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052 辺境へ

今日は十字星(クロスター)を見送る日。

ここは、ホバートの西ゲートの前。


「イツキ君、世話になった。それから、イツキ君、白亜さん、《SS》ランク昇格、おめでとう。」


デュークさんに別れの挨拶と昇格の祝福を受けた。


結果として、俺と白亜は《SS》ランクに昇格した。

《S》ランクを飛び越えての昇格だった。


一方のデュークさんは《SS》ランク昇格を辞退した。

まだまだ、力不足だから、という理由で。


「俺も《S》ランクは目指していましたが、《SS》ランクは予想外ですよ。」

「いや、君なら《SS》ランクは当然だよ。白亜さんもね。俺達のパーティーではとても太刀打ちできない相手だった。それに、俺達が倒したコカトリスだって、君の観察力と的確な指示あってのことだ。誇っていいんだ。」


これ以上、謙遜するのはデュークさんに失礼だろう。

俺は素直に称賛を受け取ることにした。


「白亜様とお別れするのは辛いです。僕も白銀の翼(シルバーウイング)に移籍したいです。」


おいおい。


「ガゼルよ。そう言ってくれるのはありがたいが、(いささ)か仲間に失礼であろう。お主の力は十字星(クロスター)にとって、無くてはならないものじゃ。妾はお主が十字星(クロスター)で己の力を磨くことを祈っておるぞ。」

「ありがたきお言葉。このガゼル、己を磨き、白亜様と同じ《SS》ランクを目指したいと思います。」

「『弱きを助け、強きを挫く』の精神、くれぐれも忘れるでないぞ。」

「ははっ。」


もう、主従関係だな、これ。


「今度は王都に来てくれよな、イツキ。」

「ああ、機会があれば伺わせて貰うよ。」

「絶対ですよ。絶対ですよ。師匠!」


トアだけでなく、ナナミさんにも念を押された。

もう、ナナミさんの中で俺は師匠確定らしい。

困ったね。


サリナさんが白亜と何かを目で交わすと、俺の前に来て俺の手を握って、


「ねえ、イツキ。時間ができた時でいい。王都に来て、国王陛下に会って欲しい。」

「えっ? そんな偉い人と会うの、嫌ですよ。」

「そう言わずにお願い! これはとても大事なことなの!」


サリナさんの必死の頼み。

これは承諾しないと手を放してくれなさそうだ。

白亜を見る。

白亜が真剣な表情で黙って首肯した。


「わかりました。王都に出向いた折には、必ず国王陛下と謁見させて頂きます。」


そう約束した。

約束してしまった。

だって、仕方ないじゃないか。

そうしないと、サリナさんが手を放してくれないから。

十字星(クロスター)がいつまでも出発できないから。


それを訊いたサリナさんがホッとした表情で手を放してくれた。



今度こそ、お別れだ。


「じゃあ、イツキ君、白亜さん。」

「イツキ。また、会おうなー。」

「イツキ君、白亜様、ご健勝をお祈りしています。」

「師匠~~っ。王都に来るの、待ってますからね~。」

「イツキっ、必ず王都に来るのよー! 白亜ちゃんも頑張ってー。」


十字星(クロスター)の乗った馬車が遠ざかっていく。


エーデルフェルトに来て、同い年の友達と弟子と尊敬できる先輩方ができた。


「さて、俺達も準備するか。」


そう言って、俺達は北ゲートに向かった。




北ゲートではアインズ支部長とアイシャさんが待っていた。


「イツキ君、白亜ちゃん。おめでとう。」


俺達はアイシャさんから新しい冒険者カードを受け取った。

ブラックカード。

《SS》ランク冒険者の証。


《AAA》ランクの冒険者カードをギルドに預けて、そのままになっていたな。

危ない、危ない。

〖制限区域〗に立ち入るには、《S》ランク以上の冒険者カード必携だ。

無許可、もしくは不携帯で立ち入れば、待っているのは禁固10年の刑。


アインズ支部長が訊いてくる。


「このまま、〖制限区域〗に行くのか?」

「ええ。北の国境沿いの辺境に家を構える予定です。」

「どこがいいんだか・・・」

「『スローライフ』の為ですよ。」

「このまま、冒険者稼業は引退か?」

「いえいえ、向こうに行ったら、ここまでは転移魔法で直ぐですよ。」

「そうか、ならいい。でも、北国境までめちゃくちゃ遠いぞ。大丈夫か?」

「そこは俺の錬金術で。」


俺は[無限収納]から、あるものを取り出す。


「何だ、そりゃあ?」


一見、元居た世界のオープンタイプの4輪駆動車。

30枚の羽を取り付けた円盤を風属性魔法で回転させる箱に回転力を可変にするギヤボックスを取り付け、ギヤボックスと並列接続されたトランスファギヤから前後に回転するシャフトを介して前後の差動制限ギヤに回転力を伝え、そこで左右に90度回転力の向きを変えた駆動軸で車輪を駆動する。

