、右拳を太陽君に突き出し、親指を立てた。


「ちっ……。まぁ、俺が鼻毛出てたかどうかなんて情報を買いたがるやついないだろうし良いけどよ……」


 と言いながらも太陽君は俺を睨んだ。

 俺は目線をそらし話を続けた。


「それで、僕は何でここにいるの?」


「俺が連れてきたから」


 この男は馬鹿なのか? 

 俺が聞きたいのはそんなことじゃないはずだろう。

 会話の流れを読めよ。

 と俺は心の中で強気に罵倒しながら、冷静に聞いた。


「なんで僕を連れてきたのさ?」


 自分で思ってたより不満が表れた口調だった。


「お前はお客さん。俺らが調べてやるぜ? 彼女の告白が本物かどうかをな」


「良いよ。必要ない」


 その件については概ね信用したし。


「なんでだよ?」


 太陽君は引き下がらない。


「僕、お金持って無いし」


 月五千円のお小遣いは、携帯代金と週間マンガ雑誌代金で、殆どが消える。

 俺に余分なお金はない。


「大丈夫。既にお前からお代は頂いているよ」


 俺は財布を取り出し確認した。

 大丈夫、減ってない。

 次に鞄を調べて消えたものが無いかを確認する。

 大丈夫。何もなくなって無い。


「あ~、安心しろよ。何も盗んで無いから」


「じゃあ、もう頂いたってなんなのさ」


「彼女がお前に告白した。

 これはかなり価値のある情報だぞ。

 以前から高値だったが、最近の彼女はハッキリ言うらしいからな。

 私には好きな人がいるって。

 今この学校で、彼女が好きな男性、って情報以上に価値のある情報はそう多くない」


 え~っと、つまり、良く分からないのだけど、


「秘密にしてくれないの。人に言いふらすの?」


「売ってくれと頼まれればな」


「駄目だよ!!」


「分かってるよ。お前の屋上での態度を見るに、言いたくない理由があるんだろうなってことぐらいはな。

 だから、俺らがお前の問題を調べてやるから、その情報を売る許可をよこせって提案するためにつれて来たの」


「嫌だよ。自分で調べるし、それ以前に人に言ってほしく無い」


 俺は意地でも断るつもりだった。

 その決意を読み取ったのか、太陽君は「う~ん」とうなり後頭部をかく。

 だけど、月子さんは言った。


「無駄。

 あなたが嫌がろうとも、私達は既に知っている」

 

