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058 セレスティアには誓わないよ

翌日、朝になっても白亜は目を覚まさなかった。

よっぽど疲れてたんだろうな。

俺は白亜のベッドの横で魔法大全を読んで過ごすことにした。


昼になる頃、ふと視線を感じて本から目を転じると、白亜がベッドからジッと俺を見ていた。

鼻まで上掛けで隠して、ルビーのような瞳で。


くっそ可愛いなあ、おい!


「目、覚めたか?」


白亜は何も言わない。

ああ、昨日の俺のアレか。


「昨日も言ったが、白亜は俺の嫁じゃなくて妹だから」

「でも、族長に『俺の嫁』って言った」

「そうしないと、おまえ、ラファールの物になってたんだぞ」

「でも『俺の嫁』って言った」

「だから、あれは緊急避難的なもので――――」

「『俺の嫁』って言った」


目をウルウルさせている。

あー、もうっ!


「わかったよ。もし、白亜に貰い手が無かったら俺が嫁に貰ってやるよ」

「ほんとうかぇ?」

「本当だよ。インディアン嘘つかないよ」

「インディアンは嘘つかないが、兄者は嘘つくじゃろ? だって、兄者はインディアンじゃないし」

「あ―もう。じゃあ、創造神に誓うよ」


セレスティアには誓わないよ。

駄女神には嘘ついて逃げたし。


「創造神?」

「ああ、創造神だ。女神より上位の」

「絶対じゃよ」


ジッと透き通る瞳で俺の顔を伺って来る。

ヤバい。

顔が熱くなってきたぞ。

俺は白亜に背を向けて、


「ああ、創造神に誓おう。もし、白亜に貰い手が無かったら俺の嫁にするってね」

「誓うのじゃな?」

「ああ」

言質(げんち)は取ったぞ」

「男に二言は無い」

「わ~い!」


白亜が俺の背中に抱き着いて来た。


「アハッ! イツキ! イツキ! イツキ~!」

「おい、『兄者』じゃないのか?」

「もう、妾はどこへも行かぬ。他の貰い手は全部拒否じゃ。遅かれ早かれイツキは妾を嫁に貰うしかないのじゃよ。だから、嫁確定じゃな。嫁なら『兄者』は変じゃろ? だから、『イツキ』と呼ぶのじゃ。それとも『あなた』の方がよいかの?」


