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051 ホバートの休日

残すところあと1週間で、十字星(クロスター)が王都に帰る。

今日は日曜日。

ホバートの休日だ。


俺はトアとナナミを伴って、いつもの工房に顔を出した。


「おやっさん、ちょっといいかい?」


工房の奥から高齢のドワーフが顔をだした。

日曜日でもドワーフは勤勉だ。

工房が休みでなくてよかった。


「なんだ、イツキか。いつもの嬢ちゃんは?」

「白亜はどっかに出掛けたよ。」


ラザルさんには俺と白亜がセットだと思われているらしい。

が、今日の白亜は別行動だからここにはいない。


「で、お連れさんは誰だい?」

「ああ、こっちはスナイパーのトア、隣は神官兼錬金術師のナナミさん。」

「トアです。よろしく。」

「ナナミです。お世話になります。」

「で、今日は何の用だね?」

「工房を借りたいんだ。」

「まったく、久しぶりに顔をだしたと思ったら、いきなりそれかよ。」


あきれる爺さんに説明する。


「実は王都に帰るトアに新しい射筒を、ナナミさんに宝具を作ってあげようかと思ってね。」

「まあ、好きにするがいいさ。もちろん、わしにも見せてくれるんじゃろう?」

「ご自由にどうぞ。」


俺はこれからオーパツを作ろうとしているのかもしれない。

何故なら、それらはここエーデルフェルトにとってオーバーテクノロジーだから。

それらによって、エーデルフェルトの文明が異常発達し、生活や戦いのやり方が変わってしまうかもしれない。

でも、便利なものは便利なものだ。

俺はそんなことは気にしないよ。


俺は早速、工作に取り掛かる。

まずは、トアにプレゼントするものからだ。


トアの持っている射筒はただの筒だ。元の世界の元寇で元の兵隊が持っていた鉄砲の原型のようなもの。

そして俺が作ろうとしているのは狙撃銃だ。


参考にしたのはドラグノフ狙撃銃(SVD)。

旧ソ連の狙撃銃で狙撃用光学照準器が装備されており、悪天候の中でも、夜間でも、同様の効果を発揮することができる。弾も一発一発手動で弾込めするものではなく、10発入りのマガジンを下部に装着する。長期的な酷使を前提として作られたために部品数は少なく、頑丈で信頼性が高い。


俺は錬金術を行使して、限りなくドラグノフ狙撃銃に似せて銃を錬成する。

使う金属はミスリル銀とアダマンタイトと鉄を10:20:70の比で混ぜ合わせた合金。


元の世界で考古学者の父について紛争地帯に行った時の経験がこんなところで生きるとはね。手先の器用な俺は興味本位からだが、護衛の政府軍兵士の銃をよく分解整備してあげていた。ドラグノフも分解したことがあるから構造は手に取るようにわかる。