「月子。

 この情報は脅迫したような形で聞いてしまったんだ。

 本人の了解無く使わせないぞ。

 俺には俺の、線引きがある」


「私は無関係。

 悪いことをして聞き出したのは太陽君。

 私は普通に聞いた」


 どうやら、絶体絶命のピンチらしく、俺は後悔した。どんなに怖くても、俺ルールを破るんじゃなかったと、取り返せない過去を悔いた。


「つ~き~こ。お~ね~が~い。頼むから、ここは俺の顔を立てて。ね? 愛しているから!」


 突然太陽君はキャラ崩壊した。

 さっきまでの威風堂々たる立ち姿は無く、巨躯な身体を腰の辺りを基点にくねくねと波打たせ、おねだりした。

 俺は困った。


 月子さんは不健康だった白すぎる肌をみるみる赤くし、今までも小さかった声を更に小さくして、呟いた。


「ミー トゥー。アイ ラブ タイヨウ」


 なんで英語? って疑問はあったけれど、悩んでる時間はなかった。

 月子さんは勢いよく机に頭を伏せる。

 ゴン! と額と机のぶつかった音の大きさから考えても、かなり勢いありそうだ。

 その後、月子さんは五回程頭と机をぶつけていた。

 俺は月子さんの突拍子の無い行動に、圧巻されるばかりだった。


 月子さんは満足したのか、ピタリと動きを止めた。

 ゆっくりと身体を起こし、太陽君をにやけ顔で睨みながら言った。


「恋の暴力。

 惚れた弱み。

 私の負け」


「サンキュー!」


 太陽君は笑顔で言った。どうやら、俺の秘密は守られるらしい。


「で、それとは関係なく、どうよ? 俺らに許可しろよ。他にも色々調べてやるぞ」


 太陽君は諦めたわけじゃなかったみたいだ。

 しつこいタイプの営業マンらしい。


「ぜ~ったいに、やだ!」


 見つめ合う俺と太陽君。


「言っとくけど、お前がここで認めないのなら、しばらくは秘密にはする。

 でも他の経路で得る可能性もあるんだぞ。

 その時は遠慮なく売りさばく」


「そう。でも僕は許可しない」


「あのな~、いつかはバレるんだ。

 それなら、ここで俺らに恩を売った方が得だぜ?」


「損得じゃない。絶対に許可しない」


 再び俺と太陽君は無言で見つめあう。

 根負けしたのは太陽君だった。


「分かったよ。分かった。諦める。……お前、ガンコだな」


「ガンコじゃないよ。でも嫌なの」


 決着はついたみたいだけど、俺はもう一度だけ否定を重ねた。

 太陽君は困ったように笑って肩をすくねた。

 降参の合図だと俺は判断した。


「もう用は無いでしょ? 僕は帰るよ。バイバイ!」

 バイバイ、売買終了だけに。


「おい。待てよ。秘密にはするけど、調べてやるぜ?」


 太陽君はまだ引き下がらなかった。

 かなりしつこいタイプの営業マンらしい。


「言ったでしょ? 僕はお金持って無いの」


「安心しろって。俺らの情報を買ったり、俺らに調査依頼するのに、金は必要ない」


「じゃあ、何が必要なの?」


「情報」

 月子さんは短く答えてくれた。


「彼女のことは秘密だよ!」


「分かってるよ。ほかに面白いネタは無いのか?」


「え? 僕の持ってるみんなが知らない情報、だよね。

 僕のスリーサイズとか?」


「そんなのいらねぇよ。

 誰が欲しがるんだよ。

 って言うか、お前って男の癖に自分のスリーサイズ把握してるのか?」


「そう言えば、知らないかも」


「大丈夫。

 メジャーはある。

 計測できる」


 月子さんはいつの間にかメジャーを手に持っていた。


「おい。月子。男のスリーサイズ欲しがるやつなんているのか?」、「意外といる」、「でもよぉ、大した価値は無いだろ?」、「意外とある」、「そうなの? 俺のも?」、「太陽君のはない。それに私が許さない」

 

 二人は俺を忘れてヒソヒソ話。

 でも、丸聞こえだ。

 なんとなく、俺は恥ずかしくなってきた。


「やっぱり良いよ。自分で調べる」


 そもそも、俺は彼女の告白を信じてるし。

 かといって、怪奇現象に巻き込まれていることを暴露するのは、これ以上に彼女の名誉を傷付けそうだし。

 それでも「なんでだよ?」と太陽君は何度も何度も食い下がる。

 俺は俺でまともに答えるのも面倒になってきて「なんでもなの」と答える。

 変な会話。

 俺はスルーされる職人の才能だけではなく、無限ループを作る才能もあるのかもしれない。


「分かった。本当ガンコなやつだな。お前」


「分かってくれた? 本当しつこい男だよね。太陽君」


 十分程の時間を無駄に使い捨てたが、俺はやっと無限ループを抜けるのに成功した。

 だけど、太陽君は諦めたわけじゃなかった。


「じゃあさ、お前が相談に乗ってくれなかったら、俺らで情報を流す」


「えっと、どういうこと?」


「だから~、俺はお願いするのを止めたの。

 お前が俺らに協力を仰がないのなら、俺らが噂流しちゃうゾってこと。

 お前が彼女を付回してるって噂を流しちゃうゾ。

 もちろん変態エピソードも沢山盛っちゃうゾ。

 学園生活真っ暗だゾ」


 この男は自分の外見を理解していないのか、「ゾ」の度にウインク交じりに指差してくる。

 さっきまでのごつい太陽君に感じていた恐怖とは別種類の恐怖がこみ上げてくる。

 それはともかく、俺は否定した。

 この人たちに頼むのも、変な噂流されるのも、どっちも嫌だ。


「やだよ」


「お前さ、嫌だ嫌だばっかり言ってるよな。

 そんなネガティブじゃ人生切り開けないぜ」


「太陽君の前だけだよ。多分」


 俺は委員長の声で「男らしく無い」って幻聴が聞こえたが、今日の件で言えば、誰だって「嫌だ」を連発するはずだ。


「大丈夫」

 と月子さんは言った。何が大丈夫なのかと思えば、

「知らない人は否定できる。これは命令じゃない。脅迫。私はどっちも楽しい」


 結構酷い女だった。


「……。何でそんなにしつこいのさ」

 と俺は半場諦めながら聞いた。


「太陽君は変な人好き」

 と月子さんは頬を染めながら言った。

 自分が変人だと理解しているらしい。

 でも、


「僕は変じゃないよ」

 と主張した。


「いや、お前は変わってるよ」

 と太陽君は『変な人好き』の所は否定せずに、俺の主張を否定した。


 なんだろうな。

 段々この人たちのペースにはまってきたのか、もう疲れてきたのか、どうでも良くなってきた。

 あぁ、そういえば家庭科の授業で習ったな。

 長時間拘束して騙す詐欺商法があるって。

 こういう心境なのかな。


 と俺は思考が乱れてくるのを自覚できた。

 疲れてきたんだなと思った。

 

「君達の手に負えない深刻な事態にまで発展しているんだ」


 何を思ったのか、俺は主役ゴッコ交じりに意味深な顔を作り言ってしまった。

 もう太陽君たちのキャラをつかむのに充分な時間を接しただろうに、明らかな下策に出てしまった。


「そんなに難しいか?」

 と太陽君が月子さんに聞けば、


「全然。余裕。知らない人、月子舐めてる」

 と月子さんが答え、


「舐められるのは面白くねぇな。分かったよ。

 勝手に調べる。

 そして、お前に教えてやる。

 もちろん、お代として噂は流す」

 と太陽君が強引に商談をまとめた。


 元から、俺に選択肢など無いのだ。

 そう、俺は脅迫されているのだ。


「待って待ってよ!

