033 もうこれ、巨大ロボだよね
梯子を50mくらい延々と降りると、そこは46階層。
ここでも[マッピング][ディスティネーション][索敵]は使えなかった。
金属製の壁に覆われた近未来的な通路を進む。
天井の照明が明るい。元の世界のLED蛍光灯みたいな明るさだ。
鑑定で壁の材質や照明の構造を知ろうと試みたが、情報は得られなかった。
ここまで、全く敵に遭遇していない。
やがて、大ホールに辿り着いた。
大ホールに入ると後ろから、ヒューンという音がしたので振り向く。
自動で横にスライドするドアが閉じた。
今歩いて来た通路が塞がれたようだ。
「あれ? 扉が無くなってしまったぞ」
塞がれた場所を白亜が叩くが、反響音は壁と同じく厚みのある金属を叩いた時に生ずる鈍い音。ドアが壁と同質化したのか。
大ホールを見渡す。
広さはドーム球場くらい。
天井に配された水銀灯のような照明が眩しいくらいに明るい。
左右の壁際にそれぞれ4体ずつ計8体の巨大ロボのような像が立ち並ぶ。
もう、嫌な予感しかしない。
白亜が像を見上げながら、
「金属製の像じゃの。こいつらが動き出したりして――――」
「おい、やめろ! フラグ立てんな!」
「また、ふらぐかぇ? 兄者は時々変な言葉を使うのお」
刺すような視線を感じて像を見渡すと、8体の像の目がこっちを見ていた。
ああっ、フラグ立っちゃったかも…………
突然、1体の像の目が光った。
「危ないっ!」
俺は白亜を抱えて飛び退る。
俺達の居た場所の床が黒焦げになっていた。
ビーム攻撃?
マジか!?
それを切っ掛けに全ての像が動き出した。
もうこれ、巨大ロボだよね。しかも、ミスリル製の。
巨大ロボはそれぞれ違う武器を手にしていた。
区別をつける為に、右奥から手前までを順に1号~4号と仮称する。
左奥から手前までは順に5号~8号。
1号は右手にビーム兵器。目からビームを出したのもこれ。
2号は右手にビームサーベル。
3号は両手持ちで巨大なトマホーク(戦斧)。
4号は左手に巨大なトライデント(三叉の槍)。
5号は右手に巨大なウォーハンマー(片側が平らで反対側が鎌状になった槌)。
6号は右手に頭部がスパイク加工された巨大なモーニングスター。
7号が持っているのは・・・たぶん火炎放射器だろう。
8号からは体中に配されたミサイルポッドが見える。両腕に筋が入っているところを見るに、両腕が切り離されて飛んでくるヤツ、いわゆるロケットパンチかも。
俺は白亜を床に降ろすと、
「やつらの攻撃を躱すんだ! 当たったら一撃で死ぬぞ!」
照射されるビームや撃ち込まれるミサイルを避けた先に火炎を放射され、それを横っ飛びで避ければ、上からのウォーハンマー攻撃。上に飛んで避けたすぐ下をビームサーベルが横薙ぎに通過する。飛び上がったところを斜め上からトマホークが振り下ろされ、フライで逃げようとするとモーニングスターが飛んでくる。着地した背後からトライデントの突き攻撃。こいつら物凄く連携が取れているぞ。
「白亜! 8号の全ミサイルポッドにブレイサラードだ! できるか!?」
「任されよ!」
8号のミサイルポッドからミサイルが発射される瞬間に発射口全てに炎の刃を突き刺し誘爆を起こす攻撃。
俺は8号の前に出て挑発する。
「撃ってみろよ、木偶の坊!」
と、俺の右横から5号がウォーハンマーを振り被って来た。
「フリーズ!」
5号の足元を凍らせる。
5号が凍った床に足を滑らせて、反対側からトライデントで俺を突き刺そうとしてきた4号の頭にウォーハンマーを直撃。
「集え! 剣達よ! ブレイサラード!』
8号がミサイルを発射する正にその時、白亜による炎を纏った無数の刃が8号のミサイルポッドに突き刺さり、
ドゴーン!
という轟音と共に8号が砕け散った。
近くに居た4号と5号もミサイルの誘爆に巻き込まれて爆散。
残り5体。
「マイクロブラックホール!」
7号の背後に出現したブラックホールが7号の背負っている液体燃料のランドセルを7号の上半身ごと消失させた。
これで残り4体。
白亜がその身軽さを生かして1号の肩に乗ると、そこから飛び上がり
「スラッシュ・フレイム!」
白亜が技名を叫び、炎を纏った五月雨で1号を袈裟懸けに斬る。
1号は左肩から右脇腹までを切り裂かれ、炎を上げて倒れ、動かなくなった。
残り3体。
俺も魔剣の師匠として、白亜に示しを付けなければならないな。
「白亜! 3分は掛からないが、その間3体を引き付けられるか!?」
大ホールを目まぐるしく駆け巡る白亜が応じる。
「無茶をいうのお。だが、承知した。兄者が何か見せてくれるのじゃろ?」
「こうご期待だよ」
俺は久しぶりに職種変更[スイッチ]を発動する。
「英雄・魔道剣聖にスイッチ!」
アンインストールに30秒、インストールに2分。
『英雄・賢者をアンインストールします』
30秒後、
『英雄・賢者のアンインストールに成功しました。引き続き、英雄・魔道剣聖のインストールを開始します』
2分後、
『英雄・魔道剣聖のインストールに成功しました』
黒い衣装に黒い軽装備のプロテクターを纏い、手には宝剣ナーゲルリング。
準備はできた。
俺は、2号に照準を合わせる。
ビーム系は対処が面倒だから白亜には荷が重かろう。
俺はアクセルで加速して、7号の残骸を足場にして飛び上がった。
「スラスト・レゾナンス!」
俺は2号のビームサーベルの斬撃に対して、体を回転させて避けながら、その首に宝剣ナーゲルリングを突き刺す。白亜に食らわせた鞘ごとの突きではなく、刃を突き刺し共振振動を与えて破壊する本気の突きの一撃。
2号の固有振動数に同調した共振により2号は自壊した。
「本気のあれを食らっていたら、妾はここにおらなんだのう」
白亜が3号のトマホークと6号のモーニングスターを軽くいなしながら言う。
もう、対応できているのか。
本当に成長が速い。
残り2体。
「1体ずつの受け持ちでいいか?」
「妾は3号を殺る」
「じゃあ、俺は6号を片付けよう」
モーニングスターを滅茶苦茶に振り降ろして俺を叩き潰そうとする6号の攻撃を避けて、その懐に飛び込む。
「スラッシュ・ソニック!」
超音波での斬り技で6号の膝上を横薙ぎに薙ぐ。
超音波カッター同様、抵抗なく斬れる。
斬られた6号が横倒しになったところで、その上半身に飛び乗り、
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
「スラッシュ・ソニック!」
剣戟を繰り返しバラバラに切り刻む。
白亜の方も3号を片付けたようだった。
「やっと終わったのお」
「久しぶりに激しく運動したなあ。もう、疲れたよ」
「妾もじゃよ」
俺達は背中合わせにもたれ合ってしゃがみ込む。
周りの巨大ロボ達の残骸を無限収納に入れる。
「全部纏めて回収」
どんな金属で出来ていて、どんな構造だったのかはダンジョン攻略が終わってから検証することにしよう。
「とりあえず、休憩」
「そうしよう」
ダンジョン攻略終了まで、あと4階層。




