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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章 立場と矜持

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第七話 苛烈な長姫 ※市橋視点

女の部屋、そう理解する前に俺はここに飛ばされていた。


「みな、下がりなさい」


強制的に俺を連れ出した女は、立ち並ぶ侍女たちに扇子を向けると、軽く露をでも払うような仕草で退室を促した。


静かに退室していく侍女たちを横目に、俺は周囲を見渡す。


目の前の女に似つかわしくない柔らかな甘い香りに包まれ、色調は赤と黒そして金色で纏められた華美な装飾品で溢れる部屋。


床には存在しない角に違和感を感じるものの、白い虎に似た動物の毛皮が敷かれている。


しかしそんな中、片隅に置かれた質素な木製の棚が異彩を放つ。並べられた子供用の煤けた木剣や薄汚れた人形、その前に置かれた花はまだ新しい。


「弱い者に生きる価値などないの」

眺める俺に女は氷のような表情を向けた。

女はそのまま俺から視線を逸らさず、片方の口角をあげる。

決して好意的な笑みではなくーー。


「さてーーそこに座りなさい」


彼女は椅子に腰をかけると、サンダルにみえる靴を脱ぎ捨て、妖艶な衣装から伸びる素足で床を指す。


絶対に座ってなるものか、と心は拒絶しているのに、身体は抗う術もなく勝手に地べたに正座した。


「光栄に思いなさい。自己紹介してあげる。私は長姫であり継承権第二位、エカテリーナ」


突然座らされ、一方的な紹介。あまりの勝手な行動に苛立ちを覚え、思わず睨め付けた。


「睨むな、可愛い顔が台無しよ? お前は私のペットなのだから」


彼女は足の甲で俺の頬をぴたぴたと軽く叩く。

屈辱にもほどがある。


全身の力を込めてもびくともしない。

勝てないと本能は告げるが、せめてどうにか一矢報いてやりたい……そんな考えも浮かんだが、荒れる気持ちを深く息を吐いて押し殺す。


脳裏に茜と綾香が浮かんだからだ。


三人で動く、そう誓ったのだから。

もう一度無事に再会するために、何をしてでも生きるしかない。

感情を押し込め握り込んだ掌に爪が食い込む。

そして、また、血が滲む。


相手の思い通りになどなってやるか。


俺は負けじと女から目を逸らさない。


「お望みなら首輪でもつけてやろうか?」



女……エカテリーナは一瞬瞼を見開くと、俺の背後に周り首筋に扇子を当てた。

火傷のようにチリチリとした薄皮を焼く痛みが走る。

これが、女の魔力だろうか。


俺の背筋に冷たい汗が落ちる。


「今ここで首を落とすこともできるけど、せっかくお父様がくれた道具だものね」


「それに、わがままなペットは嫌いじゃないの」と耳元で囁く。


ぞわりとして思わず表情を歪めた俺を見て、女は満足そうに目を細めた。

その一瞬のゆらぎを、女は見過ごさなかった。




「お父様の決めたことが、この世界の理」

「権力の前に膝を折れぬものは足掻くことなく消えていくの」



「私の下で足掻くか、踏み潰されるか」

そのどちらかを選びなさい。


選ぶ権利は与えてあげる、と。


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