  分かったよ。正直に話せば良いんでしょ!」


 俺はどうせ痛いのなら、こいつらを利用してやろうと思った。

 俺のスリーサイズでこき使ってやろうと企んだ。

 やられっぱなしが好きじゃないのは、俺も同じだ。


「正直に、か。やっぱりお前何か隠してたのか。

 そうだよな。俺には丸分かりだったぜ」


 太陽君は本当かどうかは知らないけれど、お見通しだったことを主張してきた。

 多分、嘘だ。

 だけど、真実を話す前にやっておかなければいけないことがある。


「これは絶対に秘密にしてね。彼女の名誉に関ることなんだ」


「おぉ。そういうの、ありだぜ」


「結構柔軟なんだね。どういうシステムなのか分からないけど」


「適当。気分」


「あ、馬鹿! 良いか? 月子。

 余計なこと言うなよ。

 商売の基本はハッタリだ」


「ハッタリって、秘密にしてくれないなら話せないよ」


「大丈夫。そこは、信用しろよ」


 太陽君は月子さんの口を押さえながら断言する。

 とても嘘っぽい。


 だけど俺には選択肢が無いことは明らかで、どっちにしろお願いしなくてはいけない。

 でも今からでも怪奇現象のことは隠せるかな、いまいち信用できないんだよな。

 俺は悩んで悩んで、悩んだ。

 無意識に長時間黙り込んでしまったのか、太陽君はいつの間にか俺の目の前にいた。


「安心しろよ。男と男の約束は、何より重い。絶対に秘密にする」


 吐息が掛かる程の近すぎる至近距離でそう言った太陽君の目はとても真直ぐで綺麗だった。

 見慣れてないせいか、青い瞳は神秘的で、思わず信じそうになった。

 今日一日で、随分と太陽君に約束を破られているのに、心が揺らいだ。

 俺は数歩下がり、太陽君と距離をとる。


「呪いとか、幽霊とか、そういうのもいけるの? コインズは」


 まずは軽いジャブから試した。

 この切り出し方なら、彼女が怪奇現象に巻き込まれていることが容易に想像できるだろうけど、無理やり誤魔化すことも可能だろうと踏んでいた。

 例えば、呪われて困ってるのは俺だ、とか嘘を付いたりして。


「おぉ。余裕だよな?」、「余裕」


 二人は俺の予想以上に簡単に詰まること無く答えた。

 まるで自分の誕生日を答える時のように、一切の躊躇も無く答えた

 この二人が秘密を守ってくれるかは、未だ信じられない。


 でも、俺のジャブを余裕そうに「余裕」と返してきたり、屋上の鍵を何故か持っていたり、同好会なのに限られた部室を持っていたり、コインズは意外と凄いのかもしれないとも思った。


「実は、昨日の夜……」


 俺は昨日の神社で起きた、怪現象について話した。

 そして、彼女が困っているのかもしれないので調べていることも話した。

 彼女のテレビ実況サエズッターのことを伏せながらも、その調査過程で彼女の告白の真偽については概ね信用していることも話した。


「なるほどね~。

 まぁ、心配するなよ。

 ターゲットがあの目立つ彼女だ。

 それでいて、こんな相談持ちかけてきたのは、お前が初めて。

 それ程深刻な事態ではないだろうよ。

 気楽に構えろよ!」


「楽勝」


 俺を慰めるような元気付けるような発言とは裏腹に、二人の表情は険しかった。

 だけどお気楽な言葉よりもずっと、二人の表情が俺を勇気付けてくれた。

 この二人は、こんな現実味の無い話を信じてくれている。

 真面目に取り組もうとしてくれている。

 どっかの委員長とは大違いだ。

 問題の解決にはなっていなくても、その事実だけで俺は嬉しかった。


「二人とも、ありがとう!」


 まだ二人を信用しきれてないし、脅迫されたことはまだまだ恨んでいるし、多分結構な期間根に持つだろうけど、この腹黒どころか存在自体が黒いカップルめ、とか思ってはいるんだけど、心の底から感謝を述べた。


「おぉ。余裕だぜ」、「余裕」


 二人はやっと笑った。その余裕という言葉は、やたら嘘っぽく聞こえたけど、頼もしく見えた。


 感傷に浸るのは、僅かゼロコンマの世界だった。


「ではスリーサイズ頂きます」


 太陽君は大きい背を丸めながら手をこすり代金の催促してきた。

 やっぱりスリーサイズは恥ずかしくなったので、他の手段は無いか聞こうと思ったのだけど、いくら考えても俺が貴重な情報を持っているとは思えず、結局聞けなかった。素直に従うことにした。


