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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  崩壊と覚醒

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第五話 漆黒の王

透明な棺は、やがて城門の前で静かに停止した。


高くそびえる黒石の塔。

空を裂くように伸びる尖塔。

祝福も歓声もない。


整列した兵士たちの視線だけが、私たちを迎えた。


棺は魔力で浮遊させられると、そのまま城内へと運びこまれた。


長い回廊。

磨き上げられた床に、私たちの姿が逆さに映る。


見世物だ。


その言葉が、胸の奥で冷たく沈む。


やがて重厚感のある巨大な扉の前で止まった。


低い音を響かせ、扉がゆっくりと開く。



これが謁見の間。


高い天井。

深紅の絨毯。

左右に控える異種族たち。


そして、その最奥。

最上段に腰掛ける影。


玉座の王は思っていたよりも若く見えた。

二十代にも見える容姿。

整った顔立ち。

漆黒の長い黒髪と、闇夜のような深い瞳。


けれど、その瞳には年齢という概念が存在しなかった。


王と言われ想像していたものより、装飾は最小限。

だが、空間のすべてがその存在を中心に組み上げられていると分かる。


王だ。


研究者たちが一斉に跪く。

棺の隣で誇らしげに立っていた一人が、棺ーー展示台を開き、私たちに出るよう促した。


「復元の成功例、三体。覚醒状態も安定しております」


王は頬杖をついたまま、私たちを見下ろした。


長い沈黙。


値踏みするでもなく、

驚くでもなく、

ただ、退屈そうに。



ふいに王が指をクイと曲げる。

私たちは研究者に背中を押され、前へと歩み寄る。


誰もこの世界の礼儀なんて教えてくれなかった。


王との間、立ち止まるべき距離も、頭を下げる角度さえ。

何も知らぬまま進むしかなかった。


市橋さんが先頭に立ち、私と横山さんはその少し後方の両脇を歩く。

ぎこちない歩みに、王は愉快そうに口を歪めた。


「これが、ヒトか」


低い声が広間全体に落ちた。

その威圧感で、背中には冷たい汗が流れる。


「礼儀など知恵あるものの武装にすぎぬ」

続けて「どうせ、知らぬのであろう?」

と蔑んだ笑いをみせた。


その言葉に私の顔はカッと紅潮した。

異世界の礼儀なんて知らなくても当然なのに、これは無知だと蔑まれたことへの羞恥だろうか。


市橋さんの拳からは血が滴っている。

彼もまた顔を赤くしているが、彼からは強い怒りを感じる。

横山さんはどこか現実感を感じられないようで、一人ぼんやりと周囲を眺めていた。



王は私たち三人を順に睨め付けた。


「……なるほど」


研究者に視線を向ける。

「面白い、眠っている力は起こせば良い」


研究者が一瞬だけ躊躇いの表情を私たちに向ける。


「負荷が大きいかと」


王は興味なさそうに言う。

「壊れるなら、それまでだ」



「……しかし、三つか」

私たちに視線を戻し、低く、感情のない声で独りごちる。



「ちょうど良い、か」


何が、とは言わない。


王の視線が、再度ゆっくりと市橋さん、横山さん、そして私へと順に落ちる。


背筋が凍る。


そこに敵意はない。

興味も、期待も、憎悪もない。


ただ、盤面を眺める者の目。


継承者(アレ)も三人だったな」


側近が静かに頷く。


「はい。第一位、第二位、第三位。現在のご存命は三名でございます」


王はわずかに口角を上げた。

それは笑みと呼ぶには薄すぎる。


「駒が揃った」


その一言で、空気が変わる。


私たちは理解する。


歓迎されているのではない。

使われるのだ。


「呼べ」


王は肘掛けを軽く叩いた。


「余の子らを」


退屈を紛らわせるように。


永い寿命に飽いた者が、新しい玩具を与えられたように。


その視線が、もう一度私たちに落ちる。


「どれほど壊れるか、見てみよう」


静かな声だった。


それでも、誰よりも残酷だった。




+ + +



玉座の間に入ってきた三人は、慣れたように玉座の下段に並ぶ。


王に似て整った容姿の、どこか異なる三人。


一人は騎士のような衣装にモノクルを身につけ、知的にも見えるが冷酷そうにも見える男性。こちらを一瞥(いちべつ)すると、退屈そうに視線を逸らした。


もう一人は露出の高い衣装を妖艶に着こなす髪の長い女性。口元には笑みを浮かべている。


そして、神官のような衣装を身につけた男性は、こちらに視線を向けると一瞬眉間に皺を寄せ、それ以降なんの感情も読み取らせないーー。


彼らに意識を向けていると、王がスッと右手を上げた。

その瞬間、床に刻まれた文様が淡く光った。


「——始めよ」


誰かがそう告げるより早く、身体の奥から何かが絞り出される感覚がした。


息が、詰まる。


まるで頭蓋をこじ開けられて、脳を直接かき混ぜられるような痛み——。


「……っ!」


三人が床をのたうち回る。

市橋さんの叫び声、横山さんの絶叫。

私は歯を食いしばり、獰猛な獣のように唸り声をあげることしかできなかった。


ーー突如、その苦しみの先、見覚えのある感覚が流れ込む。


詠唱。

スキル。

クールタイム。


——ゲームで、使っていた。


私の両の手が、祈るように繋がれる。

淡い緑の光が、空間へと広がる。


口は自然と呪文を詠唱する


回復魔法。


温もりが三人を包み込んだ。

現実で使えるはずのない力が、確かにあった。




「成功だ」


研究者の声が、淡々と記録を告げる。


でも。


光が消えた瞬間、再度床へと膝から崩れ落ちた。


身体が一気に軽くなる。


——違う。

削られた。


「生命反応、低下」


その言葉が追い打ちをかける。


「能力行使と引き換えに、生命力が失われています」


まるで、当然の仕様のように。


王は、その様子を心底楽しそうに眺めていた。


「面白い」


声が、弾んでいる。


「弱いな、だが、消耗する」


視線がまた私たち三人を順に撫でる。


「初めて見る種だ」


逃げ場はなかった。


「決めた」


王は、楽しげに、そう言った。


「次の王を選ぶ遊戯に、これを使おう」


——これ。


私たちを指す言葉だった。


「ヒトを、道具としてな」


その言葉に、私たちの価値が示された。

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