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088 魔道砲陣地殲滅戦

カラトバ軍の魔道砲陣地は大混乱に陥っていた。

突然姿を現した敵兵が次々とM82魔道砲を破壊し始めたからだ。


「妾がここを受け持とう! アインズは反対側から頼む!」

「わかった! ここは任せる! シルキーネ閣下!」

「ボクが反対側まで送ろう」


アインズとサハニ、アップルジャックを始めとする親衛隊がシルキーネと共に消えた。

残ったのはロダンと白夜とデュークと近衛騎士団員10名。


「おぬしら、下がっておれ!」


「集え!刃達よ!」


白亜が[頂の蔵]から剣、太刀、槍を顕現させる。

白亜の真上に浮かび上がったそれらの数は5000本。


「さあ、刃達よ、群れとなりて妾の敵を刺し貫け! 斉刃(せいじん)!」


5000本の刃がカラトバ兵に襲い掛かる。

あたり一帯の兵が(おびただ)しい死体と化した。


白亜は五月雨を抜くと、遮る敵兵が居なくなったM82魔道砲に突進し、[スラッシュ・ソニック]で一閃する。

超音波カッターのように刃先を高周波振動させることであらゆる物質を破断する斬り技を受けたM82魔道砲は真っ二つになった。


「すげえ。これが《SS》ランクパーティーの魔道剣聖、斎賀白亜(サイガハクア)…………」


近衛騎士団員がその斬撃に驚く中、白亜が檄を飛ばす。


各方(おのおのがた)! 敵の新兵器はまだまだある! 敵兵も多い! 油断召されるな!」

「嬢ちゃんもな」

「ウォン!」


「わかっておる」


ロダンと白夜に答え、デュークを見る。

黙って頷くデューク。

妾は[斉刃(せいじん)]で放った武器と敵兵の武器を[頂の蔵]に収めていく。

その間、デュークは妾の周辺警戒だ。

武器を回収し終わったので、次の得物目指して走り出す。



◆ ◆ ◆


シルクにより反対側に転移したアインズが巨大なハルバート一閃。

M82魔道砲が周辺のカラトバ兵と共に横薙ぎに両断された。


「ひゅー。相変わらず馬鹿力だなあ」


サハニが駆け寄る敵兵をなで斬りにしながらアインズの(さま)に感心する。


「そう言うおまえも変わらねえな。辺境で腕が鈍ったかと思ってたんだが」

「ほら、わし、天才だから。努力いらないから」

「言ってろ!」


次の魔道砲破壊に向かう。

前方では、アップルジャックが親衛隊員と共に血路を開いている。

カラトバの魔道兵の攻撃魔法は全部シルキーネが撥ね返している。


「オマルよ。魔族軍もやると思わないか?」

「ああ、女魔公爵閣下もな」


シルキーネが魔道砲周辺のカラトバ兵を[ストーンクラウドバースト]による上空からの石弾連続飽和攻撃で一掃する。


「アインズ殿!」

「了解した! っせいっ!」


シルキーネの呼びかけに答えてアインズがハルバートを振るう。

2門目の魔道砲が真っ二つに両断された。


「次行くぞ!」

「おうっ!」


アインズ隊が3門目の破壊に向かった。



◆ ◆ ◆


「報告します! 突然現れた敵兵に魔道砲が破壊されております。魔道砲守備兵にも甚大な被害が出ている模様!」


報告を受けたオストバルトが手にしていた精製水のガラスコップを握り潰した。

辺り一面にガラスの破片が飛び散る。

オストバルトの手には傷ひとつなかった。


オストバルトは侵攻軍中央の本営ではなく、侵攻軍前面近くの前線司令部に居た。


「あらあら大変ねえ」


横に(たたず)むヒルデガルドが他人事のように感想を述べる。


「敵兵の規模は?」

「魔道砲陣地の右側に13とフェンリル1匹、左側に13です! 左右から順に魔道砲を潰すつもりではないかと。なお、右側には白銀の翼(シルバーウイング)の斎賀白亜、左側には近衛師団長オマル・サハニを確認!」

