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040 家を建てよう

デュラハンのロダンに待機して貰った俺は、49階層最後の大空間でビバークすることにした。


[ロングセンス]を行使。

この階層には敵はいない。

十字星(クロスター)はまだ36階層。

彼らが追いついてくるまで、暫く掛かりそうだ。


当分の間、この場所で地下生活か。

長期滞在になりそうだな。

それまでテント暮らしというのもちょっと。


そうだ。

せっかくだから、辺境でのスローライフに備えて家を建てよう。

時間はたっぷりあるんだ。

材料も[無限収納]にいくらでもある。

後はそれを錬金術で加工するだけ。

MPも今残っている分で何とかなりそうだ。


普通は、こんなところに家を造ってどうするんだ、と思うだろうが、心配することは無い。

出来上がった家は[無限収納]に入れて、辺境に着いた時に出せばいいのだ。


早速、[無限収納]から金属、木材、繊維、結晶石を有りったけ取り出す。


俺は、家の外観や間取りをイメージする。

家を建てる場所に両手を(かざ)して錬金術を行使する。


「家屋を創出」


周囲の岩石や[無限収納]から取り出した素材が1か所に集まって来て家の形を成していく。

目の前にちょっとした石造りの邸宅が出来上がった。

ちょっと奮発しすぎちゃったかな。



綺麗な直方体に加工された石を組み上げた2階建ての家。

中央に1枚板の木製両開き扉を備えた玄関が設けられ、その左右に広い掃き出し窓と広いテラスが設けられた1階。

各部屋と玄関上にもテラスが設けられた2階。

そして、屋根は屋上を備えた平屋根構造。

ガラスは水晶を材料にしたクォーツガラス製だ。


中に入る。

玄関を入ったそこは奥中央から左右に分かれた階段を備え、2階部分まで吹き抜けの広大なエントランス。

右の部屋は20人くらいが同時に食事できる食堂になっており、その奥には広い厨房と食料保管庫。

左の部屋は広大なリビングスペース。

右階段の奥は脱衣場と5m四方の湯舟を備えたバスルーム。

左階段の奥は洗面所とトイレ。


階段を上がる。

左右の階段を上がった奥に左右ぶち抜きの廊下。

廊下に面して、左右にクローゼットを備えた4部屋ずつ、計8部屋が配置されている。

全室バストイレ付きだ。


錬金術を駆使して作り出した家具をそれぞれの部屋に配置していく。

2階の各部屋にはベッド、ソファ、机と椅子、本棚、チェスト。

姿見の鏡と化粧台も忘れない。


1階のリビングには応接セット、エントランスには打合用の机と椅子、食堂には長テーブルと20脚の椅子、厨房には調理台と水属性魔法を組み込んだシンクと火属性魔法を組み込んだコンロと氷属性魔法を組み込んだ冷蔵庫。

バスルームの湯舟は浄化魔法を組み込んだ循環システムにより常にお湯を清潔を保つ。

トイレも水属性魔法と浄化魔法を組み込んだ水洗式なので排水による水質汚染対策も万全。

洗面所や各室のバストイレにも水属性魔法と浄化魔法が組み込まれている。

脱衣場には水属性魔法を組み込んだ洗濯機を設置した。

全てのテラスにデッキチェアとテーブルを設置。

全ての部屋に光属性魔法を組み込んだ照明設備を設置。


30分掛かった。

でも、理想の家ができたと思う。



家を建設している間、白亜はただ黙って見ているだけだったが、立て終わった家を満足そうに眺めていた俺に近づいてきて、俺をマジマジと見ると一言。


「兄者、『常識』という言葉を知っておるか?」


変なことを訊いてくるなあ。


「『社会的に当たり前と思われる行為や物事のこと』だろう?」

「では、『規格外』という言葉はどうじゃ?」

「『標準を大きく超越していること。一般的な基準を外れていること』だろう?」

「で、兄者自身は自分のことをどう考えておる?」

「決まってるじゃないか。俺は穏やかな生活を望む一般人だよ」

「一般人は短時間で豪邸を自作したりはせぬよ」

「一般人でも力を持てはそれくらい普通にできることだよ」

「『できる』と『やる』は違うじゃろ?」

「どこが違うんだ?」


それを訊いた白亜は、


「はぁ~~~っ」


と溜息をつくと、


「兄者はなんにもわかっておらぬな」


えらい言われようだ。


「もうよい。妾は疲れたのじゃ。少し休ませて貰うぞ」


と家の中に入っていく。


「2階が個室だ。好きな部屋を使ってくれ」


と声を掛ける。

白亜はそれに答えることなく、階段を上って2階に消えた。


どうしたんだろう?

