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003 見つけて、捕えて・・・

斎賀五月に出し抜かれたセレスティアは悔しさに打ち震えていたが、すぐに気を取り直して斎賀五月の居所を探した。転移先は〖誓いの丘〗。すぐに見つかるはず。

その期待に反して、斎賀五月の行方は探知できなかった。それどころか存在そのものの痕跡が消失していた。

[隠蔽]を使ったのか。

しかも神ですら感知できない[隠蔽]だとすれば、それはヤツが聖剣を入手して勇者スキルを解放したということに他ならない。

これは緊急事態だ。もし、魔王が復活しその【暴虐】が防げなければこの世界の人間が滅びてしまう。

斎賀五月が勇者の務めを放棄したら・・・

その場合でも彼が生きている限り、代わりの勇者は召喚できない。ひとつの世界に勇者はひとりだけ。これは神々が決めたルールだ。


いずれにせよ、斎賀五月を見つけ出さなくては。見つけて、捕えて、改心させる?

いや、あの男は絶対にまた裏切るだろう。

だから、見つけて、捕えて・・・制裁する!

そう、必ず!

二度と逆らえなくなるくらい制裁してやる!


まずは、リザニア聖皇国の聖女に神託を与えなければ・・・・



◆ ◆ ◆


リザニア聖皇国の聖女ラフィエステ・リザニアは、聖皇国の第一皇女である。

彼女は、女神セレスティアの像の前で英雄召喚の儀式を三日三晩に渡って執り行っていたが、待てど暮らせど召喚陣に勇者は現れない。召喚は失敗か、と諦めかけたその時、女神セレスティアが召喚陣に顕現した。

ラフィエステも周りの神官や護衛騎士達も膝まづいて首を垂れた。


「面を上げて下さい、ラフィ。」


ラフィエステだけが表を上げた。


「久しいですね。」


セレスティアが慈愛に満ちた目で親しげに話し掛けた。


「セレスティア様。ご機嫌麗しゅう。

でも、勇者召喚は勇者様だけが召喚されるはず。それを、女神様までが直々にお越し下さるとは思いもしませんでした。勇者様に付き添われて来られたのですか?」


ラフィエステが女神の後ろに誰かいないか伺う。


「勇者は居ません。」


セレスティアはバツが悪そうにポツリと言った。


一方のラフィエステは慌てだした。


「それは、わたくしの信仰心が足りなかったということでしょうか? だから、勇者召喚に失敗したということでしょうか? ああ、なんてことでしょう。わたくしが至らぬ故に。」


ラフィエステは自分に信仰心が足りなかったのだと自らを責めるが、ラフィエステに責は無い。


「あなたに落ち度はありませんよ、ラフィ。勇者召喚は成功しています。ただ、勇者本人が転移先として〖誓いの丘〗を希望したのです。ですから、ここには来ません。」

「聖剣の確保を優先された、ということでしょうか? でしたら、聖剣を手に入れた後、ここにおいで頂けるということでしょうか?」


セレスティアは気まずそうに目を逸らす。


「いえ、勇者はここには来ません。その・・・・・・・とても言い辛いのですが・・・・・逃げられました。」


親に責められた子供がイタズラを白状するように言った。


「逃げられた? ・・・・・おっしゃられる意味がわからないんですが?」


ラフィエステは混乱した。

一方のセレスティアは目をカッと見開いて怒りを露わにしてこう言った。


「ああ、もう、取り繕ってる場合じゃないですね! 言葉通りですよ! 勇者は職務放棄して逃亡しました! この世界のどこかに! 考えるだけで忌々しいです!」


本当に悔しそうだ。


「お気をお鎮め下さい、セレスティア様。わたくしにできることであれば何でもお申し付け下さい。」


ラフィエステが慌てて宥めると、セレスティアは肩を落として溜息をついてから、思い直したように言った。


「は~~~~~っ。わかりました。では、ひとつお願いできますか?」

「はい、なんなりと。」

「できるだけ早く勇者を見つけ出して下さい。」


ただ、その表情は女神にあるまじき悪い顔だ。


「見つけ出して、捕えて、わたしの下に連れてきて下さい。生かして連れて来るなら、手足の一本や二本くらい無くても構いません。いっそ半殺しでも」

「勇者を半殺し?」


ラフィエステは聞き間違いかと思った。

いつも慈悲深いはずの女神。

その女神が半殺しなどと言っているのだ。

尋常ではない。


「半殺しになった勇者様では魔王の【暴虐】を阻止できないのでは?」

「魔王の【暴虐】が発動されるまでに彼が復活できるかはわかりません。もしかしたら、復活は魔王の暴虐発動後になってしまうかもしれません。充分な準備の時間は損なわれてしまいますが・・・。