白銀の翼(シルバーウイング)も参戦してるのか。リーダーの斎賀五月(サイガサツキ)は!?」

「確認されておりません」


オストバルトは、オマル・サハニとは因縁があった。

2度にわたるアナトリア侵攻においてオストバルトに立ち塞がったのはサハニだ。

サハニとは前線で何度も命のやり取りをした。

だが、決着は付かなかった。

それだけなら、戦場のライバルと言えるだろう。


だが、サハニに王妃を寝取られた。

その結果、オストバルトは妻を姦通の罪で自らの手で処断した。

そのことは今も忘れていない。


その後、サハニは近衛騎士団長を解任されて北部辺境に飛ばされたと訊いた。

もう、復讐すら叶わないと思っていた。

今、そのサハニが戦場にいる。


「白亜ちゃんのことはあたしに任せてもらうわよぉ~? それがあんたに協力する見返りだったしぃ~」


ヒルデガルドが舌なめずりしながらオストバルトを見た。


「いいだろう。約束だしな。よし、俺はサハニの方に向かう」

「今、馬を用意します!」


オストバルトの決定に従卒が答え、前線司令部から出て行った。

オストバルトもそれに続く。


「ようやく白亜ちゃんを捕獲できるのねぇ。楽しみだわぁ」


怪しげな微笑みを浮かべるヒルデガルドがオストバルトを見送るのだった。



◆ ◆ ◆


アインズは既に7門の魔道砲を破壊していた。

ただ進撃の速度は徐々に遅くなっていた。

サハニやロダン、シルキーネを始めとするアインズ隊の前に魔道砲の破壊を阻止すべく送り込まれたカラトバの増援部隊が行く手を阻み始めたからだ。

倒しても倒しても後から後から湧いてくる敵兵にアインズ隊の疲弊も半端なかった。

そこに新たに表れたのは騎士王オストバルトだった。


オストバルトがサハニに斬り掛かる。それを受けるサハニ。

騎馬上の騎士同志の対決。


「騎士王様のお出ましかい?」

「こうして貴様を殺す機会がやってくるとはな。女神に感謝だ」

「女神様はおまえみたいなやつに感謝されても嬉しくないだろうよ」

「ぬかせ!」

「いや、本当のことだから」


馬上で鍔迫(つばぜ)り合いを続ける二人。


「俺から妻を奪った恨み、忘れていないぞ!」

「『奪った』って、逆上して切捨てたのはおまえだろう? 公務にかこつけて奥さんを放置していたおまえが悪いんだよ」

「貴様! 謝罪するどころか責任転嫁か!? 騎士の風上にもおけぬ俗物め!」

「俺は俗物だよ。今頃わかったのか?」

「いいだろう! 俗物のおまえをもう騎士とは見做さん!」


オストバルトが剣を引き、サハニと距離をおく。


「銃士隊前へ!!」


M78軽魔道機関銃を構えた銃士がわらわらとサハニを取り囲んだ。

その数30。


それを見たシルキーネがとっさに叫ぶ。


「いけない! サハニ殿! 逃げるんだ!」


タタタタタタタタタタタタタタタタ!


銃士隊員達が持つM78軽魔道機関銃から連射された銃弾がサハニを襲う。


キンキンキンキンキンキンキンキンキン!


サハニが前方と左右から襲う銃弾を俊足の剣戟で撃ち落とす。

だが、背後から襲う銃弾は間に合わない。


ギャギャン!


アインズの巨大なハルバートが銃弾を薙ぎ払った。


「すまんな、アインズ」

「後でボトル奢れよ。890年物な」

「俺の全財産が吹き飛ぶ!」

「仕方ねえな。964年物で我慢しといてやる」


サハニとアインズがお互いの背中を預け合う。


タタタタタタタタタタタタタタタタタタ!

キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


バラまかれた魔道機関銃弾をサハニとアインズが全て撃ち落とす。

だが、二人を外れた銃弾がシルキーネ親衛隊員に銃創を負わせた。


「アインズ殿! これ以上は無理だ! 撤収しよう!」

「わかった!」


シルキーネの呼び掛けにアインズが答えたと同時に[転移]が発動し、アインズ達がオストバルトの前から消えた。


「くそっ!」


オストバルトは舌打ちをすると、銃士隊に命令した。


「ヒルダのところに行くぞ! 銃士隊、俺に続け!」



◆ ◆ ◆


白亜達の進撃速度もアインズ達同様に徐々に遅くなり始めていた。

白亜達は12門の魔道砲を破壊している。

ただ時間は掛かった。

白亜の[斉刃]により接近戦は不利と判断したカラトバの右翼指揮官は早々と銃士隊の投入を決めた。

遠方からM78軽魔道機関銃の3点バーストで狙ってくるカラトバ兵の為に移動は困難を極めた。発射される銃弾が物理障壁や魔法障壁を撃ち抜いてくるからだ。

実際、近衛騎士団員のほとんどが銃創を負っている。

デュークや白夜もだ。

不思議なことにロダンの甲冑は銃弾を通さなかった。それどころか甲冑にキズすらついていない。


「あと1門! あと1門なのじゃ!」


破壊した魔道砲の陰に隠れて狙撃から身を守っている状況。

100m先に最後の1門がある。

その魔道砲はモルタヴァ高原北部丘陵に向けてビームキャノンの連続砲撃中。


「妾が突撃を敢行する。ロダンは妾の盾になって銃弾を防いでくれ! それ以外の者はここで待機じゃ!」


白亜が五月雨を肩に担いで、力を溜める。


「行くぞ、ロダン!」

「おう!」


銃士隊側にロダン、その陰に白亜。

二人が猛スピードで魔道砲に肉薄する。

それを見た砲兵が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


あと、5m、4m、3m…………

白亜が五月雨を振り上げて魔道砲に[スラッシュ・ソニック]振り下ろそうとした時、真横から剣戟が襲って来た。


ガギャン!


白亜は、オストバルトの横薙ぎを間一髪、五月雨で受ける。



◆ ◆ ◆


ガギャン!


妾がとっさに食い止めた剣戟は重かった。


右横を見上げると、馬に跨り、いぶし銀の甲冑を身に着けた筋肉質の長身体躯の騎士。

冑から覗く茶色い髪には白髪が混じり、右頬には深い刀傷がある。眼差しも鋭い。

その容貌から、年齢は40代後半と思われる。


この男が騎士王オストバルト・フェルナー!?

司教帝が勇者パーティーの一員に指名した騎士。

その騎士王が妾を観察する。剣を交えたまま。


「おまえが武蔵坊弁慶か。このような小娘だったとはな」

「妾はもう武蔵坊弁慶ではない。斎賀白亜(さいがはくあ)じゃ」

「そうだったな。それにしてもいい剣筋をしている」


騎士王は離した剣を振り上げてそれを打ち下ろしてくる。

物凄く重い剣戟だ。

だが、妾も負けずに切り返す。


長い打ち合いが続く。

その間、銃撃は無い。

騎士王が止めた?