恐怖と魔法戦闘で疲れたのかな。



俺も疲れたよ。

白亜に大量の魔力を持っていかれたし、家も造ったし。

残りMPを確認する。

MPの残りは『9700』にまで減っていた。

勇者の加護[超回復]で回復しつつあるが、完全回復まで1週間は掛かりそうだ。

大容量電池を持つBEV(電気自動車)は簡単に電欠しないが電気を使い過ぎると満充電に長大な時間を要する、みたいな?

俺は[無限収納]からエリクサー(回復薬の最上級バージョン)の瓶を何十本も取り出して、テラスのテーブルに並べると真横のデッキチェアに腰を降ろす。

そして、エリクサーの瓶の蓋を開けて口の中に流し込んだ。


エリクサーはブースターみたいなものだ。

飲んだ分だけ回復速度を上げてくれる。

だが、全部飲んだら水腹になってしまいそうだ

晩飯食えなくなるかも。


そう思いながら、俺は眠りに落ちて行った。




どれくらい寝てたんだろう。

頭を撫でられる感触に目が覚める。


白亜が俺の後ろに立って頭を撫でていた。


「それ、楽しいか?」

「兄者の髪は触り心地がよいのじゃ」


俺の頭をモフモフする白亜。


「ここまで、よく頑張ったのじゃ」

「そうだね。後は50階層を残すのみ。これが終わったら…………いや死亡フラグを立てるようなことは言うまい」


白亜がクスッと笑って、


「希望が叶うとよいな」

「まあ、たぶん大丈夫なんじゃないかな。このダンジョンを踏破すれば《S》ランク認定は確実だろうから、辺境に踏み入る資格も得られるだろうさ」

「この家はどうするのじゃ?」

「無限収納に入れて持っていくつもり。現地ですぐに住める家があった方がいいだろ?」

「それはそうではあるが…………」


なにか納得できないものがあるらしい。


「考えたら負けだよ」

「兄者はもっと考えた方がよいぞ」


言われるままに考えてみる。


勇者として召喚された俺は職務放棄してスローライフを送るべく女神から行方を晦ました。そんな俺が今、ダンジョンに潜って戦っている。

いったい何の冗談なんだろう。

俺は平和主義者なんだよ。

しかも、ひとり気儘に暮らすつもりが、白亜という家族までできた。

今ではもう、白亜の居ない生活は考えられない。

俺も変われば変わったものだ。

本当に人生というヤツはよくわからない。


振り向いて白亜を見上げる。


「?」


『どうしたのじゃ?』とは訊いて来なかった。ただ、


グウ~。


と腹の虫がなった。白亜が腹を押さえて(うつむ)く。


「ハハハっ。とりあえず、晩飯にしようか」


地下で日が当たらないから、時間の感覚がおかしくなりそうだが、腹の虫は正確みたいだ。

そう言えば、47階層で昼飯を食って以来、何も口にしていないな。


「食堂に行こう」


俺は晩飯を食べる為に、白亜を連れて食堂に向かった。


[無限収納]には1日目の晩飯を手始めに6日分の食事が入っている。

それを食べ尽くす頃には、十字星(クロスター)も追いついてくることだろう。



食後に、俺が自分の部屋を決めようとしたら、


「妾の隣の部屋にせよ」


と2階の左端の部屋を宛がわれた。白亜は左端から2番目の部屋。

家を建てたのに、俺には選択権は無いらしい。


「まあいいか」


俺はベッドに横になった。

風呂は…………疲れたから明日の朝に入ろう。






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