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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章 立場と矜持

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第八話 私の王子様 ※横山視点

彼の容姿は本当に整っていた。


魔王に対峙した威圧感、恐ろしい魔物と向かい合うあの瞬間。

呼ばれた三人の中で、誰よりも静かに凛とした姿で立つ知的な男性に目を奪われた。


黒い鎧に身を包んだその姿は、かつて夢中になって幾度も読んだ物語に出てくる、憧れの王子のように思えた。



あの戦いの後、私たち三人が互いの生を喜びあっていた時、王は何かを告げた。


その直後、女の人に連れ去られ正義さんが消えた。

私も訳がわからぬまま近づいてきた彼に手を引かれ、横山さんに意識を向ける前に、身体が何かに包まれたような気がした。



そして今、私の目の前に広がるのは豪奢ではない整いすぎた書斎。


壁には深い青色のタペストリーに難しそうな銀の刺繍。

天井まで高さのある本棚には、辞書のような厚さの難しそうな本が所狭しと丁寧に並べられ、一方の棚には見たこともない道具が数多く、そして塵ひとつなく並べられている。


見慣れない光景に思わず、はしたないという考えも浮かんだが、好奇心を抑えられずきょろきょろと視線を彷徨わせる。



静かな空間。



部屋に着いてから、彼ーーシグルドは机に向かい座ったままこちらを見ていた。


私は思わずぶるりと震えた。


彼の視線がゆったりと動き、口を開く。

その声は低く、意外にも穏やかだ。


「横山綾香、大丈夫だ」


怯えなくていい、そう言いながら彼は私の名を正確な日本語で呼んだ。

威圧的でもなく、ちゃんと会話ができる。

王族は言葉に不自由しないのだろうか。


でも、一体いつ名前を知ったのだろう。湧いた疑問に口を開く前に「こちらに研究者から届いた資料がある」と机の上の紙束をみせた。


「魔力値が最も高い個体かーー有用だな」


最後の呟きは小さすぎて私には届かなかったが。


「さて、君は先ほどの戦いで満足か?」


突然の問いに戸惑う。

「満足なんて……私は、二人ほど動けませんでしたから」

言葉にすると情けなく、思わず俯く。

俯けば、私の長い髪が顔を隠してくれる。


心の底からそんな自分を情けなく思う。

ここでも私は役に立たない、認めてもらえない人間なのか……と。



そんな私の葛藤を見透かすように彼は言う。

「未熟だが、資質は高い」



「こちらへ」

と彼は私を促す。



その声に私は彼の机の前に立つ。


「違う、こちらへ」

彼は椅子の隣の空間を指し示す。


おそるおそる彼の隣に立つ。


刹那、彼の視線は私を通り越し、何かを慮っているように感じた。彼の目の奥が一瞬冷えたーー言いしれぬ恐怖を感じる前に「問題ない、魔力の使い方など学べばいい」

低く、私を落ち着かせる声。

「評価は私が下す」私を見つめてそう言った。



評価。



魔力ランカーとして前に立てたあの瞬間さえ、私は私を認められなかった。

でも、彼が、私を見てくれる。


王子が、私だけを。

理不尽なことをしてきた王と違って、この人は理で動いている。


私を正当に評価してくれるーー?


胸が、静かな熱をもつ。

落ち着かせたくて小さく息を吐く。


それでも、胸のざわめきが消えなくて。


「……ありがとうございます」

そう伝えた。


再び俯いた私には見えていなかった。


彼の指先が愉快そうにトンっと机を叩き「捕まえた」と呟いたこと。

彼の目は、決して笑っていなかったことを。


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