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072 今この時この場に

翌日、白亜がアインズ支部長に頼まれて、ホバートからギルド職員を連れて来た。

黒いサングラスを掛けた背の高いマッチョな職員10名。

皆同じに見える。

アインズさんの指示にもただ無言で頷くだけで一言も喋らない。


アーノルドさんかな?

まさかサイボーグってことはないよね?



その後、いよいよネヴィル村を出発。

アインズ支部長と隊長さんと執事のベヘモットさんはロダン運転のジープに分乗。


アーノルドさん似のマッチョな職員達は整列して駆け足で付いてくる。

息の乱れもないようだ。

やっぱりサイボーグだろ?



俺はシルクの馬車に分乗している。

俺の向かいにはシルク。俺の隣には白亜。


「その容姿も悪くないけど、ボクは本来の姿のイツキ君の方が好みだね」


シルクが俺を見て感想を述べる。

今の俺は[容姿変換]と[スイッチ]により、銀髪碧眼の賢者姿。


「黒髪と黒い瞳はエーデルフェルトでは目立つんだよ。それに本来の俺は『国家反逆罪を犯した重罪人』ということで聖皇国からはお尋ね者扱いだし」

「難儀な事だね。ガヤルド公爵領に来たまえ。魔族領なら追手は掛からないよ」

「俺はあの辺境の自宅が気に入ってるんだよ」

「そうか、じゃあ、あの一帯を平和条約締結の条件に――――」

「良からぬことを考えておらぬじゃろうな!?」


白亜が警戒心を露わにする。

ネヴィル村を出発してからの白亜はずっとこの調子。

もっと仲良くできないものかな?




旅は順調。

使節団一行は、特にトラブルに見舞われることも予定通りに王都に向かっていた。

暇を持て余したシルクが毎日、白亜を揶揄(からか)って遊んでいる。

最初はトゲトゲしい態度しか見せなかった白亜が、次第に冗談交じりの悪態を()くようになった。白亜のシルクへの認識が『敵』から『ライバル』に変化したようだ。食事中も休憩中もシルクからマウントを取ろうとしている。

