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峰谷つむぎ♂の花婿修行 ~美少女にしか見えないボクですが、キミ♀に相応しい『男』になります〜

掲載日:2026/02/28

読んでくださりありがとうございます

その少年は、あまりにも「美少女」すぎた。

艶やかな黒髪のぱっつんボブ。そして何より、本物の女子すら霞むほどに可憐なその顔立ちは、彼にとって最大のコンプレックスだった。


峰谷みねやつむぎです。ボクの趣味は……」

入学直後の自己紹介。まるで女子が無理をして男子の制服を着ているかのようなその姿に、教室はひそやかな、しかし確かなざわめきに包まれた。 


やがて男子たちの間では、「峰谷と親しくするのは女子と付き合うようなものだ」「あいつと話していると冷やかされる」という思春期特有の謎の風潮が蔓延し、結果としてつむぎはクラスで孤立してしまった。 


一歩外を歩けば女子と勘違いされてナンパされ、下駄箱を開ければ、時折男子からのラブレターが入っている始末だ。

「はぁ……」

つむぎは深くため息をついた。

(……ボクはただ、普通に男友達と馬鹿やって遊びたいだけなのに……)

彼にとって、この恵まれすぎた容姿はもはや呪いでしかなかった。 


「峰谷ちゃーん! 最近、サッカー部の先輩とよく目が合うんだけど、これって脈ありかなぁ!?」

一方で、クラスの女子からは全く男子扱いされていない。完全に「都合の良い同性の友達」、あるいは「性別:つむぎ」という独自の枠組みに入れられ、経験もない恋愛相談を頻繁に持ちかけられるのだ。

「う、うん……目が合うなら、脈はあるんじゃないかな……?」

これ以上波風を立てないよう、つむぎは引きつる頬をごまかしながら、適当に相槌を打つ。

こんな日常に、つむぎはうんざりしていた。


つむぎのこの容姿は、単なる発育の遅れなどではなく、ある病気によるものだった。それゆえに、つむぎ自身、普通の男子としてのありふれた日常を送ることは半ば諦めかけていた。


だが、そんな彼にも密かに想いを寄せる女子がいる。

「ねぇ、つむぎ。この本ってどこの棚に戻せばいいか分かる? ラベルが掠れて見えなくて……」

たまたま同じ図書委員になった別クラスの同級生、中学1年生の神奈月かんなづき結乃ゆいの。 


艶やかな黒髪のロングヘアに、凛としながらも愛嬌のある顔立ちをした少女だ。

「あぁ、それはこっちの棚のやつだね。……ボクがラベル、貼り直しておくよ」

「サンキュー!」

結乃は屈託なく、ニカッと笑って見せる。

(……結乃さん、可愛い……)

その裏表のない笑顔と明るい性格に、つむぎは強く惹かれていた。


図書委員の仕事も一段落つき、少し手持ち無沙汰になった昼休みのこと。結乃がふと、声を潜めて聞いてきた。

「つむぎって、彼女とかいるの?」

「え……? いや、いないけど……」

「えー、絶対いると思った。つむぎ、けっこう頼りがいあるし」

――『頼りがいがある』。

そんなふうに評価されたのは、彼にとって生まれて初めてのことだった。

これまで周囲から男子として扱われないことに静かな苦痛を抱いていたつむぎにとって、それはこれ以上ないほどに胸を打つ、救いの言葉だった。

自分を特別な目で見るでもなく、真っ直ぐに一人の人間として、そして「頼れる男子」として言葉をかけてくれる結乃。

彼女のその飾らない優しさに触れ、つむぎの想いはより一層深くなっていくのだった。



とある日の昼休み。いつものように図書委員の仕事をこなしていたつむぎに、結乃が唐突に声をかけてきた。

「……ねぇ、つむぎ。放課後、体育館裏に来てくれない……?」

「え? いいけど……どうして?」

「……ちょっと話があるの。大事な話」

放課後の体育館裏。そして、好きな人からの『大事な話』。

つむぎの胸にわずかな期待が膨らみ――そしてその期待は、やがて現実のものとなる。


「……好きです! ……付き合ってください!」

つむぎの時間が、ピタッと止まった。

結乃からの、まさかの『告白』。ずっと想いを寄せていた人からの言葉であり、同時に彼が何よりも渇望していた『一人の男子としての扱い』だった。

二つの奇跡が同時に舞い降りた事実に、思わず感極まって涙が溢れそうになる。

返事は当然、ひとつしかない。

「は……」

『はい』。そう言いかけた口が、ふいに止まった。


(……本当に、大丈夫だろうか)

これまでつむぎに向けられてきた、男子からの奇異の視線。女子からの特殊な扱い。

もし今、自分がこの告白を承諾して彼女の隣を歩くようになったら、結乃まで周囲から白い目で見られてしまうのではないか。 


彼は踏み出しかけた足を、グッと止めた。

(本当に……今のボクは、彼女の隣に立つに相応しい人間なのか……?)

つむぎは必死に考えた。思考をフル回転させ、やがて一つの結論へと至る。

彼はその小さな両手で、結乃の手をぎゅっと包み込むように握りしめた。 


「1年後……」

「え……?」

「1年後……! ボクの方から、改めて告白させてほしい……!」

――1年後。

それまでに、必ず結乃の隣に立つに相応しい『男』になってみせる。それが、峰谷つむぎの出した決意だった。

「1年後……?」

きょとんとした顔をする結乃。しかしすぐに、夕焼けの陽射しよりも眩しい、ひまわりのような笑顔を咲かせた。

「…………分かった、待ってる!」

かくして。峰谷つむぎの、仁義なき花婿修行が幕を開けるのであった。

性癖です。

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