でも、しっかり調教しなくてはね。

二度と逆らえないように・・・ウフフフフ。」


女神らしからぬダークな雰囲気を漂わせるセレスティア。

このままでは暗黒神に闇落ちしてしまうかもしれない。


このままではいけない、と思ったラフィエステはおずおずと申し出た。


「あの・・・。畏れながら申し上げます。見つけ出した勇者様をわたくしが説得するのではいけないのでしょうか? 勇者様も人間。魔王の【暴虐】で人間が滅びるなら勇者様も無事ではいられないはず。」

「う~ん。そうですね。あの男も無事ではいられない、か。いいでしょう。あなたにお任せします。必ず勇者を見つけ出して、説得して見せなさい。」

「はい、このラフィエステにお任せ下さい。」

「ただ、無理は禁物ですよ。」

「心得ております。」

「ほんとうに? ラフィはわたしの為ならって、すぐに無理をするから。」

「セレスティア様にご心配をお掛けしないように善処します。」

「善処ですか。う~ん、心配ですが、まあいいでしょう。では、これから勇者についての情報を伝えます。勇者の名は斎賀五月(さいがさつき)。家名がサイガで、名がサツキです。容姿はここに映し出されているとおりです。」


セレスティアは斎賀五月を投影した。


「黒髪・黒い瞳とは珍しいですね。これなら、捜索の手の者も見つけ易いでしょう。各国に配布する手配書にも特徴を記載し易いです。」

「先程も言ったように勇者斎賀五月(さいがさつき)は〖誓いの丘〗に転移しました。もう既に聖剣も手にしているはずです。だとすれば、〖誓いの丘〗からは姿を消しているでしょう。〖誓いの丘〗を起点に捜索の手を広げなさい。」

「わかりました。必ずや勇者サイガサツキ様を見つけてご覧に入れます。」

「説得に失敗したら、私を呼びなさい。わたしが直々に処理します。」


そう言うと女神セレスティアの姿は消えた。



ラフィエステはすぐに護衛騎士に指示を出した。


「騎士団を招集しなさい。今、聖都にいるのはどの部隊ですか?」

「近衛騎士団は常駐していますが、後は第三騎士団が休養と補給のために聖都に戻って来ています。」

「では、第三騎士団に緊急招集をかけなさい。休養は中止です。彼らには『〖誓いの丘〗に行き、そこから放射状に捜索の手を広げるように』と。必ずや、勇者様を保護し、聖都に連れてきなさい。」

「ですが、〖誓いの丘〗は西大陸の飛び地です。ここ中央大陸から海路を使っても2ヶ月掛かってしまいます。その間に魔王が【暴虐】を発動したら・・・。」

「安心なさい。私は幼少のみぎり西大陸の港町を訪れたことがあります。訪れたことにある場所へなら[転移]が使えます。聖都からそこまで第三騎士団を[転移]で送ります。それなら、〖誓いの丘〗まで2日前後で到達できるはずです。」


[転移]は女神と司教帝と聖女だけしか使えない無属性固有スキルだ。


「しかし、勇者はもう〖誓いの丘〗からは立ち去っているのでございましょう? 勇者がどこに向かっているのか見当もつきません。」

「勇者様はこの世界では異質な黒髪・黒い瞳の持ち主。それに2日程度ではそんなに遠くには行けないはず。団長のダレス・フォース大佐には[映像念話]で状況を逐一、わたくしに直接報告してもらいます。」


[映像念話]は双方で映像を介して直接通話する、テレビ電話のような魔法だ。魔力スキルが相応に高くなければ使うことができない。使えるのは皇族や王族と彼らが仮行使権を付与した者のみ。当然、魔力の消費も激しい。

でも、今は緊急事態。出し惜しみしている場合じゃない。


「念のため、勇者様を指名手配するように通達しなさい。諸国の治安機関、ノイエグレーゼ帝国の冒険者ギルド本部にも協力を得るように。ただ、勇者様が逃亡したなどと知られるわけにはいきません。『国家反逆罪を犯した重罪人』の逃亡ということにしなさい。」

「『国家反逆罪を犯した重罪人』ですか・・・?」

「聖皇国に反感を抱く者は少なくありません。そして、聖皇国が逆賊として討ち取った初代勇者様を慕う者もまた・・・。」


どういう経緯かはわからないが、【暴虐】を発動した魔王の討伐を果たした初代勇者に対して、聖皇国は突然『逆賊』認定を下して殺してしまった。

そんなことをした聖皇国が、『勇者を指名手配』しても人々が素直に協力してくれるだろうか? むしろ、『勇者の力を怖れた聖皇国により陥れられ非業の死を遂げたのだ』と信じて疑わない者達は聖皇国の通達に反した行動を取るかもしれない。

司教帝の命令で撤去されたはずの初代勇者像が、1000年後の今でも他国に存在し続けているのがその証だ。


「もし、聖皇国が勇者様を追っている、と知れれば、勇者様を庇って匿う者が出るやもしれません。そうさせないための『国家反逆罪を犯した重罪人』です。」

「はっ、了解致しました。直ちにそのように処理します。」


護衛騎士は速やかに神殿を退出していった。





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