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第一話

男は薄暗く狭い監獄のようなアパートの一室でパソコンに向かっていた。

「私、最近ダイエットしてるんだけど全然痩せないんだよね。甘いもの食べちゃって(笑)」

男はパソコンのキーボードを叩き続ける。

「あー寂しいなー前の彼氏と別れてから休みの日も寝てばっかりだよ。」

「健人君は休みの日とか何してるの?」

「へえーそうなんだ。カラオケとか行くんだ?私もカラオケ好きだよ」

「え?今度一緒に?インターネットで知り合った人と会ったことないから緊張するなあ」

「うーん。でも、こうやって文字だけのやりとりでも健人君いい人だってわかるしいいかな」

「うん。分かった。今度の土曜日の13時に池袋のいけふくろう像前だね」

「楽しみにしてるよ。あ、顔とかお互い知らないから何か目印ないとダメだよね?」

「右手に缶コーヒー、左手にポケットティッシュを持って待ってるんだね」

「私は赤いスカートにデニムのジャケット着ていくよ。髪は黒で長めだよ」

「そうだね。楽しみ半分ドキドキ半分だね。当日は思いっきり歌おうね」

「うん。私もそろそろ寝るよ。それじゃあ今度の土曜日楽しみにしてるよ。おやすみ」

男はキーボードを叩く手を止めると机の上に無造作に置いてある煙草に手を伸ばし、

そのうちの一本を左手の人差し指と中指の間で挟み口にくわえ火を灯した。

男はまるで一仕事を終えたかのような表情で煙を吐き出し、その全てを吸い終わらないうちに煙草を灰皿に押し付け、パソコンの電源を消すと布団に入り眠りに付いた。


男は全てを諦めていた。

年齢は42歳になる。高校を卒業して以来定職についたことがなく、日払いの肉体労働を転々とし生活をしのぎ続けてきた。貯金はあるものの雀の涙程度で、家賃4万円の狭く薄暗いアパートに住んで12年になる。このような不安定な生活から脱出しようと

福利厚生がしっかりした会社で働こうと面接を何度か受けてはみたものの

学歴もなければまともな職歴もない42歳を雇う会社などあるはずもなく、男もそれを受け入れた。現在は時給900円で倉庫内仕分け作業をしている。

ベルトコンベアに乗って流れてくる荷物を配送先ごとにレーンに振り分ける単純な仕事だ。

この仕事を続けて半年になるが職場では休憩時間も誰とも話さずひたすら喫煙所で煙草を吸い、時間を潰していた。

朝起きて出勤し働き帰って寝る。

そのような全く刺激も娯楽もない平坦な日々を男はずっと過ごし続けてきた。

あのインターネット上の掲示板に出会うまでは。

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