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042 パーティーそれぞれの戦い方というものがある

十字星(クロスター)のメンバーには充分な休養を取って貰った。

3日後、いよいよ50階層攻略に向かう。


俺達、白銀の翼(シルバーウイング)のメンバーも3人に増えた。

重装騎士ロダンだ。


出発前に俺は家を[無限収納]に片付けた。


「もう、俺は何も驚かないよ。というか、驚くのに疲れた」


出発前なのに疲れ切った顔でトアが言った。


俺達は、50階層に続く階段を下りる。

やがて、高さ10mくらいの両開きの扉が見えて来た。


俺達が近寄ると扉が内側に自動で開いた。


「さあ、ここからが最下層だ。気を引き締めて行こう」


そう言うデュークさんが先陣を切る。

俺達が最下層に降り立つと、後ろの扉が閉じた。


さあ、攻略開始だ。




「ここの階層構造も見てみようか。マッピング。ディスティネーション。索敵」


自分達の位置を確認する。青い丸が50階層の下端に表示されている。

50階層は上端に向かって、入口のあるこの部屋を含めて順に5つの大部屋で構成されており、最上端の一番奥の部屋がボス部屋と思われる。各部屋は壁を隔てて繋がっていた。赤い丸は、この部屋以外の4つの部屋に認められた。魔物は4体か。


今居る部屋も西洋の城の大広間のようだ。


「ねえ、なんなの、その魔法?」


サリナさんが驚いている。

俺がそれぞれの魔法について説明すると、


「索敵以外の魔法は知らないわ。どこで覚えたの?」


魔法大全に載っていたと説明すると、サリナさんもナナミさんも納得したようだ。


「こんなのがあるなら、ダンジョン攻略が楽だよな。一々歩き廻って地図を作成する必要が無いし。敵の居場所もわかるし」

「まあ、使えないようにジャミングされた階層もあったから、万能って訳でもないんだけどね。それに出て来る魔物の種類なんかは事前にわからないんだ」


トアの感想に答える。


次の部屋に進む扉の前に立つ。

扉が自動でゆっくりと左右に開いていく。

中には、


「コカトリス!」


デュークさんが叫ぶ。

コカトリスか~。

バジリスクとどう違うんだろうね。

[鑑定+++]を発動。


『コカトリス

 バジリスクの進化形

 頭部は雄鶏、翼は竜、尾は蛇の頭、羽毛を持つ4本脚の巨大な怪鳥。

 雄鶏の目は見た者を石化し、その吐息を吸い込んだ相手は即死する。

 尾の蛇が吐き出す毒はバジリスクをも超える危険な致死毒である。

 ハジリスクには接触する武器を使用してはならない。

 接触した途端、武器を伝って送り込まれた毒で死に至るからである。

 なお、視線による石化は一定以内の間合いに入らない限り有効とならない。

 弱点は火属性。

 脳が1つしかない為、頭と尾への同時攻撃には対応できない。』



「ここは俺達、十字星(クロスター)に任せてくれ」


デュークさんがそう言うと、十字星(クロスター)のメンバーが臨戦態勢を取った。


戦闘は、十字星(クロスター)の5人に任せた。

お手並み拝見だ。


「コカトリスとの対戦経験は?」


近くに居たナナミさんに訊く。


「ありません。昔話で読んだだけです」


ナナミさんがメンバー全員に毒耐性のバフを掛けた。

だが、近寄れない。近寄ったら石化されてしまうから。

ガゼルが後ろに廻り込んで蛇の頭を掴む。

そのまま頭を捩じ切ろうとしたが、その前に鶏の頭が振り向く。

ガゼルは掴むのを止めて飛び退いて間合いを取る。

その間にデュークさんが胴斬りをしようとしたが、刃が届く前にコカトリスが飛び上って避けた。

そこをサリナさんの[ロックキャノン]攻撃。

それも飛び退けられる。

更にサリナさんが[ファイアガトリング]で炎弾を連射する。

コカトリスが被弾するもダメージは軽微だ。


火属性に弱いはずなんだが。


「スナイプ・ウィズ・フレイムバレット」


コカトリスの間合いの外、後方の安全な位置からトアがライフルに似た射筒から火属性の魔弾で狙撃する。

これがコカトリスの頭に命中し、コカトリスが痛みに耐えかねてか着地する。

やるじゃん、トア。


さあ、十字星(クロスター)が一気に畳みかけるか、と思いきや、サリナさんの炎弾やトアの火属性の魔弾により溶かされたコカトリスの頭部欠損部位が再生した。

このコカトリス、再生能力は高いようだ。


同じような攻撃を繰り返す十字星(クロスター)

