表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/179

024 指輪型アーティファクト

十字星(クロスター)の面々と和解した翌日、俺は、〖月の兎亭〗の裏庭でアーティファクト製作に(いそ)しんでいた。


[無限収納]から何種類かのインゴッドを取り出す。

プラチナと銅とオリハルコンとアダマンタイト。

プラチナ70%、銅とオリハルコンとアダマンタイトをそれぞれ10%になるように、インゴッドから切り出し、[強化++]を施した坩堝(るつぼ)に入れる。

坩堝(るつぼ)を中級火属性生活魔法[バーナー]で(あぶ)って中の金属を溶かす。

溶かした合金を型に流し込み、上級氷属性生活魔法[フリーズ]で一気に冷やす。


型から抽出したのは、鏡のように銀色に輝く2つの指輪だ。

ここまでの工程で出来上がったのは、ただのプラチナ合金の指輪。

もちろん、ここで終わりではない。


更に作業を進める。

ここから先は超級魔法を使うから、勇者称号の職種変更が欠かせない。

まず、[探知妨害]を行使する。女神からの探知を防げるのは15分。

サクサク進めよう。


「探知妨害。大賢者にスイッチ!」


いつもの電子音声。


『英雄・賢者をアンインストールします』


30秒後、


『英雄・賢者のアンインストールに成功しました。引き続き、勇者・大賢者のインストールを開始します』


5分後、


『勇者・大賢者のインストールに成功しました』


俺の姿は金糸で飾られた純白の大賢者外装を(まと)った黒髪・黒い瞳の斎賀五月(さいがいつき)に戻った。

身に着けているものは基本的に変わらないが、色が群青色から深緑色に変わった。手にしている賢者の杖も基本構成は変わらないが()の色はスターリングシルバーからゴールドクロームに変わった。


指輪に、エリア内の術者間で魔法属性を共有する超級神聖協調魔法[プロパティズシェア]とエリア内の術者間で魔力を共有する特級神聖協調魔法[MPシェア]を組み合わせた合成魔法[ソーサリィシェア]を付与する。[ソーサリィシェア]は特定の術者同士間で魔法属性と魔力を共有する超級神聖協調魔法だ。

もちろん、その効果は指輪を()めた者にしか及ばない。


超級魔法関連はここまで。

[スイッチ]で、賢者に戻る。


「賢者にスイッチ!」


いつもの電子音声。


『勇者・大賢者をアンインストールします』


5分後、


『勇者・大賢者のアンインストールに成功しました。引き続き、英雄・賢者のインストールを開始します』


30秒後、


『英雄・賢者のインストールに成功しました』


「探知妨害解除」


作業を再開する。

初級無属性生活魔法[マッチング]と特級無属性補助魔法[強化+++]と契約者双方を契約に縛る特級無属性補助魔法[アブソリュートオース]を合成した新たな特級無属性協調魔法[エンゲージ]を追加で付与する。

[エンゲージ]の付与は、指輪を落としたり、奪い取られたりしないようにする為だ。

この魔法の付与により、指輪は、()めた指の太さに合わせて(けい)を伸縮させるだけでなく、()めた術者二人の同意が無い限り外れないようになり、()めた指や腕も最高レベルの強化で守られる。