 計測は太陽君が行う。

 月子さんは太陽君にメジャーを渡すために、席から立った。

 初めて全身を見せる月子さんは、女子と比べても背の低い方の俺より、少し小さかった。


 それよりも、当然のように制服を脱ぐように指示されたが、まさか女子の前でパンツ一丁になるわけにもいかないので、トイレでTシャツ短パンに着替えて来ることにした。

 部屋を出れば追い出されたヤンキーの人たちが俺を待っていた。

 まだ話が終わってないことを伝えると解散する流れになった。

 俺も、ヤンキーたちに紛れて解散したかった。


 でもそうすれば悪い噂を流されるわけで、諦めてトイレに向かう。


 午前の体育の時間でたっぷりと汗を吸い込んだTシャツ短パンを再び着るのは、結構嫌だった。


 着替えた俺が部屋に戻ると、太陽君はメジャーで遊んでいた。

 人の気も知らないで、お気楽な男だ。

 加害者はいつだって、そういうものなのだ。


「でも、こいつのスリーサイズなんて本当に価値あるのか?」


「ある。

 知らない人、原石。

 磨けば光る、女装の才能」


 俺自身、何故に俺のスリーサイズに価値があるのか疑問だったが、そういうことか。


「おぉ。言われてみれば、そうだな。似合いそうだ」

 と太陽君は納得する。

 するなよ。



「そんな才能、磨かないけどね」

 損な才能だけに。


 俺はハッキリキッパリ否定した。


「無理」

 月子さんは否定の否定をしてきた。


 俺は否定の否定の否定をしようとしたけれど、


「そうだな。スリーサイズだけじゃ代金は足りてねぇ、……ことにしよう。女装した写真も頂こうか」


 太陽君は人のウエストを計りながら、人の足元を見る発言をしてきた。


「嫌だよ」


「また、出たな。やだやだ星人」


「小学生みたいな悪口だね」


「男はいつまでも少年の心が残ってるもんだ。

 男の気持ちなんて、お前には分からないかもしれないけど」


「分かるよ! 分からないって、どういう意味さ?」


 太陽君は俺の質問には答えず、クックックと噛み殺したような笑い声をあげた。そして、


「分かってくれたか。じゃあ、やだやだ星人は、ありの方向で」


 何も言い返せなかった俺は、『地球が何回回った時?』レベルのいちゃもんだと心の中で馬鹿にしといた。

 ウエストを測られてる俺は腹が立っていた。


 それでも、立場の弱いらしい俺は腰低げに聞くしかできなかった。


「ねぇ。女装の写真は勘弁してよ。

 ストーカーの噂をばら撒かられるのも嫌だ。

 他に方法は無いの?」


「無い」

 月子さんは即否定。

 俺は「そんな……」と落胆し、計測しやすいように上げていた両手を下げてしまった。

 偶然、本当に狙って無いのに、太陽君の後頭部を殴ってしまった。


「痛てぇな!!」

 太陽君半ギレ。

 俺マジビビる。


「ゴメン……」


 だけど恐怖に引きつった俺の顔は、どうやら太陽君の同情を買ったみたいだ。


「まぁ、俺は別に見たくも無いしな。お前の女装なんて」

 とちょっと回避できそうな雰囲気。


「私は見る」

 と月子さんは意地でも譲らない雰囲気。


 太陽君は中腰から立ち上がり、俺と月子さんの顔を交互に見る。

 この状況にデジャビュを感じた。

 田中君に殴られる前も、人の顔を交互に見比べる太陽君と会った。


「やっぱ、お前、女装しなくちゃ駄目みたいだわ」


「えぇ~! どうにかならないの?」


「ん~。月子のあの目は無理な目だ。決して引かない時の、目」


「そう。私は絶対に見る」


「やだ! やだ! やだ~!!」


 俺は男らしく粘った。

 男には引けない時がある。

 その甲斐あってか、十分後には月子さんも折れてくれた。


「じゃあ二人とも異存ないな。

 これで手を打てよ。

 女装はする。

 だけど写真は撮らない。

 良いな?」


 こうして俺は、人生初の派手すぎるドレスやロボットパイロットっぽい戦闘服やチャイナ服を着ることになった。

 一つじゃないとは、想像もしていなかった。

 まさか、三着も着せられるとは思ってもいなかった。

 顔には簡単だけど化粧もされ、金髪のロングヘアーのカツラまであった。

 服も化粧もカツラも月子さんの物らしいのだが、少なくとも俺は普段こんな格好をしている人を見たこと無い。


 女装ってきっと辛いんだろうなと思ってたけど、思ってたより、ずっと、ずっと、辛いものだった。


「もう、良いでしょ? 脱ぐよ?」


 チャイナ服に身を包む俺は、興奮したのか壁を平手で殴り続ける月子さんに哀願した。


「待って。やっぱり写真」


 月子さんは机に向かい歩き出す。

 多分そこにカメラがあるのだろう。

 俺は慌ててチャイナ服を脱ぎ、カツラを取った。


