表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/179

094 叙勲式典

第三次カラトバ戦役から1ヶ月が経ったある日。


王宮の謁見の間では、今回の戦いの功労者への褒賞授与式が執り行われていた。


玉座の前で(かしず)くのは、白亜、ロダン、アインズ、サハニと十字星(クロスター)の面々とロダン。

玉座の左下に控える国務長官のグリューネル侯爵が書簡を読み上げる。


十字星(クロスター)のガゼル・ラビタンス、ナナミ・ムラサメ、トア・レイン。白銀の翼(シルバーウイング)のロダン。此度の功に基づき、報奨金5000万リザを下賜(かし)するものとする」

「「「「はは~っ! ありがたき幸せ!」」」」


ガゼル、ナナミ、トア、ロダンのそれぞれに金貨5000万リザが与えられた。



続いて爵位の叙勲式典。

魔道砲陣地破壊戦の功労者に順に陞爵(しょうしゃく)が伝えられた。

国王のジョセフが玉座から陞爵者(しょうしゃくしゃ)の前まで降りてきた。

国務長官のグリューネル侯爵が書簡を読み上げる。


白銀の翼(シルバーウイング)斎賀白亜(サイガハクア)。前へ」

「はっ!」


白亜が(かしず)いたまま一歩前に踏み出す。

ジョセフ王が白亜に告げる。


此度(こたび)の功績により、そなたを現在の名誉子爵位から名誉伯爵位に陞爵ずる」


ジョセフ王が王剣の先を白亜の肩に触れさせる。


「大儀であった。これからもこの国の為にその力を存分に振るって欲しい」

「この斎賀白亜(サイガハクア)。アナトリア王国の剣にも盾にもなる所存」

「うむ。頼りにしておるぞ」


ジョセフ王と白亜が言葉を交わす。


ジョセフ王が王剣の先を白亜の肩から離す。

白亜が(かしず)いたまま、元の位置に戻った。



グリューネル侯爵が次の陞爵者(しょうしゃくしゃ)を指名する。


「次にホバートの冒険者ギルド支部長アインズ・シュトーレン。前へ」

「はっ!」


アインズが(かしず)いたまま一歩前に踏み出す。

ジョセフ王がアインズに告げる。


此度(こたび)の功績により、そなたも現在の名誉子爵位から名誉伯爵位に陞爵(しょうしゃく)ずる」


ジョセフ王の王剣の先がアインズの肩に触れる。


「大儀であった。変わらずこの国の為に尽くして欲しい」

「勿体ないお言葉。このアインズ。今後ともこの国の為に尽くすことを誓います」

「そなたがおれば北東部のことは安心だな」


ジョセフ王とアインズも言葉を交わす。


ジョセフ王が王剣の先をアインズの肩から離す。



更にグリューネル侯爵が次の陞爵者(しょうしゃくしゃ)を指名する。


「次に十字星(クロスター)のリーダー、デューク・サイクス。前へ」

「はっ!」


デュークが(かしず)いたまま一歩前に踏み出す。

ジョセフ王がデュークに告げる。


此度(こたび)の功績とサイクス辺境伯家の現当主からの申し出により、そなたをサイクス辺境伯家の次期当主に認める」


それを訊いたデュークが顔を上げた。

ジョセフ王がデュークに穏やかに語り掛けた。


「デューク・サイクスよ。これからはそなたがサイクス辺境伯領を切り盛りせよ」

「しかし私は辺境伯家の次男。しかも脇腹の息子。当主候補には正妻の息子の兄も――――」

「その兄が家督継承を放棄したのだ。優秀なそなたに譲ると申しておったぞ。今後はそなたを支えていくとも申しておった」

「しかし――――」

「そなたの弟や妹達も喜んでおった。『兄さんが帰ってくる』とな。そなた、兄に家督を継がせる為に家を出て冒険者になったのであろう。その兄が申しておるのだ。『戻って来い』と」


デュークがジョセフ王を見上げた。


「よい家族を持ったな」


それを訊いたデュークが肩の力を抜いて言った。


「承知(つかまつ)りました。故郷に帰って領地経営に専念させて頂きます」

「うむ。それでよい」


ジョセフ王が満足そうに頷いた。



グリューネル侯爵が最後の陞爵者(しょうしゃくしゃ)を指名する。


「最後に北部辺境警備隊長オマル・サハニ。前へ」


サハニは返事をせず、(かしず)いたまま一歩前に踏み出す。

ジョセフ王がサハニに告げる。


此度(こたび)の功績により、北部辺境警備隊長の任を解き、近衛騎士団長への復職を命じる。また、剥奪していた伯爵位への復爵(ふくしゃく)も許すものとする」


それを訊いたサハニが、


「ちっ!」


俯いたまま小さな舌打ちをした。

ジョセフ王には聴こえなかったようだが、アインズと白亜の耳にはしっかり届いた。

思わず顔を上げそうになるアインズと白亜。


(こいつ、今、舌打ちしやがった)

(何が不満だと言うのじゃ?)


一方のサハニは、


(せっかくのホバートでの放蕩三昧ができなくなってしまう! こんなの褒美じゃねえ!)


「オマル・サハニよ。どうかしたのかね?」

「いえ、なんでもありません」

「それにしては不満顔に見えるが――――」

「いえ、小官には過ぎた褒美ではないか愚考するものであります。小官も十字星(クロスター)の者達同様、褒賞金だけで結構です」


それを訊いたジョセフ王がただ一言。


「ならん!!」


そして、サハニに近づき、耳元で囁いた。


「余の目の届かぬところで放蕩の限りを尽くすつもりであろうが、そうはいかんぞ。余が目を光らせておらぬと、おぬしはまた何かやらかすに違いない。此度(こたび)のことも元はと謂えば、その方が原因ではないか? 忘れたとは言わせんぞ」


それを訊いたサハニがジョセフ王を見た。


「ああ、言っておくが、次にやらかしたら『死刑』だから」


サハニの顔が真っ青になった。


(酷い、陛下! ご婦人に愛を囁くのを禁じるなんて! 俺は、人生から潤いを奪われて、 これからどうやって生きて行けばいいんだよ!)


満足そうな顔をしたジョセフ王が玉座に戻っていった。


一方、アインズも白亜もジョセフ王の囁きを聞き逃してはいなかった。


(自業自得だ)

(女誑しの遊び人は廃業じゃな)



「なお、サハニ殿を除く3名には、報奨金2億リザも下賜(かし)されるものとする。」


クリューネル侯爵が追加の褒賞を告げた。

サハニには報奨金は支給されないらしい。


『色事師に金を与えるとロクなことに使わない。国民の血税を無駄使いされては敵わん』


そんなジョセフ王の配慮(?)により、こうなった。


サハニは一歩下がるのも忘れて真っ白に燃え尽きていた。


こうして、爵位の叙勲式典も無事(?)終わったのだった。




「それで、勇者様はやはりお見えになられないのですか?」


玉座に戻ったジョセフ王が右下に控えるシルキーネに尋ねた。


「暫しお待ちを。女神セレスティアが必ず連れて参ります」


シルキーネが玉座を見上げてジョセフ王に告げる。


「御心配には及びません。彼は迎賓館の敷地内から逃れることはできないのですから」


シルキーネの瞳が妖しく光った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