第13話「ライブ・ベイト ~踊る晩餐~」
ルタオはエプロンをカウンターに置き、客席へやってくる。
「実は今日のディナーにはお得意さんが来るんだけどね。」
「 そこで出すメインディッシュに、どうしても足りない食材があるのよ。」
彼女は指を立て、楽しそうに告げた。
「その食材の名は、星の血を引く海老。」
「 クリフヘイヴンの霧深き海の、更に深部にしか生息しない、奇跡の甲殻類。」
「聞いたことがある。」
アイが目を丸くする。
「確か、世界三大食材の1つで、その身には海の全てが詰まっているって、本に書いてた。」
ルタオは笑みを浮かべる。
「ジュダヴェルニって港には、アタイの契約漁師のザガンがいる。」
「ザガンは凄腕の漁師でね。」
「アタイが扱う海の食材は全てザガンから仕入れている。」
そしてレンとアイの顔を覗き込み、悪戯っぽく微笑む。
「 あんたらで、アストラ・シュリンプをザガンから買ってきてちょうだい。」
「……それだけ、じゃないっすよね」
レンが恐る恐る言うと、ルタオは笑みを深くした。
「察しがいいね」
「それに、実はあそこは裏社会の連中のたまり場。 」
「あんたらが姿を見せれば、必ず狙っている連中が食いついてくるはずよ。」
「 そいつらを返り討ちにして締め上げれば、シンの冤罪を仕組んだ真犯人が判るって寸法」
「敵は、騎士団を利用してあんた達を捕まえようとするくらいだ。」
「チャンスがあれば自分の手を汚してでも消しにくるはずだよ。」
「今は良いボディガードもいるから身は安全。」
「どうだい?結構良い案だろ?」
「ザガンにはアタイから連絡しておくよ。」
ソラはあきれた顔でルタオを見る。
「そんな危険な場所に行かせるなんて、相変わらず無茶苦茶やな。」
ソラは面倒くさそうに頭を掻き、椅子の背もたれに深く体重を預けた。
だがルタオは、さらに強い手札を切る。
「ソラ、3年ぶりに、海の至宝食べたいだろ?」
ソラの動きが止まった。
その料理は、最高級の魚介と究極の魔法調理術の極致。
1つの王冠の称号を得た世界最高峰の料理人であるルタオの至極の一品。
例え友人であるソラと言えども、気軽に頼めるものではない。
「……しゃあない。そこまで言われたら、断る理由はないなぁ。」
交渉は成立した。
迷う暇はない。
三人は夜の闇に紛れ、クリフヘイヴンの深淵、欲望と暴力が渦巻く”ジュダヴェルニ”へと向けて出発した。
――“釣り針”が、もう投げ込まれている。