 月子さんはまだ止まらない。


「短パン、Tシャツ姿もあり」


「ないよ!」


 俺は太陽君に隠れながら、急いで制服を着る。

 Tシャツ短パンを脱げなくたって、写真を撮られるよりはマシだ。


 太陽君は俺の女装ショータイム中ずっと我関せずの態度を崩さなかった。

 大笑いし俺をからかわなかったのは、それだけ太陽君の俺に対する同情が大きいのだろう。

 あるいは喜ぶ月子さんを見て嫉妬したか。


「月子。満足したか?」


 太陽君は無表情で月子さんに聞いた。


「消化不良」


 月子さんはカメラで顔半分は隠れているけど、それでも分かる明かな満足顔で言った。 


「だよな。ちょっとお代的に足りてないよな? 俺もなんか面白く無い気分だ」


 同情よりも嫉妬が勝っていたか。


「もう、絶対に着替えないよ。カメラ持ってるし」


 月子さんは手を後ろに回しカメラを隠した。

 その行為は何の意味も持たない。

 何故なら、俺は背中に隠れているカメラの存在を知っているからだ。


「良いよ。それ、あんまり面白くねぇし」

 と太陽君は今度こそ女装に反対してくれるらしい。


 その後、月子さんが邪魔されながらも俺と太陽君は折り合い地点を探すため話し合う。

 元々スリーサイズだけで良かったはずなのに、理不尽だ。

 しかしながら逆らえない俺は何とか脳内から有用そうな情報を探す。

 やっぱり俺の持っている情報は全部使えないらしい。

 俺の誕生日とか血液型とかじゃ、駄目みたいだ。


「そんなの、聞けば直ぐに分かるじゃねぇか!」

 とのことだった。


 そこで、俺から「こんな情報はいかが?」と提案する時間は終わり、太陽君サイドから「こんな情報を持ってないか?」と提案してきた。


 太陽君は本棚の中から、背見出しに『要調査項目だYO!』と書かれたファイルを取り出し、俺に渡してきた。

 ファイルを開けば、A四コピー用紙が沢山挟められていた。

 紙に穴を開けて保存するタイプのファイルなのだが、穴の位置がずれているので紙たちは不ぞろいに重なっていた。

 太陽君はがさつな男らしい。


 一枚のコピー用紙に、一つの依頼が書かれているらしかった。

 手作り感バッチリの表で、上部に大きめに依頼内容を書く欄、中央部に紙面の多くを使って調査内容を書く欄、下部に調査人を記入する小さな欄がある。

 多分、依頼人を書く欄がないのは、調査過程において人に見せるかもしれないための配慮なのだろう。


「どうだ? あるか?」


 太陽君はまだ俺が三枚目までしか進んでないのを知っているくせに、聞いてきた。


「まだ、見てる途中」


「どれでも良いぞ。簡単なので良いからな」


 と言う太陽君の言葉を聞いて、気がついた。

 依頼内容を書く欄に、アルファベットが書いてある。

 多分、これは調査難易度を示すのだろう。


『大原君の好きな人』がCで、『大原君の血液型』がIなのを見るに、アルファベットの若い方が難易度が高いのだろう。

 多分。


「ねぇ、大原君の血液型はありなのに、僕の血液型はなしなの?」


「俺らに聞く人がいたら、ありだったかもな。

 今のところ、お前の血液型を調べてくれって頼みに来たやつはいないから、駄目」


「じゃあ、僕が聞くよ!」


「お前馬鹿だろ。

 それでも良いけど、今度はお前の血液型を調べるためのお代が必要になるぞ」


「それは盲点だった」


 俺は一枚、一枚、コピー用紙をめくっていく。


 誰々の趣味を調べてとか、誰々の好みのタイプを調べてとか、多くが恋愛がらみっぽい内容だった。

 最近の若いもんは、恋愛関係の興味を人に調べてもらうのか。

 まったく、お父さんに聞かれたら昔は良かったって語られちゃうぞ。

 でも、俺も調べてもらうのだった。


 ない。

 いくらコピー用紙をめくっても、俺の知っている情報はなかった。

 でも、血液型とか趣味とかなら、簡単に教えてくれそうだ。


「ねぇ、今は知らないけど、これから調べるのは駄目なの?」


「良いぞ。誰も調べる予定が無いならな」


「あぁ~……、そういうことね」


 そのために下部に調査人を書く欄があるのか。

 今まで調査内容しか見てなかったので、見直してみた。

 全ての簡単な依頼には既に調査人がいた。


 残るは最後の三枚。

 とここまでめくっても、俺の知っている情報はなかった。

 だけど、もう一枚めくった、後ろから二枚目。

 その内容は凄く簡単ながら、難易度の高そうなAランクだった。


 この依頼内容なら、俺でもできる。


 いや、俺にしかできないのかもしれない。


 本当はこれで女装写真の件は解決するのだから、喜ばしいはずなのに、俺の視界はショックで黒く染まった。


 いや、白い光で覆われたかのようだった。


 どうして? 