これで、万が一、片方の術者が敵に捕まって指輪を外すことを強要されても指輪は外せないし、()めている指や腕を切り落して指や腕ごと奪うことも叶わない。


ともかく、指輪型アーティファクトが出来上がった。



このアーティファクトを作ったのには訳がある。


白亜(はくあ)には魔法属性も魔力も無いから、今のままでは剣聖止まり。

その上の魔道剣聖に短期間で進化を果たすには魔法が欠かせない。

俺の持つ魔法属性と魔力を共有させれば、訓練次第で白亜(はくあ)にも魔法が使えるようになるはずだ。


終始、作業を(なが)めていた白亜(はくあ)に、作業の(おり)に触れて説明をした。


出来上がった指輪型アーティファクトを(てのひら)に載せて白亜(はくあ)に見せる。


「これを()めれば、(わらわ)にも魔法が使えるようになるのじゃな?」

「ああ、訓練すれば、俺同様、全属性の魔法が使い放題だ。」

「じゃあ、早速――――」


白亜(はくあ)は指輪型アーティファクトのひとつを取って自分の左手の薬指に()めると、素早くもうひとつを俺の左手の薬指に()めてしまった。

指輪型アーティファクトが縮んで指にフィットする。

(あわ)てた俺が抜こうとしたが、もはや手遅れ。

外したくても白亜(はくあ)の同意が無い限り外れない。


「これで兄者(あにじゃ)(わらわ)は永遠の誓いを立てた仲になったのじゃ」


うれしそうに左手を空に(かざ)して言う白亜(はくあ)


「おいっ。おまえ、わざとやっただろ」

「さあのおー、何の事だかさっぱりじゃ」


目を()らして口笛を吹く白亜(はくあ)


「マジ、左手の薬指は冗談にならん。他の指にしてくれ」

「なぜじゃ? 左手の薬指はダメなのか? 平安の世に生まれ出でし(わらわ)にはどんな意味があるのかさっぱりわからぬのぉ」


おまえ、絶対知ってるだろ、意味。


「それとも、左手の薬指に指輪を()めていると何か不都合なことでもあるのかぇ?」

「そりゃあ――――」

「言い換えよう。左手の薬指から指輪を外して、兄者は何をしようというのじゃ?」


ジッと見つめてくる白亜(はくあ)


