表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/183

039 使い魔を手に入れた

首無し騎士の登場。


デュラハン。


こいつが49階層のエリアボスなんだろう。


俺達と対峙したデュラハンが喋った。


「よくも我が下僕達(しもべたち)を亡きものにしてくれたな」

「最初から亡きものだったでしょ? 俺達が(かえ)してあげたんだよ。感謝して欲しいくらいだね」


それを訊いたデュラハンから怒りのオーラが立ち上った。


「では感謝の印として、貴様に死の呪いを掛けてやろう」


俺の上から大量の血が降って来た。

俺は血塗れ、になることはなかった。

血は全て、勇者の加護[絶対防御]に弾かれてしまった。


「貴様、まさか――――」

「おまえかぁ~」


『勇者か?』っと言おうとしたんだろうが、言う前に白亜に遮られた。


「おまえがぞんびやら幽霊やら死霊騎士(デスナイト)を使役していたのかぁ~?」


白亜から物凄い怒りのオーラが立ち上っている。


「小娘よ、そなたは下がっておるがよい。今、我が話している相手は勇者――――」

「妾を散々恐怖に陥れよってからに。寿命が縮んだぞ。兄者より早死にしたらどうする?」。


デュラハンは俺の方を見ると、


「おい、貴様はこの小娘の保護者か?」

「う~ん、保護者って言われればそうだと言えるし…………」


白亜にギロッと睨まれる。


「はい! 大切な家族です!」


それを訊いたデュラハンが、


(しつ)けはきちんとした方がよいぞ。こんなんでは、将来、嫁の貰い手は期待できぬだろうよ。貴様がこやつの嫁ぎ先探しに奔走することになる」


デュラハンは上から下まで白亜を眺めると、


「見れば、魅力は顔だけ。体も貧弱で、その…………色気も無い。それに性格もキツそうだ。こやつと番う相手は一生涯苦労するであろう」


うわあ、地雷踏み(まく)りだよ、この人。


「誤解ですよう。成長期なんですよう。性格も可愛らしいんですよう」


俺は慌てて取り繕う。

それを訊いた白亜がパァーと表情を輝かせて俺を見た。


「それは身内の贔屓目(ひいきめ)というものだ。我は客観的に評価した結果を述べておる」


ああ、白亜の機嫌相場が乱高下している。


ゆらりと踏み出した白亜が、低いが凄みのある声で、


「言いたいことはそれだけかぇ?」


あ~あ。

知ってか知らずか、デュラハンは更に続ける。


「聴け、小娘よ。今から努力すれば性格くらいは改善するであろうが、まあ、貧弱な体と色気の方は諦めよ。努力だけではどうにもならん。『諦めが肝心』という言葉もあるしな。ハッハッハッハッ」


俺はもう知らんぞ。白亜はまだ抑えているようだが…………ほんとに抑えてる?


「騎士だから、最初は剣で相手しようと思うたが――――」

「小娘が我に剣で挑むと? 片腹痛いわ。ハッハッハッハッ。貴様もそう思わんか?」


おい! デュラハン! 俺に振るんじゃない!


