第一話 かつて、世界があった日
会場は、思っていたよりもずっと眩しかった。
天井の高いホールいっぱいに、スクリーンの光と歓声が跳ね返る。
今日は世界的人気を誇るVRMMORPG「Bright World Online」の15周年記念イベント。
舞台の上から見渡すと、至る所にキャラクターたちのスタンドパネルや、現実世界に作り出された武器が並べられている。
好きなキャラクターやジョブごとの衣装に興奮気味にカメラを向ける多くのファンの姿がみえる。
そして私たちトップランカーにカメラを向けるのは、雑誌の記者たちだろうか。
大人が多くいる中で、肩をすくめて立つ場違いな制服姿。
招待されたのは、各ロールごとに一人ずつのトップランカー達。
その大半はうちのギルドメンバーで占められている。
——その中に、自分がいるのが、まだ少し不思議だった。
「回復職トップ『暁の聖女』宇野茜さんです!」
司会の声に、拍手が起こる。
トップランカーには世界にひとつだけ、それぞれ通り名を持つユニークジョブが与えられる。
私はその誇張された役職に萎縮しながら、どうにか小さな会釈をして、制服のスカートの裾を無意識に整えた。
ゲームの中では、何百人もの命を預かってきた。
通りすがりに回復をかけてあげるだけで、彼らはまた楽しそうにゲームを続けた。
ソロで使うには回復職は不遇と言われているが、焦らずゆっくり成長できるところを気に入っている。
気づけばこんなところまで来てしまった。
そんなキャラではないのは重々承知しているが、ギルドでは三人いるサブマスターの1人でもある。
それでも、こうして現実の舞台に立つと、ただの高校二年生に戻ってしまう。
周りを見渡すと少し離れた場所に、オフ会で何度も交流した他のメンバーたちがいた。
ギルドマスターは他の追従を許さない攻撃力のトップランカー。
カジュアルなスーツを着こなす彼は、大学生の市橋正義さん。彼は誰かと視線を合わせることもなく、その立場が当然とばかりに勝ち誇った顔で腕を組んでいる。
その隣に立つのは同じくサブマスターで横山綾香さん。彼女は魔力の頂点であり、年齢は私のひとつ上で高校三年生だ。
彼女は有名な私立お嬢様学校の生徒で、柔らかく微笑みながら、その場にいる誰よりも遠い目をしていた。
紹介のあと、私たちにヘッドセットが配られる。
新規ユーザー獲得のために、極めた者たちがパーティを組み実際に討伐をして配信し、鮮やかな連携を世界へ発信する。
このイベント後、初心者は一定期間私たちの分身を利用でき、仲間とともに戦う楽しさを体感できるーーと。
そんなデモンストレーションが始まるはずだった。
ヘッドセットを装着する。
会場の音から遮断された。
自分の鼓動が聞こえる。
緊張感が少し和らいだ気がした。
耳からはいつもの明るい起動音。
ーーその起動音が一瞬低く歪んだ気がした。
違和感に思考を巡らすより先に、ギルドメンバーが次々とオンラインになっていく。
視界には狩り慣れたボスへと続く扉が現れる。
マスターがいつものように扉に手をかけ力をかけた瞬間、アナウンスが途切れ、機械音にノイズが走る。
開きかけた扉は固まり、世界から光が落ちた。