回転数の調整はアクセルペダルによる魔力の強弱により行う。

各駆動軸には左右にディスクブレーキも取り付けてある。いわゆるオンボ-ドディスクというものだ。他にはシャフトに自己拡張式のドラム式のセンターブレーキも配している。

もちろんタイトコーナーブレーキング現象が生じないようにトランスファギヤには差動制限ギヤも組み込んでいる。見た目は戦争映画に出て来るパートタイム4WDのジープだが、中身はフルタイム4WDだ。

色はサンドイエロー。荷台にはM2機関銃に似せた土属性魔法[ストーンガトリング]を仕込んだ魔道具を載せた銃座が設置してある。

昔見た『■ット・パトロール』でト▲イ軍曹が乗っていたジープ。


「移動用の魔道具ですよ。」

「相変わらず、おかしなものを作るなあ、おまえは。」

「普通の馬車より3倍以上速く移動できるアーティファクトですよ。」

「で、その恰好は?」

「まあ、シチュエーションに合わせて。」


俺自身も◆ロイ軍曹と同じ片側を織り上げたテンガロン・ハットを被っている。

まあ、賢者が被るに似つかわしくない帽子なんだけどね。

服も合わせて作ったよ。

アフリカ戦線の米兵みたいなヤツ。襟と左腕の階級章も軍曹だ。


「なんだか、おまえには驚かされっ放しだよ。」


俺はジープの左側の席に座り、白亜が右側の席に乗り込む。

左ハンドル仕様。舞台考証は忠実にね。


「白亜ちゃん、くれぐれも身体に気を付けてね。」

「アイシャも達者でな。」


白亜とアイシャさんが別れの言葉を交わしたのを合図にジープを発進させる。


「じゃあ、アインズ支部長、アイシャさん。暫しのお別れです。」

「気を付けて行けよ――――!」

「イツキ君! 白亜ちゃんをお願いね―――!」


俺は二人に軍隊式の敬礼をすると、ジープを走らせた。

サイドミラーを見ると、ホバートの北ゲートが小さくなっていた。

時速50km/hは出てるからなあ。


「じゃあ、辺境へ。北部国境に向かい、そこで辺境警備隊長のオマル・サハニさんに会おう。」

「兄者の目指す『すろーらいふ』はもうすぐということかぇ?」

「ああ、そこに家を設置して、のんびり穏やかな『スローライフ』だ。」

「そうか。これからは兄者と二人きりじゃが、寂しくはないかの?」

「何を言ってるんだ? 俺には白亜が居ればそれだけで充分だよ。」


白亜が花を咲かせるように笑った。


「白亜、これからもよろしくな。」

「うむ。兄者が天寿を全うするまでずっと一緒に居てやるのじゃ。妾が兄者の最期を看取ってしんぜよう。」

「それはそれでお兄ちゃんは心配だよ。」

「大きなお世話じゃ。兄者は『すろーらいふ』のことだけ考えておればよいのじゃ。」


前を見ながら、白亜がそう言った。


1週間前、サリナさんと出掛けて帰って来て以来、白亜は人前で俺に甘えなくなった。

昼間は俺と別行動するようになり、冒険者ギルドで新人冒険者相手に剣術指南の日々を送っていた。教え方も上手で新人冒険者達からの評判もいいようだ。剣術指南の無い日は自己鍛錬に励んでいたらしい。

白亜が俺に依存することがなくなり、自立したのはいい傾向だ。

でも、何が白亜を変えたのだろうか?

俺には思い当たる節が無い。


お兄ちゃん、ちょっと寂しいよ。


まあ、これから辺境までは気ままな二人旅だ。

辿り着く先は、俺待望のスローライフ。


本当にあの時、女神から逃亡して良かった。

家族を得て、仲間を得て、協力者も得た。

俺の選択は間違っていなかったのだ。




拝啓 創造神様


はじめまして、斎賀五月(さいがいつき)です。

[スイッチ]なんて超絶便利なスキルをプレゼントして頂きまして、本当にありがとうございます。俺は女神セレスティアのせいで異世界に勇者として召喚されたのですが、不本意なので女神から逃亡してやりました。うまく逃げ(おお)せたのはこのスキルがあったが故です。

もしかして、狙ってました? 狙ってましたよね?

俺が逃げ出すって予想してましたよね?

創造神様もお人が悪い。

でも、俺はこの与えられたチャンスを生かしますよ。

だから、俺はここに宣言します。

俺はこれからこの地で、自由気ままなスローライフを送ってやろうと思います。

では、いずれまた。

乱筆乱文、ご容赦下さい。

                                           敬具



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