メンバーも疲れが見え始めている。


こりゃあ、千日手(せんにちて)だな。

かと言って、俺達が勝手に加勢する訳にもいかない。

俺達には俺達の、デュークさん達にはデュークさん達の、パーティーそれぞれの戦い方というものがある。

頼まれてもいない加勢をするのは、彼らのプライドを傷付けてしまうだろう。


「兄者」


白亜が俺のマントの裾を掴んで見上げて来た。


「わかってるさ。このままにするつもりはないよ。」


加勢はダメでもアドバイスはできるよね。


「ナナミさん。光属性魔法は使えますよね?」

「ええ、それが?」

「では、バーニングライトでヤツの目を潰して下さい」


それを訊いたナナミさんが俺を見て、


「ああ! そういうことですね! わかったのです!」


理解して貰えたようだ。


「それから、コカトリスが視力を失ったら、デュークさんに鶏の頭を斬り落とすように、ガゼルさんに蛇の頭を捩じ切るように、と伝えて下さい。攻撃は二人同時に行うように、とも。前後の頭を落としたら、再生できないように、サリナさんに、ヘルファイアで胴体もろとも焼き尽くすように、と伝えて下さい」


俺のアドバイスに、


「ありがとうございます! これでなんとかなりそうなのです!」


ナナミさんがメンバーに伝えると、デュークさんが俺の方を見て頷いてくれた。


「バーニングライト!」


ナナミさんの目を焼く光属性魔法で視界を奪われたコカトリスの首をデュークさんが斬り落とし、ほぼ同時にガゼルが尾の蛇の頭を掴んで捩じ切る。

デュークさんとガゼルが飛び退いた瞬間、


「ヘルファイア!」


サリナさんの放った地獄の業火にコカトリスは再生叶わず焼き尽くされた。


討伐完了。

お互いの無事を確かめ合う十字星(クロスター)のメンバー。

本当に仲のいいパーティーなんだなあ。


「人間というのはこうして協力し合うものなのか?」

「そうだね。そういう魔族は協力し合わないのかい?」

「基本的に魔族は利用し合うことはあっても協力し合うことはないな。利害関係か上下関係でしか繋がっておらぬ。特に主戦派の連中はな」


俺がロダンと話していると、デュークさんがやって来た。


「お疲れ様です」

「任せろ、と言いながら、みっともないところを見せてしまったね」

「コカトリスは初めてだ、ってナナミさんに訊きました。仕方ないですよ」

「でも、君のアドバイスが役に立った。感謝する」


デュークさんが頭を下げた。


「頭を上げて下さい。そんなつもりでアドバイスしたんじゃないです。俺には鑑定スキルがあったからできたことですよ。それだけです」

「鑑定スキルで? 高位の魔物には鑑定は通用しないはずなんだが…………君にはコカトリスの鑑定ができたのか?」

「まあ…………その…………はい」

「イツキ君、君は一体――――」

「それ以上は個人情報なんで」


う~ん。

俺が普通にできることが他の人にはできない?