「気が変わった」


無表情にそう呟いた白亜が[頂きの蔵]にトマホークを収納し、代わりに五月雨を取り出す。


「ほう、どう気が変わったのだ? そんな剣では我は倒せぬぞ」


デュラハンの問いに白亜は答えなかった。

そして、五月雨を地面に真っ直ぐに突き刺す。


「プリフィケーション」


白亜が感情を殺した冷え切った声でそう唱えると、デュラハンの足元に金色に輝く魔法陣が顕現し、目の眩む光が放出された。


「いきなり何をするっ!?」


突然のことに驚いたデュラハンの問いに、白亜が悪魔の笑顔で答える。


「これ以上、イツキに変なことを吹き込まれても困るので、退場して貰うわよ」


平安言葉ではなく、『標準語』で。

しかも『兄者』ではなく『イツキ』って言ったぞ。

もう、平常心を保っていられないくらいお怒りらしい。


「浄化の光ごとき! むっ!? ちょっと待てっ!」


更に光が強まり、デュラハンの体が消滅し始めた。


「グアアアアアアアアアアアっ! 止めろおおおおおおおおおおっ!」


デュラハンが圧倒的な浄化の光に断末魔の悲鳴を上げた。

俺は経験したことが無い量の魔力をごっそり持っていかれ、片膝をついてしまった。


輝きが収まると、そこには兜を被ったデュラハンの頭だけが転がっていた。

白亜はつかつかと歩み寄っていくと、デュラハンの頭を鷲掴(わしづか)みした。

そして、顔を近づけて話し掛けた。

相変わらず『標準語』で。


「ねえ、黙っていれば見逃して貰えると思った?」

「…………」

「死んだふりしてても無駄よ。完全浄化されたなら何も残らないはずなのだから」

「…………」

「そうなんだ? あくまでしらばっくれるつもりなんだ?」


白亜はニッコリ微笑みかけると、デュラハンの頭を地面に置いた。


置いたが早いか、壁に向けて思い切り蹴った。

ワールドカップのスタープレイヤー真っ青の豪快なロングシュート。

デュラハンの頭は壁に撥ね返されて、白亜の胸元に勢いをつけて戻って来る。

それを胸でトラッピングすると、今度は天井から釣り下がる鍾乳石のつらら目掛けて思いっきり蹴り上げた。

デュラハンの頭は、重力なんか無いみたいに速度を落とさず真っ直ぐに鍾乳石の巨大なつららにぶち当たり、


ズシーン!


折れて落下してきた巨大なつららが地面に落ちる音が衝撃を伴って伝わって来た。


少し離れた場所にデュラハンの頭が転がっていた。

白亜がそこに歩み寄り、爪先で頭を蹴り上げてリフティングする。

ちらっと奥の方を見た。

そして、リフティングを止めると、今度はドリブルしながら、見た方角を目指す。


俺も白亜が目指す方向に目を向けた。

それは、どういう訳か真横に生えた鍾乳石の尖った切っ先だった。

あれ、デュラハンの頭、兜ごと刺さっちゃうんじゃね?


そして、白亜が足を後ろに引いて蹴ろうとした瞬間、


「助けてくれっ! 我が言い過ぎたっ! 後生だからっ!」


蹴るのを止めた白亜がデュラハンの頭を(つか)み上げてこっちを見た。

ようやく、俺の出番だ。


「もう、その辺で許してやってくれ。デュラハンも充分反省してるみたいだし。それに、他人の評価なんか関係ない。白亜の魅力は俺が一番わかっているよ。それじゃあ駄目か?」

「兄者…………」


白亜がうれしそうに俺を見詰める。

喋り方も元に戻っている。

怒りは収まったようだ。

チョロいな。


「で、こいつ、どうする?」


俺は白亜から手渡されたデュラハンの頭に視線を落として訊く。


「兄者に任せるのじゃ」

「ということだが、俺に一任でいいか?」


今度はデュラハンの頭に語り掛ける。


「文句は無い。このままあの小娘にいたぶられ続けるよりはマシだ」

「そうだね。じゃあ、俺と使い魔契約してみないか?」


デュラハンは暫く黙り込み、そして答えた。


「よかろう。我は貴殿の使い魔となろう。だが、頭だけになった我は何もできぬがそれでもよいか?」

「構わないさ。おまえはいろいろ知ってそうだから、たまに俺の話し相手になってくれるだけでいい」

「そういうことなら承知した」

「で、おまえ、名前は? デュラハンは通称名だから違うよね」

「ロダンだ」

「OK、ロダン」


俺は一旦、デュラハンの頭を地面に置くと、


「我、ここにロダンと使い魔契約を結ぶ。コントラクト」


ロダンを囲むように橙色の魔法陣が現れ、やがて緑色に変わると消えた。


「俺はイツキ。こっちは義妹の白亜だ。これからよろしくな。ちなみに普段はどうすればいい? 俺はずっとおまえの頭を携行してなくちゃならないのか?」

「いや、『待機』と唱えてくれれば異界に引っ込む。名前を呼んでくれればいつでも顕現する」

「了解だ。じゃあ、待機」


デュラハンの頭が消えた。


俺は、ようやく使い魔を手に入れた。

これで賢者の体裁が最低限整ったんじゃないか?



辺りが静寂を取り戻した。

俺が[マッピング]で調べると、最初にデュラハンが現れた先に、50階層へ続く階段があることがわかった。


俺は魔力残量を確認した。

残りMPは『12579999』。

白亜がデュラハンに行使した浄化魔法はMPを『50000000』も消費した。


このままの状態で最後の50階層に降りるのは危険だ。


MPが完全回復するまで、ここ49階層でビバークすることにしよう。

暫く待っていれば、十字星(クロスター)も合流してくるはずだ。

それまではゆっくり休息だね。


正直、40階層からここまで頑張り過ぎた。

最後くらい、十字星(クロスター)を頼ってもいいよね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