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12.神託、探索、次善策

「で、二人を呼び出したのは他でもねぇ。魔石に関する話だ」


 姉上に関する一連の流れなど無かったかのように、椅子に座ったままグラントは話し始めた。

 私と姉上は応接セットのソファに適当に座る。何度も来た場所なので誰も気を使わない。我々の他に部屋にいるのはリッツだけだ。


「もう何か分かったのか? いくらなんでも昨日の今日だぞ。あ、なにか不都合があったか?」

「ドラゴンが見つかった」

「は?」


 思わず間の抜けた声が出たが、何が見つかったって言った?


「……ドラゴンと聞こえたが?」

「ドラゴンって言ったんだよ。寝ぼけてんのか」

「実は本当についさっき、冒険者ギルドの伝通鳥が来たっす」


 リッツが補足を入れてきた。

 伝通鳥とは、分かりやすく言えば魔道具で作った伝書鳩だ。伝書鳩と違って餌も要らないし、飛行速度も速い。途中で行方不明になる事も少ないようだ。ただ、単純に高価なので貴族や大商人くらいしか使わない。


「二通目の伝通鳥も来たっす。間違いなさそうっすね」


 リッツの言う通り、グラントの机の端には鳩のような形をした伝通鳥と、鷹のような形をした伝通鳥が一つずつ置かれていた。色は両方とも黒い。ちなみに形が違うからといって、性能が違うという事はない。

 性能差で言えば、どこの魔道具工房が作ったかの方が重要だ。名の通った魔道具職人が作った物は当然高価だ。


「本当にドラゴンがいるのね!」


 姉上が目を輝かせている。近頃見た中では最も輝かせている。非常に危ない傾向だ。


「正確に言うと、ドラゴンのような生物、だな。それにワイバーンって可能性もある」


 グラントは落ち着いている。さすが年の功。

 ドラゴンとワイバーンは実際似ているが別種のモンスターだ。主な違いは、ドラゴンは両手両足、まあ前足と後ろ足かもしれないが、とにかく四肢を持ち、それに加え翼が生えていることが多い。翼が生えていないものは地竜と呼ばれることが多い。

 ワイバーンは両手の代わりに翼が生えているのが特徴だ。空を飛ぶことに特化している為、体が比較的軽い。種類によっては尻尾に毒針を持っているものもいるらしい。

 ただやはり、大きな違いはその強さだろう。単純にドラゴンは強い。ワイバーンと比べるとまさに大人と子供程の違いがある。ワイバーンも決して弱いモンスターではないのだがな。


「早く退治しに行かなきゃね! マルス、旅支度よ」

「お嬢様、さっそくの御活躍の場ですね」


 はしゃぐ姉上と無責任に煽る執事。主家の令嬢を危険にさらしてどうする。


「待て、まだなんの情報も聞いてないぞ。それで親父さん、ドラゴンはどこに出たんだ?」

「隣のベリア領だな。ギルセアの奥の山中らしい」

「ギルセア……。ベリア伯爵殿自慢の鉱山都市か」


 マルシェル子爵領の南隣りに位置するベリア伯爵領。領内には鉄や銀、それに魔法銀とも呼ばれる希少なミスリル。これらを産出する鉱山郡を要するアルバーナ神帝国の重要地域だ。

 ベリア伯爵家は豊富な資源を帝室と共同で開発し、利益の独占を避ける領地運営をしてきた。そのおかげで帝室からの覚えもめでたく、何代か前には帝室から皇女が降嫁していたはずだ。