次の間に進む扉の前に立つ。

また、扉が自動で今度は上にせり上がっていった。


中にはフェンリルが居た。

真っ白い毛並みが美しい。

でも、侮ってはいけない。

高位の魔法を行使する魔獣だから。


「今度は、俺に任せて下さい」


デュークさんにそう言うと一歩前に出る。


「ウォーーン!」


雄叫びと同時に10m以上の巨体がこちらに狙いを定めて襲い掛かってきた。


「ハンドオブダークネス」


襲撃を避けると同時に闇属性魔法を行使して、床から湧き出す無数の闇の手でフェンリルの体を拘束する。


「パラライズ。エナジードレイン。マナドレイン」


麻痺させ、HPとMPを奪う。


「クゥ~ン」


フェンリルは戦意喪失して大人しくなった。

俺は拘束魔法と麻痺魔法を解くとフェンリルに近づいて、


「俺の使い魔になるなら、命は助けてやる。どうする?」


フェンリルがお腹を見せた。

魔物と言っても所詮は犬。

服従のポーズ。

使い魔になってくれるようだ。


「我、ここにフェンリルと使い魔契約を結ぶ。コントラクト」


フェンリルを囲むように橙色の魔法陣が現れ、やがて緑色に変わると消えた。


名前を付けなければならないな。


「白亜。名前をつけようと思うんだが」

「妾と同じく真っ白じゃのぉ。ならば…………『白夜(びゃくや)』ではどうじゃろう?」

「いいね。じゃあ、おまえは今日から白夜(びゃくや)だ」


「ウォン!」


と吠えた白夜(びゃくや)が尻尾を振った。

気に入ってくれたようだ。


「俺はイツキ。おまえの名前を考えてくれたのは義妹の白亜だ」


そして、俺の後ろに控えた甲冑騎士を指差して、


「彼はおまえと同じ使い魔の重装騎士ロダン」

「よろしく頼むぞ、相棒」


白亜が白夜(びゃくや)(すが)りついてモフモフに頬ずりしている。


「のぉ、兄者。白夜(びゃくや)を手元に置きたいんじゃが…………」


大きすぎる巨体を連れまわしたら、街の人達も驚くし、警備兵も飛んできそうだ。

フェンリルは魔法が行使できる魔獣だから体の大きさくらい変えられるだろうと思って訊いてみる。


「なあ、白夜(びゃくや)。体を小さくできるか?」


「ウォン!」


そう吠えると白夜(びゃくや)の体が子犬サイズになった。


「かわいいのじゃ。モフモフなのじゃ。もう離さないのじゃ」


白亜が白夜(びゃくや)を持ち上げて抱き締めた。


俺は、また1体使い魔を手に入れた。

まあ、ほとんど、白亜のペットのようなものだが。


ともあれ、俺達、白銀の翼(シルバーウイング)のメンバーに白夜(びゃくや)が加わり、3人と1匹になった。


「何なの、あれ? 《S》ランクの魔獣なのよ。それがアッという間じゃない。しかも使い魔?」

「まあ、イツキだしなあ。俺は驚かないよ」


後ろの方でサリナさんとトアが何か言ってるのが聞こえた。




更に次の部屋へ。


そこに居たのは炎竜。


「こんなの無理よ。倒せるはずないわ」


サリナさんが顔を歪める。


「ここは妾達に任せるのじゃ」


白亜とロダンが前に出る。


白夜(びゃくや)は妾の勇姿をそこで眺めておるがよいぞ」


振り返った白亜が俺の横に控える白夜(びゃくや)に優しく声を掛ける。


「ロダン。これを持って行け」


俺はロダンにロボから回収したモーニングスターを[無限収納]から取り出して渡した。

もちろん、ロダンの背丈程の大きさにシュリンクで縮小加工済み。



白亜がトマホークを構えて炎竜に突撃する。

炎竜が吐く炎を躱して飛び上がると、炎竜の右の翼を斬りつけた。


「スラッシュ・ソニック!!」


えっ? 

白亜ってば、高周波カッターの原理を会得してたの?

確かに49階層の家で十字星(クロスター)を待ってる間、物理について教えたが、それにしたって・・・

白亜が聡明なのはわかっていたが、これほどまでとは。


[スラッシュ・ソニック]で斬りつけられた炎竜の翼が飴でも切るように斬り落とされた。

これで空中戦をしなくても済むだろう。


「せいっ!」


と、反対側から飛び上がったロダンがモーニングスターを炎竜の左目に打ち下ろした。


右の翼と左目を失った炎竜は滅茶苦茶に炎を吐きまくる。


「スラッシュ・ソニック!!」

「どっせいっ!!」


白亜が炎竜の首を斬り落とすのと、ロダンが炎竜の炎を吐こうと開いた口にモーニングスターの打撃をぶち込むのがほぼ同時だった。


斬り落とされた首が行先を失った炎の爆発で粉々になった。


ズズーン!


首から上を失った炎竜が倒れ、こと切れた。


「妾の勝利じゃ!!」

「いや、我が倒したのだ!!」

「ぐぬぬぬぬ~~!」

「むむむむむ~~!」


どちらが炎竜を倒したかでいがみ合う白亜とロダン。

簡単に倒せたならどっちでもいいじゃん、と思うんだが。



「いやいやいや、ありえないでしょ! 炎竜よ! 炎竜なのよ!」

「さすがは白亜様。僕も見習わなければなりませんね」


後ろの方で、サリナさんとガゼルが話すのが聞こえた。





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