やがて、騎士王が馬を降りて直に向き合って来た。

どうやら対等にということらしい。


「おまえ、魔道剣聖だろう? 魔法は使わないのか?」

「妾も元は剣に身を捧げた武者じゃ。そなたも騎士王と呼ばれた男。剣に生き剣に倒れる生き方を選んだのであろう? そのような者に魔法なぞ無粋(ぶすい)と言うものじゃ」

「そうだな。俺もそう思う」


剣と刀を激しく打ち合いながら話す。


「銃撃を止めさせたのも、それが理由か?」

「当り前だろう? 剣に生きる者同士の立ち合いに銃撃など不要」

「さすがは騎士王。よくわかっておる」


こんな楽しい立ち回りは久しぶり。

心が躍る。

激しい打ち合いの中で、妾も騎士王も笑っていた。


「おまえ、サハニ程では無いが充分に強いな」

「そうかの? おぬしもイツキ程ではないが充分に強い。妾と互角なのじゃからな」


騎士王の打ち下ろしを躱して、左下から救い上げる。

打ち下ろされた剣が直角に向きを変え、妾の剣を左上に流す。


「どうだ? 俺の元に来ないか?」

「お断りする。妾は勇者斎賀五月(さいがいつき)のものじゃ」

「『イツキ』? 勇者の名は『サツキ』じゃないのか?」

「セレスティア様が読み間違えたのじゃ」


妾が高速の連撃で猛攻する。

それを騎士王が後の先に剣で受け流していく。


「そうか、勇者の名は『イツキ』だったのか。じゃあ、おまえは勇者パーティーの?」

白銀の翼(シルバーウイング)の一員じゃよ」


今度は騎士王が剣先で突きを繰り返し放ってくる。

イツキの元の世界の『ふぇんしんぐ』というものじゃろう。

妾は時に身を躱し、時に五月雨の腹でその突きを受ける。


「ははははは。益々、俺はおまえが欲しくなった。俺の(きさき)になれ」

「アナトリアの第一王子みたいなことを言う!」

「他にも求婚者がいたか?」


円舞二式を放つ。

だが、騎士王は妾の外周を妾と同じ向きに妾の回転速度に合わせて走ることで円舞二式を無効化した。そこで、イツキの[連撃進段]モドキで攻撃する。


「そいつ、見る目があるじゃないか?」

「コテンパンにノしてやったら求婚された! 迷惑な話じゃ!」


[連撃進段]を1stから2ndに、更に3rdに上げる。

騎士王は連撃の速度が上がったことに一瞬驚いた顔をしたが、すぐに対応した。


「じゃあ、俺はおまえに勝ってやる。絶対に妃にしてやる」

「やなこった! 妾はイツキのものじゃよ!」


[連撃進段]の剣速を4thに上げる。


「いや、する! おまえとなら剣の道を極められるはずだ。それに、おまえと俺の間に世継ぎが生まれれば、そいつは世界最強の剣王になるだろう」

「勝手な夢を見おって!」


騎士王も負けずに剣速を上げてきた。

仕方が無いので剣速を5thに上げた。と言うか、上げさせられた。


もし、イツキに会う前に騎士王に会っていたらどうなっていただろうか?

もっとも、この男と妾とは親子ほども違うから、夫婦(めおと)になることは無いだろうな。


「絶対に俺のものにしてやる」




「それは困るわぁ~、バルトちゃん」


傍らから声が掛かった。

妾の[気配察知]に一切掛かっていなかった。

なぜじゃ?


肩まで伸びるオレンジの髪と銀の瞳を持ち、右目に片眼鏡を掛けた妖艶な美女。

歳は20代前半か。


「俺が久方ぶりに剣戟を楽しんでいたのに水を差すんじゃねえよ!」

「でも、約束は守って貰わなくっちゃねぇ~」

「邪魔するな! ヒルダ!」


騎士王が剣を引き、ヒルダと呼ぶ女性に近づこうとした。

が、騎士王がその場を動くことは無かった。

騎士王の足が氷で地面に縫い付けられていたから。


ガシャン!


騎士王が剣を取り落とした。

騎士王の手首から先が凍り付いていたから。


「安心して~~。あたしの氷雪の魔女は凍傷にならないからぁ~。」


近くでロダンが凍り付いていた。


そして、妾も動けなかった。

首から下が凍り付いていたから。

この女、妾にも[氷雪の魔女]とやらを行使したのか?


「ふふふ。さーて、どう料理しちゃおうかしらぁ~?」


妾に近づいてきた女が、不意に何かに気付いて立ち止まった。


「自己紹介がまだだったわねぇ~? あたしの名はヒルデガルド・エンデ。司教帝に選定された勇者パーティーの一員の錬金術師よ」


女は、妾に近づき耳元でそっと囁いた。


「そしてぇ~~、あなたを~~滅茶苦茶にする~~女よ」



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