第10話「虚空の雫」
さらに二つの皿が、音もなくテーブルに並べられた。
四皿目。
「虚空の霧鮑の炭火焼き」だった。
裏港でしか取引されない超希少食材。
ルタオは炎系統魔術を“微細に”調整し、その弾力を極限まで高めている。
噛むたびに溢れ出すのは、海の深淵を凝縮したような芳醇な雫。
黒いダイヤモンドと呼ばれる理由が、舌の上で理解できた。
そして五皿目。
「幻影の虹魚の薫製」。
虹色に輝く魚は、皿の上でなお、幻影のように色彩を変化させる。
口に含めば爽やかなハーブの風が抜け、鼻を抜ける薫香は深い森の静寂を思わせた。
「どうだい?元気はでたかい?」
「最高でした!」「マジで美味かった!!!」
二人は、さっきまでの恐怖が嘘みたいに目を輝かせた。
力が漲り、疲れが吹っ飛んでいる。
「これでも飲みな。」
最後に出されたのは、透き通った琥珀色の紅茶だった。
「世界のテッペンにしか生えない、幻の神草から作った紅茶、神の雫よ。」
湯気と共に立ち昇る香りが、不思議と荒ぶった心を凪のように静めていく。
ルタオはエプロンで手を拭い、ソラの隣にどっかり座った。
「さて、ソラ。この子らの話でも聞こうかい。」
紅茶の湯気が、三人の顔をぼんやり霞ませる。
その霞の向こうで
――現実が口を開けて待っていた。




