094 叙勲式典
第三次カラトバ戦役から1ヶ月が経ったある日。
王宮の謁見の間では、今回の戦いの功労者への褒賞授与式が執り行われていた。
玉座の前で傅くのは、白亜、ロダン、アインズ、サハニと十字星の面々とロダン。
玉座の左下に控える国務長官のグリューネル侯爵が書簡を読み上げる。
「十字星のガゼル・ラビタンス、ナナミ・ムラサメ、トア・レイン。白銀の翼のロダン。此度の功に基づき、報奨金5000万リザを下賜するものとする」
「「「「はは~っ! ありがたき幸せ!」」」」
ガゼル、ナナミ、トア、ロダンのそれぞれに金貨5000万リザが与えられた。
続いて爵位の叙勲式典。
魔道砲陣地破壊戦の功労者に順に陞爵が伝えられた。
国王のジョセフが玉座から陞爵者の前まで降りてきた。
国務長官のグリューネル侯爵が書簡を読み上げる。
「白銀の翼の斎賀白亜。前へ」
「はっ!」
白亜が傅いたまま一歩前に踏み出す。
ジョセフ王が白亜に告げる。
「此度の功績により、そなたを現在の名誉子爵位から名誉伯爵位に陞爵ずる」
ジョセフ王が王剣の先を白亜の肩に触れさせる。
「大儀であった。これからもこの国の為にその力を存分に振るって欲しい」
「この斎賀白亜。アナトリア王国の剣にも盾にもなる所存」
「うむ。頼りにしておるぞ」
ジョセフ王と白亜が言葉を交わす。
ジョセフ王が王剣の先を白亜の肩から離す。
白亜が傅いたまま、元の位置に戻った。
グリューネル侯爵が次の陞爵者を指名する。
「次にホバートの冒険者ギルド支部長アインズ・シュトーレン。前へ」
「はっ!」
アインズが傅いたまま一歩前に踏み出す。
ジョセフ王がアインズに告げる。
「此度の功績により、そなたも現在の名誉子爵位から名誉伯爵位に陞爵ずる」
ジョセフ王の王剣の先がアインズの肩に触れる。
「大儀であった。変わらずこの国の為に尽くして欲しい」
「勿体ないお言葉。このアインズ。今後ともこの国の為に尽くすことを誓います」
「そなたがおれば北東部のことは安心だな」
ジョセフ王とアインズも言葉を交わす。
ジョセフ王が王剣の先をアインズの肩から離す。
更にグリューネル侯爵が次の陞爵者を指名する。
「次に十字星のリーダー、デューク・サイクス。前へ」
「はっ!」
デュークが傅いたまま一歩前に踏み出す。
ジョセフ王がデュークに告げる。
「此度の功績とサイクス辺境伯家の現当主からの申し出により、そなたをサイクス辺境伯家の次期当主に認める」
それを訊いたデュークが顔を上げた。
ジョセフ王がデュークに穏やかに語り掛けた。
「デューク・サイクスよ。これからはそなたがサイクス辺境伯領を切り盛りせよ」
「しかし私は辺境伯家の次男。しかも脇腹の息子。当主候補には正妻の息子の兄も――――」
「その兄が家督継承を放棄したのだ。優秀なそなたに譲ると申しておったぞ。今後はそなたを支えていくとも申しておった」
「しかし――――」
「そなたの弟や妹達も喜んでおった。『兄さんが帰ってくる』とな。そなた、兄に家督を継がせる為に家を出て冒険者になったのであろう。その兄が申しておるのだ。『戻って来い』と」
デュークがジョセフ王を見上げた。
「よい家族を持ったな」
それを訊いたデュークが肩の力を抜いて言った。
「承知仕りました。故郷に帰って領地経営に専念させて頂きます」
「うむ。それでよい」
ジョセフ王が満足そうに頷いた。
グリューネル侯爵が最後の陞爵者を指名する。
「最後に北部辺境警備隊長オマル・サハニ。前へ」
サハニは返事をせず、傅いたまま一歩前に踏み出す。
ジョセフ王がサハニに告げる。
「此度の功績により、北部辺境警備隊長の任を解き、近衛騎士団長への復職を命じる。また、剥奪していた伯爵位への復爵も許すものとする」
それを訊いたサハニが、
「ちっ!」
俯いたまま小さな舌打ちをした。
ジョセフ王には聴こえなかったようだが、アインズと白亜の耳にはしっかり届いた。
思わず顔を上げそうになるアインズと白亜。
(こいつ、今、舌打ちしやがった)
(何が不満だと言うのじゃ?)
一方のサハニは、
(せっかくのホバートでの放蕩三昧ができなくなってしまう! こんなの褒美じゃねえ!)
「オマル・サハニよ。どうかしたのかね?」
「いえ、なんでもありません」
「それにしては不満顔に見えるが――――」
「いえ、小官には過ぎた褒美ではないか愚考するものであります。小官も十字星の者達同様、褒賞金だけで結構です」
それを訊いたジョセフ王がただ一言。
「ならん!!」
そして、サハニに近づき、耳元で囁いた。
「余の目の届かぬところで放蕩の限りを尽くすつもりであろうが、そうはいかんぞ。余が目を光らせておらぬと、おぬしはまた何かやらかすに違いない。此度のことも元はと謂えば、その方が原因ではないか? 忘れたとは言わせんぞ」
それを訊いたサハニがジョセフ王を見た。
「ああ、言っておくが、次にやらかしたら『死刑』だから」
サハニの顔が真っ青になった。
(酷い、陛下! ご婦人に愛を囁くのを禁じるなんて! 俺は、人生から潤いを奪われて、 これからどうやって生きて行けばいいんだよ!)
満足そうな顔をしたジョセフ王が玉座に戻っていった。
一方、アインズも白亜もジョセフ王の囁きを聞き逃してはいなかった。
(自業自得だ)
(女誑しの遊び人は廃業じゃな)
「なお、サハニ殿を除く3名には、報奨金2億リザも下賜されるものとする。」
クリューネル侯爵が追加の褒賞を告げた。
サハニには報奨金は支給されないらしい。
『色事師に金を与えるとロクなことに使わない。国民の血税を無駄使いされては敵わん』
そんなジョセフ王の配慮(?)により、こうなった。
サハニは一歩下がるのも忘れて真っ白に燃え尽きていた。
こうして、爵位の叙勲式典も無事(?)終わったのだった。
「それで、勇者様はやはりお見えになられないのですか?」
玉座に戻ったジョセフ王が右下に控えるシルキーネに尋ねた。
「暫しお待ちを。女神セレスティアが必ず連れて参ります」
シルキーネが玉座を見上げてジョセフ王に告げる。
「御心配には及びません。彼は迎賓館の敷地内から逃れることはできないのですから」
シルキーネの瞳が妖しく光った。




