第12話「霧の悪意」
温かな紅茶の香りが、ほんの少しだけ緊張をほどく。
だが、ソラがカップを置く音は冷たい現実の合図みたいに響いた。
「シンを助けるために裁判所へ行くのは、筋としては正しいで。」
ソラは淡々と言う。
「やけど、それはあまりに敵の土俵に乗りすぎや」
レンは唇を噛み、拳を握りしめた。
反論したい。
けれど、反論できない怖さもある。
もし今、表立ってシンを救い出そうと動けば、ソラやルタオの助けもあり、裁判所には問題なく行ける。
「アタイも裁判所は反対だね」
ルタオが腕を組んで口を挟む。
「騎士団が動いているということは、誰かが限りなく真実味のある通報をしたということ」
「クリフヘイヴンの聖霧騎士団は腐っちゃいない。」
「つまり、裁判所に言っても手続きがスムーズに行かない可能性が大いにある」
「恐らく拘束するに十分な証拠がすでに用意されているんだろうさ。」
ソラが笑う。笑い方が軽いほど、言葉は重い。
「何の罪状か分からんけど、そうなれば敵は更に入念に真実を隠す。」
「そしてその間に証拠はすべて闇に葬られ、シンを陥れた黒幕は霧の向こうへと姿を消える。」
「ようある流れやな。」
ソラは言いながら笑う。
「これは簡単じゃないで。」
裁判所に訴えても、シンの身柄は守れない可能性が高い。
そこも含めて、黒幕は手を打っている。
ソラは窓の外の深い霧へ視線を投げた。
「自分らの友人をハメた奴は、レンとアイ、あんたら二人をも消そうとしとる。」
「 中途半端な介入は、余計に事態を悪化させるで」
冷たい白霧が、背筋を撫でるような錯覚。
入ってくるはずのない霧が、心の中だけに忍び込んでくる。
「要は、相手の方からシッポを出させるってんだろ?」
腕を組んで黙っていたルタオが、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
その瞳には料理人の矜持だけじゃない、猛さが同居している。
レンとアイが驚いたように顔を上げると、ルタオはカウンターを軽く指で叩いた。
「アタイに良い案がある」
「悪党どもを、一気に炙り出してやろうじゃないの」
レンとアイは、思わず息を呑んだ。
――反撃の匂いがした。