傍から見ると、背伸びする妹とそれを上手にいなす姉。

前世もそうだったが、さすがシルク、人心掌握半端ない。

白亜、おまえ、シルクの(てのひら)で転がされてるぞ。


いずれにしても、仲良くなれたのならそれでいいか。




レッサードラゴンの引く馬車は速い。

ネヴィル村を出て4日後の8月21日、俺達は北部砦の町ヌメイに着いた。

馬車が北部方面軍司令部の玄関前で止まる。

部下が整列する中、ヒルデマイヤー中将が待っていた。


「イツキ君。エスコートしてくれないか?」


シルクのお願い。

白亜を見ると、白亜が黙って首を縦に振った。


俺は馬車の扉を開けて降りると、シルクに手を差し伸べる。

その手を取って、シルクが優雅に降り立つ。

さすがは五公主の一角、魔公爵様だ。

振舞いがいちいち堂に入っている。


「お初にお目に掛かります。魔族領で外務卿を務めさせて頂いている魔公爵シルキーネ・ガヤルドと申します」

「これはこれは、ようこそ、ヌメイへ。私が北部方面軍を預からせて頂いている司令官のリヒャルト・ヒルデマイヤーです。陸軍中将を拝命しております」


握手を交わす二人。

中将が俺と白亜を見て、


斎賀五月(サイガイツキ)殿もご苦労様です」

「ハハ、また来ちゃいました」

「そうですな。歓迎しますぞ。斎賀白亜(サイガハクア)殿もご健勝でなによりです」

「うむ、そちも元気にしておったようじゃな」


白亜までが高貴な態度。

こいつも元は平安貴族の令嬢だった。


そんな俺達の元にアインズ支部長がやって来る。


「中将、今夜は世話になる」

「アインズ殿も一緒でしたか」

「いろいろ迷惑を掛けるが今夜はよろしく頼む」

白銀の翼(シルバーウイング)の皆さんと十字星(クロスター)の元リーダーがいるのであれば王都まで安心ですな」

「そうであってくれればいいんだがね」


そこに横から声が掛かる。


「おいおい、わしを忘れて貰っちゃ困るなあ」


声の主を見たヒルデマイヤー中将が条件反射のように姿勢を正した。


「よお、ヒルデマイヤー、おひさ」

「こ、これはオマル・サハニ閣下!」


軽く手を上げて挨拶する隊長さんに対して、直立不動姿勢で敬礼するヒルデマイヤー中将。


「わしはもう閣下じゃないよ。おまえも知ってるだろ?」

「はあ、そうではありますが…………」


まあ、降格左遷されたとはいえ、元近衛師団長だもんなあ。

近衛師団将校は、国防軍将校の一階級上の扱い。

つまり隊長さんは国防軍の元大将相当だから、中将にとっては上位者にあたる。

抗命できない相手だ。


やれやれ。

俺は助け船を出す。


「外務卿を待たせても失礼にあたります。中に入りましょう」

「そうでしたな。とりあえずは中へどうぞ」


ホッとして直立不動姿勢を解いた中将を先頭に司令部庁舎に入る。


「夕刻より歓迎のレセプションを催させて頂きます。それまで貴賓室でお寛ぎ下さい」


中将は部下に指示を出すと、司令官執務室に去っていった。


俺達は従卒に貴賓室に案内された。

王都からの賓客も来るのだろう。6階建ての司令部庁舎最上階の廊下の左右に豪華な貴賓室が並んでいた。

貴賓室は一人一部屋。


俺は部屋に入ると天蓋付ベッドに顔から突っ伏す。


疲れた。

馬車での長距離移動は本当に堪える。

お尻が石になってしまいそうだった。

シルクも白亜もよく耐えられるよな。

現代人の俺には耐えられないよ。


静寂な時間が過ぎていく。

突っ伏したまま無心になる。

ベッドのマットレスと一体化したような感覚。

このひとときは最高の贅沢といえよう。



トントン。


扉のノック音とともに誰かが部屋に入って来た。

突っ伏している俺には何も見えないから誰が入って来たかは不明。


「キミはいつまでそうしているつもりだい?」

「そうじゃ。そろそろ着替えよ。もうじきレセプションの時間じゃぞ」

「今何時?」

「午後5時半じゃよ」

「嘘!? もうそんなに時間経ったの?」

「だいぶ前にも声を掛けに来たんだけどね。ピクリとも動かなかった」

「2時間も寝てたのか…………」

「まるで屍のようだった」

「俺はゲームの中の骨や死体じゃないから」


俺は突っ伏したまま首だけを横に向けると、シルクと白亜が並んで俺のことを見下ろしていた。

そのままの姿勢で二人を見ていたら、白亜が俺の頭に布のかたまりを降らせた。

息苦しいじゃないか。

起き上がって、布のかたまりを摘まみ上げる。


「何これ?」

「ボクが用意したレセプション用の礼装だよ」

「いらない。レセプションには出ないから」

「中将がせっかく催してくれたのじゃ。欠席は失礼にあたろう」

「ガヤルド魔公爵閣下の歓迎レセプションだろ? 俺には関係ない」

「関係無くはない。イツキ君はボクのエスコート役だ」

「い~や、妾のエスコート役じゃ!」


俺の部屋で喧嘩を始めないで欲しい。


「シルクと白亜がお互いをエスコートすればいいじゃん。そうそれば俺はここでゆっくり寛げる。うん、万事解決!」


シルクと白亜が黙って俺を睨みつけてきた。

一瞬だが、お互い目くばせを交わしたような気がした。


「シャルトリューズ、ここへ!」


シルクの呼び声と同時に、メイド長と思しき女性が部屋に入って来た。

その後ろに数名のメイドが立っていた。


「この我儘な少年をボクに相応しい姿に(しつら)えよ」


シルクはそう言うと白亜と共に部屋を出て行ってしまった。


ガチャリ!


メイドの一人が部屋の内鍵を掛けた。


ねえ、何で鍵掛けたの?