動力は本来はガスなんだが、ここでは風魔法付与でいいか。

金属弾も発射するからライフリングも忘れないように。

やがて、魔力狙撃銃本体ができた。

次はマガジンだ。


トアの魔法属性は、火と水と風と土だ。

強化したマガジンのひとつに火炎弾10発分の火属性魔法を付与する。

別のマガジンに冷却魔法を追付与し氷弾10発分の氷属性魔法を付与する。

また別のマガジンに、アダマンタイト製の弾を10発セットする。


いくつかのマガジンを同様に作り、その作り方を逐一、ナナミさんに説明する。

俺がいなくてもナナミさんがトアの弾丸を補給し、狙撃銃をメンテナンスできるようにするためだ。


最後に、照準器を作る。

ダンジョンで手に入れた水晶から作ったレンズを組込み、暗視機能として光属性魔法を付与する。


やがて、ドラグノフ狙撃銃のエーデルフェルト版ができた。


「ほら、トア、餞別だ。」

「すげー。マジか? 惚れ惚れするくらい機能美が具現化したような射筒だな。」

「射筒じゃない。狙撃銃と言うアーティファクトだ。名はドラグノフ。」


名前、そのまんまだな。


「狙撃銃! ドラグノフ! これ、本当に貰っていいのか?」

「ああ、後で試し撃ちに行こう。」

「ありがとう! 恩に着るぜ、イツキ!」


感激しているトアを他所に、こんどはナナミさんに渡す宝具の制作に移る。

錬金術師のナナミさんには、3Dプリンタがいいだろう。


脳内イメージを投射して、その投射したものを作る道具。

もちろん、既存の物を取り込むスキャン機能も忘れずに。


やがて、エーデルフェルト版3Dプリンタができた。


「はい、ナナミさん。」


ナナミさんにエーデルフェルト版3Dプリンタを手渡す。


「えっ? これ何ですか?」

「錬金術のお供。その名も『アルケミー君』~~~!」

「これ、頂けるのですか?」

「はい、差し上げます。これで錬金術での制作作業が楽になりますよ。」

「ありがとうございます! こんな凄いものを頂けるなんて!」

「使い方は自動音声に従うだけだから簡単ですよ。ちなみに、魔法大全の内容は理解できましたか?」

「ええ、理論は全て暗記しました。後は試してみるだけなのです。」

「じゃあ、実際にやってみますか?」


すると、ナナミさんが躊躇(ちゅうちょ)しながら尋ねてきた。


「その前に一言いいですか?」

「何です?」

「イツキさんのネーミングセンス、最低なのです。」


ぐっ。悪かったな。

本当に余計な『一言』だったよ。




俺は工房を出て、トアとナナミさんを連れて城壁の外に出た。

俺が白亜といろいろな実験や訓練を行う、いつもの場所。


そこで、トアに射撃の練習をさせ、ナナミさんにも魔法指導を行う。



夕方になる頃には、トアも狙撃銃に慣れ、ナナミさんの魔法も様になってきた。


「イツキさん! 師匠とお呼びしてもいいですか!?」


ナナミさんから師匠認定されてしまった。



◆ ◆ ◆


その日の午前中に遡る。

白亜はサリナと街に繰り出していた。


あちこち、店を見て歩く。

女性らしく、ファッションのお店では試着も欠かさない。

ホバートのファッションは王都より進んでいるらしい。


「白亜ちゃん、かわいいっ!」


白亜はサリナに言われるままに試着させられ、そのいくつかを買って貰った。



様々な店を渡り歩いて、二人の両手は衣装の買い物で塞がってしまった。

そろそろお昼時。

ふたりはオープンテラスのレストランで昼食を摂ることにした。


「今日はありがとうね。」

「こちらこそ、こんなに買って貰って(かたじけな)いのじゃ。」

「白亜ちゃんはかわいいんだから、もっとお洒落しなくちゃ。」

「妾はちんちくりんで、サリナほど色気もないから。似合うかどうか・・・」

「でも。振り向いて欲しいんでしょ?」

「!」

「わかるわよ。白亜ちゃんはイツキのことが大好きなんでしょ?」

「わ、妾と兄者は兄妹じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「兄妹といっても義理でしょ。結婚だってできるわよ。」

「けっ!」

「白亜ちゃんがイツキを見る目は妹が向ける親愛の眼差しじゃない。恋する相手に向ける恋愛の眼差しよ。」

「恋あっ!」

「もうね。見ててじれったくなるのよね。」


白亜は黙り込んで(うつむ)く。

そして、絞り出すように呟いた。


「でも・・・兄者は・・・妾を妹としてしか見ておらぬのじゃ。」

「そうね。イツキは朴念仁よね。白亜ちゃんがこんなに好き好きアピールしてるのに、全然気付いてないし。」

「ううう・・・兄者のバカ。」

「あなたはイツキの一番近くにいるんだから、へこたれずにどんどんアピールしていきなさい。今のイツキはホバートの英雄なの。注目の的なの。今一番結婚したい相手No.1なのよ。うかうかしてると、他の泥棒猫に()(さら)われるわよ。」

「妾もわけのわからない奴に()(さら)われるのはイヤじゃ。サリナ。妾、頑張ってみるのじゃ。」

「その意気よ。わたしのように後悔しても始まらないんだから。」


サリナが自分に言い聞かせるように白亜を励ます。


「サリナは後悔したことがあるのかぇ?」

「もちろん、あるわよ。・・・・・・それもとびっきりのやつ。」


サリナは何かを思い出すようにそう呟いた。


「だから、白亜ちゃん、絶対に諦めてはダメよ!」


そして、白亜の目をじっと見つめると、


「白亜ちゃん。イツキの事で白亜ちゃんに言っておかなければならないことがあるの。でも、この事はイツキには決して話さないで欲しい。それでも聞く? 私の云い付けを守れる?」


白亜が黙って頷く。


「わかった。じゃあ、話すわよ。イツキはね――――」





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