 一体誰がこんな依頼を? 


 ありえない。


「知らない人。大丈夫? 顔色悪い」


 月子さんが心配そうに聞いてきた。

 俺の動揺は、見た目で分かるレベルらしい。


「ありがとう。大丈夫だよ」


 そう。大丈夫。

 ちょっとショックだったけど、何の問題も無い。

 無いはずだ。

 こんなの依頼した人間が一人いた、というだけで、全ての人間に否定されたわけじゃない。


 心配してくれるのは太陽君もだったらしい。

 俺の後ろから、どんな内容の依頼を見ていたのかを覗いてきた。


「それか……」


 太陽君はため息一つで間を取り、


「お前も被害者か? 本当迷惑だよな」


 俺に同情してきた。


「そうかな?」


「おぉ。それはちょっと特別なんだ。なんて言うかな。コインズへの依頼じゃなくて、管理人への依頼というか苦情メールというか」


「へぇ~」


「その掲示板、俺らが管理人してるんだよ」


「そうなんだ」


 俺は適当に相槌を打つしかできなかった。


 沢山の苦情メール。 


 その一言は俺の『こんな依頼する人は一人しかいないさ』という甘い幻想を、打ち砕いた。


「僕、この依頼やるよ」


「マジか? もっと簡単なので良いんだぞ。

 こんなどこの誰かも分からない愉快犯を突き止め、更に止めさせるなんて、お前が思っている以上に難しい」


「それでも、やる」


「お前、笑いに厳しいやつだったんだな」


 そうさ。

 俺は笑いにプライドを持っている。

 自信を持っている。

 情熱と愛を持っている。


 だけど、誰にも見向きもされなかった。


 それだけじゃなく、今日、無視できない程に気に食わないんだということを知ってしまった。


 俺の受けた依頼内容は、『愛上高校のやつらで雑談しよう』というインターネット上の匿名掲示板に、頭痛や吐き気を催す程のつまらないギャグを、今年の四月からほぼ毎日書き続ける迷惑行為を繰り返す人物、つまりは『荒らし』を更正させ、つまらないギャグを止めさせることだった。


 言い換えるならば、スルーマンの撃退だ。


 第一日本人は回りを気にしすぎなんだよ。

 つまらないギャグくらいスルーしてくれたって良いじゃないか。

 一日一レスぐらい、我慢してくれたって良いじゃないか。

 もしかしたら、誰も書き込まないけど笑ってるやつだっているかもしれないじゃないか。

 インターネットってのは、賞賛より批判の方が目立つ所なんだ。

 少なくとも、スルーマンのギャグで俺は笑った!


