第2話「霧の街」
ガンッ!!!!
鉄格子が悲鳴を上げた。
門の向こうから、甲冑の靴が石を踏み砕く音がする。
「開けろ!」
ガン、ガン、と蹴りが続く。
落とし棒が揺れ、閂ががちゃがちゃと鳴った。
門と塀は二メートルほど。簡単には越えられない。
――だが、時間の問題だ。
レンはアイの手を握った。
「……クソ。アイ、逃げるぞ!」
廃墟の裏側。塀の一部が崩れている。
二人はそこから身を滑らせ、霧の路地へ飛び出した。
背後で門が唸る。
金属の軋みが、近づいてくる。
「チッ……俺が行く」
追手の一人の身体が、ぼんやりと発光した。
次の瞬間、信じられない高さへ跳び上がる。
塀を軽々と越え、右側の建物の外壁を駆け上がり、屋上から回り込んでくる。
「そこまでだ」
影が落ちた。
屋上から飛び降りた騎士の剣が、冷たく閃く。
レンは腰の古びた剣を引き抜いた。
ギィン――。
正面から受け止めた瞬間、腕が痺れた。
骨まで響く衝撃に、顔が歪む。
「レン!!!!」
アイの叫びが霧に吸われ、遅れて耳に届く。
――力では勝てない。
レンは相手の勢いを借りて剣をいなし、横へ転がる。
すぐに起き上がる暇もない。下段蹴りを放ち、騎士の体勢を崩した。
「こっちだ!」
アイが頷き、二人は路地を抜ける。
霧が一段と濃い広場へ――踏み込んだ、その瞬間。
「……っ、アイ!」
霧の向こう側、アイの死角からもう一人が現れた。
音がしない。剣だけが、白く浮かぶ。
刃が、アイの胸元へ――。
アイは反射的に目を閉じた。
だが、痛みは来ない。
代わりに、乾いた“指先の音”がした。
彼女が恐る恐る目を開けると、
白シャツに黒いスラックスの男が、素手で剣を止めていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫か? 危なかったな」
「貴様、何者だ!?」
騎士の怒号。
次の瞬間――ドン、と鈍い音が広場に響いた。
騎士が五メートル先の壁へ叩きつけられたのだ。
「がはっ……!?」
甲冑が歪む。中身まで潰されたみたいに、男が崩れ落ちる。
残る二人の追手が足を止める。
霧の中に立つのは、褐色の肌を持つ黒髪の男。
中性的に整った顔に、薄い笑み。
「なんや。いたいけな子どもいじめてる、悪い大人がおるなぁ」
男は腰の“筆”へ手を添えた。
見えないのに、空気が沈む。
レンもアイも、騎士たちも、全員が本能で理解する。
――こいつは、格が違う。
「悪い子には、お仕置きや」
霧の街で、何かが動き出した。




