006 無勢の志士側が取る戦術
「待ち伏せか!」
真夜中の都大路で俺達は壬生狼の隊士達に取り囲まれていた。
「師匠! ここは俺に任せてくれ! 血路を開く!」
声掛けした相手は、御蔭泰三。御蔭流実践剣術の師範代。泰三さんの父上が御蔭流実践剣術の師匠で、俺は御蔭流実践剣術免許皆伝なんだが、俺にとっては幼い頃から剣を教えてくれた泰三さんこそが師匠だ。だから、俺は彼を師匠と呼んでいる。ちなみに本当の師匠は大師匠と呼んでいる。
じりじりと狭まる包囲網を横目に、俺は一旦、刀を鞘に収めると、
「円舞二式!」
と叫ぶと同時に居合の要領で刀を抜き放ち、左足を軸に高速で刃の円舞を舞う。
壬生狼の隊士達が次々と円舞に巻き込まれ、倒されていく。
退路が開き、仲間達が撤退を始める。
仲間達が辻の先に消えた。
彼らはもう大丈夫だ。
しんがりは俺。
俺も撤退を始める。
早駆けで辻を曲がる。振り向きざま、辻を曲がってきた隊士を一閃。
更に次の辻を曲がる。振り向きざま、辻を曲がってきた隊士を一閃。
これの繰り返し。
追い縋って来る壬生狼を一人一人倒していく。
剣客に足の速さは必須だ。その足を生かして敵をばらけさせ、都度、一人ずつ敵を減らしていく。壬生狼や見回組は多勢で、もたもたしていれば応援を呼ばれてしまうし、体力も持たない。だから、無勢の志士側が取る戦術はこれしか無い。
途中で数を数えるのを止めるくらい辻を曲がった頃、追手はいなくなった。どうやら、振り切れたようだ。
あらかじめ打ち合わせていた集結場所に向かう。
都の西の廃寺。
そこに仲間達がいた。
師匠が俺に気付くと、こちらに歩み寄りながら声を掛けてくる。
「無事か、皐月。」
「師匠も無事だったようですね。」
「隊長と呼べ。普段から言ってるだろうが。」
頭に拳骨を食らった。
「ははは、慣れないもんで・・・」
俺は、にへら、と笑って答える。
「他の仲間達も無事だったようですね。」
「ああ、今回もおまえのおかげでな。いつも助かってる。褒美に今度また祇園に連れてってやるよ。」
「え~っ、またですか? 俺、苦手なんですよ、ああいうとこ。ド派手なお姐さんも苦手。」
15になったばかりの俺には色街はちょっとねえ。
「そういうところがガキなんだよ、おまえは。」
「へえへえ、俺はガキですよ。穢れ切った誰かと違って————」
「一言多いんだよ。」
言い終わる前に拳骨を食らう。
それを見て、周りの仲間達が笑っていた。