 社交界でも存在感を示し、財産も豊富な絵に描いたような貴族。それがベリア伯爵家。

 どこかの貧乏子爵家とはえらい違いだな。

 ギルセアはベリア伯爵領の西側に位置する鉱山都市だ。近隣で質の良い金属が採れるため、鍛冶が盛んに行われている。


 「坊っちゃん、もし本当にドラゴンなら、上等な魔石を持っている可能性は高いっす」


 リッツが確認事項のように言う。

 もちろんそれは分かっている。手に入れられるかどうかはともかく、上級な魔石を持っている事は間違いないと思う。それこそ目的の一級魔石も夢じゃない。

 過去にドラゴンを討伐したという話はあることはある。ほぼ伝説の中の話だが、帝室はドラゴンの牙だか爪だかで作られた宝物を持っている聞いたことがある。素材がある以上、人間に狩れない相手ではないということだ。

 しかし、これは……。


「坊っちゃん?」

「どうした坊主? 千載一遇の好機じゃねえか」

「……早すぎるんだよ!」


 叫ばずにはいられなかった。


「いくらなんでも昨日の今日だぞ? 準備も何もできてるわけ無いだろ! 何年掛かるかわからん地道な探索を覚悟していたのに、いきなりドラゴンだと? しかも冒険者ギルドの連絡網が回っているだ? そんなもの、帝国中の名うての冒険者が群がって狩りに来るわ!」

「おおう、落ち着け坊主」


 グラントが椅子から立ち上がり、私をなだめようとする。

 リッツは天を仰ぎ、レイチェル姉上とマルスは何事かとこちらを伺う。


「親父さん、これは好機なんかじゃない。やってきた幸運が今まさに風前の灯火なんだよ。次にいつ来るかわからない、二度と来ないかもしれない機会を逃す寸前なんだ。なんだってこんなに早いんだ! せめてひと月でも時間があれば、資金を作ってギルドに緊急依頼を出して上級の冒険者を雇えたはずなのに! いまから上級冒険者を集めていたら時間が掛かりすぎる!」


 具体的な問題点として、まず資金が足りない。

 私とマルスが商業ギルドに行こうとしていた理由がこれだ。

 マルシェル家の信用と少ない財産を担保に神殿建立の資金援助を頼みに行くところだった。必要なら領主としての権力の範囲で商売がやりやすくなる制度改正くらいは想定していた。そもそもマルシェル家と商業ギルドの仲は良好なので、無理のない相談になるはずだった。

 多少であれば個人的な資金もあるしな。

 しかし事は一刻を争う事態になってしまった。のんびりと商売の話をしている場合ではない。

 早急にベリア伯爵領のドラゴンらしきモンスターの正体を掴んで、策を考えねば。


「となると、打てる手は限られるよな、坊主」


 何故かグラントは嬉しそうだ。


「ええ……、そうなるんすか……」


 逆にリッツはうなだれていた。


「そうなるよな。この状況で打てる最速の手段。私が直接ベリア伯爵領に行く」


 残念ながらこれしかない。とにかく今は速さが重要だ。もしかすると現地ではもうドラゴンの調査が始まっているかもしれないしな。

 本当に目撃されたのはドラゴンなのか? そいつはどれくらいの大きさなのか? 具体的に言うと大きな魔石を持っていそうなのか?

 調査に使えるものは何でも使うぞ、自分のものでなくともな。


「親父さんは動けるのか?」

「おうよ、もちろ——」「ダメです」


 二つ返事をしようとしたグラントをリッツが制した。


「なんだよ、俺が行くのが一番いいだろうが、ギルセアの冒険者ギルドにも顔は利くぞ」

「ギルド長が期間未定でギルドを不在にしていいわけないでしょ。何いってんすか」

「戦力的には親父さんは来てほしいが、無理なら一つ頼みがある」


 歳を取ったとはいえグラントは三等級冒険者。実力と経験は本物だ。しかし、ギルドの支部長ともなるとそこまで自由には動けないだろう。だがその立場でこそ、できることもある。


「すぐにギルセアの冒険者ギルドに伝通鳥を送ってくれ。伝える内容は、『ドラゴンの調査要員を応援として、副長リッツとマルシェル子爵家の縁者を送る。第一次調査隊に編入を求む』だ」