怖いんですけど。


その後、逃げようとした俺はメイド長とメイド隊の連係プレイによって取り押さえられ、強制的に礼装に着替えさせられた。


シルクのメイド、滅茶苦茶スキル高いやん。

本気の俺が軽々制圧されちゃったよ。

もう、王都までの護衛はこの人達だけでいいんじゃないの?




「とてもお似合いですよ」


俺を褒めるメイド長のシャルトリューズさん。

山吹色の長い髪を頭の上に編み込んだ眼鏡のアラサー女性。

やり手のキャリア女性を思わせるてきぱきした所作。

魔族特有の角は生えていないが、魔法大全にも載っていない拘束魔法で俺を取り押さえたところから察するに、この人も魔族なんだろう。


勧められるまま、姿見を見る。

合わせ目にヒラヒラした装飾が施された薄緑のシャツ。

首元には扇型のやはりヒラヒラした赤色のネクタイ。

そして、襟や袖に金糸があしらわれた深緑のスーツを着た男が写っていた。

髪もオールバックに仕上げられている。


誰だこいつ?


「用意はできたかい?」


シルクと白亜が入って来た。


「うん、いいんじゃないか?」

「うむ、かっこいいのじゃ!」


そう言う二人を見た俺は彼女らに視線を釘付けにされる。


群青色のベルベット生地のロングドレスを身に纏ったシルク。

一方の白亜は薄桃色の絹のショートドレス。


「どうしたのじゃ? イツキ?」


(いぶか)る白亜に何も答えられない。


「イツキ君は、ボクらの姿に声も無いようだ」


シルクが笑って揶揄(からか)う。

ああそうだよ。

いつもの颯爽としたシルクがこんなに可憐に化けるなんて思わなかったよ。

白亜も可愛さマシマシじゃないか。


「さあ、イツキ君。レセプションが始まる。エスコートを頼むよ」


シルクが俺の右腕にその左腕を絡める。

白亜が俺の左手を取る。


主役はシルクだよね。

これ、俺が二人にエスコートされてるみたいに見えるんだけど、いいのか?




司令部庁舎3階の大ホール。

礼装に身を包んだ従卒が開けた扉の向こうにはレッドカーペット。

その左右に来賓が並ぶ。


「ようこそ、おいでくださいました」


中将の案内でレッドカーペットを進む。

左右の来賓の紹介を受け、挨拶と軽い会話を交わす。


来賓の多くは、近隣の貴族や商人。中将の部下の高級士官も混じっている。


「そうですか。それは興味深いですね。機会があればぜひ立ち寄らせて下さい」


さすが魔族領の上級貴族。シルクの応対は手慣れたものだ。


「ほう、そのような商品を扱っておるのか? そちの目の付け所は斬新じゃの」

「これを王国南部にも売り出すべく、流通経路を開拓中です」

「うむ、それは良きことじゃ。民も喜ぶ。妾もそちの成功を祈っておるぞ」


優雅な振舞いの白亜。見事な応対ぶりだ。


それに引き換え庶民の俺は…………

今この時この場に――――俺は居ていいのか?

場違いじゃないのか?


ようやく俺達は、レッドカーペットの先、ちょっとしたひな壇の前に辿り着く。


「ここで、魔族領外務卿シルキーネ・ガヤルド魔公爵閣下より皆様へのご挨拶がございます。ご挨拶の後、閣下に乾杯の音頭を取って頂きます」


中将の司会に応えてシルクがひな壇に上がる。

ようやく解放されると思ったら、シルクは絡めた腕を離してくれなかった。

そのまま俺もひな壇の上へ。


「只今紹介に預かったシルキーネ・ガヤルドです。突然の宴にも拘わらず、このように多くの方にお集まり頂いたことを嬉しく思っています。ボクはこの度、アナトリア王国と魔族領とで正式な平和条約を結ぶ為にやってきました。平和条約が締結されれば、長きに渡った人魔間の戦争状態は解消され、両国に平和が訪れることでしょう」


そこで一旦、言葉を切ったシルクが俺を見た。

そして、視線を来賓に戻すと挨拶を続けた。


「まだ、ここでは公にできませんが、ボクは両国の友好の証として王都にて重大な発表を行う予定です。これにより、両国は固い絆で結ばれ、平和は恒久的なものとなることでしょう。ご期待下さい」


そして、シルクがグラスを掲げて、


「では、両国の友好と皆様のご健勝を願って、乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


シルクが俺のグラスに自分のグラスを当てて、小声で囁く。


「イツキ君も乞うご期待だよっ」


『重大な発表』の件だよね?


