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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  崩壊と覚醒

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第四話 移送

移送用の容器は、どこか棺を連想させた。


全面が透明な鉱石で作られ、縁には細かな装飾が施されている。

中は魔力で淡く光りを放ち、まるで祝福の儀式の道具のようだった。


けれどそこには座席もなければ手すりもない。


壁際に固定具が三つ。


私たちはそれぞれそこへと誘導される。


外から見れば美しい。


でも内側にいると分かる。

これは展示台だ。


容器の中は想像していたよりも静かだった。

身体を固定された後、念入りに手首と両足にも軽い拘束具が巻かれる。


痛みはない。

けれど、逃げられないと絶望を突きつける不快な感覚。


透明な壁の向こうで、私たちを眺める異種族たちが淡々と何かを記録している。


観察されている。

無機質な視線が、重い。


市橋さんは口を固く結んで開かない。

横山さんは窓の外を見つめたまま、指先を強く握りしめている。


私はかろうじて動かせる足先だけでも、と、二人との距離を詰めた。



——私たちは客ではない。

研究者の胸に飾られた勲章のように。

所詮はただの成果……。



私たちは、運ばれている。



外の通路を行き交う異種族が、足を止める。

異種族の子どもが無遠慮に指をさす。

荷物を担いだ商人風の異種族は、値踏みするような視線を向ける。


進むにつれ視線が集まる。


見ていた一人が研究者に声をかけた。


研究者の一人が誇らしげに胸を張ると、棺を軽く叩き

「どれでもいい、声を出してみろ」と言った。


「ひどい」

思わず私がつぶやくと、外の異種族は満足そうに手を叩く。

研究者も「それでいい」と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。



市橋さんは透明な容器の外を睨んでいる。

その拳は指先が色を失うくらい力が込められている。

彼の拳が透明な壁に向かって振り上げられ、止めた。


「……あいつら、ふざけるなよ」

吐き捨てられた呟き。

それからまた彼は俯いて唇を噛み締める。

それ以降一度も顔を上げなかった。


横山さんは何の抵抗もなくぶつぶつと呟きながら斜め上を見ている。

「……物理じゃない、魔力で固定されているんだわ」

どうやら棺の構造を分析しているようだった。



私の真横から覗くように異種族が群がる。

移送はそんな彼らに邪魔をされてか、思いの外ゆっくりだ。



私は空を見上げた。

この世界の空はどんよりと重く、どこか不安げな黄昏時のようだった。



あれから幾度「声をだせ」「動け」と言われただろうか。


無機質に続く道の遥か先。

遠くにみえる尖頭ーーあれが王城。

そう告げられた。

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