「ほれ、言うてみよ」


後ろめたいことなんか無いはずだが、思わず目を()らしてしまった。


大体(だいたい)だな。

元居た世界では、左手の薬指に()めるのは結婚指輪だ。

エーデルフェルトでもミリアさんとその旦那さんの左手の薬指に光るのは結婚指輪。

世界は異なれど意味は同じ。

だから、(はた)から見れば、俺と白亜(はくあ)は夫婦にしか見えない。

気恥ずかしいし、義理とはいえ兄妹で夫婦というのも背徳的。

だから、思わず目を()らしてしまったんだ。


実のところ、左手の薬指の指輪を()めていようがいまいが、俺の行動に変化は無い。

別に他の女を口説(くど)こうとも思わないし、口説(くど)かれようとも思わない。


ただ、ひやかされたり揶揄(からか)われたりしたら、恥ずかしいんだよ。


「ひやかされるのが…………正直、耐えられない」


両手で顔を(おお)ってそう答えると、白亜(はくあ)はその手を()がして俺を(のぞ)き込み、


「そうかの? (わらわ)はそんなことはないぞ。むしろ…………うれしい」


花咲くように笑った。


「なあ、何で左手の薬指を選んだ?」

「そんなこと言うまでもない。虫除(むしよ)けに決まっておろう」


白亜(はくあ)のお眼鏡(めがね)(かな)う相手以外は、俺に近づかせないつもりらしい。

ブラコンが過ぎる。

過ぎるんだが…………


白亜(はくあ)()がした俺の手を引いて、


「さあ、城壁の外に行こう。そこでミリアさんに用意して貰ったサンドイッチを食べよう。食べたら、魔法の練習じゃ」




城壁の外で白亜(はくあ)に魔法の指導を行う。


今の俺は魔道剣聖だ。


「まず、炎を剣に(まと)わせた斬り技、スラッシュ・フレイムから。実演するから、よく見ていろよ」


俺は、[無限収納]から取り出したナーゲルリングを(さや)から抜く。

その(やいば)が炎に包まれる様子をイメージする。

やがて、ナーゲルリングの(やいば)が現実に炎に包まれた。


「スラッシュ・フレイム!」


技名を叫び、炎を(まと)った(やいば)で目の前の大木を横薙(よこな)ぎにすると、大木が切り倒され、切り株と共に炎に焼かれ、やがて消し炭になった。


「お~~~っ」

「感心してないで、やってみろ」

「わかったのじゃ」


白亜(はくあ)が、[頂きの蔵]から五月雨(さみだれ)顕現(けんげん)させると、(さや)から抜いて構えを取る。


「イメージしろはくあは目を(つぶ)ってイメージしようとしている。

やがて、(やいば)が火に包まれるが、炎と言うより、天麩羅鍋鍋(てんぷらなべ)の油に(まわ)った火のようだ。


「スラッシュ・フレイム!」


技名を叫び、大木を横薙(よこな)ぎにしようとした。

が、(かたな)(みき)(はじ)かれて白亜(はくあ)の手から落ちる。(やいば)の火も消えている。

白亜(はくあ)(かたな)を手放した状態で固まっていた。衝撃が手に伝わったのか。


「~~~っ。手が(しび)れた」


白亜(はくあ)五月雨(さみだれ)を取り落とした腕をダラリと垂らして(うめ)いた。


「イメージが足りない。もう一度」

兄者(あにじゃ)はスパルタか、スパルタなのか?」

「いいから、構えろ」



最初はこんなもんだったが、元々スジがいいのか、1時間後には、技をモノにした。


「スラッシュ・フレイム!」


白亜(はくあ)が技名を叫び、炎を(まと)った五月雨(さみだれ)で大木を横薙(よこな)ぎにする。

切り倒された大木が切り株と共に炎に焼かれ、やがて消し炭になった。


「次は炎の突き技、スラスト・フレイムだ。さっきの斬り技が突きになっただけ。実演はいらんな?」

「大丈夫じゃ」


「スラスト・フレイム!」


白亜(はくあ)が技名を叫び、炎を(まと)った五月雨(さみだれ)で大木に突きを食らわせる。

五月雨(さみだれ)に刺された大木が燃え上がり、やがて消し炭になった。


今度は、1回で覚えたぞ。

さすが元荒法師(もとあらほうし)。凄い武者だよ。


今度は、応用編だ。

白亜(はくあ)の必殺技[斉刃(せいじん)]と火属性魔法の組み合わせ技。


「頂きの蔵から顕現(けんげん)させた無数の(やいば)に炎を(まと)わせて、一斉に放つ技。名前は…………(やいば)のブレードと一斉射撃(いっせいしゃげき)のフューサラードで、そうだな、ブレイサラードにしよう」

「ブレイサラードか、かっこいい技名だな」

「できるか」

「やってみるのじゃ」


白亜(はくあ)が、


(つど)え!刃達(やいばたち)よ!」


と告げると、[頂きの蔵]から、収蔵(しゅうぞう)している刀剣(とうけん)が次々と顕現(けんげん)し始める。


うわっ、俺と手合わせした時より、多いぞ、これ。

2000本どころじゃないな。

ホバートの武器屋、総ざらいしたからなあ。


「ちょっと、待ってろ、白亜(はくあ)


このまま、[ブレイサラード]を撃たせたら、山火事になってしまいそうなので、一定の範囲内に[結界]を張る。この中でだけなら、大事にはならんだろう。


「もういいぞ」

「了解じゃ、兄者(あにじゃ)


顕現(けんげん)した無数の刀剣(とうけん)(やいば)が次々と炎を(まと)い始める。

全ての(やいば)が炎を(まと)うと、それを見計(みはか)らったように、


「ブレイサラード!」


白亜(はくあ)が技名を叫び、炎を(まと)った無数の(やいば)が森を襲う。

結界の中の森は一斉に燃え上がり、やがて消失した。


あの時、これを食らっていたら、さすがの俺も無事では済まなかったよ。

それくらい凄かった。

もう、《SS》ランクくらいの実力なんじゃないか?