元の世界でも講和条約や平和条約を結んでそれでよしとはしない。

付随して修好通商条約や相互援助条約を結んだりする。

その事を言っているのか。

それとも軍事同盟でも組む?




シルクは来賓と楽しそうに話をしている。

来賓は誰もがシルクに友好的だ。

この場には魔族を嫌悪する者はいないようだ。

来賓の種族も様々。

アナトリア王国は、亜人だけでなく魔族も普通に暮らしている。

アナトリア王国は聖皇国みたいな人間至上主義ではないから敷居も低いのだろう。


白亜は…………周りに居るの、軍人ばっかじゃねえか。

白亜は、テーブルの上に胡坐(あぐら)をかいて膝を叩いて若い士官達と盛り上がっていた。

白亜さん、スカート短いんだから。見えちゃったらどうすんの?

それにテーブルの上で胡坐(あぐら)は行儀が悪いよ。

綺麗に着飾っていても、所詮は武人か?


いや、ガキなんだ。

ガキ大将が子分を従えている構図にしか見えないし。


そう考えた瞬間、空のグラスが物凄い勢いで飛んで来た。

白亜がノールックで放ってきたグラス。

顔目掛けて飛んで来たグラスを軽く左手で受け止める。


俺の考えはお見通しってか?


俺はツカツカと白亜のいる場所に行くと、白亜の両脇に手を突っ込んでテーブルから降ろし、その頭に拳骨を落としてやった。


「ふぎゃっ! 何をするのじゃ!?」

「女の子がはしたない恰好をするんじゃありません!」


恨みがましい目で睨んでくる白亜を放置して、裏庭に面したテラスに出る。

会場の中の喧噪に比べて、ここはとても静かだ。

やっぱ、俺には華やかな場は向いてないな。

静かな方が落ち着くよ。


俺はテラスの手摺にもたれ掛かって裏庭を眺める。

もう日が暮れて真っ暗なので裏庭の様子はよくわからなかった。

仕方ないので空を見上げる。

ネヴィル村の自宅テラスから見上げた空と違い、あまり星が見えない。

早く家に帰りたいよ。



「主賓の一人がこんなところで何をしているんです?」


背後から掛けられた声に振り向くと、すぐ近くに長身の女性が立っていた。


マッシュショートボブウルフカットの真っ白な髪をし、右目を隠すように顔の右中より上は完全に髪に隠れ、漆黒の左目だけが髪の間から覗く、ベージュのパンツスーツの男装の麗人。歳は20代後半といったところか?


ここには誰も居なかったはずなんだけどなあ。

俺の[気配察知]もそう告げていたし。


でも、来賓にこんな人居たっけ?

挨拶を忘れて素通りしたのかな?

だとすれば、失礼なことをしたな。


「その…………すいません。さっき挨拶を忘れていたみたいですね。俺は――――」

「《SS》冒険者のサイガイツキさんでしょう?」


俺の会話を遮った彼女。


「今日は確認に来たのですよ」


確認?


「リベラーテ」


彼女が何か囁いた瞬間、俺の[容姿変換]が解けたのがわかった。


「黒い髪に黒い瞳とその容貌…………別人だとわかっていても実際に目の当たりにすると驚きを禁じ得ませんね」


今、何をした?


「中身はどうなんでしょうか?」


一瞬で間合いに踏み込まれた。


次の瞬間、刀の切っ先が襲ってきた。


突き!?


横に避けた。


えっ!?


