第4話「霧を超えて」
背後から迫る追っ手の足音が、霧の壁に反響して幾重にも重なって聞こえる。
2人は訳が分からないまま、男についていく。
◇
逃げ場のない路地の突き当たりで、褐色の男は不敵に口角を上げた。
「さて、ちょっと地上はしんどいなぁ。お二人さん、しっかり捕まっときや」
ソラが腰の筆〈雲断〉に指をかけると、漆黒の本体に刻まれた金色の線が、脈打つ鼓動のように赤く発光した。彼が空中に鮮やかな軌跡を描き、一文字を綴る。
「一筆入魂:飛」
その瞬間、レンとアイの身体は重力から解き放たれた。
目にも止まらぬ速さで垂直に上昇し、冷たい霧を突き抜けていく。
突風に顔を歪めながらも、二人は眼下に広がる光景に息を呑んだ。
そこには、地上からは決して伺い知ることのできない、クリフヘイヴンの真の姿があった。
深く重い白銀の霧は、上空から見れば月光を浴びて波打つ巨大な雲海のようだった。
その銀の海の至る所から、街灯や家々が放つ、淡い光が粒となって染み出し、幻想的な青と金の斑模様を描き出している。
霧に沈む街の輪郭は、影が影を生み、地形そのものが神話的な奥行きを持って語りかけてくる。
東端の港へと続く運河は、霧の下で脈動する光の血管のように見え、さらにその先には、底知れぬ深淵を湛えた黒い海がどこまでも広がっていた。
そして街の北部には、大きな「塔」があった。
雲を裂いて天高くそびえ立っている。
大空を飛んでいるレン達が見上げるほど、高かった。




