022 和解
俺達の前に立っている冒険者4人。
その中の女魔導士には覚えがあった。
サリナさんだっけ?
「白亜ちゃ~ん、昨夜ぶり~~」
手を振って挨拶するサリナさんに白亜も笑顔で手を振り返して、
「待っておったのじゃ」
と言った。
え、どういうこと?
いつの間に仲良くなったの?
そんなことを思っていると、一行の剣聖らしき男が進み出て、自己紹介を始めた。
「俺は十字星のリーダーのデューク・サイクスだ」
コロッと忘れてたけど、今思い出した。
王都最強の《S》ランクパーティー、十字星。
「サイガイツキ君、この度は本当に申し訳ないことをした。ガゼルの無礼な振舞もそうだが、それを止められなかった俺達も同罪だ。謝らせて欲しい」
彼がそう言うと、4人が一斉に頭を下げた。
「ちょっと待って下さい、サイクスさん。俺は気にしてない。謝るなら白亜に謝ってくれませんか」
「白亜さんには、昨夜謝罪させて貰った」
「そうじゃ。妾はもう怒ってはおらぬよ」
「えっ? そうなの? 白亜はそれでいいの?」
「うむ」
白亜が説明してくれた。
サイクスさんはアインズ支部長に2つのお願いをした。
『ガゼルが害そうとした白亜への謝罪の機会を設けて貰うこと』
『俺に謝罪する為の場を白亜に設けて貰えるように計らうこと』
昨夜、白亜を迎えに来た女冒険者達は、アインズ支部長の差し金だったということか。
そして彼らは今ここにいる。
そんな彼らに白亜は
「皆、立ってないで座ればよかろう」
と4人に席を勧めた。
「しかし…………」
「よいのじゃ。食事は楽しくするものじゃ。いつまでもそうされていると料理が不味くなってしまうのじゃ。それに、兄者は心が広い。もう怒ってはおらぬよ」
サイクスさんが尻込むのを白亜が窘める。
白亜がいいと言うなら、俺にも異存は無い。
結局、4人とも席に就いた。
通路側にサイクスさん。白亜の隣にサリナさん。俺の向かいに、女神官さん。それと俺の左蓮向かいに俺と同い年くらいの男。
白亜が料理と酒を追加オーダーする。
やがて、全員分の料理と果実酒が揃うと、白亜が音頭を取る。
「今ここに十字星と白銀の翼の和解は成った。これから、妾達は〖混沌の沼〗攻略を目指して共闘する。誰一人欠けることなくクエストを完遂し、再びこの場所で勝利の美酒を味わおうぞ。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
俺達は乾杯をした。
男前だね、白亜。
さすが、平安・鎌倉期の荒武者。
アジり方も堂に入っている。
サイクスさんが話し掛けてきた。
「サイガイツキ君…………で良かったかな?」
「イツキでいいですよ」
「では、俺のこともデュークと呼んでくれ」
「わかりました、デュークさん」
「改めてメンバーの紹介をさせて欲しい。白亜さんの横の特級魔導士が――――」
「サリナさんでしょ、ガゼルを止めようとしてくれた」
「は~い、サリナよ。あんたよりひとつ上の18歳」
「サリナ…………何さんでしたっけ?」
「家名は秘密よ。だから、サリナでいいわ」
「そういうことなら、サリナさんで」
エールの大ジョッキを傾けながら笑顔で手を振ってくる。
「あれでも彼女は十字星の創設メンバーの一人だ」
えっ、ちょっと待って?
アインズ支部長が十字星を創設したのって、確か30年前。
???
「18歳よ」
計算が合わない。
30+18=
「少なくとも、よんじゅうは――――」
「18歳だから」
被せてきた。
「本当は――――」
「18歳」
有無を言わせない声。
「まあ、いろいろ思うところはあるだろうが、察してくれ」
デュークさんに頼み込まれた。
ウン、コレイジョウツイキュウスルノハヤメヨウ。
「君の向かいに座っているのが特級神官兼錬金術師のナナミ・ムラサメ」
「よろしく。ナナミさんでいいですか?」
「はい、イツキさん。こちらこそよろしくお願いなのです」
上品に挨拶を返された。
「そしてナナミの隣に座っているのが、スナイパーのトア・レイン」
「トア・レインだ。同い年なんだって? イツキって呼んでいい? 俺のこともトアでいいから」
「わかったよ、トア」
「おまえ、俺とタメなんだろ。仲良くしようぜ」
「おう、よろしくな」
お互い乗り出して握手をする。
話してみると、皆いい人達。白亜が打ち解けたのもわかるよ。
昨日は共闘できない連中だと思ったが、ダメなのはガゼルだけだったらしい。
まあ、ガゼルがまた何かしてきたら、その時は相応に制裁してやればいいだけのこと。
そういえば、ガゼルが居ないな。
「ガゼルはどうなったの? まだ、回復できてない? 一応、手加減したんだけど」
「あれで手加減って…………」
ナナミさんがドン引く。
「ナナミのおかげで昼には全快したよ」
「まる一日以上掛かったのです。私はマナ切れ寸前なのです」
醸造酒のストレートを嗜むデュークさんとポテトフライをチミチミと啄むナナミさんが答える。
「じゃあ、ここには? 自粛?」
「いや…………昼からはアイシャさんの『教育的指導』…………というか…………」
俺の問いに歯切れの悪いデュークさん。
「ガゼルもバカよねえ。知らなかったとはいえ、アイシャお気に入りの白亜ちゃんに汚い言葉を浴びせるわ、傷つけようとするわ。あれはタダじゃ済まないわよ~」
サリナさんがガゼルを憐れむように言う。
「タダじゃ済まないって…………」
「アイシャ、めちゃくちゃ怒ってたから、ガチで」
「そんな風には見えませんでしたよ?」
「あの子は怒りを内に溜め込むタイプなの。そして、キレると誰にも止められないの。あのアインズでも無理なの。あ~、思い出したら震えが止まらなくなりそう。あんなアイシャ見るの、何年ぶりだろう」
「『教育的指導』…………なんでしょう?」
恐る恐る訊き返す俺にサリナさんは言っていいのか悪いのか逡巡し、やがて、
「うん、でもアイシャのあれはね」
俺はゴクリと生唾を飲み込む。
「『教育的指導』の名を借りた……………………『拷問』よ。」