真っすぐなはずの刀が大きく横に(しな)ったように見えた。

切っ先が俺を追尾する。


そのまま後ろに身を引く。

今度は、刀が伸びたように見えた。


俺は眼前に迫る切っ先を異空間から引き抜いたナーゲルリングの腹で受け止めた。


3度の突きを浴びせられた。

だが、彼女が踏み込んだのはたったの一歩。



シルクに流し込まれた記憶にあったような気がする。

俺の記憶の断片にも。


これは…………まさか…………三段突き!?


「なるほど。わたしの必殺技をいなした立ち振る舞い。間違いなさそうですね」


困惑する俺を余所に、一人で結論付ける彼女。


「でも洋剣は頂けませんね。あなたらしくない」


俺らしくない?

どういう意味だ?


「興が醒めました」


彼女は刀を引くと異空間に刀を仕舞った。

彼女から殺気が消えたのがわかったので、俺もナーゲルリングを[無限収納]に仕舞う。


「あなたは郷に従うような人間ではないと思っていたのですが。やはり軌道修正は必要ということでしょうかね」


そう言った彼女が異空間から別の刀を取り出して俺に(ほう)ってきた。

飛んで来た刀をキャッチする。


「その刀は『白藤』。わたしの愛刀『白露』と対を成す刀。わたしが鍛えました」


紫の鞘に収まった『白藤』と言う銘の日本刀。

その白藤を鞘から抜いてみる。


凄い業物(わざもの)だ。

[鑑定]で見ても、アダマンタイトとミスリル銀の配合率が絶妙だった。時間を掛けて鍛えあげられたものであることは、一点の曇りもないその刀身を見ればわかる。

俺でもこんな刀は打てない。


「次に相見(あいまみ)える時にはその刀でお願いしますよ」


微笑みかけてくる彼女に俺は、


「なぜ俺にこの刀を?」

「ギフトです。あなたが今この時この場に居ることに喜びを禁じ得ないわたしからの。転生ボーナスとでも思って受け取って下さい」


彼女は微笑みを絶やさずにそう言った。

この微笑みもどこかで…………


「では、今日はこのあたりでお(いとま)させて頂くとしましょう。次回はその刀であなたの本気を見せて下さいね。ラテンス」


俺の姿は[容姿変換]が解かれる前の銀髪・碧眼に戻ると同時に、彼女が俺の前から消えた。

文字通り消え去った。


きつねにでも化かされたのか?


いや、俺の手元には白藤が残されている。



何処からともなく現れ、何処と知れず消え去った女性。

一度刃を交えただけで解る。

剣の腕は互角以上。


それにあの技。

どこで会得した?

あの使い手に心当たりはあるが、まさか…………ね。


何もかもが謎の女性。


確認?

中身?

転生ボーナス?


彼女の言うことは一々意味深だった。

最期の方で彼女が言った『今この時この場に』というのも、『今の時代のエーデルフェルトに』を意味するのだろう。


あちゃ~。そう言えば名前訊き忘れてたよ。



結局、俺が謎の女性と会っているうちにレセプションは終わりを迎えた。

後で、シルクと白亜の二人から、『どこで油を売っていたのか』と責められた。


謎の女性のことは二人には黙っておいた。



◆ ◆ ◆


「暫く姿が見えなかったけど、どこに行っていたのかしら?」

ここは多目的巡航艦くらま艦内のヒルデガルドの自室。

バスローブに身を包んでシャワールームから出て来たクレハに、ベッドに腰かけたヒルデガルドが尋ねる。


「彼に会ってきました」


アルカイックスマイルのクレハの感情は読み取り難い。

ただ今日のクレハは嬉しそうに見えた。


「そんなにあの男が気になる?」

「嫉妬ですか? 可愛らしい人だ」

「嫉妬なんかじゃ――――」


クレハは抗議の声を上げようとするヒルデガルドの口を自らの口で塞ぐ。


「んっ!」


クレハはそのままヒルデガルドを優しくベッドに横たえた。


灯を消した部屋の中、漏れた月灯(つきあかり)に照らされた二人のシルエットがひとつになる。


やがて、防音が施された部屋の中からヒルデガルドの激しく喘ぐ声が漏れ聞こえ始めるのだった。




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