018 新たな指名依頼
スタンピード討伐完了報告の為に冒険者ギルドに直行した。もう、午後7時を過ぎている。報告の為に奥の受付カウンターに向かったが、辿り着く前に横から声を掛けられた。以前に俺を拉致したメン・イン・ブラッ◆のエージェント風の男二人だ。やつらは俺に声を掛けるなり、左右から俺の腋の下に手を突っ込んで俺を吊り上げた。そのまま奥の階段に向かう。おい、おまえら、今回も俺をグレイ扱いかよ。
白亜がクスクスと笑いを堪えながら後に付いてきた。笑ってないで助けてくれ。
白亜は救助を求める俺の視線に気付いても、笑いを堪えるだけで何もしてくれなかった。
お兄ちゃん、悲しいよ。悲しみで無気力になってしまいそうだよ。
俺は、首の後ろを摘まんで持ち上げられた猫のように脱力したまま、最上階の支部長室に連行されていった。
支部長室では、アインズ支部長とアイシャさんが待っていた。
俺はエージェントどもに3人掛けのソファの右側に降ろされ座らされた。
左側に白亜が座った。
俺の正面に座っているのはアインズ支部長。
今日のアイシャさんは支部長の横、白亜の正面に座っていた。
「白亜ちゃん、《AAA》ランク昇格おめでとう」
アイシャさんが白亜の目の前のテーブルの上にゴールドに輝く冒険者カードを置いた。
「報告がまだなんですけど」
「もう、ギルドの観測員からスタンピード討伐完了報告は受けているわ。」
近くに観測員なんていたのか。[気配察知]に引っ掛からなかったぞ。
「いずれにせよ、よくやってくれた。他の冒険者を集めて対応しても多大な犠牲者を出していただろう。さすがは、この支部最強パーティー、白銀の翼だ。心から感謝する。」
アインズ支部長が頭を下げた。
「やめてくださいよ。強面の支部長が頭を下げるなんて、天変地異の前触れとしか思えませんよ」
「なんだとぉ~~っ! イツキ、お前は人の感謝の気持ちを素直に受けられんのかぁ!?」
「俺にはわかるんですよ。これから、もっとめんどくさいクエストを押し付けられるって」
アインズ支部長は居住まいを正すと、
「その危機察知能力は何なんだ? お前には予知能力でもあるのか?」
ほら、来た。
「新たな指名依頼ですか? 今度は何です?」
「ダンジョン攻略だ」
「ダンジョン? ホバートの管轄区域にダンジョンなんてありましたっけ?」
「おまえが知らないのも無理はない。お前らが討伐していたスタンピードが発生したと思われる森の奥に出現していたんだよ。別の観測員が発見した」
「いつ?」
「多分、スタンピード発生後。スタンピードの発生源もそのダンジョンだろう。今、職員を向かわせている。他の冒険者達もだ」
そう言えば、いつも喧噪に満ちたロビーに誰もいなかったな。
「俺の予想では、《S》ランク以上のダンジョン。」
《S》ランク以上?
「どうしてそう思うんですか?」
「通常、ダンジョンは原生林の奥や渓谷や砂漠地帯のような人気の少ない場所に出現するものなんだが、稀に都市近郊に出現することがある。本当に稀にだ。そして、過去出現したそれらは例外なく《S》ランク以上」
相当な脅威であることくらい俺にでもわかる。
「放置しておけば、ダンジョンから魔獣や魔物が溢れて、周辺に甚大な被害が出る。都市近郊に出現したダンジョンから溢れた魔物に蹂躙されて滅びた都市も一つや二つじゃない。とりあえず、ロビーに居た冒険者達をダンジョンの低層階に向かわせたが、あくまで応急対応だ。強力な魔物が巣食う深層は彼らの手に余る。だが、放っておけば、深層の魔物がダンジョンの外に出てきてしまう、オークスタンピードのようにな。これ以上のスタンピードが起こる前に対処したい。だから今回、白銀の翼にはその深層攻略を担当して欲しい」
「俺達二人で?」
「さっき、王都支部に応援要請を出した。王都支部は王国最強の《S》ランクパーティーを派遣してくれるそうだ。今回は彼らとの共同作戦だ」
「《S》ランクパーティーが来るなら、俺達はお呼びでないんじゃ?」
「《S》ランクパーティーでも無傷での対処は難しいだろう。実際、7年前に蹂躙されて滅びた都市では《S》ランクパーティーが二組全滅した」
「今回派遣されてくる《S》ランクパーティーは三組以上ですか?」
「一組だ」
「話にならないですね」
「だから必要なんだよ。勇者スキルを持つ、実質《SSS》ランクのお前の力が!」
「勇者スキルは見せられませんよ。バレたら聖皇国に捕まるから」
「口止めはする、力ずくでな。これでも元《SS》ランク冒険者だ」
ただ者ではないとは思ってたが、元《SS》ランク冒険者かよ。英雄じゃねぇか。
「支部長が行ったらいいじゃないですか」
「馬鹿野郎! 司令官は後方から大局を見るもんなんだよ!」
「ヘエヘエ、さいで。それで出動はすぐにですか? 俺も白亜もスタンピード討伐で疲れてるんですよ」
「《S》ランクパーティーが到着するまで時間はある。その間、いつでも出動できるように待機していてくれ」
「拒否権は?」
「無い。これは最優先事項だ」
「見返りは何ですか?」
「深刻な状況だ。この際、何でも訊いてやろう」
それなら、
「俺と白亜の《S》ランクへの昇格」
アインズ支部長は腕を組んで目を閉じて沈思黙考した。
やがて、目を見開き、
「ギルド本部で開催される審査会議でお前達を《S》ランクに推薦しよう。約束できるのはそこまでだ」
「それで構いませんよ。この指名依頼、受けましょう。できるだけ勇者ってバレないようにはしますがね」
俺とアインズ支部長は契約成立の握手を交わした。
俺も目標に向かって一歩前進。
「ちなみにダンジョンに名前はあるんですか?」
「ああ、新たに命名した。〖混沌の沼〗だ。沼の中から入口が出現したんでな」
「そりゃー、また、面妖な」
このやり取りの間、白亜は新しい《AAA》ランクの冒険者カードを手に取って眺めながらニマニマしていた。
「兄者と一緒っ! 兄者と一緒っ!」
こりゃ、な~んも耳に入ってないんだろうな。