 と俺は自分の肯定作業に入る。

 そうしなければ、自我を保てなさそうなぐらい、ショックだった。


 その後、正式に商談がまとまったからか、今更ながら出してもらった緑茶を無言で飲み、飲み終え、連絡先の交換作業を済ませた。

 俺は立ち上がり、鞄を手に取り、


「それじゃ、今日は帰るね」

 とお別れの挨拶。


「後は俺たちに任せろ!」、「知らない人、もう安心」

 と頼もしい言葉を返してくれた。


 だけど、俺はもう一つ言いたいことがあった。

 気にはなっていたけど、気恥ずかしいから帰り際に聞こうと決めていたんだ。


 別に、やっぱりスルーマンって面白いと思うんだ、なんて主張したいわけでも無いし、自己紹介したんだから名前ぐらい覚えてよ、なんて文句を言いたいわけでもない。


「ねぇ。コインズの意味を聞いても良い?」


 おおむね予想はできる。

 ごつい外見とは裏腹に、俺がいるにも拘らず時々見せる甘えた態度。

 太陽君は、きっと、月子さんと二人っきりの時には、ニャンニャンキャラなのだろうと、勝手に決め付けた。


 そして、月子さんは上手く感情を態度でも言葉でも表現できないタイプ。 だけど突拍子もなく暴れるのは、感情を隠すのも苦手だからなのだろうと、勝手に決め付けた。


 種類は違えど、この二人も俺と同じなのだ。

 どうしようもなく、不器用な人間なのだ。

 コインズの意味は、きっと……。


「あぁ、それね。裏表のある俺ら。って意味」


 太陽君の答えは俺の予想通りだった。


「そっか。じゃあ、僕もコインズだ」


 太陽君も月子さんも、俺をどう評価しているのかは分からない。

 だけど、二人は何も答えずに笑顔で俺を見送った。 




 ケース六。本人。

 やっとアニメ同好会の部屋を抜け出すことができた俺を待っていたのは、田中君だった。

ドアの前で俺を待っていたらしい。


「よぉ。まだ痛むか?」


 と田中君は俺の左頬を指差し聞いてきた。


「うん。痛むよ」


 本当はとっくに痛みは引いていたけど、嘘をついた。

 意味は無い。

 あるとすれば、俺は怒っている。

 そしてスルーマンを否定され、機嫌も悪い。


「そっか……。悪かったな」


「全くだよ。反省してよね!」


 俺は全くおかしいことを言って無いのに、田中君は鼻で笑った。


「お前って、初めて話すけど変なやつだな。俺らのこと怖くねぇの?」


「怖いよ。でも、それと怒るのは別でしょ!」


「別じゃねぇよ。普通はな」


 そして田中君は「うらやましいな」と呟き、質問してきた。


「太陽さん、お前のことを気に入ってただろ?」


「さぁ。少なくとも、僕は怒ってたよ」


 本当は気付いていた。

 同級生にもさん付け敬語で話されるあのニャンニャン君は、自分の外見で悩んでいる。

 あるいは悩んでいた時期があるのだろう

 。だから、きっと、太陽君は俺が変人だから気に入ったのではなく、自分を特別視しない俺を気に入ったのだ。


 だって、俺は変人じゃないもの。


「もうこの話は止めとこうか。

 彼女も太陽さんも取られたんじゃ、お前に嫉妬するなって方が無理だ。

 話してるだけでモヤモヤしてくるわ」


「うん」


 話は終わったはずなのに、田中君は動こうとしなかった。

 何だかまだ何か言いたそうにしているので、俺も動けなかった。

 一体どんなビックリ発言が待っているのかドキドキしたけれど、大したことじゃなかった。


「たまには一緒に帰ろうぜ」


「うん。別に良いけど」


 こうして俺は田中君と一緒に帰ることになった。


「それで、お前の家ってどこなの?」


「東中学校の方だよ。だから、愛上駅の方」


「マジかよ。俺は大通りの方だわ」


「真逆だね」、「だな~」


 俺と田中君は一緒に帰ることになったけど、校門を出て直ぐ別れなくてはいけないみたいだった。 

 ただでさえ短いみちのりなのに、田中君は何も喋らなかった。

 俺も何を話して良いのか分からず、黙っていた。


 部活棟を出て、グラウンド脇を通り、俺の都合で駐輪場に立ち寄ってもらうことにした。


 俺を待ち伏せていたのは田中君だけじゃなかったみたいだ。


 駐輪場で俺の自転車にまたがり、ハンドルに頬杖を付き、不機嫌そうな横顔を見せる女性は……、

 

 彼女だった。


 校舎の方へ時々目線を送り、ため息をついている。

 きっと、俺が校舎側から近づいてくるのだと思っているのだろう。


「彼女だ……」


 田中君は立ち止り、ボソッと言った。

 強面でも顔が赤くなるんだ、と俺は思った。


「あれ、僕の自転車だよ。どうしよう?」

 

 俺はどうして良いか分からず、とりあえず田中君に相談してみる。


「マジか……」


 田中君は相談に乗ってくれなかった。

こうして彼女を眺めていても仕方が無いので、彼女を目指して歩き始めた。

 目測距離五メートルぐらい、結構適当。

 つまりは、校舎の方を意識していた彼女が俺の存在に気付くぐらいの至近距離にまで近づいた。

 彼女は不機嫌そうだった顔を笑顔で染め、俺に手を振ってくる。

 自転車から降りる気配は無い。


 俺はもう少し近づき、目測距離一メートル。結構正確。

 つまりはあと一歩半ぐらいの距離で、


「それ、僕の自転車だよ」

 俺は自転車を指差す。


「うん。知ってるよ。昨日、これに乗って私の後をつけてたでしょ?」


「知ってたんだ」


「知られて無いと思ってた? けっこ~、目立ってたよ」


「目立ってたかな?」


「目立ってたよ」


 対して面白い話をしているわけでも無いのに、やたらと彼女は嬉しそうに笑っていた。

 俺は笑うなんてできずに、彼女と目を合わせることもできずに、鼓動が速まるのを感じながら、目を泳がせていた。


 少しの沈黙。

 その沈黙を埋めるように田中君がしどろもどろで挨拶した。

 彼女は笑顔で挨拶を返した。

 だけど、彼女の興味は田中君に移ることはなかった。


「遅かったね。何してたの?」


 朝ギリギリの時間に登校したならば指定の場所から何台かはみ出てしまう駐輪場は、今は閑散としていた。

 帰宅部の連中は当然帰っているし、半分ぐらいの部活も終わっている時間だった。


「うん。えっと、恋の相談?」


 何をしていたかと問われるならば、俺も聞きたい。

 なんだろう。

 彼女について調べてたら、屋上に呼び出されて、コインズにも調べてもらうよう脅迫された?