超音波(ちょうおんぱ)共振破壊(きょうしんはかい)の技は教えなかった。

そもそも、超音波(ちょうおんぱ)共振(きょうしん)の原理を知らない白亜(はくあ)にはイメージができないのだ。


だが、原理が不要な技ならどうだろう。

面白(おもしろ)がった俺は、白亜(はくあ)に[円舞二式]と[円舞一式]を伝授しようとした。



結果から言えば、白亜は[円舞二式]や[円舞一式]を習得できなかった。

三半規管(さんはんきかん)が弱いのだろう。

白亜(はくあ)は、円舞を舞うとすぐに目を回してしまった。

これでは、舞いながら刀を振るうなんて無理だ。


確か、弁慶(べんけい)に勝った牛若丸(うしわかまる)も目まぐるしく舞うタイプだったか。

三半規管(さんはんきかん)が弱いから、振り回されて目を回して負けたんだね。

舞いとは相性が悪かったんだね。

じゃあ、仕方が無いね。


だが、今日覚えた技だけでも、実戦では有効に使えるはずだ。



今日の練習を終えた白亜(はくあ)に声を掛ける。


「これから、〖混沌(こんとん)(ぬま)〗の下見(したみ)がしたいんだけど、白亜(はくあ)も付き合ってくれるか?」

「いいけど、どうやって行くのじゃ? 近いといっても20km以上はあるぞ。馬車でも借りに行くのか?」

「そんなことはしないよ。馬車は乗り心地悪いし。まあ、いいから俺に捕まれよ」

「こう、か?」


と、白亜(はくあ)がしがみ付いてきたので俺は[フライ]を発動する。

俺達は浮き上がり、水平に飛行を始める。


「落ちないようにしっかり(つか)まっていろ、白亜(はくあ)

「にゃぁ~~~~っ!」


白亜(はくあ)高所(こうしょ)恐怖症(きょうふしょう)でもあるらしい。

混沌(こんとん)(ぬま)〗の入口の前まで5分も掛からなかったが、着いた時にはグッタリしていた。


そのダンジョンの入口は沼地(ぬまち)の真ん中にある小島(こじま)に口を開いていた。

岸から小島(こじま)まで、板でできた広いだけが取り得の橋が架けられていた。

ギルドが急造で架けたらしい。

ダンジョンの入口の前は、数名のギルド職員と数組の冒険者パーティーにより厳重に警備されていた。特に状況が悪化した様子もない。


()()えずこれで、クエスト当日に[転移]が使える。

[転移]は、一度行った場所ならどこでも瞬間移動できる魔法だ。

だが、[転移]を発動する為には、一度はその場に行く必要がある。

今回、〖混沌(こんとん)(ぬま)〗の入口まで来たのはその(ため)だ。


街に帰ろうと、再度[フライ]を発動しようとしたら、必死な形相(ぎょうそう)白亜(はくあ)に制止された。


「もう高いところはコリゴリじゃ! お願いじゃ! 後生(ごしょう)だから、乗合馬車(のりあいばしゃ)にしてくれ! また空を飛ばれたら、今度こそ(わらわ)の心が折れてしまうのじゃ」


『転移は?』と言おうとする前に、乗合馬車(のりあいばしゃ)以外受け付けない、と宣言された。

結局、俺達は乗合馬車(のりあいばしゃ)で帰ることにした。

乗り合わせたのは、警備を交代して街に帰るパーティ-。


彼らは俺に話し掛けるでもなくジロジロ見ているだけ。

居心地が悪いったらありゃしない。

しかも、俺の左手の薬指と白亜(はくあ)の左手の薬指に光る指輪に気付いた女冒険者達がヒソヒソと内緒話を始めている。

何を話してるか、()かなくとも(わか)るよ。

この後、どんな(うわさ)が広まってしまうのか、と思うと頭が痛くなってくる。


俺がそんなことを考えながらする百面相(ひゃくめんそう)を、白亜(はくあ)は不思議そうに見ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