『イツキ』なら言い訳がつくが、『あなた』はマズい。

訊いたヤツらが、『こんな子供を妻にするなんて信じられない!』って俺のことを白い目で見るに違いない。


「…………『イツキ』でいい。」


押し切られてしまった。

でも、俺は諦めないよ。

義理とはいえ妹を嫁にするなんて、俺倫理が許さない。

昨日も思ったんだが、俺にも越えちゃあならない一線ってのがあるんだよ。


それにしても…………


「おい、白亜! 下着姿で俺に抱き着くんじゃない!」


白亜はキャミソール1枚だ。

嗚呼、背中に当たるモノが…………とっても残念。

やっぱり、大人のお姉さんが…………ナイスバディな大人のお姉さんが…………いいなあ。

と、ギュッと首が絞まる。


「のお、イツキ。妾にはイツキが考えておることが手に取るように解るぞ。だが、あえて訊こう。何を考えておるか言うてみよ」


俺の首が更に絞まる。

くっ、苦しい。


「白亜さんがとても素敵な女性だと――――」

「本当のことを言うのじゃ。嘘をつくともっと首が絞まるぞ」

「白亜さんのお胸はとっても慎ましやか」

「ん? イツキ、妾にはよく訊こえなんだが?」

「どうせ当たるならナイスバディな大人のお姉さんの方が…………ぐえ~首が絞まる! ロープ!! ロープ!!」


虚空にロープを掴むジェスチュアをする。

白亜が離れてくれた。


「本当のことを言ったのに首を絞めるなんて…………酷い」


そんな俺に対して、白亜が腰に手を当てて大見得を切った。


「今に見ておれ。あと数年後までにナイスバディな大人のお姉さんになってやるのじゃ。イツキ。その時になって吠え面をかくなよ」


ブラも付けないでキャミソールだけ羽織った状態で姿で大見得を切られてもねえ。

パンツ見えてるし…………

大志を抱くのは大いに結構なことだが、たぶん無理だから。

君は平安女性なんだから、現代の女性みたいには絶対になれないんだよ。

その時になって吠え面をかくのは君の方だよ、白亜さん。




翌日、いよいよ、出発の日。

コルカタの俺達は北ゲートに向かっていた。

見送りに来てくれたのは、シルスキーさんとカララギの人達。


北ゲートに辿り着くと、広場に銅像が立っていた。

シルスキーさんに訊いてみる。


「あれは何ですか?」

「ああ、あれは1000年前の勇者一行の銅像です」


勇者一行は4人。

剣を腰に付けた若者、杖を持った女魔導士、ワンドを持った女神官、大剣を背負った剣士。


「聖皇国では撤去されましたが、ここアナトリア王国には各所に残っています」

「右から勇者サイガサツキ、大魔法使いシルク、特級神官セリア枢機卿、それと性豪の――――」

「剣豪のミカゲタイゾーよ。だめよ、白亜ちゃん。フフフ、まあ、性豪だったってのも確かなんだけど」


リミアさんの修正が入る。


う~ん。

勇者以外はな~んか見覚えがあるんだよね。

まあ、1000年も前の異世界の人間なんか知る訳無いんだから、デジャブってやつかな。


それにしても、あの神官、セレスティアを思い出させるよな。


「イツキさん! 何してるんですか!」

「へっ?」


リンシャさんの制止する声で我に返る俺。

俺は無意識に神官像目掛けて石を投げようとしていたのか?


「あ、いや、あの神官、知り合いのむかつくヤツに似てたんで、つい…………」


危ない、危ない。

この国では勇者一行は尊敬対象。

石なんか投げたら、国賊扱いになってしまうところだった。

これも全部セレスティアが悪い。

そうだ、そうだ、そうに決まった。


そのリンシャさんが、勇者像を見て呟く。


「なんか、イツキさんて勇者様に似てますよね。名前もほとんど同じだし」

「え? そうですか?」


俺にはよくわからない。

普段から自分の姿なんかよく見ないからだ。ザッと見だよ。ザッと見。

鏡に映してマジマジ見たのだって、[大人の女性になる薬]を飲まされた時くらいだ。


「リンシャよ。イツキと勇者は似たような語音(ごいん)だが字は違うぞ。」


白亜がそう言って紙に書く。


「イツキを文字にすると『斎賀五月』、勇者を文字にすると『雑賀皐月』になる」

「異国の文字はよくわからないんですが、よく見ると家名が違いますねえ。じゃあ、イツキさんが勇者の子孫って線も無いんだ」


納得顔のリンシャさん。


勇者はどこかの世界から召喚された者だ。

勇者が元居た世界の親族からすれば、謂わば行方不明者。

俺も爺や親から行方不明になった先祖がいたなんて訊いたことがない。


「世の中には自分とよく似た者が3人は居るって言いますよ。他人の空似でしょう」


と言いつつも、最近、勇者の記憶かもしれない夢、見てるんだよなあ。

何なんだ、あれは?


ふと視線を感じて目をやると、白亜がジッと俺を見ていた。


「ん? どうした?」

「別に」


言いたいことがあるなら言えよ。

モヤるだろうが。




北ゲートでいよいよみんなとはお別れだ。


「ではよろしくお願いします」

「サハニ氏への封書ですね」

「くれぐれも――――」

「8月15日にですね」


そう言うとシルスキーさんが噴き出した

俺も釣られて笑ってしまった。

子供みたいな辺境警備隊長オマル・サハニ。

どんな人物なんだろう。

ちょっと興味が湧いた。


「王都に来た時には冒険者ギルド王都支部に顔を出してくれ。俺達はいつもそこで(たむろ)っているから」

「ついでに家庭料理も振舞うわよ」

「ええ、王都に行くことがあれば必ず」


オルガさんとリミアさんと挨拶を交わす。


「白亜ちゃん。王都でまたショッピングしましょ。また、似合うの選んであげる。」

「うむ。楽しみにしておくのじゃ」


ルリアさんと白亜が挨拶を交わしている。

そこにリンシャさんがつつつっとやって来て、白亜に耳打ちする。


「ねえ、白亜ちゃん。イツキさんのこといつから『イツキ』って呼ぶようになったの?」

「妾が正式にイツキの嫁候補になってからじゃよ」

「え~~~~。白亜ちゃんってイツキさんの妹でしょ?」

「義理のな」

「義理ならいいのかあ。でも、背徳的。(はかど)るわね~」

「背徳的って言うな。妾もなんか後ろめたくなってきたわ」


何を言ってるのか訊こえないな。


「お~い、白亜。そろそろ出発するぞ」

「ひゃい!」


白亜が飛び上るように反応して、トコトコとやって来ると借りて来た猫のようにジープの助手席に座った。


「じゃあ、また!」

「じゃあ、また!」


挨拶を終えてジープを走らせる。

遠ざかる北ゲートでいつまでも手を振る彼等がサイドミラーに写っていた。



さあ、これから4日間で砂漠を踏破し、更に荒野を飛ばして15日。

今日は7月2日。

何事も無ければ、北部辺境のネヴィル村には7月21日には着くだろう。

まあ、何事も無ければなんだけどね。

何事も無いと…………いいなあ。




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