「恋の相談……」


 彼女は呟き、不安そうに俯いた。

 何故か自転車のベルを二回鳴らし、


「それって、私のこと?」


 こっちを見ずに聞いてくる。


「多分」


 今となっては彼女の心配をしてのことだったんだけど、もともとは『彼女は本当に俺に恋をしているか』が主題だったのだから、多分、彼女の恋の相談で合ってる。


「そっか!」


 彼女は下に落としていた視線を、突然、俺に向ける。

 顔はやっぱり嬉しそうに笑っていた。


 突然だったので油断していた俺は彼女とばっちり目が合った。

 目をそらすこともできないぐらいに混乱しているらしく、そのまましばらく見つめ合う。


 またも沈黙。


 沈黙を破ったのは彼女で、俺の左頬口の辺りを指差し、


「その傷はどうしたの?」


 隣の田中君は「その、あの」と小さくうめき、横目で捉えるぼやけたシルエットでも分かるぐらいに挙動不審。


 田中君に殴られた!! とはもちろん俺は言わなかった。


「えっと、男の友情?」


 認めたくないけど、田中君たちにとってはそうらしいのだ。

 全く納得できなくても、そうらしいのだ。


「そっか」

 俺が全く納得して無いというのに、彼女は何かを納得したみたいで、長い一つの瞬きと一緒に一つの頷き。


 また沈黙。

 重いな。

 彼女といると、空気が重い。


 でも逃げ出したくなるような重さは、ずっと感じていたいような重さで、そうか、これが噂に聞く重い女ってやつか、とどうしようもない疑問を一つ解決しつつ、何を言って良いのか分からず、俺は黙り続けた。

 沈黙を破るのは彼女の役目になったのか、やっぱり彼女から次の話題を作った。


「まだ、君の答えを聞かせてくれないんだね」


 でも、非常に答え難い話題だった。


「ゴメン。まだかも」


「そっか」


 未だ目をそらせない俺は少し不機嫌な表情を作る彼女は見た。

 だけど彼女は直ぐに微笑み、


「じゃあ、今日は帰るよ」


 やっと俺の自転車から降りて、


「私、本当に君のこと、大好きなんだよ!」


 田中君がいるというのに、照れながらも目線をはずさず堂々と宣言した。

 俺は結局目線をはずせずに、そのまま固まった。

 「じゃあね」と俺に手を振ってから、去って行く彼女をずっと見つめていた。

 怪奇現象に悩んでいる(多分)のに、あんなに笑顔を振りまく彼女の後姿を見つめながら、今思えば彼女の笑顔はいつも無理して作っている気がしてきて、俺の心に「守ってあげたい」なんて初めての感情が小さく芽生え始めているのを感じていた。


 彼女が見えなくなり、追っかけていた対象を失った俺の視線が見つけたのは、小刻みに震えながら空を見上げている田中君だった。


「田中君……。なんか、ゴメン……」


 故意じゃないとしても、田中君に見せるべきシーンではなかったのかもしれない。


「謝るな。謝られると、また、泣く」


 俺は震えた声を聞きながら、もう泣いてるじゃんとは言えなかった。

 こういう時は泣いた方が楽になれるよとも言えなかった。

 俺は何も言えなかった。


 無言で俺も空を見上げれば、屋上で見たお馬さんはもういなかった。

 その後、田中君が落ち着くのを待ち、


「また喧嘩したの? 暴力は良くないよって話しかけられたんだ。

 きっかけはそれだけだった。

 それだけで充分だった。

 他の女は色眼鏡で俺らを見てさ、絶対に話しかけてこないどころか、ありもしない噂を流して軽蔑の視線を送るんだぜ。

 あ、委員長は別だけど、あいつは小うるさいからな……」


 と語り始めた田中君の話に耳を傾け、珍しい組み合わせの俺と田中君を不思議そうに見つめながら自転車にまたがる部活高校生を見送り、まだまだ続く田中君の話に耳を傾け続け、ついには見廻りの先生に怒られて、

 やっと俺たちは学校を出た。


「良いか? じっくりゆっくり考えて、早くスピーディに答えてやれよ」


「多分」


「かぁ~。お前はハッキリしないやつだな」


「田中君は無理ばかり言う男だね」


「うるせぇよ。お前は我慢しろ。幸せ税だボケ!」


 やっぱり田中君は滅茶苦茶なことを言って、


「お前がどんな結末を選んでも文句言わねぇ。

 根にもたねぇ。

 だけど、彼女を悲しませたら許さねぇからな!」


 更に無茶苦茶なことを言ったかと思えば、


「さっきさ、そのさ」


 急に口ごもり、


「彼女に俺が殴ったことを言わないでくれて、ありがとうな」


 と早口で言ったかと思えば、走りだした。


「バイバイ! また明日!」


 俺は田中君の背中に向かって叫んだ。


 田中君は一瞬立ち止るも、振り返らずに手だけを上げた。

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