「あからさまな遅延工作っすね」

「貴族が道楽でドラゴン見物したがっている、とでも思わせられればいいさ。とにかく、我々が到着するまで本格的な調査を遅らせたい」


 強引な手段を取ろうとする私を、グラントは愉快そうに笑い飛ばす。


「はっは、向こうのギルドにしてみりゃ迷惑な話だが、ドラゴンに街を襲われたんでもなければそこまで急いで調査はしねぇよ」

「調査自体が危険っすからね。上級の冒険者が何人か集まるまでは待つと思うっす」


 人手が欲しいところに、貴族のコブ付きだが四等級冒険者でもあるリッツがやってくるわけだ。それならばと、ギルセアの冒険者ギルドが我々の到着を待ってくれる可能性は高い。


「三等級の俺が行く方が確実だと思うんだがなぁ。やっぱりダメか?」

「正直、自分もドラゴンなんて勘弁してほしいっすけど、山の中で探索となるとギルド長には不向きっす」

「それは認めざるを得ねぇ。暴れるだけなら譲らねぇんだがな」


 がははと笑うグラント。確かに山の中では彼の愛用の特大ウォーハンマーを振り回しにくいだろうな。冒険者ギルドの支部長なのに、冒険より戦場のほうが似合う男だ。


「むずかしい相談はおわったの? エヴァン」


 大人しくこちらの様子を伺っていたレイチェル姉上が尋ねてきた。


「で、いつ出発するの? 今夜?」

「今夜は流石に無理ですが、明日の朝には出発します」


 我ながら強行日程だが、これくらいでないと他の冒険者に先を越されてしまう可能性がある。なにせ相手は、狩れれば富と名声が思うままのドラゴンだからな。

 そして、私は皆に指示を出す。


「では親父さんはギルセア支部に伝通鳥を飛ばしてくれ。マルスは旅支度を頼む。リッツは運び屋のタバルに馬車と御者を手配させてくれ。この時間ならフロミナの酒場で飯を食ってるはずだ」


 私も準備を急がなくてはな。山の中のドラゴン探索か。色々な可能性に備えねば……。


「ねぇ、ちょっと、エヴァン」

「何でしょうか、姉上」


 深く考えを巡らそうとした私に、レイチェル姉上が私の服の裾をぐいっと引っ張った。


「私はどうすればいいの?」

「明日に備え、英気を養ってください」


 つまり好きに過ごしてくれということだ。別に冷たくしてるわけではなく、本当に頼めることがない。


「分かったわ。つまり鍛錬と武具の手入れね」


 何が分かったんだろうと思ったが、大人しくしてくれるならとりあえず問題ないし、ありがたい。

 そう思ったところでマルスが言った。


「それはそうとエヴァン様。領境の関所はどうやって越えられますか? 身分を明かすとなると一手間掛かるかと思いますが」

「ああ、関所があったな」


 貴族領の境には街道に関所が設けられている場合がある。隣接の領地との関係が良好であれば関所が無いこともあるのだが、残念ながらマルシェル子爵領からどこに向かうにも関所を通らなければならない。

 隣の領地と仲が悪いというわけではないのだが、経済的な結びつきがあまり強くないので関所を撤廃という話にならないのだ。別にうちの領が嫌われているわけではない。

 関所を通るとなると、身分を隠すというのは難しいな。偽名を使うのは簡単だが、怪しまれて取り調べを受けるとまず身分がバレる。

 お忍びの旅という言い訳を通すことはできるかもしれないが、確実にべリア伯爵から接待役という名の監視が付く。

 一等級魔石を探索なんていうキナ臭いことを子爵家の嫡子、令嬢が自らやっているというのは、ちょっとした話のネタだ。社交の場などであっという間に広まるだろう。


「身分を偽りつつ、素早く関所を越えるとなると……」

「そりゃ冒険者になるしかねえよな」


 冒険者ギルドのマリクリア支部長が素早く答えを出した。


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